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魔導戦記 ~精霊に嫌われし者~  作者: 三鬼 葵
プロローグ
2/5

新たな道


気を失ってからどのくらいの時間が経ったのだろう。馬車の中に居たはずなのに何故か夜空が見える。掛けられている服を取り、倒れている体をゆっくりと起こす。周囲にはたき火のみ、誰かが助けてくれたのだろうか。


「気が付いたか?」


声のする方向に顔を向けると一人の若い男が立っていた。


「ここが何処なのかわからないだろうから教えてやろう。何故お前がここにいるのかを」




「初めに聞いておくが、お前はアルフォード・グレイシスで間違いないか?」

「......今はもうただのアルフォードです」

「捨てられた...か」


男が「捨てられた」という言葉を発すると、アルフォードはびくりと体を震わせた。


「あの男――お前の叔父なら仕方あるまい。お前のお爺様も言っていた事だ」

「お爺様を知っているのですか!?」


自分の身近な人を知っていると分かると一気に眼の色が変わった。

「おまえのお爺様には昔、弟子として修行を付けてもらっていた。『孫に何かあったら頼む』と遺言を受けていてな」

「お爺様は生きているのですか!?」

「今言っただろ、『遺言』って。亡くなる数日前に見舞いに行ったら言っていたよ、『あの男(叔父)は何をするか分からん。兄を殺すやもしれん。あの子に、孫に何かあったら頼む』と」

「...それで助けに来たんですか?」

「勿論、師匠に頼まれたのもあるが、お前自身に興味があった」

「僕にですか?」

「外魔力の持ち主でありながら何故か魔法が発動出来ない事、そしてその眼だ。片眼の色が違うのは見たことがない。歴史上でも数人しか確認されてない。探求心をくすぐられるというものだ」

「.........」


男は火に薪をくべながら話を続けた。


「師匠に頼まれた事はした。俺が口を出すのも変な話だが、この後どうするんだ」

「......父は死に、優しかった叔父さんにも捨てられたんです。もうどうでもいいですよ。あのまま死んでいれば...」

「そうか...。そんなに死にたいなら、今この場で殺してやろう」


男は腰からナイフを抜き、頭をつかみナイフを突きつける。


「本当に死んでもいいんだな?」

「死に......たい」


固く閉ざされたアルフォードの眼から小さな滴が頬を伝って流れていく。


「そうか」


男は短くつぶやくと腕を大きく振りかぶりグサリと音を立てて突き刺さった。ナイフは顔を通り過ぎ背後の木に深々と突き刺さる。


「......どうして殺さないの?」

「死にたいという言葉は生きたいという気持ちの裏返しだ。もし本当に死にたいなら自ら命を絶ったらどうだ」

「......死にたく...ない」


力なく開かれた眼からは大粒の涙がぼたぼたとこぼれた。


「なら俺についてこい。俺が新しい世界を見せてやる」

「本当に? 僕のこと捨てない?」

「ああ、捨てない」

「じゃあ約束して」

「約束?」

「うん。お父様が言ってたんだ。大切な約束をする時は指切りをする」

「分かった。約束だ」

 

男がしゃべり終わると、アルフォードはスッと小指を構えた。男も少し遅れて小指を構えると、小指同士を結び合わせ指切りをした。その頃には月は隠れ、空も茜色に染まり太陽も顔を出していた。




焚かれている火が消えるのを待ちながら話を続けていた。


「そう言えばまだ名前を教えてなかったな。俺の名前はエルガー・ザビーナだ」

「じゃあエルガーって呼んでいい?僕のことはアルでいいから」

「好きなように呼べ」

「この後はどうするの?」

「アルはどうしたいんだ」

「僕は...エルガーの行く所についてくよ」

「そうだったな」

「でも、あの町...この国には居たくないかな」

「ならダーニウム王国に行くか」

「ダーニウム王国?」

「ああ。俺が住んでいる国だ。この国よりは過ごしやすいと思うがな」

「うん...そうだね。その国に行こう」


行く先を決めた二人は森を出ると、港のあるアルザニア王国副都アルザーノに向かった。アルザーノで船に乗り、海を渡りダーニウム王国へと向かった。

ダーニウム王国の港町グレイルで船を降りると王都ダーニウムへと向かった。


整備された道を走る馬車の中に二人の姿はあった。


「アル、起きろ。もうすぐ着くぞ」


アルフォードは眠い目をこすりながらゆっくりと体を起こす。


「アル、ここがダーニウム王国王都ダーニウムだ」

「わぁぁあ」


馬車から顔を出し眼の前に広がる大きな外壁を見て驚いていた。白色に塗装された外壁は汚れがなくきれいに作られている。馬車を降りると二人は町中を見て回っていた。


「すごい大きい町だね。昔お父さんと行った王都よりも大きいなぁ」


活気あふれる人々を見て感動していた。


「アル、こっちだ。はぐれるなよ」


アルはエルガーの裾をちょこんと掴みまた歩き始めた。




しばらくすると二人は目的の建物の前に立っていた。その建物は赤色のレンガで統一され町全体を見てもかなり大きい部類に入るほどの大きさがある。


「ここは?」

「俺の仕事場だ。お前のことを少し話たくてな。それにお前の今後にも関わる大切な事だ」


扉を開け、中に入ると多くの人が行き交いしている。ほとんどの人が似たような恰好をしている。二人が中に入ると数人の男たちが視線を向けた。視線を物ともせずに正面にある受付へと歩き始めた。受付につくとエルガーは受付と一言二言話すとまた歩き始めた。


「アル、行くぞ」


アルフォードの手をつかみ廊下を歩き始めた。一つの部屋の前へ着くとアルに語り掛けた。


「アル、この部屋に入るとつらい思いするかもしれない。それがいやならここで待っていろ。どうする、ついてくるか?」

「...僕にはもう行くとこがないんだ。でもそこに行けばつらくても生きていけるんでしょ? なら行くよ」

「そうか、なら行くぞ」


扉をノックして開けると初老の男性が椅子に座っていた。


「おお、帰って来たのかエルガー大尉。お目当てのものは見つかったのかね?」

「はっ、シャルド中佐。何とか見つける事が出来ました」

「その子供が探しものかね?」

「ええ、かなり珍しいものを持ってると思われます」


エルガーは自分の背中に隠れているアルフォードを自分の前に出した。


「名前はアルフォード、旧姓はグレイシス。外魔力の持ち主ですが魔法の発動は出来ません。眼の色が違う事も現在の所は原因不明です」

「まぁ、とりあえず座りたまえ。詳しい事はゆっくり話そう」


二人はうながされるまま座った。


「さて、長旅で疲れているとは思うが、話を始めよう。まずは魔法の発動が出来ない件に関してだが、いくつかの前例がある。外魔力の持ち主でありながら魔法の発動が出来ない理由は、体内に属性があるからだと思われる」

「体内に属性ですか?」

「そうだ。お前も知っていると思うが、ほとんどの者は属性を持たない。だからこそほとんどの属性を使えるわけだ。だが、属性を持つが故に対になる属性を使えないという事例があった。本当に発動出来ないんだな?」

「はい、それは確認しました。移動中に確かめましたが、基本属性は発動出来ませんでした。魔力の流れは確認出来たのですが...」

「うーん、これはあくまでも仮定だが体内に基本属性が全てあるのではないだろうか?」

「それは、つまり...」

「かなり謎の状態だ。基本属性すべて持っていると言う事は使えないはずの対になる属性まで持っている事になる」


二人が深刻な顔をして話した居る姿を見てアルフォードは少し怯えていた。怯えた様子のアルフォードに気付いたエルガーはアルフォードに説明し始めた。


「アル、落ち着いて聞いてくれ。やはりお前は魔法が使えない」


アルフォードは少しうつむきつつ答えた。


「......うん。なんとなく気づいてたよ。だから叔父さんにも捨てられたんだよね」


「捨てられた」という言葉でその場の空気は静まり、静寂がその場を支配した。


「まだ使えないと決まったわけでもないだろう」


その言葉にアルフォードとエルガーの二人は顔を上げた。


「基本属性は使えないと思うが、特異三属は使える可能性が残っている」

「そんな!? 基本属性すら使えないのに、特異三属が使えるとは思えません」

「確かに前例は無いがやってみる価値はあると思うぞ」

「ですが、特異三属は指定魔導師以外の者からの指導は禁止されています。それこそ軍に入隊でもしなければ...」

「そこでだ、軍に入隊させてみるのはどうだろう?」

「この若さでですか?」

「大尉、君だってこの子ほどじゃないが若くして入隊してるではないか。それに、この後この子をどうするつもりだね?」

「...確かに私も若くして入隊しましたし、今後アルをどうするかも決めておりません」

「最終的にはこの子が決める事だが、発動出来ない事、眼の色の事についても調べる事が出来るだろう。どうする少年?」


ここでアルフォードが口を開いた。


「...ねぇエルガー、僕は軍隊に入れば新しい世界に行けるの?」


子供らしからぬ顔で聞いてくるアルフォードを見て、エルガーは恐怖を覚えた。感じたことのない威圧に気おされながらも口を開いた。


「行けるさ。アルがその道をあきらめなければ、必ず」


エルガーは自分に向けられたまっすぐな瞳をじっと見つめながら答えた。


「なら、軍に入るよ。そうすれば魔法が使えるようになるかもしれないんでしょ?」

「アル、お前そうとが決めたなら、お父様もお爺様喜ばれるだろう」


二人の会話を聞きながらシャルドは難しい顔をしていた。


「ただ、入るとなると少し問題が出てくる」

「もんだいですか?」

「アルフォード君は知らないかもしれないが、この世界の人間は多かれ少なかれ魔力を持っている。だが、その魔力は【内魔力】と【外魔力】の二つに分けられる。内魔力は肉体強化や自己回復等の身体機能の向上しかできない。一方で外魔力は火や水といった攻撃を主とした魔法しか発動出来ない。そのため軍人の中でも内魔力と外魔力で運用方法が違う。入隊後は軍学校に入ると思うが、内魔力と外魔力の持ち主で訓練内容も違う」

「...そう言う事か――」

「分かったかね、大尉?」

「はい、つまりはどちらでも学ぶ事が出来ないという事ですか?」

「そうだ。内魔力の持ち主でもないし、外魔力の持ち主だが、魔法が使えない。どこで学ぶ事が出来るかという事だ」

「…今から作るというのはどうでしょう?」

「いくら珍しい事例だからと言って、一人のために部隊を造るには時間的にも金銭的にも足りない」

「何か良い方法はないでしょうか?…」

「……あまり良いとは言えないが方法は無くはない」

「それは?」

「研究室付きにさせる」

「モルモット…という事ですか?」

「形式上はそうなってしまうが、軍の研究室付きにすれば入隊した事になる。そうすれば魔法の事も眼の事も調べられるし、学ぶ事も出来るという事だ」

「…しかし誰から教えてもらえるでしょうか?」

「とりあえず研究室に行こう。続きはそれからだ」

「どこの研究室に行かれるおつもりで?」

「第十三研究室だ」




第十三研究室、室長である一人の研究者が変わり者すぎるため人気がない事や助手が一人しかいない事で有名である。そんな研究室の前に三人の人影。


「アル、先に言っておくがこの部屋にいる人は変わり者だから話を間に受けるなよ」

「行くぞ」


シェルドは二人に声をかけると、コンコンと二回ノックをし、中から「どうぞー」と返事が来た事を確認すると扉を開けた。


「おや、シェルド中佐ではないですか。今日はどうされたんですか?」

「今日は仕事を持って来たんだ。アドル君、ガーベル主任はいるかな?」


アドルと呼ばれた少年は手に持っていると本を本棚に戻しながら答えた。


「主任なら奥の部屋で資料をまとめているはずです。まぁ、寝てなければの話ですがね」

「すまないが読んで来てもらえるかな?」

「ええ、構いませんよ」


そう言うとアドルは奥にある扉の向こうへと消えて言った。




扉の向こうへ消えて行ってから少し経つと音が聞こえる様になり、その音がだんだんと大きくなってくると、急に扉が開いた。


「なんだこの匂いは!? 面白そうな研究の匂いがするではないか!」


扉から出て来たのはシャルドよりも少し若く、エルガーよりも年上の風貌の男であった。


「む? シャルドにではないか。なぜ貴様がここにいる? 貴様のの持ってくる仕事は面白くないから受けんと行ったはずだが…?」

「今日はその仕事だ」

「貴様の仕事は受けんぞ」

「まぁそう言うな。今回はお前が一番適任なんだ」

「しかたない。聞くだけ聞いておこう。なんの仕事だ?」

「全ての基本属性持ちの魔法発動、またそれにおける身体の外的・内的変化について」

「…ほぅ、面白そうだな。あながち私の嗅覚も間違っていないと言うものか。それで、被験体は? もちろんちゃんといるのだろうな?」

「案ずるな、連れて来てある。エルガー」


シャルドはエドガーに声をかける。声をかけられたエルガーは、シャルドの時と同様に背後からアルフォードを前に出した。


「この子がその被験体だ」

「ふむ、魔法はわからんが、確かに眼の色が片眼で違うな。右が赤で左が黒か。黒はよく見るが、赤は見たことがないな」


自らの顔をアルフォードの顔の前へ持って行き、眼をジーっと見つめた。不意に顔を元の位置に戻し、口を開いた。

「…まぁ、よかろう。貴様が持ってきたという事が気に食わんが面白そうだ。調べてやろうじゃないか」

「そうか、ありがたい」

「この後はどうするつもりだ? 何も用が無ければすぐにでも色々と調べたい所だが…」

「すまないな、この後は教官探しがあるのだ」

「教官探し?」

「ああ。被験体—もとい研究室付きにしたから軍属になったのは良いが、魔法が出来ないため他の兵と同じ様に訓練が出来ないからな。この様に特殊な状況でも指導出来ると教官を探しているというわけだ」

「なるほどな。そういう事なら私は私で調べられそうな事を調べておこう」

「そうか、すまないな。では失礼しよう」


三人は扉を開け外へ出ると扉の前で立ち止まった。


「今から教官を探しに行くのですよね? 心当たりはあるのですか?」

「一応考えてはあるのだが、ガーベル同様本人しだいという所だがな」

「誰ですか?」

「第九教導教練大隊大隊長ニダール・フィン少佐だ」




第十三研究室を出た三人は場所を研究室より少し離れた教導教練棟に移した。


「ここが第九教導教練棟…ですか?」


三人の眼の前にはボロボロの木造の建物があった。


「ここに来るのは私も初めですが、話で聞いてたよりもボロボロですね」

「仕方あるまい。そんな事より行くぞ。離れない様にな」


建物の中は閑散としており、人の姿は見られなかった。


「今は訓練中か? 外を見に行って見るか」


建物の中を進み、辺り一面土が敷かれた訓練場に出た。訓練場では多くの軍人が走っていた。


「ここに居たのか、ニダール少佐」

「シャ、シャルド大佐! どうしてこの様な所に!?」

「少し頼みがあってな。あぁ君達は訓練を続けたまえ」


隊長よりも上の階級の軍人が来たため訓練を途中で止め、その場で敬礼をしていた。


「総員、訓練に戻れ!」

「「「「ハッ!」」」」


敬礼をしていた軍人達は腕を下ろし再び走り始めた。


「ところで今日はどの様な御用で?」


軍人達が走り始めた事を確認したニダールは口を開いた。


「先ほども言ったが少し頼みがあってな」

「そういう事ですか。では棟内で詳しい話を」

「いや、外で構わんよ」

「ではせめて影ができている場所で」


ニダールは三人を連れ、訓練場内で影で隠れている椅子に腰を下ろした。


「それで、頼みというのは?」

「この少年の事で頼みがあったのだ」

「この少年が何か?」


シャルドはガーベルに話した内容を同じ様に説明した。


「つまり、この大隊にその少年を入れろと?」

「命令しているわけじゃない。少佐が首を縦に振ってくれたらの話だ」

「…大佐、ここがどの様な隊か分かっておっしゃられているのですよね?」

「分かっているとも。重犯罪者が集まる大隊だろ?」

「なら何故?」

「—犯罪者公的利用法。重犯罪者の罪状に関わらず魔導適正や魔力数値の高い者を刑期延長の代わりに従軍させる事が出来る。その重犯罪者達を訓練し指導する大隊がこの第九教導教練大隊だ」

「おっしゃる通りです。そのために我が大隊があるのです。それがどう関係があるのですか?」

「この大隊は重犯罪者を訓練し指導させる為にあると言っただろう。犯罪者の中には学がない者が多い。その為、他の教導教練大隊にはない学問という必修科目がある」

「我が大隊でしか出来ないから入隊させたい…そういう事ですね?」

「そうだ」

「大佐がここに来られた理由は分かりました。それに我が大隊に入隊したいと言うのであれば希望通り入隊を認めたいとおもいます」

「では、そうい「ですが!」

「ですが、もし何か問題が起こった場合は私の一存で除隊させていただきます。これが認められないのであれば入隊は許可出来ません」

「…うむ、まぁ良いだろう。お前は優秀だ、間違いは犯さんだろう。手続きはこちらで済ませておく。後は頼んだぞ」


シャルドは最後に一言残し、去って行った。


「ではアル、頑張れよ」

「うん、エルガーも元気でね」

「では、大佐、後はお願いします」

「うむ、大尉も達者でな」

「失礼します」


エルガーも敬礼をし、去って行った。


「では行こうか。…えーっと、まだ名前を聞いてなかったな。名前は?」

「アルフォード」

「そうか、では行こうかアルフォード」

「うん」

「うんじゃない。これから返事は『はい』だ」

「はい」

「よろしい。では行くぞ」


ニダールはアルフォードを連れ軍人達が走る元へ進んで行った。

感想等よろしくお願いします。

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