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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
117/227

32 信頼を寄せられて

「少佐、どうやらビークルが破壊された様です。詳細は分かりませんがここより北西の地点に各隊が向かっている模様です」

「さっきの爆発音はそれか?」

「分かりません。現状ではまだ部分的に通信を傍受するのが精一杯で……」

「そうか……」


 ほぼ全焼してしまったエンマイヤー邸から南西の倉庫へと移設された情報部では、司令部から戻ったフルト少佐が部下からの報告を受けていた。

 逃亡を図ったとされるドクターゼムの拘束を第一とする、とソートン大将から聞き戻った矢先の爆発音に、フルト少佐の心中は穏やかではなかった。

 ソートン大将が自分を欺くとは思えないが、現場の兵士には短慮な者も居るであろうし、何よりドクター自身の抵抗はその命をより危険に晒す恐れが有る。


「少佐! レッセから通信です!」

「ッ! レッセ、無事か!? 何が有った!?」


 その時、ドクターゼムの拘束に向かったレッセ少尉からの通信が入り、フルト少佐は通信機に飛びついた。


『ドクターゼムに逃げられてしまいました、申し訳ありません……』

「詳しく話せ! ドクターゼムは武器を所持していたのか?」

『いえ、ドクターは丸腰でした。ですが一緒に鉱山を降りた時に女が現れ、私は意識を失いました……気付いたらドクターも女も居なくて……すみません……』

「女!? どんな女だ?」

『まだ若い、褐色の肌の二十才前後の綺麗な女でした……ドクターが転んだ時に手を貸そうと言って近づいて来たのは覚えているんですが……』

「むう、まさかな……レッセ、今はどこに居る?」

『まだ鉱山の入口の森から出た所です』


 レッセ少尉から詳しく話を聞くフルト少佐は褐色の肌の女と聞いて、つい数刻前まで追っていたスパイバグを思い浮かべた。

 だが、それが大人の姿になったと言うのは、フルト少佐にも些か飛躍しすぎに思え、一先ず話題を変える事にした。


「そこから戦闘音などは聞こえるか?」

『いえ……あ! ちょっと待って下さい――、――お待たせしました。今、鉱山から十名程の兵士が血相を変えて南へ向かいました。彼らも突然意識を失ったと言っていました。他の者達は武装が使えなくなったとの事で、待機だと……』

「分かった。レッセ、戦闘を迂回して戻って来い。時間が掛かっても構わん」

『は、はい。了解しました』


 そして鉱山でも異変が有ったのだと知ったフルト少佐は、レッセ少尉に帰還を命じて通信を終えた。


「まさか本隊の作戦行動に介入しませんよね? 少佐……」

「当たり前だ。だが、通信の傍受には万全を期したい。通信機材の設置、調整を急がせろ」


 その様子を聞いていた部下に心配そうに尋ねられ、フルト少佐は内心苦笑いを溢しながら淡々と答える。

 そして(おもむろ)に倉庫を出ると、オレンジ色に染まってしまった空を見上げた。


 本隊の作戦行動への介入は余程の事が無ければ処罰の対象となる。

 だが、このまま事態を眺めるだけでドクターゼムは無事に確保されるのか。

 一度でも引き金を引くと途端に人は制御が効かなくなり、それは他人にも伝播してしまう。

 それを分かっていながら、指を咥えて見ていて良いのか……。


 遠くで銃声が聞こえ、フルト少佐はハッと我に返った。

 いつの間にか視線が足元に向いているのに気付いたフルト少佐は、銃声の方へ顔を向けるが、エンマイヤー邸を取り囲む塀に阻まれて大きく息を吐いた。

 そうして姿勢を正したフルト少佐は、塀の先を睨みつけ、部下達の下へ戻るのだった。










「あーもう、ココアのバカバカバカ! 敵の通信が回復してるって何で気付かなかったの!」


 ビークルを破壊され、徒歩で追って来る四人の兵を住宅街で倒そうとしていたココアは、南からの増援に北へ逃げようとして包囲されている事に気付き、再び住宅街に逃げ込んでいた。


「今更言っても仕方ないじゃろ……まだまだじゃのう……」

「まんまと挟まれましたねぇ……これでは公爵邸の北を東に抜けるしか……」


 そんなココアにやれやれ、と肩を竦めるドクターゼムと辺りを伺いながら逃走ルートが限定された事に歯噛みするエミール。


「エミール、ミリィちゃん、リック……荷馬車を降りて。三人は民家に入りさえすれば、奴らは追って来ないわ。ココアはドクターと荷馬車で――」

「嫌だよ! ココアと居る!」

「リック、あのね――」

「私も反対です」

「エミールまで!?」


 ドクターゼム以外の三人をこれ以上巻き込めないとのココアの提案に、即座にリックが反対し、宥めようとしたココアを遮ってエミールにさえも反対されて、ココアは驚き固まった。


「ココア嬢、あなたは頭も良いし、腕も立つ。それでも馬車を操りながら戦って包囲を突破するなんて無理でしょう? 私はあなたを信じてここに来た。なのにあなたは私を信じてないのですか?」

「そういう話じゃないのよ、エミール! ココアはみんなの安全を――」

「私もココアちゃんを信じてる! だから、一緒に逃げよ?」

「あ……う……」


 そしてエミールに諭されるココアなのだが、皆の安全を優先したいが為に無理矢理話を終わらせようとして、逆にミリィに言葉を遮られ、その瞳を見て言葉を失ってしまった。


「お前の負けじゃ、ココア。わしの最高傑作が、エルナダ兵如きに負けるはずが無かろうが……みんなの目を見てみい、みんなお前を信じておるんじゃ。それに応えてやらんでどうする?」


 ドクターゼムは唯一理解できるココアの言葉と皆の様子で察しが付いた様で、弱気になっているココアに発破を掛けた。


「は、はい……でも、あの……」


 そう言われて皆の目を見るココアは、その真剣な眼差しに息を呑む。

 だがその信頼に応える事と、彼らを危険に晒す事は違うのでは、とおずおずと自信無さげな目をドクターゼムに向けるココア。

 やはり皆を守らなければという想いが強すぎて、今のココアの思考は柔軟さを欠いている様である。


 そんなココアにドクターゼムは、人間らしい所ばかり成長しおって、と言わんばかりに頭を振って苦笑いを溢した。


「……今ならチップも外せるじゃろ、やり様は幾らでも有ると思うがの?」

「あ……わ、分かりました……あっ、ありがとうございます、ドクター」


 ため息混じりなドクターゼムの言葉に思考を(ほぐ)されて、何でこんな簡単な事にさえ気付かなかったんだろうと呆然とするココアは、ドクターゼムの呆れた様な視線に気が付いて見る間に顔を真っ赤にすると、慌てて深く頭を下げた。


 そしてドクターゼムの左肩から慎重に生体チップを取り出し、バックパックに収納し直された弾丸を取り出して分解し、薄い金属の球体に数発分の火薬を詰め込んだ物を二個用意してエミールに声を掛ける。


「エミール、ココアが合図したら二軒先まで移動して。そうすれば敵の視線から逃れて東に抜けられる。み、みんなで一緒に脱出しましょう!」

「……了解っ!」


 エミールはココアの目に力が戻ったのを確認して、にっこり微笑んで応じた。

 お蔭でココアは再び頬が赤くなったが、ミリィとリックに抱き付かれて深呼吸するとキリリと気持ちを引き締め、ドクターゼムに二人を預けて荷台後部に移動する。


「エミール、準備はいい?」

「いつでも!」


 ココアはエミールに確認を取ると隣家の物陰に生体チップを投げ込み、火薬を詰めた球体を南と北から迫る兵士達に向けて投擲した。

 そして西の通路に右手を向けて発砲し、兵士を物陰に釘付けにする。


「今よ!」


 投擲した球体がボンと爆発すると同時に発せられたココアの合図に、荷馬車を急加速させるエミール。

 ココアは炸裂した球体に兵士達が一時的に伏せていると信じて、西からの兵士のみに集中して銃を乱射する。


 たったの十秒にも満たない時間ではあったが、荷馬車は住宅街の見通しの良い通路を抜け、建物の規模が変わった為に西から見通せないエリアへと滑り込む。


「んー、どうやら気付いてないみたい。このままこっそり東に抜けるわよ」


 素早く偵察糸を走らせて周囲の兵士の状況を探るココアは、先程と同じ進路を取る南北の兵士達と、乱射の土煙で著しく視界が悪くなった西への通路を見て、漸く口元に笑みを浮かべた。


 やがて生体チップの囮がバレて北からの兵士の進路が変わるのだが、荷馬車はエンマイヤー邸を囲む塀の北西までまんまと逃げ(おお)せていた。


「ここまで来れば東に一直線です。少し通路が広いのが気になりますが、一先ず安心して良いでしょう」

「エミールはノイマン騎士団なのに、良く知ってるのね」

「私は情報を届けるのが仕事の様なものですからね、ある程度は各都市の地理は記憶しているんです」


 エンマイヤー邸の北塀に沿って静かに東に向かいながら、エミールとココアは警戒しながらも言葉を交わして少し緊張を(ほぐ)していた。


「それは頼もしい――ッ! エミール!」

「なにっ!?」


 だが、突然前方にエルナダ兵が姿を現してココアが即座に反応し、エミールも慌てて荷馬車を転回させた。


 突然現れた兵士は、バグバスターを放出した後で狙撃兵が破壊した塀の穴から出て来ていた。

 そんな所にほんの数時間前に穴が開けられていたなんて、ココアもエミールも知る(よし)もないのだから驚くのも当然ではある。

 が、荷台に立ち上がったココアは前方の兵士を銃撃で牽制すると、塀に向けて弾丸をアーチ状にありったけ叩き込んだ。


「どうします!? 戻るのですか!?」

「それは悪手ね! こっちよ!」

「っく、大胆過ぎませんか!?」


 銃撃の爆音の中で問い掛けるエミールに同じく声を張り上げていたココアは、銃撃を止めると荷馬車を飛び降り、塀に体当たりをぶちかます。

 するとアーチ状の銃弾跡の部分だけ塀が内側に倒れ、その中に消えたココアを追ってエミールも荷馬車を突入させた。


「思った通り内部は手薄ね! 援護するからエミールは西側を南に!」

「みんなしっかり掴まって!」


 ココア達が突入した北塀は焼け落ちたエンマイヤー邸の西の辺りであった。

 北に現れた兵士が再び穴から戻るのを銃で牽制しつつ、ココアは内部の状況に隈なく目を走らせてエミールに逃走ルートを指示し、エミールは迷いなく荷馬車を走らせた。


 北の兵士が焼け落ちたエンマイヤー邸で見えなくなると、ココアは一旦荷台に戻ってバックパックを下ろした。

 そして身軽になると再び荷台を飛び降りて、荷馬車よりも速く倉庫群へと突入する。










「敵が敷地内に侵入! 西側を南進していると通信が!」

「何いっ!? こっちには兵が居らぬとでも思ったか! 迎撃させろ!」


 司令部では北の兵士からの通信で即座に迎撃命令が発せられた。

 それを受けた司令部周辺の警備兵が倉庫群を縫って迎撃に向かう。


「ぐああっ」

「ぐえっ」


 だが警備兵は一人、また一人と呻き声を上げて倒れていき、倉庫群から西へと出られずにいた。

 既に倉庫群に入り込んだココアが打撃や電撃を駆使して警備兵を打ち倒していくからだ。


「こっちよ! 倒せるものなら倒してみなさい!」

「目標至近! ぐあっ」

「何だこいつは!? 撃て! 撃て!」


 だが、分散する警備兵を倒していくのにも無理がある。

 だからココアはわざと声を出して敵を引き付け、確実に敵を倒していく。


「そいつに構うな! 目標はドクターゼムだ!」

「ちいっ!」


 ココアから離れた所に居る警備兵が叫び、ココアが人を遥かに凌駕する速度で駆ける。


 それでも残る全ての警備兵を倒すのは、さすがにココアでも無理があった。

 倉庫から走り抜けた警備兵の一人が、荷馬車に向けてグレネードを発射する。


「ダメえええええっ!」

「うわーっ!」

「きゃあああっ!」


 叫びを上げて駆け寄るココアの目の前で荷馬車が跳ね、乗っていた四人が投げ出される。

 グレネードは荷馬車を引く馬に当たって炸裂し、辺り一面を血の海に変えた。


「ぐあっ!」

「よくもっ! みんな、大丈夫!?」


 右手の銃でグレネードを発射した兵の右肩を撃ち抜き、他の兵を牽制しながらココアは倒れる皆の元に駆け寄った。


「うぐ……大丈夫です……」

「あたたた……腰が……」

「ミリィちゃん、ごめんね! もう少しだから頑張――ッ!?」


 エミールとドクターゼムが呻きながらも大事無さそうだと確認したココアは、檻を抱えて泣いているミリィを抱きしめ、リックに目を走らせて息を呑んだ。

 少し離れた所でうつ伏せに倒れているリックは泣き喚くどころか、ピクリとも動いていない。


「リック!? リック!! あ……あ……いや……リック! 目を開けて!」


 リックに駆け寄って抱き起したココアは、リックの顔の右半分が血に染まっているのを見てパニック状態になった。


「ココア嬢、気を確かに! 大丈夫、頭を打って気を失っているだけだ! 見た目程出血は酷くない!」

「ココア! 嬢ちゃんを連れて退避せんか!」


 そこにエミールが駆け寄ってリックの容体を調べ、ドクターゼムは起き上がりながらココアを叱りつける。

 そしてエミールがココアの腕の中のリックを奪う様に抱き上げて倉庫の陰へと走った為、ココアは慌ててミリィを抱きかかえ、走るドクターゼムの腕を取ってエミールの後を追い、一先ずは一番南端の大きな倉庫の陰に身を隠した。


「エミール! リックは……リックは――」

「大丈夫です! 今、止血はしました! じきに目を覚まします!」


 明らかに取り乱しているココアに、エミールはリックの頭に自分の服を割いて巻きつけながらココアの言葉を遮って答える。

 実はエミールにもリックが目を覚ますかどうかは分からない。

 だがそうでも言ってココアに立ち直って貰わねば、まずい状況であるのは明白なのだ。


「情けないのう、それでも小僧のパートナーか? 今のお前よりは、パストルに立ち向かった小僧の方が余程勇敢じゃったぞ! 今のお前に小僧のパートナーの資格が有ると思うか? よう考えてみい……」


 そこにドクターゼムがココアに対して冷ややかに言葉を放った。

 だがドクターゼムはココアを見捨てた訳ではなく、ココアがこれ程までに人間臭くなった訳が分からず、何とかして一つの事に固執してしまう思考を分散させられないか、と思っての事であった。


「ご主人様の……」


 その言葉にピクリと反応するココアだが、心の乱れに思考が引っ張られて苦心していた。


 そんなココアを救ったのは、意外でもあり、当然とも言える人物であった。


『ココア! 聞こえたら応答して!』

「姉さまっ!」


 頭に響くミルクの声に、ココアがハッと反応する。


『ココア! 今どうしてるの? そっちの座標ってエンマイヤー邸よね――』

「姉さま、助け――ッ 違っ! そ、そっちに今、送るから!」


 ミルクの心配そうな声を聞き、ココアは縋りかけて息を呑んだ。

 自分が何を言おうとしたのか理解したココアは、咄嗟に言い掛けた言葉を否定して、倉庫の陰から破壊された荷馬車へと走り出すのだった。










「出たぞ! 撃てっ!」


 倉庫の陰から飛び出したココアに、やはり別の倉庫の陰から様子を伺っていた警備兵が叫んで銃を撃ち、他の兵もそれに倣った。


「なんという事だ……本当にこんな事が……」


 それを更に後方で見ていたフルト少佐は、ひっくり返った荷馬車の下で右手に盾を構えて蹲る女の容姿が、自分達が追い詰めていたスパイバグと酷似している事に驚愕の声を発していた。

 だがその移動速度や瞬時に盾を作り出した事から、この女が人間では無い事は明白であり、あのスパイバグが新たな人工細胞を得てドクターゼムを連れ出した事に他ならないのだ、とフルト少佐は自身を納得させるしかなかった。


 そんなフルト少佐が見つめる女は、盾で身を守りながら何かをしている様であったが、立ち上がると左手に剣を生み出してすぐ傍の塀を切り裂いた。

 すると塀に人が通れる程の穴が開けられ、銀色の球体が転がり出て行く。

 それを見届けた女は、再び信じられない速度で倉庫の陰へと姿を消した。










「え!? ココアに繋がったの? マジで!? 何で言わねーんだよ!」

「遮蔽物のせいか、通信がまだ不安定なんですぅ! それに何だか切迫している状況みたいで、座標を指定してきただけで詳しい事は分からないんですぅ!」


 馬を駆るレオンの背中にしがみつくリュウは、ミルクの事後報告を聞かされて俺だって心配してるのにと憤慨しかけたが、続く報告を聞いて顔を引き締めた。


「レオン王子! もっと飛ばして下さい!」

「は!? お前が怖いって言ったんじゃないか!」

「状況が変わったんですって! とにかく急いで!」

「ならもっと腕の力を抜け! こんなに苦しくて飛ばせるか!」

「それはヤダ……」

「こ、こいつ……後で覚えてろ!」


 初めて乗る馬を怖がるリュウに急かされて、レオンが額に青筋を浮かべながら馬を加速させる。

 へっぴり腰でぎゅうっとリュウにしがみつかれるレオンは、非常に窮屈そうな体勢ながら、遂にエンマイヤー領に突入した。


「くすくす……リュウ、格好悪~い」

「アイス様は大丈夫ですか?」

「うん! ボルド団長上手だし、この子もとってもいい子だもん!」

「では、少し急ぎますよ!」

「はーい!」


 そしてルークの前で横向きに座るアイスは不格好なリュウの姿を笑いながら、ルークの手綱捌きと馬を褒め、その後を追従する。


「レオン様、止まって下さい! ココアの指定座標です!」

「分かった!」


 エンマイヤー領中央を北上し、ミルクの指示で西へと進路を変えたレオンは、再びミルクの声で馬を止め、エンマイヤー邸南西の火災現場近くに降り立った。


「ここに何が有るんだよ?」

「分かりませんが……ココアが指定した座標なんです……」


 前方に焼け落ちた倉庫らしき物が見える以外、何の変哲もない街並みに訝しむリュウの問いに、ミルクも困って眉を下げた。


「おい、危ないぞ!」

「うわっ!? 何だよ?」


 すると火災現場周辺に居た人達の方がにわかに騒がしくなり、誰もが道を開け始めた。


 リュウ達がその様子を眺める中、現れたのは銀色の球体であった。

 球体はそれ自体に意志が有るかの様に人を避けながらコロコロと、リュウ達の前までやって来て停止する。

 その直径五十センチにも満たない球体は、ココアが銃弾の降り注ぐ中、バックパックを成形して切り裂いた塀から送り出した物であった。


「なんじゃこら……」

「あっ、これって……」


 リュウが皆の気持ちを代弁する中、球体に触れたミルクはココアの意図を理解して、その球体の中に溶け込む様に入り込んでしまった。


「へ? おい、ミルク?」

「どうなっているんだ!?」


 リュウとレオンが驚いて声を上げる中、球体はぷるっと震えて変形を始める。


「「「「えええ~~~!?」」」」


 周囲の人々がざわめく中、見事にシンクロするリュウ達四人。

 球体が人型を成して立ち上がり、アイスより少し背が低いメイド服に身を包むミルクが現れ、ぱちりと目を開いた。


「わぁ~、ミルク可愛い~」


 妖精から人のサイズへと変貌したミルクにアイスが嬉しそうに声を上げると、ミルクはにっこりと微笑んだ。


「か……可憐だ……」

「へっ!?」

「ちょっ、ダメっすよ!? 俺のミルクですからね!?」

「あ……あう……あう……」


 だがレオンの呟きに目を丸くして頬を赤らめたミルクは、続くリュウの言葉に耳まで真っ赤に染めてモジモジと俯いてしまった。


「ミルクぅ……可愛いけど、ココアの所に行かなくていいの?」

「そ、そうでした! ご主人様、アイス様、急ぎ向かいましょう! レオン様とボルド団長は危険ですので待っていて下さい! 何か有れば、通信機でお知らせします!」


 そんなミルクにアイスが苦笑いで問い掛けると、ミルクは照れ隠しをする様にてきぱきと指示を出してリュウ達と共に北へと駆け出すのだった。


いつも読んで下さりありがとうございます。


もしよろしければ、現時点での評価など

頂けましたら幸いです。

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