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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
120/227

35 エルナダ軍の処遇

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

 夕日に染まる街道を王家の馬車を先頭に、二台の荷馬車が続いている。

 王家の馬車にはレオン王子と護衛のルークとエミール、そしてソートン大将が乗っており、続く荷馬車にソートン大将の側近達とエンマイヤー公爵、最後尾の荷馬車にリュウ達がノイマン騎士団の騎馬に囲まれて、もうそう遠くない王都を目指していた。


「ココア、嬉しそうだったねぇ……」


 ココア達の乗る馬車が見えなくなると、カタコトと揺れる馬車にアイスの声がやけにしんみりと響いた。


「そだなぁ。あの子達って俺達から離れて初めて知り合った子だろ? あれ? んじゃ、何で今日は一緒に居たんだ?」


 相槌を打つリュウがその理由である子供達に言及するが、ふと、ノイマン領に居るはずの子供達がどうしてエンマイヤー領に居たのかが気になった。


「それは……」

「あの子供達は、破壊され機能停止したココアをわしの所へ連れて来たんじゃ」

「は!?」


 ミルクが言い難そうにしているとドクターゼムが驚きの内容を話し、リュウは固まり、アイスの目が真ん丸になった。


「ココアは無茶をして不覚を取った様です。あの子達が居なければ、ドクターの下に行く事も、再び会う事も出来なかったかと……」

「ちょっ、マジか……詳しく聞かせてくれ」


 おどおどと上目使いで話すミルクにリュウは唖然とするものの、すぐ身を乗り出して詳細を求めた。


「い、いえ、これ以上の事はミルクからはお教えできません……本来はミルクも知り得ない情報ですし、ココアにもプライバシーが――」

「いいから教えろ! お前はそれを見て知ってんだろ?」


 だがミルクがそれ以上の報告を渋ると、リュウは何を今更と詰め寄った。


「で、でもぉ……」

「ミルクぅ……そこまで聞いたらアイスだって知りたいよぅ……」


 困り顔で肩を竦めるミルクは、アイスにも真相を求められてそれ以上の抵抗を諦める。


「あう……で、では開示しますけど……ご主人様、絶対にココアを叱らないって約束して貰えますか?」

「んなの、見てみないと分かんねえじゃねーか……」

「ココアも一生懸命頑張った結果なんです……なのに叱られたら……」

「分かった、分かった。んじゃ、叱らねーから! な?」


 そしてリュウがココアを叱らない事を条件に、ミルクはココアにアクセスして得た情報を開示した。


「あの馬鹿……」

「ミ、ミルクが悪いんですっ! 姉だからと何でも率先した事がココアの領分を狭めてしまったんだと……そうじゃなきゃ、あんな事……」


 開示された情報を見終えたリュウの呟きに、ミルクは慌ててココアを庇う様に自身のせいだと主張した。

 バグバスターとの戦いで放たれたココアの叫びに、いつも明るく振舞っていたココアがそんなに思い詰めていたなんて、と涙声になった。


「みんなと肩を並べられない……か。案外、ああ見えて疎外感を感じておったのかも知れんのぉ……」


 ドクターゼムがミルクの言葉を引き継ぐ。

 彼はココアの相変わらずの明るい印象と放たれた叫びのギャップに、ココアの成長を感じつつも自分の知らぬ間に何が有ったのか、と困惑した様な表情だ。


「だからココア、リュウに褒めて貰おうと頑張り過ぎちゃったんだね……」


 そしてアイスも目をうるうるさせてココアに同情し、その場をしんみりとした空気が包む。


「むぅ……ま、後で迎えに行くからさ、その時にココアと話してみるわ……今はとりあえずエルナダ軍の事だ。ロダ少佐の事も聞けるだろうし……」


 頭をガシガシと掻いて沈黙を破るリュウも思う所が有るのか、短く今後の事を話すと黙り込んでしまった。


 そんな少し重苦しい雰囲気の荷馬車も、王都に入ると人々の歓声を浴びる事となった。

 リュウ達も次第に笑顔を取り戻し、整列する王都騎士団の間を抜けて親衛隊に迎えられ、王城へと入って行く。










 王に謁見する前にリュウ達は四階の控室に通され、しばらくの間待たされた。

 その間にレオン達がレント国王へ報告を上げているのだ。


 やがて王の間の直前に有る大広間に通されたリュウ達を見て、レント国王達は笑みを浮かべ、次にぽかんと口を開けてしばし固まった。

 報告を受けていたにも関わらず、ミルクが大きくなっていたからである。


「話には聞いてはいても、実際に目にすると実に不思議な感じだ……」

「本当に。あの可愛らしい妖精が、こんな可憐な少女になるなんて……」

「きょ、恐縮ですぅ……」


 レント国王とロマリア王妃の言葉に、ミルクが赤い顔でお辞儀している。


「そちらがリュウ達の探していたドクターかね?」

「はい。お蔭様で無事、再会する事ができました」

「ご心配をお掛けした様で、恐縮ですじゃ……」


 レントに問われ、リュウが嬉しそうに答えると、横に居たドクターゼムが前に進み出て頭を下げた。

 ドクターゼムは控室でアイスから竜力を受け、言葉の壁を取り払われていた。

 それは何もドクターゼムだけでなく、王国全てのエルナダ兵にも影響を与えているのだった。


 その後、各々が簡単な挨拶を済ませていると、ソートン大将と副官が親衛隊に連れられて緊張した面持ちで大広間へとやって来た。

 それはアイスがドクターゼムに施した竜力の余波を受け、彼らも突然に言葉を理解出来た事で、星巡竜の存在を確信した為であった。


「ま、先ずは先程の戦闘で知らなかったとは言え、星巡竜様に盾突く事になった事をお詫び致します……今後一切、私どもは星巡竜様に敵対せぬと誓います故、どうかご容赦願えればと存じます」


 ソートン大将はレント国王に一礼すると、くるりとリュウの方へ向いて謝罪を始め、副官と共に深々と頭を下げた。


「ご主人様……」

「へ?」

「へ? じゃないですよ! 彼らはご主人様に言ってるんですよ!」

「え……あー、そ、そうか……参ったな……」


 深々と頭を下げるソートン大将達を他人事の様に見つめるリュウは、ミルクに囁かれて彼らの言う星巡竜が自分なのだと知り、ガシガシと頭を掻いた。

 そしてレント国王が自分に向かって頷いたのを見て深呼吸すると、頭を下げるソートン大将達に声を掛ける。


「あー、頭を上げて下さい……」


 絶対不可侵の存在に敬語で話し掛けられて、ソートン大将達は困惑した様子で顔を上げた。


「星巡竜には敵対しないという事は、この国や他の国には手を出す訳ですか?」

「! い、いえ! 言葉が足りませんでした! その様な事は決して!」


 落ち着いた口調のリュウの指摘に、ソートン大将はハッと血相を変えて慌てて発言を訂正する。


「じゃあ、南に派遣した部隊もですか?」

「は……も、もちろんです! ただ、私どもは故郷の神であるヨルグヘイム様に鉱物資源の採取を命じられておりまして、それに関しては各国の承諾を得て継続させて頂きたいと……」

「ミルク、どう思う?」


 続く質問にソートン大将が同意しつつも、言い難そうに自身に課せられた命令だけは、とリュウに伺いを立てた為、リュウはミルクに意見を求めた。

 リュウにしてみれば、そんな事俺に聞かれても困る、という訳なのであるが、多くの視線が集まる中なので動揺を隠して偉そうにミルクに丸投げしたのだ。


「そうですねぇ……資源採取は事実なのでしょうけど、その方法としてエルナダ軍はその強大な軍事力でこの星の国家を牛耳るつもりだったのでしょう?」

「そ、それは――」

「この国はそれを免れましたが、他の国では相当に食い込んでいるのではないのですか? そうだったとして、そんな状態からあっさり手を引けるのですか?」


 図星を突かれ言葉に詰まるソートン大将を、ミルクは更に追及する。

 ミルクには、これまで得た情報からエルナダ軍の行動をシミュレーションし、様々なシナリオが組み立てられている。

 その中でも可能性の高い推論から発せられた言葉に、ソートン大将は生半可な言い訳など通用しないと判断した。


「そ、それはもう! 私が命じます! 確かに私は当初、あなたが仰る様にその方が部下達を安全かつ、効率良く運用できると考えておりました。ただ、それは何もこの星の国家を奴隷の様に従えるのではなく、エルナダの技術で生活水準を向上させれば、誰もが喜んで協力してくれると考えてのもの――」

「けど、あんたらはこの国を奪おうとしたじゃねえか! それに魔都では虐殺が行われたんだぞ!」


 ソートン大将は反論などせずミルクの推測を肯定した上で、描いた絵は違うという事を強調しようとして、リュウの怒声に遮られた。


「それは! わ、私どもはエンマイヤー公爵から情報を得るだけでした。それを正しいものだと疑いもしなかったのは、誠に不徳の致すところです! ですが、その要請を受けて魔都へ派遣した部隊には偵察を命じておったのです! 未知の大森林を通る為に、確かに兵士には武装させましたが、魔人族への攻撃など絶対命じておりません!」


 ソートン大将はリュウの怒りを鎮めようと必死に言葉を紡いだ。

 エンマイヤー公爵から情報を得ていた事や、魔都へ派遣した部隊の事が真実であった事が言葉に力強さを持たせ、『正しいものだと疑いもしなかったと』いう嘘をリュウ達にその場は気付かせなかった。

 本当は情報を鵜呑みにするどころか、逆に公爵を言葉巧みにそそのかしていたソートン大将なのである。


「はぁ……んで、今後は具体的にどーすんだよ?」

「それですが、私どもも突然の事態故にまだ意見がまとまってもおりません……つきましては、星巡竜様や国王陛下のご意向をお伺いできれば、と……」


 過ぎた事より今はこれからの事だ、と大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせるリュウは言葉遣いが素に戻っていたが、ソートン大将もそれに気付く余裕もなく汗を拭きながら頭を下げた。


「転移装置は壊れてんだよな?」

「なぜ、それを!?」


 だが、次のリュウの言葉にソートン大将はハッと顔を上げた。


「魔都を襲撃した兵士から聞いた」

「か、彼らはっ……その……」


 そしてリュウの答えを聞いてソートン大将の喉が引き攣れる。

 彼には分かってしまったのだ。

 魔都へ送り、連絡の付かなくなった部隊がどうなったのかを。


「生き残りは居ない……」


 不機嫌そうに答えるリュウに、ソートン大将は言葉が出なかった。

 周りで話を聞く王国の者達の間にもざわめきが少々漏れた。

 少年の姿の星巡竜、それがソートン大将には何とも不気味に思えた。

 そして少年の姿に惑わされてはならない、と自らを戒めるのであった。


「国王陛下。エルナダ軍が完全な武装解除に応じれば、この国での滞在を認めて貰えますか?」

「どうするのかね?」


 周囲のざわめきを無視してリュウがレント国王に尋ねると、レントは興味深い目でリュウに続きを促した。


「武装を解けば彼らもただの人間です。住宅を用意してある程度の自由を認め、彼らからは労働力を提供してもらうとか……ダメですか? 彼らもいつ帰れるのかと不安でしょうし……」


 そこでリュウは提案し、上目遣いでレント国王を見つめるのだが、残念ながら可愛さは皆無である。


「ふむ……共に働いてくれるならば彼らが脅威ではないのだと皆も知ろう。私は良い案だと思うが?」


 レントは少し思案するが、リュウの提案に理解を示すと共に意見を求める様に周りを見回した。


「しかし武装を外すとなると、日常用の義肢を持たぬ者はまともに働けないかと存じますが……」

「ミルク、彼らの義手とか作れるよな?」


 そこへ言い辛そうにソートン大将が口を挟むと、リュウはそれについては織り込み済みだった様で隣のミルクに確認する。


「はい……ですが人工細胞が足りるかどうか……」

「ドクターはどう思います?」

「多分、足りるじゃろ……今後も鉱山を掘るのであればな……」

「よし、んじゃ大筋はそんなところで良いか。ソートン大将、義肢の無い兵士達にはなるべく早く義手や義足を用意するという事なら問題は?」

「あ、有りません! これ以上ない寛大なご処置、誠に感謝致します!」


 そしてドクターゼムにも確認を取るリュウに尋ねられ、ソートン大将は副官と共に深々と頭を下げるのだった。










 その後リュウ達はレント国王の計らいで退室を許され、四階にある王家専用の食堂でしばらく振りにテーブルでの食事を摂る事が出来た。

 そこで食事を摂りながら、同じく休息を許可されたレオン、ルーク、エミール達と雑談混じりに今後の事を話し合った。

 そして現在は案内された客室にて、漸く身内だけののんびりした時を過ごしていた。


「ドクター……あの時は勝手に居なくなってごめんなさい……」

「いえいえ、良いんですじゃ! こうして再会もできましたし、何も謝る事などありませんぞ!」


 椅子に腰掛けるドクターゼムは、まるで容姿の変わってしまったアイスに謝罪され、赤い顔でしゅんとするアイスを宥めている。

 それをベッドに腰掛けるリュウと、床に座って子ファラゴの檻を抱くミルクが微笑ましく眺めている。


「それにしても、あのアイス様がこんなお美しい姿になられるとは……その方が驚きでしたわい……」

「結構最近だもんな、アイスが成人したの……お蔭で山が一つ消えたけど」


 そしてドクターゼムがアイスの容姿の変化に言及するとリュウが続き、余計な一言をニイッと笑いながら言ってしまう。


「はううっ! い、言わないでよぅ……」


 するとアイスは赤い顔でリュウの隣に飛び付く様に座り、リュウの腕にしがみ付いた。


「ふむ……ミルクもココアも実体化しておるし……だが、一番驚いたのは小僧、お主のことじゃぞ。一体あの後何が有って、あれ程の力を得たんじゃ? ほれ、見せてみい……」


 そんなアイスを微笑ましく見るドクターゼムだが、ふと視線をリュウに向けて首のケーブルに手をやると、ゴーグルからケーブルを外してリュウに向けた。

 どうやら彼は、話しを聞くよりリュウの記憶を直接見るつもりの様だ。


「い、嫌ですよ、こっ恥ずかしい……どうしてもって言うんならミルクに聞いて下さいよ。俺はココアを迎えに行って来ますから」


 それを慌てて断るリュウは、ミルクに後を任せて立ち上がる。


「じゃあ、アイスも行く!」


 すぐさまアイスも立ち上がるが、それはリュウによって止められてしまう。


「いや、アイスは残っててくれないと万が一の場合に困るだろ? 考えすぎかも知れないけどさ、せっかく再会できたドクターを一人にもしたくないし。だからミルクと協力して警戒はしてて欲しいんだよ……」

「う、うん……分かった! リュウがそう言うんならアイス頑張る!」


 リュウに残留をお願いされたアイスは少ししょんぼりするものの、笑顔で顔を上げるとファイティングポーズの様に両手に握り拳を作った。


「お、おう……頑張るのは万が一の時だけで良いんだからな?」

「うん!」


 アイスの切り替えの速さに面食らいつつ少々心配になるリュウに、満面の笑みを返すアイス。

 その超絶に可愛いファイティングポーズに顔を赤らめながら、リュウは廊下に向かって扉を開ける。


「いってらっしゃいませ、ご主人様。ココアをよろしくお願いします……」

「おう! んじゃ、また後でな!」


 ドクターゼムにケーブルを繋がれたミルクの声にリュウが返事しながら廊下へ出ると、すぐに扉が開いてアイスが出て来た。


「なんだ? アイス……」

「お、お見送りするっ!」


 怪訝な顔で振り返るリュウにアイスはぴょんと近付くと、頬を赤くして僅かに顎を上げ、お見送りという名のキスをおねだりした。

 ファイティングポーズというジャブに続くストレートに対するリュウは、


「しょ、しょーがねーなぁ……」


 キョロキョロと辺りを見回して、あっさりと陥落するのであった。


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