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星を巡る竜  作者: 夢想紬
序章
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プロローグ 囚われの竜

初投稿作品です。

どうも序盤が小難しいと言われておりますので、ご容赦を。

3章を書き終えたら見直そうと思っておりましたが、大変な作業になりそうなので、現在は長かった1話を分割するに留めております。

どうぞよろしくお願いします。


 真っ白な部屋。

 壁に様々な機械が並び、一つの壁面には大きな透明の一枚窓が(はま)っている。

 元々そこは爆発物の観測室だったが、今は監視を兼ねた研究室となっている。

 部屋には白衣に身を包み、頭にゴーグル付きのヘッドセットを付けた数名の研究員が機械の間を行き来し、大窓の中央には二人の男が立っている。


 一人は軍服を着た背筋の伸びた細身の初老の男。

 胸には多数の勲章が輝きを放っている。

 もう一人は金糸で装飾された黒の上下を身に纏う、三十代半ばの男。

 精悍な顔立ちの男だが、金色の瞳が異質さを放っている。

 そして窓の外に金色の瞳を向け、口を開いた。


「悪あがきをしおって……忌々しい」

「しかし、あの有様では何もできますまい。時間の問題なのではございませんか?」

星巡竜(せいじゅんりゅう)を侮るな、ゼオス中将。引き続き監視と警戒を怠るな」

「は。承知致しました、ヨルグヘイム様」


 ゼオス中将は金色の瞳の男、ヨルグヘイムに敬礼し部屋を後にした。

 ヨルグヘイムも研究員達に何やら指示を出した後、深々と頭を下げる研究員たちに見送られて退出していった。










 研究室の大窓の外には広大な空間が広がっていた。

 百メートル四方程で高さが十数メートルもあるその空間は、自然の洞窟にできた大空洞とも言える場所であった。

 その中央には直径一〇センチ程の金属の円柱が、三十センチ程の等間隔で直径二十メートルの円を描くように並んで天井を支えている。


 それは巨大な檻だった。

 そしてそこには全長八メートル程の真紅の竜と一回り程小さい濃紺の竜、更に一メートルにも満たない程の小さな黒い竜が捕らえられていた。


「こうも力を阻害されるとはな……」


 苦々しく呟いたのは真紅の竜だ。


「人化できれば隙間から出られますのに……それも無理だなんて、困りましたわね……」


 続いて言葉を発したのは、吸い込まれるような深みをもった濃紺の竜。


「母さま、アイスは出られますよ?」


 その濃紺の竜の足元から、今度は黒い小竜が会話に加わった。


「いかんぞ、アイス。それこそが奴の狙いであろう。今は出てはいかん」

「は、はい。父さま」

「では、ヨルグヘイムは本当に(わたくし)達を? 星巡竜が星巡竜を襲うだなんて……」


 彼ら三体の竜は親子であり、人と竜の二つの姿を持つ星巡竜という希少な種族だった。

 そして彼らを観察していたヨルグヘイムもまた、星巡竜なのであった。

 初めて訪れるこの星で同種と出会った彼らは、問題に手を貸して欲しいとヨルグヘイムに乞われ、この場所で罠に()められたのだ。


「で、あろうな。そういう個体が居らぬ訳ではないのだ。ここまで欲深い奴が居るとは驚きだがな」


 そう言うと、アイスと呼ばれた小竜の父、アインダークはその真紅の瞳で研究室を睨んだ。










 星巡竜(せいじゅんりゅう)

 彼らは星を巡り、見守る者。

 広大な宇宙にわずかに存在する、人知を超えた存在である。


 人の身で生まれ、やがて竜の姿にも成れる彼らは、その身に竜力(りゅうりょく)という力を宿し、彼らを知る者に神の使いや神そのものとして崇められている。

 彼らは自身の理想とする星を求めて旅を続け、定住する星を定めるとそこで長き時を過ごす。

 だが人々に干渉する事は滅多になく、そのまま生を終える事も有れば星の寿命と共にまた新たな星へ旅立つ者もいる。

 そんな彼らがどうしようもない困難に立たされた人々に手を差し伸べた稀有(けう)な例が、人々の間に神話や逸話として残されているのである。


 だがヨルグヘイムは違った。

 彼は力を求めた。

 遥か昔、最初に出会った星巡竜を屠り力を奪った時から、ヨルグヘイムはその増大した力を更に欲するようになった。

 そして星巡竜と出会う度に、その力を我が物としてきたのである。


 三度目の星巡竜を屠った頃、ヨルグヘイムはこの星、ナダムに降り立った。

 ナダムは高度な文明を有していた。

 ヨルグヘイムはその国の一つに取り入り、新たな知識を授け、他国を滅ぼした。

 人々はヨルグヘイムを畏れ敬い、その庇護の下、更に文明を発展させていった。

 その科学の力で自身の力となる物が生み出されるのも良いな、とヨルグヘイムは余興程度に思っていたのだった。


 そして長い時を経て、再び星巡竜と出会った。

 だがその真紅の星巡竜はこれまでの星巡竜と違い、大きな力を有していた。

 更に妻と子を連れていたのだ。

 子はまだ成人しておらず大した力は無かったが、それでも二対一では勝利を確信できずにいたヨルグヘイムは、その子である小竜に目を付けた。


 星巡竜は成人する時に飛躍的に竜力が増大する。

 それを待って力を奪えば、二対一で拮抗しているであろう力の均衡が大きく崩れる。

 そうしてから残る二体を倒せば良い、と。

 そして今、ヨルグヘイムは彼らを罠に嵌め、捕らえる事に成功した。

 あとは小竜を親から引き離し、成人するのを待てば良い。

 だが親もそれに勘づいているらしい。

 檻に施した力を阻害する結界の中で、更に結界を張って子を守っているのだ。

 だがそれもそう長くは続くまい。

 ヨルグヘイムは悪あがきを忌々しく思いながらも、更に強大になった自身に思いを馳せるのだった。










 結界の檻の中では、真紅の竜と濃紺の竜の間で小竜が淡い光に包まれている。


「こうしていても無駄に力を消耗するだけよな……」


 アインダークのその真紅の瞳には、何らかの決意が見て取れた。


「あなた、どうなさいますの?」

「うむ……アイスを転移させようと思う」

「そんな……でも、一体何処へ?」

「ここからそう遠くない所に別の星系がある。そこならば奴も感知できまい」

「だとすると、こちらも相当の力が必要ですわね……」

「大丈夫だ。エルシャは我が守る」


 エルシャこと、妻のエルシャンドラは夫アインダークの決意をその瞳に見て、我が子アイスとの別れに後ろ髪を引かれる思いを押し殺し、同意した。

 だがその足元から反対の声が上がる。


「アイスは嫌です! 父さまや母さまと離れるなんて!」

「アイス……」

「我儘を言うでない、アイス。成人してしばらくは竜力を制御できん。そこを狙われれば全てが失われるのだ」

「でも……」

「アイス、今生の別れではないのですよ? 力を制御するまでの辛抱ですから。ね?」

「そうだアイス。我とエルシャの力を引き継ぐお前なら、すぐにまた会える」

「でも、いつ成人するか分からないのに……何年も……」

「もうアイスはいつ成人しても不思議じゃないのですよ? そんな事でどうしますの?」

「転移先が余りに困難な環境ならば帰ってくればよい。その時はまた考えるとしよう」

「……はい、父さま……」


 星巡竜は生まれてより十五年から二十年くらいで成人を迎える。

 それは自身の意思で行う事はできない。

 その身が突然増大する竜力に満ち溢れた時を成人とし、その膨大な力を制御できるようになるまでは、下手に力を行使できない。

 何故なら、いつも通りに使ったはずの力が、遥かに桁違いの力を有している為だ。

 

 因みに、アインダークは成人時に惑星に落下しようとしていた小さな隕石を撃とうとして、惑星の衛星を一つ消滅させており、エルシャンドラも魔物を撃退しようとして、湖を一つ蒸発させ、山を半分消し飛ばしている。


 アインダークはその翼で向き合うエルシャンドラを包むように覆った。

 エルシャンドラはその内側で更にアイスを包むように翼を広げた。

 そしてエルシャンドラから光が溢れだし、アイスの首の付け根に集まりだす。

 光が収まると、アイスの首にはエルシャンドラと同じ濃紺の美しい宝石が付いたネックレスが輝いていた。

 力を阻害する結界の中で多大な力を使った為か、少しふらついたエルシャンドラをアインダークが支える。


「母さま、これは?」

「それは帰還の竜珠と言って、祈れば一度だけ私の下に戻る事ができるのです」

「分かりました、母さま。ありがとうございます」

「アイス……寂しくても頑張るのですよ。愛していますわ」

「母さま……」


 エルシャンドラが別れを済ませ、全員を包む光の幕を展開した。

 今度はアインダークから光が溢れだしてくる。


「アイス。我らの事は心配するな。達者で暮らすのだぞ」

「は、はい、父さま。と、父さまも……母さま……も……お元気……で……」

「アイス……」

「では、ゆくぞ」


 アインダークから溢れた光が、涙を堪えるアイスを包み込んだ。

 直後に光は消失し、アイスの姿はもうそこには無かった。










 一方その頃、研究室では突然の事態に研究員達が慌ただしく動いていた。


「結界内のエネルギー値が振り切れています!」

「何だ! 何が起こった!」

「おい! 見ろ! 竜が!」

「星巡竜が! 光ってるぞ! ヨルグヘイム様に報告を!」


 しかしすぐに光は収まり、測定機器は通常に戻った。

 研究員達が小竜が居なくなっているのに気づくのは、もう少し先の事であった。

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