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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
122/227

37 揺れる矛先

「んん……」


 翌朝、(かす)かな物音で目覚めたミルクはスリープモードから通常モードへの間に偵察糸を床へ這わせた。

 偵察糸はするすると扉の下の隙間を潜り、キョロキョロと暗い廊下を見回して目標を捕捉する。


「――ッ!?」


 偵察糸からの映像を見て、ミルクは目を見開いた。

 二つ隣の部屋へと入って行ったのが、ティーセットを持って幸せそうに微笑むココアだったからだ。


「えっ!? えっ!?」


 突然飛び込んで来た視覚情報に慌てるミルク。

 それもそうだろう、ココアはシースルーの白いガウンらしき物を羽織っていたからだ。

 それはミルクから見ても匂い立つ様な大人の雰囲気を(かも)しだし、状況から室内には当然、その微笑みを受ける相手が居るはずだ。

 となれば、その相手は昨夜帰って来なかったご主人様しか居ない……


「たた、大変です! アイス様、アイス様ぁ!」

「ん~……どうしたのぉ……ミルクぅ……」


 隣で眠るアイスを揺り起こすミルクに、アイスがむにゃむにゃと目を覚ます。

 一人で夜眠れないアイスは、ミルクにくっついて眠っていたのだ。


「ごご、ご主人様が! ご主人様がぁぁぁ」

「えっ!? リュ、リュウがどうしたのっ!?」

「ご主人様がココアにぃぃぃ……」

「え!? えぇぇぇぇぇ!?」


 そして取り乱すミルクの言葉を聞いて、アイスはすっかり目が覚めた様だ。

 ワンピースタイプのランジェリーでベッドを飛び出したアイスを、ウサちゃんパジャマのミルクがあたふたと追い掛ける。










「はい、ご主人様ぁ」

「サンキュ、ココア」


 ココアからティーカップをベッドに座ったまま受け取るご満悦のリュウ。


 ティーカップに口を付けるリュウの目が、自分のお茶を注ぐココアの後ろ姿に釘付けになっている。

 白いガウンからココアの裸が透けて見えるからだ。

 そのココアが身を(ひるがえ)し、ティーカップを持ってリュウの横へとやって来る。

 するとリュウに肩を抱かれ、ココアは嬉しそうにキスで応じる。


「しっかし思った以上にエロいよな、それ……」

「うふ、お気に召しましたぁ?」


 リュウにシースルーのガウンを評されて、悪戯っぽい目を向けるココア。

 透けた生地越しの双丘が、妖しくリュウを誘っている。


「はぁ、こんなまったりした時間もそろそろお終いにしなきゃなぁ……」

「残念ですぅ……でもぉ、ココアはいつでもウエルカムですからね?」

「あ~、チャンスが有ったらな……」


 そろそろ周囲も起き出す時間だ、とリュウが気持ちを切り替え始めた時だ。


 バーン! と扉が開かれて、アイスとミルクが姿を見せた。

 その瞬間、リュウとココアは青褪めて固まり、アイスとミルクは想像を遥かに超えるリュウ達の恋人っぷりにたじろいだ。

 だが一番最初に再起動を果たしたアイスは、キッと眉を吊り上げて、あうあうしているミルクの手を掴むと、ベッドに向かって歩き出す。


 だがココアも負けていなかった。

 ベッドの脇にティーカップを置いて掛け布団を(まく)ると、すらりと両足を出してベッドを背に立ち上がり、ささっとガウンを整えるとアイス達に向き直る。

 その姿は透け透けのガウンだというのに実に堂々としており、思わず見惚れたアイスの勢いが半減する。


 そしてその場でココアは実に美しい所作で土下座する。


「ア、アイス様! 姉さま! この度はご心配をお掛けして申し訳ありませんでした! アイス様にはリックの怪我も治して頂き、改めてお礼申し上げます!」


 ココアの意外とも言える謝罪にアイスとミルクの足が止まっていた。

 ついでにリュウもベッドで固まっている。


「え……そ、そんなアイスは大した事してないよ! だから謝る事なんか無いんだよ、ココアぁ……って、違うぅ……違うよぉ……」


 つい、素で返事をしてしまったアイスが、小さな声で呟いている。


「ありがとうございます、アイス様……」


 そんなアイスに顔を上げたココアがふんわりと微笑み、アイスとミルクは顔を見合わせる。


「お、大人だ……ココアが……大人にぃぃぃ……」

「ミ、ミルク……姉なのに……姉なのにぃぃ……」


 二人が赤い顔でブツブツと呟き合って、恐る恐るココアを見る。

 するとココアがすっと立ち上がり、二人は音が鳴る勢いで顔を反らした。

 ほぼ裸のココアを見る二人の方が恥ずかしいらしく、ココアの方が堂々としている。


 その時、ずずっとお茶をすする音が部屋に響き、アイスとミルクはもう一人の存在を思い出して目を向けた。

 それは、どうするべきかと思案に暮れ、思わずお茶に口を付けたリュウだ。

 リュウはアイス達と目が合うと露骨に目を逸らし、視線を彷徨(さまよ)わせた。


「リュ、リュウ! どういう事!? ねえ! どういう事なの!?」

「ご主人様っ! どどど、どうしてココアが! どうしてぇぇぇ!」


 涙目の二人に同時に叫ばれ、リュウはガリガリと頭を掻く。

 そして覚悟を決めたのか、ティーカップを脇に置いて二人に向き直る。


「あー、昨夜ココアにめっちゃ泣かれてな……一人で頑張ってたのに、すんげえかわいそうだったんだ……で、でな? 慰めてたら転んじまって、つい……」

「分かりませんっ! 最後が分かりませーん!」

「こっ、転べばいいのっ!? じゃ、じゃあアイスも――」

「アイス様っ!? しっかりして下さいっ! 転んだくらいでそんな訳っ!」


 リュウの説明にすかさずミルクがつっ込むが、アイスはココアと立場が並ぶ事しか頭に無い様でミルクに肩を揺さぶられている。


「お二人共、ご主人様を責めないで下さい……ココアがいけなかったんです……あまりにもココアが魅力的過ぎて……ね? ご主人様ぁ?」

「……お、おう……」


 その間にドレスチェンジしていたココアがベッドの反対側へと回り、リュウに綺麗に畳んだ服を手渡して妖しく微笑むと、リュウが照れながらも満更でもない様子で服を受け取った。


「「ッ!!」」


 その時、アイスとミルクは見逃さなかった。

 デフォルトである女教師ルックのココアの胸の谷間に、リュウの目が吸い込まれたのを。


「お、おっぱいなんだ……やっぱり、大きいおっぱいなんだ……」

「ボ、ボタンをちゃんと留めなさい、ココア! ア、アイス様……女性の価値は胸だけじゃありませんからっ! アイス様はとっても素敵ですぅ!」


 わなわな震える創造主(アイス)様を、胸元を開け過ぎなココアを赤い顔で叱るミルクがおろおろと宥めている。


「アイス様、何の心配もありませんよ? アイス様はココアなんかよりずうっとお美しいですし、アイス様は何と言っても、あの! エルシャンドラ様の娘じゃないですか! あの美貌、スラリとした体つき、なのにあの素晴らしいお胸! 娘であるアイス様も必ずやあの胸になる日が来ます!」

「ほ、ほんとっ!?」


 だがそこにココアの声が割り込むと、アイスはパッと表情を明るく一変させてココアを見つめた。


「はい、もちろんです!」


 そんなアイスにココアは、どこからか取り出した眼鏡をスチャッと掛けながら答えた。

 その通りだと言わんばかりに眼鏡の縁がキラリと光る。


「い、いつ!? いつになったらアイスの胸は――」


 自信たっぷりのココアに、アイスはミルクを振り払って飛び付いた。

 アイスの目が救世主を見るかの様にキラキラと輝いている。星巡竜なのに。


「アイス様はまだ成人したばかり。急には無理でしょう……ですが数年もすれば必ずや!」

「数年……そ、そんなに……」


 だがココアの答えを聞くと、アイスはその長さにしょんぼりと肩を落とした。

 心なしかリュウの肩も下がった。


「何を(おっしゃ)るのです、アイス様。アイス様はこの先、何百年も生きられるのです。その中のほんの数年なんて、あっと言う間ではありませんか!」


 何かに憑かれたかの様に話し出すココアだが、これには訳が有った。

 ココアから見てもアイスは別格の美しさを持っており、立ち向かおうなどとは思わない。

 だがアイスが胸に重きを置いた事でその意見を肯定し、目標値を設定すれば、アイスはそれまでの間、健気(けなげ)に我慢するだろうと考えたのだ。

 そうなればアイスは当分戦力外、乙女な姉など論外、唯一の敵となるリーザは参戦すら出来ない状態となり、ココアのご主人様独り占め計画が完成するという訳なのであった。


「待ちなさい、ココア! 何の確証も無く、いい加減な事を言うなんて許さないわよ! アイス様! ご主人様は女性を胸だけで判断なんてしません!」


 だがそれにはミルクが黙っていない。

 ここでアイスが陥落すれば、ココアの独壇場になる事は目に見えていたのだ。

 コクコクと小さくリュウが頷いている。


「アイス様の希望を応援してるだけですよ? それをもう大きくならない前提で話す方が酷いです!」


 だがココアも負けてはいない。

 アイスの味方をしつつ、確かにそうとも取れるミルクの言い方を責める。

 アイスの、そうなの!? という目がミルクに突き刺さる。


「ち、ちがっ! ミルクはそんな事言ってないでしょ! 無責任な事を言っちゃダメだって言ってるの!」


 ミルク全力で回避。

 アイスの不安気な視線がココアに注がれる。

 リュウが、また始まったよ……みたいな顔でもたもたと着替えをしている。


「姉さまは良いですよねぇ……そんな心配要らないんですし……」

「な、何を言い出すのココア……」


 突然、ココアが無駄な言い合いを回避して攻撃方法を変更し、ミルクが焦って身構える。

 こういう時のココアは何を言い出すか、分かったものではないからだ。


「うふ、可愛いウサちゃんパジャマで誤魔化してもココアにはお見通しです!」

「ちょっと――」

「俺も気になってたんだよ……」

「えっ……」


 ココアがビシッとミルクの胸元を指差し、ミルクが止めようとした時だ。

 リュウの意外な割り込みに、ミルクがピタッと動きを止めた。


「ミルク、お前……サイズ変えた?」

「ななな、何の事を……(おっしゃ)って……」


 そして続くリュウの言葉にミルクの顔から血の気が引き、盛大に目が泳いだ。

 するとアイスがスッと目を細めてミルクを見つめ、トコトコとミルクの下へと向かった。


「あ、あのぅ……アイス……様ぁ?」

「動いちゃダメ……」


 目の前にやって来たアイスに恐る恐る尋ねるミルク。

 だがアイスは短く呟いてミルクの胸元を見つめ、両手をパジャマにかけた。


「ひぎゃあっ!?」


 パジャマのボタンが弾け飛び、ミルクの悲鳴と共に白い双丘がこぼれ出る。


「な……な……」


 咄嗟(とっさ)に手で胸を隠し、床にペタンと(うずくま)ったミルクの顔がみるみる赤くなる。


「やっぱりか……ミルク、盛ったろ?」

「! そうなんですか!? ご主人様!」


 それをバッチリ見逃さなかったリュウの言葉に、ココアが尋ねながらミルクを(にら)む。


「ミルクは俺が四日もかけて作ったんだぞ? 見間違えるはずが無い……」


 そう、リュウはリアルなサイズとなったミルクに違和感を抱いていたのだ。

 露出を控える服装でありながら、尚も感じる存在感に。


「呆れた……ご主人様が女性を胸で判断すると自分が思ってたんじゃない……」

「そうなの? ミルクぅ?」

「も、戻そうとしたんですっ! でも、でも、比率が確定してしまって……ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ! でも! でもお! こ、こんなのって! あんまりですぅぅぅぅぅ! うわぁぁぁぁぁん!」


 そしてココアに呆れられ、困り顔のアイスに尋ねられると、ミルクは泣く泣く白状した。


 それはココアが作成された時に(さかのぼ)る。

 リュウがミルクのバックアップを思いついた時、どうせならもう一体AIを用意しようとリュウの提案に従ってミルクがココアを作成した時の事だ。

 出来上がったホログラム映像に満足するリュウを見て、ミルクはココアに嫉妬したのだ。

 そしてココアの胸に注がれるリュウの視線に我慢できず、つい、ココアよりも大きく自身の胸のデータを書き換えたのである。


 だが様々な経験を経て成長したミルクは、それが主人を(あざむ)く行為だと恥じて、データを元に戻そうとした。

 なのにその時には既にミルクと言う存在が確立されてしまった様で、データをどうやっても元に戻せなくなってしまい、これまで言い出せずにいたのである。

 それがまさかこんな所でココアとリュウに自分で蒔いた地雷原に誘い込まれ、アイスによって起爆されるとは、ミルク自身思いもしなかったであろう。


 床に突っ伏してえっく、えっく、としゃくり上げるミルクに皆の生暖かい目が注がれている。

 恥ずかしいやら、情けないやらで、顔を上げられないミルクなのだ。


「ずるいよぉ、ミルクぅ……」

「姉さまがねぇ……」

「ごめんなさいぃぃぃ……」

「別に怒ってねーから泣き止め、ミルク……可愛くしてろって言ったろ?」

「グスッ……はい……申し訳ありませんでした……」


 こうして自爆に追い込まれたミルクにより、それ以上の追及を逃れたリュウとココア。

 項垂(うなだ)れるミルクを囲んで宥めながら部屋を出た四人は、その後ドクターゼムと共に女官に連れられて食堂へと案内されるのであった。


いつも読んで頂きありがとうございます。


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[良い点] 二人目はココアですか…… [気になる点] リュウの成長はもちろんですが、暴走がだんだんと過激になっているのが気になります。 まさか……まさかとは思いますが、少し期待しています。
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