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魔導戦記 ~精霊に嫌われし者~  作者: 三鬼 葵
一章 魔法魔術学校編
5/5

日々

「「エルト・アルザニア・エレザート様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」」


近寄ってきた二人は先ほどのケーリッヒと同じように片膝をつき、忠誠を誓う姿勢をとった。


「あぁ、君たちか」


エルトはケーリッヒの時よりも気の良い表情で答えた。


「トーラス・ギールとアーカディア・ミレディか、よく私がここに居ると分かったな」

「ケーリッヒがこちらに来ていたと聞いたのでもしやと思いました」

「あぁ、あいつか、あいつはダメだな。自分のいう事を力ずくで聞かせようとする。貴族の風上にも置けないな」

「ははは、…ところでエルト様はここで何をしているのですか?」

「彼と話していたんだよ」

「彼ですか?」


エルトの視線が一人の男へ向くと、それにつられトーラスとアーカディアも視線を一人の男に移した。


「誰なんですか」

「今からその話をするとこだったんだ」

「知らないのですか!?」

「当たり前だろ、今日あったばかりなのだから」


トーラスは驚きを隠せなかった。次期国王になる可能性は限りなく低いが、アルザニアの第三王子である。その第三王子ともあろう者が素性の知れぬ者と親しくしている事が信じられなかった。


「と、言うわけで、私は彼と話しがしたいんだ。そろそろいいかな?」

「…我々もご一緒してもよろしいでしょうか…?」

「彼が構わないのなら私は一向に構わん。いいか?」

「別に構いませんよ」

「そうか、では話の続きをしよう」


エルトはトーラスとアーカディアが席に着くのも確認せずそそくさと話を始めた。


「ダーニウム王国ってどんなくになのかな? あいにくこの国を出たことがなくてね気になっていたんだ」

「この国とそんなに変わらないさ。独立を果たして十二年もたったといえ、民には国が変わろうと生活が変わる者は少ない。まぁ、元帝国兵の盗賊が増えて難儀していますがね」

「そんなものなのか。元帝国兵は王国に組み込まれたんじゃないのか?」

「帝国はダーニウム王国とフレイガン王国の二つに分かれた。共闘して帝国を倒したもののどちらか片方に戦力が偏るのはよくない。それに、今もなお元帝国の貴族や皇帝の一族を担いで元の帝国に戻そうとしている者がいる。そういう者のところに帝国兵達は行ってしまう。それが現実だ」

「帝国兵の数はそんなに多いのか?」

「…あまり口外して良い事とは思えませんが、まぁ過ぎた事なのでいいと思いますが…」

「何のことだ?」

「十二年前、帝国はアルザニア王国へ戦争の準備をしていました」

「ほぅ」

「「なっ!」」


冷静に受け止めるエルトに対して、トーラスとアーカディアは驚きを隠せない様子だ。


「ちょうど独立戦争を開始する少し前の事です」

「そんな…ダーニウム王国はそれを隠していたのか?」

「ええ、帝国の注意がアルザニア王国に向いていたこともあって我々の独立が成功したのです。隠していたのは我々にとって都合が悪いからです」

「都合が悪い?」

「はい、独立を成功させたといってもまだダーニウム王国の体制が確立していません。そんな時にアルザニアや他国に攻められたらどうでしょう。ひとたまりもありません」

「父上がそんなことを考えるとは思えんが…」

「まぁ、今となっては過去の話ですがね」


自分たちが生まれて間もなかったとは言え、自国が戦争に巻き込まれるとは微塵も思っていなかった。


「そろそろよろしいですか、帰りたいのですが…」

「うむ、時間を使わせてすまなかったな」

「では、失礼します」


去っていくアルフォードの背中を眺める三人。トーラスとアーカディアはアルフォードが一体どのような人物なのか謎のままだった。


「彼はいったい何者なのでしょうか…」

「さぁな。一つ言えるのはただの留学生じゃないって事だ」

「警戒を強めておきますか?」

「やめておけ、ケーリッヒにも言ったが下手なことをして外交問題起こさないようにな」

「では、どうするべきですか?」

「何もしなければそれでいいだろう? 別に悪い奴でもなさそうだし、何より面白いやつだった」

「エルト様がそうおっしゃるなら…」




エルトは次の日も次の日も毎日アルフォードの元へ足を運んだ。アルフォードも最初は適当に流していたが、根気よく通い詰めるエルトに折れ、適当にあしらう事はなくなった。


「なぁ、毎日図書室に来ていつレポートを書いているんだ?」

「泊まらせてもらっているところで書いている」

「家はないのか?」

「留学生の俺に家があると思いますか…第三王子様」

「まさか、冗談だよ。あと、その呼び方はやめろ」

「わざとだよ」


何気ない会話をしながら読んでいる本をパラパラとめくる。その横で紙に筆を走らせているエルト。最初の頃は周りから奇異の眼で見られていたものの、最近ではこの光景になれたのかB科の生徒で視線を向ける者はいなくなった。だが初めてくるA科の生徒や先輩たちからは奇異の眼で見られることもある。


「で、エルト様は何を書いていらっしゃるのですか」

「だから、様はやめろ。お前にまで敬語を使われると疲れる」

「冗談が通じない奴だな、まったく」

「もう疲れたんだよ、同年代から敬語で話されるのは。せめてお前だけでも敬語をやめて常語で話してくれ」

「分かっているさ。で、結局何を書いているんだ?」

「レポートをを書いているんだよ。城で書いているよりお前と話しながら書いた方が楽しいからな」

「そうなのか。何を題材にして書いているんだ?」

「魔術使用により人体に起こる影響ってとこだな」

「また、今更な題材にしたな」

「いいんだよ、別に。この学校を卒業さえできれば。父上も文句は言わんだろう」

「王族というのも大変そうだな」

「アル、そういうお前は何を題材にするんだ?」

「飛行魔法の実現」

「また難しいものを選んだな」

「本国ではあと一歩のところまで進んでいるんだがな」

「そうなのか?」

「ああ、浮遊石って知ってるか?」

「その方法なら俺も知っている。魔力を込めると浮く浮遊石に魔力を込め浮かせるんだろう? それぐらいわが国もすでに試している」

「なら知っているだろう? 結果がどういう物だったか」

「浮遊石自体は浮く事が出来たが、人が浮く事は出来なかった…」

「そうだ。ありとあらゆる方法で身体に浮遊石を取り付けたが浮く事はなかった」

「じゃあお前はどうするつもりなんだ?」

「答えは神暦より昔の文献に書いてあった」

「神暦? 神の浄化が行われる前の文明の文献が見つかったのか!?」

「ああ。一部だけではあるが、解読も終えている」

「それで、結局どうするんだ?」

「布にする」

「布?」

「ああ。その文献によれば、空を飛ぶ魔法のじゅうたんというものが存在したらしい。どのように浮かしていたかは不明だが、布にすることでその上に乗れば空を飛べるのではないか、というのがわが国が出した答えだ」

「原理はわかった。だがどうやって布にするのだ?」

「その辺りは考えてある。浮遊石を極限まで細かくし、粉末状にする。それを水に溶かし布をつける」

「反魔法布と同じ作り方か」

「そうだ。本来は本国でやるべきなのだろうが、ダーニウム王国では鉱山からの産出量が少なくて多くの実験が行えないのだ」

「だから、産出量の多いアルザニア王国で行うと」

「そればかりは仕方ないことだな」

「どうする? 俺が用意しておこうか?」

「いや、いい。学校側に申請すれば金を出さずに手に入れられるしな」

「そうか。俺も手伝おうか?」

「手伝ってくれるのはうれしいが、自分のレポートはいいのか?」

「そっちの方が面白そうだし、最悪共同作業で提出すればいい」

「王家の権力を使うのは嫌いじゃなかったのか?」

「嫌いだが使えるのだから使うだけだ」

「そういう物なのか」

「そうだ、よかったら今日家にこないか?」

「いっていいのか? 家って、お城だろ?」

「別に構わんさ、俺が住んでいるのは城の離れみたいな場所だからな」

「そうか、来ていいというなら行かせてもらおう」

「よし、行くと決まったら早速行こう」


荷物をまとめ学校の校門まで来ると目の前で一台の馬車が止まった。


「殿下お待ちしておりました」


止まった馬車の中から、鎧に身を包んだ一人の騎士が現れた。


「アルには紹介してなかったな。紹介しよう、俺の護衛騎士のウィルソンと執事のジーニーだ」


馬車から現れた騎士の他に人影が見当たらなかったが、馬車の手前から急に人が現れた。


「殿下、このお方は?」

「私の友人だ」

「なんと! ご友人でしたか。初めまして、護衛騎士を務めておりますウィルソン・ドレイアと申します」

「執事のジーニーと申します」

「アルフォード・ザビーナだ、二人とも仲良くしてやってくれ」


アルフォードは驚いていた。一般的に王族といえば護衛の騎士が何十人もいて執事やメイドも何十人も侍らせていると思っていた。だが、実際にエルトは騎士と執事が一人ずつしかいなった。


「どうしたんだ、アル?」

「いや、なんだ、その…」

「ああ、ウィルソンとジーニーしかいないことに驚いたか?」

「ああ、まあな」

「仕方ないさ、王位継承権のない俺には守る価値もないんだろ」

「そんなことありませんよ殿下」

「慰めはいいよウィルソン。それより、城に向かってくれ」

「分かりました。ジーニー」

「御意」


二人が馬車に乗ったことを確認すると、ジーニーは馬に鞭を打ち走らせた。


「しかし殿下にご友人が出来たとは驚きです」

「そうか?」

「ええ。殿下は人嫌いというか人を選ぶという感じが昔からありましたので」

「へぇ、エルトにそんな一面があったのか」

「殿下は同年代のご友人がいませんでしたので」

「奴らは何も面白くない。くだらない世辞ばかり述べて気分が悪い」

「仕方ありません、それが貴族というものです」


初めて知ったエルトの一面に驚きつつも話を進めていると、いつの間にか馬車は城に着いていた。


「さて、着いたぞ」

「こんなにでかいのか…」


お城の大きさに驚かされつつも、城内を進んでいくエルトの背を追っていくとエルトが急に止まった。


「おや、エルト様、お久しぶりですな。以前あったのは一年ほど前の舞踏会でしたかな?」

「お久しぶりです、ゲルガ・グレイシス殿」

「後ろの方はご学友ですかな?」

「ええ、紹介しておきます。アルフォード・ザビーナです」

「ご紹介に与かりました、アルフォード・ザビーナと申します」

「どこの貴族家のご子息ですかな?」

「残念ながら私は貴族の家系にございません。ダーニウム王国からの留学生にございます」

「そ、そうであったか。ところでどこかでお会いしたかな?」

「残念ながら覚えがありませんがないと思われます。何分ダーニウム王国で育ったもので」

「そうか。おぉ、この後用事があるのでな、殿下、失礼いたします」


でっぷりと太った身体をゆさゆさと揺らしながら去っていくゲルガをアルフォードは、冷たい眼差しで見つめ続けた。


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