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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
112/227

27 王城での決着

「南東階段が突破されました!」

「南西階段もです!」

「国王が四階に! どうやら失敗した模様! どうすれば!?」


 五階の王の間には数々の劣勢の情報が飛び込み、隊長のアレックはもちろん、副隊長のバルガスも滅びの足音を感じ取っていた。


「ど、どうすれば良い!? バルガス! わ、私はこんな所で死ぬのは嫌だ!」

「仕方ありません……アレック様は人質を用意なさいませ。私が出来る限り敵を減らして見せましょう……その隙に脱出を……」


 情けなく叫ぶアレックに、バルガスはやれやれと思いながらも助言する。

 ただ、それが上手く行くかどうかなど、バルガスは考えてなどいなかった。

 彼はただただ、いつも恵まれぬ身の置き所に憤怒していた。


 王国最強と言われる親衛隊、相手にとって不足無し。

 一人でも多く倒し、己の力を見せつけてやる。

 そしてその隊長であるゼノ・メイヤーを倒せば、周囲も自分を認めるだろう。


 自身の得物である戦斧を手に王の間の扉を開けるバルガスは、怒号が飛び交う大広間へと、その身を投じるのであった。










 バルガスが大広間で暴れ出した頃、親衛隊の勢いが衰えを見せ始めていた。

 バルガスの登場で王城守備隊が活気づいたという面も有るが、二日間の強行軍という無茶が、ここへきて疲労となって現れ始めたのである。


「大広間から一時撤退! 負傷した者を即座に後方へ回せ!」


 ゼノの命令で一旦兵が引かれ、ゼノの下にリュウやチコが到着する。


「強敵でも居るんですか?」

「居るな……チコですら苦戦する化け物がな……」


 慎重になった親衛隊の動きにリュウが問い掛けると、ゼノは眉間に皺を寄せて答えた。


「ッ! バルガスですか!?」

「ああ……」

「隊長! 俺に行かせて下さい! 今度こそ奴との決着を!」

「ダメだ。試合ならば行かせてやるが、この場でお前の大剣は不利だ」


 ゼノの言葉にピンと来たチコがバルガスとの戦いを望んだが、ゼノの気遣いを感じさせる言葉とは裏腹な有無を言わせぬ迫力に、チコは押し黙った。

 チコのバルガスとの模擬戦での勝敗は、一勝、二敗、二引き分け。

 気合だけでは勝てぬ上に、大剣で室内は不利に過ぎるのであった。


「んじゃ、俺が――」

「リュウ、ここは遠慮してくれんか? 私にも自負というものが有る……」


 チコに続いて名乗りを上げようとしたリュウも、ゼノに済まなそうに断られてしまった。


「……こんな事言っちゃ失礼ですけど……勝てる見込みは有るんですか?」

「ああ、任せてくれ……君にばかり手柄を取られると、隊長としての私の立場が無いからな……」


 それでもリュウが言い難そうに尋ねると、ゼノは気にするな、とでも言う様に冗談めかして笑いながら肩を竦めて見せた。


「あ~、はい……でも、危なくなったら飛び出しますからね?」

「それは頼もしいな。だが、手出しは無用だ。チコも分かったな?」

「わ、分かりました……」

「了解です、隊長……」


 これ以上の問答は無理だと理解したリュウが、最後にニッと笑って最悪の事態だけは避けようと申し出るが、思いの外強い言葉で拒絶されてしまい、リュウもチコもそこにゼノの隊長としての重みを感じ、同意せざるを得なかった。










 中央棟五階の中央よりも北に有る大広間は、北に有る王の間からと南の東西に走る廊下からとの二箇所に入口が設けられているが、北の両開きの扉に比べると南の両開きの扉は大きく、同時に多くの人が入れる作りになっている。


 その南の扉は今は大きく開かれ、大広間の中央にはバルガスが次の獲物を待ち受けていた。


「ほう、隊長自らお目見えとは……これ以上、無駄な犠牲は出したくないか」

(おご)るな、バルガス。お前には引退手前のこの私で十分だと言う事だ」


 南の入口に現れたゼノを見て余裕の態度を崩さないバルガスに、ゼノも気負う事無く広間中央へと足を運んだ。

 少し間を置いて親衛隊が南入口を塞ぐように広い廊下に集まり、リュウも顔を連ねている。


「ほう、メイヤー隊長直々にバルガスの相手をするのか……」


 廊下に集まる親衛隊の脇に居るリュウの耳に興味深そうな声が掛かり、見ればそこにはルーク・ボルドが立っていた。

 その背後には少し太った年配の男性と細身の老人が立っている。


「これは伯爵様、男爵様。ご無事で何よりでした」


 そしてリュウの後ろに居たロブの言葉で、ああなるほど、と納得するリュウ。


「うむ、大した事は無い。ただ退屈だっただけだ……」

「そんな事より、ほれ……始まるぞ」


 片手を上げてノイマン男爵がロブに応じるが、フォレスト伯爵は大広間の方が気になる様で、皆の注意を大広間へと促すのだった。










 何の合図も無く、大広間でのゼノとバルガスの戦いは静かに始まった。

 大広間の半ばから北側にかけて、三十名程の王城守備隊の騎士が壁に貼り付く様にして、バルガスに祈る様な目を向けている。


 身長一八〇センチ程のゼノに対し、バルガスはチコより少し低いが二メートル有り、鎧を着込めばその差は更に大きく感じ、子供と大人の様な印象だ。

 一メートル程の片刃の両手剣を下段に構えるゼノと、顔が隠せそうな大きさの扇状の刃と反対側に二回り程小さい刃の付いた、両手持ちの戦斧を右横に構えてにじり寄るバルガス。


「むんっ!」


 突然、何の予備動作も無しにバルガスの戦斧が()ぎ払われる。

 ゼノの体を通過した様に見えた戦斧だが、バルガスには何の手応えも無い。


「ッ!」


 戦斧が右から左へと振られた直後、自身の右腕の陰から剣が唯一剥き出しの顔目掛けて突き込まれ、バルガスは咄嗟に左後方へと顔を()け反らせながら戦斧を振るおうとして、叶わなかった。

 初撃を僅かに身を引いて躱したゼノが、一気に低く踏み込んで左手で剣を突き上げると同時に、右手で戦斧を抑え込んでいたのだ。


 突きを躱されたゼノの剣が引き戻され、角度を変えて再び顔を狙う。


「うおおおおおっ!」


 顔を仰け反らせても戦斧を振るうつもりだったバルガスは、更に剣を躱す術が無く、雄叫びと共に戦斧を渾身の力で振るった。

 その化け物じみたパワーにはゼノと言えども抗えず、素早く身を引いて戦斧を躱した。


 再び開始時と同じ構えとなった二人だが、次に動いたのはゼノだ。


 ゆらりと右前へ半歩出たゼノが、極端なアッパースイングで剣を振る。

 バルガスはその剣を弾き飛ばすべく戦斧を振るうが、戦斧は虚しく空を斬る。

 その直後、鈍い鋼の音を立ててバルガスの右太腿にゼノの蹴りが炸裂する。


「ぐうっ!」


 ゼノのフェイントを見抜けず、無防備となった足への一撃にバルガスが呻く。

 その後もゼノは、バルガスの思惑を超えた動きでバルガスの足を封じていく。


「す、凄いですぅ……」


 思わず呟いたミルクの声を耳にするリュウも全くの同意見だった。

 焦り始めたバルガスが、面白い様にゼノに隙をさらけ出していくのだ。


「くそ! こんなっ! こんなはずではっ!」


 顔を真っ赤にして叫ぶバルガス。

 渾身の一撃さえ当たれば誰であろうと倒れるはずなのに、その一撃どころか、足に力が入らない。


 一方、驚嘆の眼差しを浴びるゼノも額から結構な汗を流していた。

 年齢と共に以前ほどの速度を出せなくなっているゼノは、バルガスを翻弄する為にかなり無理をしていた。

 その上、二日の強行軍に、相手は一撃で致命傷を喰らわせるバルガスである。

 その疲労は想像以上にゼノに()し掛かっていたのである。


「俺は負けぬっ!」


 右上段に戦斧を構えるバルガスは、動きの鈍い足を無理矢理深く踏み込んだ。

 そして戦斧を振り下ろすと見せかけて、左腕だけを振り下ろす。


 ゼノはバルガスの叫びと捨て身の動きに反応してしまった。

 左に半歩踏み込んで、戦斧を持つ手を狙った剣の先に戦斧が無い。


「獲ったあああっ!」


 バルガスは左手と引き換えにゼノを倒せる、と確信して右手一本で戦斧を振り降ろした。


「うおおおおおっ!」


 ゼノは引っ掛かったと理解した刹那、左から斬り掛かるモーションを止めずに腕だけを畳んでコンパクトに半回転、裂帛(れっぱく)の気合と共に振り下ろされる戦斧へと剣を斬り上げた。


 乾いた鋼の音と共に戦斧の刃をゼノの剣が砕くが、そのまま剣はずしりと重い鉄の柄に当たって中程から折れた。

 そして、砕けた破片に反射的に顔を背けたバルガスのガラ空きの顎に、折れた剣の柄が叩き込まれる。


「ぐあっ!?」


 後方に殴り飛ばされ、倒れた体を何とか起こそうと試みるバルガス。

 だがその意志とは裏腹に、揺らされた脳が体を動かす事は叶わなかった。


「お前達にはもう逃げ場など無い。剣を置き、大人しく降伏するが良い」


 ゼノがそう告げると、その背後に親衛隊が入って来る。

 誰もが隊長の戦いぶりに、先程までの疲れを忘れて目を輝かせていた。

 その後方ではネラが、ぽーっと頬を赤く染めてゼノの後ろ姿を見つめていた。










 大広間に身なりを整えたレント国王達の姿を見て、王城守備隊の残る騎士達はもう抵抗など無理だと悟った様で、一人、また一人とカランと剣を捨てていく。


 その時、扉の奥の王の間から何やら騒がしい声が聞こえ、扉が開かれる。

 そこに現れたのは剣を構える二名の騎士と、震える女官を盾に取ったお飾りの隊長アレックであった。


「く、来るな! それ以上、近付くな! 道を開けろ! お前達、援護しろ!」


 青褪めた顔で叫ぶアレックに、まだ剣を放棄していない騎士達が動揺する。


「女を盾にするとは! それでもゴーマン男爵家の跡取りか!」

「う、うるさいっ! うるさいっ! それ以上近付いたら、この女を殺すぞ! そ、それでも良いのか!? 下がれ! 道を開けろ!」


 卑劣な行為を非難する声も耳に届かず、一方的に要求を突きつけるアレック。


「お助け下さい! お助け下さいっ!」

「ええい、黙れっ!」

「ひいっ!」


 盾に取られた女官が泣いて許しを乞うが、アレックに頬を殴られ頽れた。


「い、いいか! 私は本気だぞ! 道を開けろっ!」


 頽れた女官の髪を鷲掴みに顔を上げさせ、その喉に剣を当てて叫ぶアレック。


 人質を殺せば意味が無いはずの脅しだが、目を血走らせたアレックがどういう行動を取るか分からず、親衛隊は女官の命を優先させて道を開け始めた。

 二人の騎士がじりじりと歩を進め、女官を盾にするアレックが続く。


「なんと卑劣な……」

「おのれ……許せん……」


 誰もがアレック達に歯噛みしながら道を開け、廊下までの道が出来ていく。

 だが、そうして作られた道の真ん中に、リュウだけは動かずに立っていた。


「ご……主人……様……?」


 動かない主人に声を掛けようとして、ミルクは思わず肩を離れてしまった。

 リュウから途轍もないプレッシャーを感じたからだ。

 同じくリュウの周りに居た者達もただならぬ雰囲気を感じ取って、肌を粟立たせていた。


「お……おい……リュウ……」


 辛うじて声を発したのはチコであるが、チコもそれ以上言葉を紡げずにいた。


 そしてリュウはこれまで見せた事の無い険しい顔つきで、アレック達の前へと歩み出て行く。


「ッ! な、何だ! お前は! 失せろ! この女がどうなっても――」


 リュウに気付いたアレックが、そこまでを言って固まった。

 前を守る二人の騎士が、アレックの両脇を吹き飛んで行ったからである。


「な……」


 呆けた声を出すアレックの脳に、漸く今見たはずの映像が再生され始めるが、それでもアレックには理解が追い付かない。

 リュウにしてみれば、ただ剣を構えていた騎士を同時に殴っただけである。

 だがその目で追えない打撃に、誰もが声も無く呆然とリュウを見ていた。


「おい」

「ひいっ!?」


 アレックが我に返った時、リュウは目の前に立っていた。

 慌てて剣を女官の首に当て直そうとするアレックだが、剣が動かない。

 リュウが既に近付いて、剣を左手で掴んでいたからだ。


「放せよ……」

「な……」


 凄まじいプレッシャーに当てられて、何を放すのかが分からないアレック。

 気が付くと、女官の髪を掴む左手首をリュウの右手に掴まれている。


「髪を放せっつってんだよ……」

「が……あ……た、助けて……」


 万力の様な握力で、アレックは髪を放したと言うよりは放させられていた。

 圧倒的な恐怖を感じたアレックは、剣を手放して命乞いしていた。


「あ? お前さ、その人が助けてって言ったのに殴ったじゃねーか」

「ぶえっ!」


 だがリュウは最初から許すつもりは無かった様で、剣を手放すと同時に左手でアレックの頬を張る。

 乾いた音を立ててアレックの顔が右に弾けてガクンと膝が折れるが、リュウはアレックの左手を掴み上げて倒れる事を許さない。


「た、助け――えぶっ!」


 アレックの顔が左に弾けた。

 今のリュウに命乞いは聞こえないらしい。


 その後も命乞いをする度に殴られるアレックは、いつしか意識を失っていた。

 それでも手を放さずにアレックを無感情に見るリュウに、誰もが言葉を失っている。


「こ、降伏する……だから、その手を放してやって欲しい……」


 そんなリュウに声を掛けたのはバルガスだった。

 震える足で立ち上がるバルガスは、それだけを言ってごくりと息を呑む。

 逆らえば死ぬ、そんな得体の知れない恐怖をバルガスはリュウに感じていた。


 リュウの右手が(ほど)かれ、アレックが糸の切れたマリオネットの様に頽れる。


「ったく、最初からそう言や良いものを……隊長さん、お願いします」


 リュウがそう言って肩の力を抜いた途端、重苦しかった場の空気が一気に解放され、敵も味方も関係無くため息がどっと漏れた。

 そんな様子を見て肩を竦めるリュウが振り返ると、ミルクも同じ様に胸を撫で下ろしていた。


「ミルク~、何だよお前まで……」

「も、申し訳ありません、ご主人様!」


 すぐに背筋を伸ばしたゼノの指示で大広間の王城守備隊が連行され始める中、リュウにジト目を向けられたミルクが慌ててリュウの肩にやって来る。

 上目づかいで顔色を伺ってくるミルクに、リュウはやれやれとため息を吐いて入り口付近で守られているレント国王の下へ歩き出す。


 ミルクはそんなリュウの肩の上で、未だドキドキと落ち着かない鼓動を両手で押さえていた。

 アレックの卑劣な行動は誰もが憤って当然だとミルクも思う。

 だが主人の怒りは余りに異質で、本当に自分のご主人様かと目を疑った程だ。

 ただ結果としては、アレックとその護衛の騎士が当然の報いを受けただけで、人質は無事、残る王城守備隊の全面降伏を引き出している。


 やっぱりご主人様は優しいんだ、そう自身に言い聞かせるミルク。

 しかしながら、もし自分にあの怒りが向けられたら……そう思うと心中穏やかではいられないミルクなのであった。










 王城から全ての王城守備隊が連行され、王城周辺は一時歓声に沸いた。

 だがそれもすぐに収まりを見せ、誰もが王城周辺の警備や戦後処理に当たっている。


 王の間ではレオンを除く王家の下にノイマン男爵とフォレスト伯爵が合流し、互いの無事を喜び合っていた。

 そこには親衛隊長のゼノ・メイヤー、ノイマン騎士団団長のルーク・ボルド、そして肩にミルクを乗せたリュウとアイスが呼ばれていた。


「リュウ、ここに居る者にだけは彼女の真実を告げさせて貰えぬか?」


 漸く場が落ち着いたところで国王のレントはにこやかな笑みを潜め、リュウの前へと歩み出ると、真剣な眼差しで問い掛けた。


「そうですよね……国の重鎮となる方達が知らない、というのはマズいですね。分かりました、よろしくお願いします」

「せっかくの頼みを済まぬ……」

「いえ、あの時はああ言いましたけど、俺もその方が良いと思います。問題無いですよ」


 そしてリュウからの理解と了解を得たレントはアイスの前へと向き直り、その場に跪いた。


「アイス様。少しばかり堅苦しい思いをさせてしまいますが、ご容赦くだされ。この場に居るのは、国の根幹を成す者達です。他の国民達とは違い、アイス様が星巡竜様である事を知っておかねばならないのです」

「う、うん……あっ、はい……」


 レントに突然跪かれてきょとんとした表情を見せたアイスだが、話しを聞いて納得したのだろう、普段の様に頷いて、相手が王様だったと慌てて言葉を正す。

 そんな少し照れて頬が赤いアイスにレントがにこりと微笑むと、アイスも安心したのだろう、緊張で縮こまった肩がふわりと(ほぐ)れた。

 レントの後方ではノイマン男爵とフォレスト伯爵が、ゼノの横ではルークが、ぽかんとした表情で国王が語り掛ける美しい少女を見つめている。


「この度は私達の窮地を救って頂き、心から感謝申し上げます。このご恩を私は決して忘れず、二度と逃げ出す事無くこの国をしっかりとまとめ、より良い国にする事を誓います。そしてこれは厚かましいお願いではございますが、どうか、末永くこの国を見守って下され……いえ、アイス様を縛るつもりは毛頭ございません。ただ、いつまでもアイス様と共にありたいと願うものです……」


 神秘的な青紫の瞳に心の中を全て見透かされそうだ、と頭の片隅で思いながらレントは真摯に嘘偽りない気持ちを言葉に紡いだ。


「えっと……アイスはリュウに言われてちょっとお手伝いしただけで、頑張ったのはみんな一緒だと思います……でも王様がお城に帰って来る事ができて本当に良かったと思います。それと、そんな風に言って貰えて嬉しいです……」


 アイスはちらりと目を向けてリュウが小さく頷くのを見ると、少しはにかんだ様子でレントの言葉に答えた。

 そして答え終えて顔を上げると、皆の視線が一身に集まっている事に気付いて慌てて下を向いて赤くなった。


「アイス……」

「何? リュウ……」


 そんなアイスにリュウが声を掛けて、アイスはおずおずとリュウを見る。


「……顔、赤いぞ?」

「わ、分かってるよう!」


 そしてニヤリと笑ったリュウに顔色を指摘されて、アイスは目を真ん丸にして憤慨した。

 すると途端に場の空気がほっこりとした空間に変わる。


「国王陛下、皆さん、アイスには普通に接してやって下さい。星巡竜と言ってもアイスはまだ十五です。皆さんから色々学ぶ事もありますし……悪い事をしたらちゃんと叱ってやって下さい。よろしくお願いします……」


 それで話し易くなったからか、リュウが皆にささやかなお願いをしてぺこりと頭を下げると、皆も小さく頷き返す。


「リュウだって一つしか違わないのにぃ……」

「そーだよ? 俺だって変わんねーけど、お前に何か有ったらお前の父ちゃんと母ちゃんに合わせる顔がねーじゃんか……」


 そんなリュウにアイスが口を尖らせると、リュウは仕方が無いだろう、と肩を竦めた。


「ふむ、アイス様のご両親か……今はどちらにいらっしゃるのかな?」

「その話はまた後でも構わないでしょうか? そろそろ俺達はエンマイヤー領に向かいたいんですが……」

「おっと、そうであったな……うむ、では早速向かうかね?」

「はい。済みませんが、続きは帰ってからお話させて頂きます……」

「分かった……無事にお仲間が見付かる事を祈っておるよ。ボルド団長、彼らをエンマイヤー領まで案内してやってくれ。好きな馬車を使うと良い」

「はっ! 陛下」


 新たな話題に興味を惹かれたレントであったが、それはリュウによって保留とされ、事情を思い出したレントもそんな場合では無かった、とルークに道案内を命じた。


 その後、皆と簡単に挨拶を済ませたリュウ達は、通信機で連絡を取ったレオン王子とも合流し、王家の馬車を一台借りてエンマイヤー領を目指す。


いつも読んで頂きありがとうございます。


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