表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
101/227

16 ダメでもともと

 ココアがドクターゼムとの接触を諦め、最後の通信機器を設置した所へと引き返した頃、親衛隊の野営地では昨夜に引き続き王都奪還についての協議が王家の天幕にて行われていた。


 昨夜はミルクによる現状説明という意味合いが強かったのであるが、お開きになった後も参加したレオン王子やゼノ隊長以下数名の隊員により協議は続けられていた様で、朝食後に改めてレント国王も交えての協議となったのである。


 だがそこにはリュウ達の姿は無く、自身の天幕に残ったままであった。 


「ノイマン、フォレスト両騎士団と親衛隊が合流できれば、王都はエルナダ軍が居なければ奪還可能だよな?」

「はい。奪還を見越して全軍を王都に展開させているならばともかく、実際にはそんな事は有り得ませんから、国王軍が王都に入った時点で戦力比は二対一……もしかすると、もっと差が有るという事も考えられます」

「突破に手間が掛からなければ、敵の援軍が到着しても後の祭りなんだよな?」

「はい、それはもう。王が城に戻り、周りを騎士団で囲まれてしまえば、敵軍に取れる行動は無謀を承知で戦いを継続するか、諦めるかしか有りません。ですが公爵達もそれ以上の戦いは国に大きな傷を残すという事は分かっているはずですから、大人しく降伏、もしくは他国へと逃亡するかと思われます……」

「そっか……」


 リュウはこれまで話し合われた事を自身で整理し、ミルクに確認を取りながら別の事を考えていた。

 それはエルナダ軍の対処についてであった。


「なぁ、エルナダ軍を戦闘に参加させない方法ってある?」

「それはどうでしょう……ソートン大将の思惑がどこに有るのか不明ですから、公爵の危機に敏感に反応するのか、誰が頭を取っても問題無いとしているのか、どちらにせよ戦闘が始まったからと言って現地の兵が勝手に動く様な事は無いと思いますが……」


 新たなリュウの質問にはミルクも言葉を濁した。

 エルナダ軍が本気になれば、騎士団など簡単に殲滅されてしまう。

 なのに表に出てこないのは、エンマイヤー公爵を信頼しているのか、いつでも国を奪える余裕があるのか、それとも弾薬等の不足や何らかの問題から、十全にその力を発揮できない状態にあるのか、判断材料が乏しかった為である。


「あれ? リュウってエルナダ軍をこそっと倒すとか言ってなかった?」

「いや、思ったより人数少ないから俺もそう思ってたんだけど、魔都を襲撃した生き残りのおっさんを思い出しちゃってさ……こっちの軍にも任務だからと渋々従っている人達が居るんじゃないかと思ってさ……」


 そんな中、アイスが小首を傾げながらつい先日のリュウの言葉を持ち出すと、リュウはポリポリと鼻の頭を掻きながら考えを改めた経緯を説明する。


「それは十分に考えられると思います! ならば、王城の北に詰めている兵達を孤立させてから説得する……という手が有効かと思われますが、ご主人様の力で可能なんでしょうか?」


 リュウの照れた様な発言にミルクは声を弾ませる。

 竜力を発動させるリュウは敵と認識すると容赦が無いが、本来はやはり相手を思いやる優しさが有るのだ、と嬉しかったのだ。

 ただ実際に行動を起こすとなると、リュウの能力を確認しておく必要がある。


「え……いや……そんな事急に聞かれてもな……」

「例えば……ガトルと戦った後で、ご主人様は壁に大きな穴を開けましたよね? あの技を連発出来れば、北棟だけを隔離できると思うのです」

「あー……」


 ミルクに問われ考え込むリュウに、ミルクは具体的な例を挙げてみる。

 するとリュウはその事を覚えていた様であるが、困っている様に見えた。


「実はさ、まだよく分かんねーんだよ……普段こうしている時って何も反応無いしさ、ただ考えただけじゃ力が使えねーんだよな……発動すると何となく制御は出来る様になったんだけどな……」

「そ、そうだったんですかぁ……ア、アイス様はどうなんですか? 思い通りに力を使えるんでしょうか?」


 そんなリュウの答えが余りにも大雑把なものだった為に、これまでは単に運が良かっただけだったのでは、と頬が引き攣りかけたミルクは、アイスに話を振る事でその場を取り繕う。


「んー、アイスは思った通りに使えるよ? お婆ちゃんのコアが助けてくれてる感じだけど、イメージ通りかなぁ……想いが強いと意識しなくても使えるもん」

「はぁ、何をするにしても既に答えが出ているミルクとは随分違うんですね……想いですかぁ……お二人共、感性が大きく作用してるんですねぇ……」


 そしてアイスの答えもリュウと大差無いと感じたミルクは、自身とは違う力の使い方に困惑しつつも納得した様に呟いた。


「感性……か……」

「どうかしました? ご主人様……」


 その呟きを自身でも声に出して繰り返すリュウに見つめられ、ミルクは小首を傾げた。

 心なしかリュウの目がじっとりしている気がしたのだ。


「なぁミルク、感性の対義語って何だっけ?」

「え? 理性ですけど?」


 一転、リュウに笑顔で問われ、ミルクはあれ? と思いつつも素直に答えた。

 どうやら自分の思い違いだったかしら……とミルクが思った時だった。


「……なんか馬鹿だって言われた気がする……」


 ミルクの耳にぼそりとリュウの呟きが飛び込み、ミルクはハッとしてリュウをちらりと見た。

 そこには思い込みでも何でも無く、超ジト目のリュウ。


「ッ!! そそそ、そんな誤解ですぅ! けけ、決してミルクは――」


 誤解を解くべく弁解しようとするミルクであるが、慌てた為に言語機能が麻痺してしまっては折角の神速演算処理も無意味であった。


「ミルクは賢いもんねぇ……」

「ひうっ!?」


 そんなミルクに今度はアイスの呟きが襲い掛かり、ミルクの喉が引き攣る。

 ご主人様と創造主様からジト目を向けられ、パニック寸前のミルク。

 しかし、ミルク史上最大のピンチを救ったのは意外な人物であった。


「ひあっ!? コ、ココアっ! ご、ご主人様っ! ココアから通信ですぅ!」


 ビクッと跳ねるミルクであったが、ココアからの通信だと分かるとあたふたとリュウの左腕に取り付いてプロジェクターを起動する。

 するとリュウの左手の上に満面の笑みのココアが浮かび上がる。


「ココア、無事だったか。お疲れさん!」

「ご主人様ぁ! ドクターの所在が判明しましたぁ! 鉱山ですぅ!」

「おー! お手柄じゃん! で、ロダ少佐は?」


 リュウとココアの明るいやり取りに、ミルクがほっとため息を吐いている。


「少佐は南の部隊に連れて行かれたとしか分かりません……二人は互いに人質として別々にされた様ですぅ……」

「そうか……それってマズくね?」


 だがロダ少佐が居ないと分かると、リュウは不安そうにミルクに尋ねる。


「いえ、ご主人様とドクター達の関係性は向こうには分かり様が有りません……ドクターだけを保護すれば関係性を疑われますが、ドクターの安全を監視するに留めるとか、南の部隊との通信を完全に断ってしまえば、ロダ少佐との関係性にまでは気付かないでしょう……」

「そっか……無理にドクターを保護する必要は無いのか……」


 そんなリュウにミルクが丁寧に説明すると、リュウはほっとした様子で一応の納得をする。


「はい。それよりココア、王都での戦闘を見越して戦力をどこかに伏せていたりしてない?」


 ミルクはリュウに短く答えると、気になっていた事をココアに尋ねた。


「んー、そんな可能性は低そうだけど……何? 王様達が動くの? だったらもう少し詳しく調べてみるけど?」

「じゃあ、お願いね?」

「任せて、姉さま」


 そして姉妹の間でてきぱきと物事が決められていくのを、感心した様にリュウとアイスが見つめている。

 だが、リュウも感心してばかりではいられない。


「ココア、エンマイヤー領にはどのくらいエルナダ軍が居るんだ?」

「王都と変わり無い程度ですぅ……ただ、エンマイヤー邸には情報部が置かれていて一度は侵入を試みたんですけど、さすがにガードが厳しかったですぅ……」


 ココアの報告を聞き敵の人数が少ないのを喜ばしく思うリュウであったが、その後の報告には顔色が僅かに曇る。

 プロジェクターに浮かび上がるココアの姿は普段の小ささに戻っている様で、リュウは少し悩んだが、ダメ元でとりあえず話を続ける事にした。


「そっか……王都で事が起こったら、足止めとか……厳しいか?」


 リュウが尋ねてみたのは敵の足止め。

 さすがに無茶を言っている自覚のあるリュウだが、ココアの答えは意外な物であった。


「んー、そうでもないかも知れませんよ? エンマイヤー領のエルナダ軍はその大半を鉱山に回してますから……エンマイヤー邸には情報分隊と警備の分隊が配置されてるだけですし、エンマイヤー邸で騒ぎを起こせば十分に可能かと」


 顎を人差し指で押し上げる様に上を向いて少し考えるココアは、リュウが拍子抜けする程の軽さと笑顔でリュウの心配を吹き飛ばした。


「そ、そっか! んじゃ、無理しない程度で頼めるか?」

「はい、ご主人様ぁ! その代わり、チューは一分でお願いしますねっ!」

「「長いよ! ココアっ!」」


 そして思わず釣られて笑顔で頼み事をするリュウに、ココアが欲望全開で承知すると、アイスとミルクが即座に反応した。


「はぁ……分かった分かった……」

「リュウっ!?」

「そんなっ!?」

「えっ……ほんとにっ!? う、うふふ……言ってみるもんですねぇ……では、ココアは任務に戻りますっ!」


 だがリュウが呆れつつもココアの願いを了承した事で、アイスとミルクが目を見開いて固まり、ココアは自分で言っておいて驚くものの、すぐにニマッとした笑みを浮かべるとビシッと敬礼をして通信を切ってしまった。


「リュウぅ~」

「ご主人様ぁ~」

「い、いや、ほら、ココアは一人で頑張ってくれてるじゃん。それに、その時になったら忘れてるかもよ?」


 通信が切れると、すかさずアイスとミルクが抗議の声を上げ、リュウは苦笑いしながら適当に流そうとした。


「ココアは絶対忘れないよぅ……」

「有り得ませんよぉ……」

「そ、そうか? はは……は……」


 それでも二人に縋る様な目で訴えられ、リュウは頬を引き攣らせつつも笑って誤魔化すのだった。


 その後、リュウ達が王家の天幕に足を運んだのは、ココアが送ってきた新たなデータをミルクがマッピングして自分達で協議を済ませてからの事であった。


次回は更新が遅れるかも知れません…が、今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ