出会い
そして日が沈み、夜が明けた、次の日
◇ダーニウム王国軍本部◇
各々の荷物を手に二十人ほどの軍人達が緊張した趣で整列している。もちろん、その中にアルフォードの姿もある。
「中隊長よりの訓示!」
「ただいまより任務開始のためアルザニア王国へと出発する。中隊を二つに分け、一班は直接アルザニア王国へ、もう一班はマドゥール王国経由でアルザニアへ行く。王都では私が、副都では副隊長が指揮をとる。報告を密に行うように」
「「「「「ハッ!!」」」」」
「それでは各々馬車に乗り込み出発せよ」
訓示が終わると各々が馬車の中へと乗り込んで行く。乗り込みを終えた馬車から順に出発していく。多くの犠牲を生じる戦争に発展するとも知らずに。
何事もなくマドゥール王国を経由しアルザニア王国へ着いたアルフォードは副都の町で教会を探していた。三年前一度だけ訪れたがその時は見て回る暇がなかった事もあり新鮮さを感じていた。
露店の店主に道を尋ねながらたどり着いた教会はダーニウム王国にあった教会本部よりもかなり小さかった。恐る恐る扉を開けると、教会の中には人の影が見られなかった。中に足を進ませると大きな彫像があった。それは、ソラート教会の象徴とも言えるソラート神の彫像だった。
「あら? お祈りですか」
脇にあった扉が開くと同時に声が聞こえた。声のする方へと視線を移すと、一人の女性がいた。
「ええ、人が見当たらなかったので勝手に祈らせてもらいました。あなたは?」
「挨拶が遅れて申し訳ありません、この教会でシスターをさせてもらっていますシーラ・テルフォードといいます」
「アルフォード・ザビーナといいます」
「アルフォード…? あっ、留学生の方ですね」
「ええ、しばらくの間お世話になります」
「少し待っていてください、司祭様を呼んできます」
最後にそう残し、出てきた扉の奥へと去っていった。少しすると、シーラと白髪と顎ひげを蓄えた老人が出てきた。
「おぉ、君かね、ダーニウム王国からの留学生というのは? 確か、アルフォード君だったかな?」
「ええ、アルフォード・ザビーナです。よろしくお願いします」
「ダーニウム王国側の教会から話は聞いている。…まぁここではそんなに周りを気にする必要はない、君が信じる神を信じたまえ」
「お心遣い感謝します」
「十日間の旅で疲れただろう、今日はゆっくりしたまえ。シーラ、アルフォード君を部屋に連れてってあげなさい」
「はい。アルフォードさん、こっちへ」
アルフォードはシーラに促されるまま後ろをついてった。
「ではこの部屋を使ってください」
「ありがとうございます。……あのどうかされましたか?」
連れてこられた部屋で休もうと思っていったアルフォードは、部屋を去ろうとしないシーラに何かを感じた。
「い、いえ、その、同年代の人とお話しする機会がなかったもので、お話しできないかな、と」
「別にかまいませんんよ。答えられる範囲であればですけどね」
「いいんですか!?」
「ええ」
「じ、じゃあ聞いていいですか。その布で巻かれている左眼はどうされたんですか?」
「左眼…ああ、僕から見た右眼ですね。まぁこれは一種の呪いみたいなものです」
「呪いですか?」
「ええ。呪いといってもまだ詳しいことはわかっていませんが、昔血を見たときにものすごく目が痛くなって、意識を失ったんです。それ以降、眼に魔法陣が現れるようになったんですよ。今は医療魔術で瞼をくっつけて、その上から反魔法布で巻いているんです」
「痛くはないんですか?」
「痛くはないですね。視界が狭いのも慣れましたし」
「そうなんですか。あ、アルフォードさんはダーニウム王国から来たんですよね? どんな国なんですか?」
「アルフォードさんは長いからアルさんでいいですよ」
「いいんですか! ありがとうございます」
「ダーニウム王国でしたね。まぁアルザニア王国とそんなに変わりませんよ」
「そーなんですか?」
「ええ、王族や貴族とかの国を動かす人たちはわかりませんが、一般の市民は帝国が王国に変わろうと生活に劇的な変化はありません」
「よくご存じですね」
「教会の仕事で市民の方話す機会が多くて」
これは嘘である。ダーニウム王国の教会からの留学生という事になっているためそう言っておいたに過ぎないが、一般の市民の生活にあまり変化がないのもまた、事実である。
「ほかにもいろいろ聞いていいですか?」
「ええ、どうぞ」
「じゃあ━━━━━━━━━━」
その後、話は日が沈む直前まで続いた。
「すいません、長話をしてしまって」
「いえ、構いませんよ」
「あ、あの」
「どうかしましたか?」
「そのよければでいいんですが、私とお友達になってもらえませんか?」
「……まぁ僕でよろしければ」
「あ、ありがとうございます」
シーラは嬉々として部屋から去っていった。
その後、夕食を済ませ床に就いた。
必要なものをそろえながら四日間が経った。入学式の日を迎え出発の時間を待っていた。
「アルさん、今日から学校なんですね…」
「ええ、今日からですよ。シーラは?」
「私は学校に行ったことはありません。字は司祭様が教えてくださりましたが、学校はお金がかかるので行けませ…」
「そうですか…。僕でよろしければ教えましょうか?」
「ほんとですか!?」
「まぁ、教えられることは少ないですけどね」
「ありがとうございます!」
「では、そろそろ時間なので行きますね」
「はい、お気をつけて」
活気あふれる商店街を抜け、副都アルザーノの中心部に位置するアルザニア王国第一魔法魔術学校へと向かう。入学式の日という事もあってか学校の周辺はにぎわっている。学校の校門に近づくにつれいくつかの集団が見えてきた。
「ケーリッヒ様、いよいよ入学ですね」
「ああ、俺が宮廷魔導師になるには少しばかり足りないところがあるからな。ここでしっかりと準備していかなければな。まぁ、俺がこの学校の頂点には変わりないがな」
「確かにそうですね。ケーリッヒ様に敵う者などこの学校内にはおりません」
周りの男達は気色の悪い笑み浮かべながら、一生懸命ほめている。その他にもトーラス・ギール、アーカディア・ミレディの寄子の貴族の子供たちとみられる生徒も見られた。
その間を何気ない顔で通り過ぎていくアルフォード、寄子の子供たちの一部が通り過ぎてゆアルフォードを片眼で追っていく。アルフォードも同じように監視対象達を片眼で見ながら去っていく。
その後、つつがなく入学式も終わり生徒たちは自分に配られた紙に書いてある教室へと向かって行く。
この学校の生徒にはA科とB科の生徒がいる。A科は学校によって定められた時間割に従い学習する生徒。B科は学校によって定められた期間内にレポートを提出する生徒に分けられる。
後者に分けられるアルフォードの紙に書いてあった教室は『図書室』。図書室であろう場所へ流れていく人だかりに紛れて図書室へ向かう。
図書室につくと、白ひげを蓄えた老人が本を読んでいた。
「おぉ、来たか。B科の生徒たちじゃな。説明をするからとりあえずどこでもいいから座ってくれ」
老人に言われた通り各々席に着く生徒たち、図書室の前で並んでいた生徒たちの一番後ろにいたアルフォードは最後に図書室に入り、空いている席に座ると図書室内のすべての生徒から視線がアルフォードとその隣に座っていた生徒に集まり、小さなささやきまでもが聞こえた。
「誰だよあいつ」
「隣が誰だか知らないのか」
「何やってんだよ」
生徒たちの視線が自分に向いていないと知りつつも説明を始めた。
「話を始めるぞ。えー、君たちB科の生徒たちは知っての通り定められた期間内にレポートもとい、研究成果を提出してもらう。提出する期間は今から配布する紙に書いてあるからそれに従うように」
周りの視線をものともせず話をしている老人に注意を向ける。老人の話も終盤に差し掛かったころようやく生徒たちからの視線も消え話に集中することができた。分けられた紙にざっと目をとしていると、話が終わったのか生徒たちが次々と席から離れていく。特に用もないと思いアルフォードも席を離れようとすると、隣に座っていた生徒が話しかけてきた。
「ねぇ、君」
「…俺のこと?」
「そうだよ。君なんて名前?」
「…アルフォード・ザビーナ」
「へぇ、アルフォードっていうのか。僕の名前はエルト・アルザニア・エレザートっていうんだ。よろしく」
アルフォードはここで気づいた。話しかけてきた相手が第三王子であることを。彼が第三王子であるとわかると、他の生徒からの視線も納得がいく。
「…俺に何の用かな」
「はは、君面白いね。僕が王子だって分かってかしこまらないんだから」
「…本を読みたいので失礼します」
そう残して去っていくアルフォードの背中を眺めながらエルトは不思議な感情を抱いた。
本を読むと言って去ったアルフォードは本棚へ向かい、いくつかの本を持って先ほど座っていた席とは違う席へと向かった。
席に座り本を広げていると近寄ってくる気配を感じた。
「やぁ、ここにいたのか」
近寄ってきたのはエルトだった。
「……」
「いやそうな顔をしてくれるなよ。君と話をしてみたいんだ」
「…今本を読んでいるんですが」
「では読み終わるまで待とう」
視線をエルトから本に移し再び読み始める。しばらくすると、本を読んでいるアルフォード、それを眺めているエルトに近づく集団がいた。
やがてエルトの目の前まで来ると片膝をつき忠誠を誓う姿勢を取り口を開いた。
「エルト・アルザニア・エレザート様お久しぶりにございます、ガーニル家の次男のケーリッヒ・ガーニルでございます」
「…あぁ、久しぶり?だね」
「ええ、挨拶が遅れて申し訳ありません。エルト様はてっきりA科だと思っていたので」
「…あぁ、そう」
エルトの雑な返しにケーリッヒはイラっとしたが、相手は王族で自分は貴族、立場をわきまえなければならないというのはよくわかっている。そのためどれだけ相手の対応にイラっとしても格上である以上は下手はできない。
「…エルト様はここで何をされているのですか? B科の説明も終わっているようですが」
「あぁ、彼に用があって。本を読んでいると言われてね、待っているんだ」
「なんと! おい、貴様、エルト様が用があると言っているんだぞ答えんか!」
「………」
「おい! 貴様!」
ケーリッヒが強く呼びかけるも反応を示さないアルフォードに苛立ちを覚え、肩に掴みかかろうとすると、アルフォードは勢いよく本を閉じると、仕方ないとばかりに視線を向けた。
「本を読んでいるんだ、静かにしてもらえるかな」
「貴様、俺の言うことが聞けないというのか。どうなるかわかっているんだろうな?」
「お前がどうするか知らないが、好きにすればいい」
「ほぅ、覚悟はできているんだろうな?」
「覚悟を決めなければならない事をした覚えはない」
「やめておけ、ケーリッヒ」
「し、しかし」
「外交問題にしたくないなら問題は起こさないことだな」
「まさかこいつが例の留学生ですか!?」
知らされた事実に驚きを隠せない様子のケーリッヒを尻目に、アルフォードは再び本を読み始めた。一方のケーリッヒは、家の力が使えない事と自分のいう事を聞かせられないことに苛立ちを覚え、悔しそうな顔をしてその場を去っていった。
「…で、俺に何の用ですか? エルト様」
「ようやく話を聞いてくれる気になったね」
「…どこまで読んだか忘れてしまっただけさ」
「やはり君は面白いね」
「俺に用があったんじゃないんですか」
「おぉ、そうだったね。君に聞きたいことがあるんだけど聞いてもいいかな?」
「…まぁ、答えられる範囲でなら」
「じゃあさ、その眼って何? なんかの怪我、それとも病気?」
「まぁこれは一種の呪いみたいなものです」
「呪い?」
「ええ。呪いといってもまだ詳しいことはわかっていませんが、昔血を見たときにものすごく目が痛くなって、意識を失ったんです。それ以降、眼に魔法陣が現れるようになったんですよ。今は医療魔術で瞼をくっつけて、その上から反魔法布で巻いているだけですがね」
「へぇ、それを調べにこの国に来たのかい?」
「いえ、この国に来たのはあくまでダーニウム王国の再建です。帝国からの独立を果たしてまだ十二年しか経っておりません。そのためには人材が足りません。ですが我が国には人材を育成する人材すら足りていない状況です。そこで各国で様々の事を学び、それをわが国で実践するために俺はこの国に来ました」
その後も話を続ける二人に再び近寄る影があった。
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