救われた命
初めてのオリジナル小説です。
――気が付いたら空は黒く淀んでいた。
気を失ってからどのくらいの時間が経ったのだろう。馬車の中に居たはずなのに何故か夜空が見える。掛けられている服を取り、倒れている体をゆっくりと起こす。周囲にはたき火のみ、誰かが助けてくれたのだろうか。
「気が付いたか?」
声のする方向に顔を向けると一人の若い男が立っていた。
「ここが何処なのかわからないだろうから教えてやろう。何故お前がここにいるのかを」
◇◇◇
7歳になった頃貴族だった父が死んだ。父が死んだ後、さも当たり前かの様に叔父が父の跡を継いで当主になった。母は俺を生んだ後に体調を崩しそのまま亡くなってしまった。祖父が高名な魔導師だった事から家には多くの財産が残されていた。長男であった父はそのまま当主になった。だが、そんな父のことを良く思っていなかった弟の叔父は自らが当主になるために父を暗殺し見事当主になった。当主になった叔父は湯水の如く酒を飲み肉を喰らい、女を貪った。父の子であった俺は奴隷商に売り飛ばされた。
「おいおめぇら、さっさと商品を馬車の中に積みこめ!」
「へいお頭。おいガキ共、さっさと馬車の中乗りやがれ」
豚の様に丸々と太った男が指示を出すと使いっぱしりの男達がいそいそと動き出した。
「おめぇはそっちじゃねぇ」
列になって馬車に乗り込もうとしている中から一人の子供を掴み、違う馬車の中に放り込んだ。放り込まれた子供の目に光はなく、生きる気力を失った様にしか見えなかった。
子供が馬車に乗り込んだことを確認すると男達も別の馬車に乗り込み、御者に声をかけ馬車を走らせ始めた。
「お頭、あのガキ一体何者なんですか。ガキ一人の為に馬車一台を無駄にする価値はなんてあるんですか?」
男がおかしいだろと言わんばかりの形相で聞いてくる様子を見て、奴隷商の男はおもむろに口を開いた。
「絶対に他言しないと約束できるか?」
奴隷商の男が睨みを利かせながら尋ねると、使いの男は小さく頷いた。
「・・・最近グレイシス家の当主が代わったって言う話は聞いたか?」
「ええ、知ってますよ。自分たちの住む町の領主の噂なら嫌と言うほど聞きますよ。そのグレイシス家が何か?」
「なんでも御家騒動が起きたらしくてな、今の当主は前当主を亡き者にして当主の座を奪ったらしい。ガキは前当主の子供らしいんだが、魔法の発動は出来ないわ、殺してる所を見られたわで不要になったから移送中の事故に見せかけて始末して欲しいとの事だ」
「そ、そんな・・・、俺達に人を殺せって言うんですか!?」
「お前らが手を汚す事はない。森を拠点にしてる盗賊共に頼んである」
「お頭・・・、俺たちに言いましたよね、商品は殺すなって!」
「・・・俺だって好き好んで人殺しには加担したくねぇが、領主様の依頼じゃ逆らえねぇ」
「ご、護衛の冒険者達は知ってるんでしょうね?知らずに死んでいったらギルドの連中に何言われるかわかりませんよ!?」
「安心しろ、一応話は通してある。『盗賊が来ても手出しすんな』って」
「・・・・・・お頭がそうと決めたんなら従います。出もヤバそうになったら逃げさせていただきますからね」
その後の馬車の中には静寂が漂い続けた。
暗い雰囲気のまま幾許かの時が流れ、太陽が傾こうかと言う時間になっていた。
「おい、この辺りで馬車を止めろ」
馬車から顔を出し、約束の場所についたことを確認し、御者に声をかけ馬車を止めさせた」
馬車を止めてから時間が少し経った頃森の奥から馬の嘶きと足音が聞こえてくる。
「お、お頭」
「う、うむ。来たようだな」
改めて馬車から顔を出し、人の姿を確認するとおずおずと馬車から降り、口を開いた。
「貴殿らが盗賊『夜明けの団』で間違いありませぬか?」
「いかにも、俺が団長のグリゴールだ。そう言う貴殿こそアスレイト商会の者で間違いないか?」
「はい。私はアスレイト商会のレコンズと申します。この度はよろしくお願いします」
「気にするな、盗賊に『殺してくれ』等と言ってくる輩は珍しい」
「今回は依頼主の意向もありまして確実に...その......「殺して欲しいんだろ?」
男が言い淀む姿を見てグリゴールは「殺す」という言葉を口に出し、フッと笑った。
「奪うのが俺達の仕事、奪ってくれと言うのならば存分に奪うだけだ」
拳をギュッと握り絞め、高らかに叫んだ。
「はい、それはもうよろしくお願いします」
「それで、始末して欲しいってガキはどいつだ?」
「真ん中に止まっている馬車にございます。頼まれていた食料と武器の類も集められるだけ集めて一緒に積んであります」
「そうか、それはありがたい。最近は護衛の人数を増やす商人共が多くて困っていたんだ」
「まぁ商人にとって商品は金の生る木でございます。大切にせねばいけませんからな」
グリゴールとレコンズが世間話をしていると使いの男達数人で馬車を引いてきた。
「この中に子供と頼まれていた物が入っております。御納め下さい」
「そうか、おいお前達、積み荷だけを降ろして森の奥で燃やしておけ。あと、ガキであそぶなよ」
グリゴールが最後に睨みを利かせると、男達はいそいそと馬車から積み荷を降ろし始めた。
しばらくして積み荷を降ろし終えると奥に寝ている子供が現れた。
「兄貴、終わりやした!」
「そうか、じゃあ森の奥で馬車ごと燃やしておけ。くれぐれも森に火を移すなよ。隠れ家がばれない様にな」
盗賊の男達はお互いに頷き、馬車を森の奥へと移動させ始めた。
「この辺りでいいだろう」
一人の男そうつぶやくと残りの男達も「ああ」と言って馬車を止めた。
「よし、じゃあ燃やすぞ。扉にはしっかりと鍵をかけろ。――出来たな。では頼むぞベイガス」
頼むぞと言われた男――ベイガスは馬車の前に立ち手をかざし詠唱を始めようとした。
「χινοσειρειιο、υαγαμαριοκουμοτιτεσονουαζα――――――」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。一人の男によって。
胸に突き刺さったナイフに気付いた時にはベイガスは倒れていた。周りの男達は慌てて周囲を警戒し始めると、森の奥から一人の男がのそのそと現れた。
「おい! ベイガス、どうした。ちくしょう!」
「てめぇ一体何者だ!?」
盗賊の男が問いただすと現れた男はスッと口を開いた。
「そのガキに用があるんだ。殺すくらいなら俺に譲ってくれないか?」
「そんな事出来るかよ! もし殺し損ねたら、お、俺達が殺されちまう!」
「どうか、それならしかたないな」
「わ、分かってくれたんならそれだい「なら殺して奪っていくしかないな」
「「え?」」
「お前達盗賊が奪って行くなら俺もそうさせてもらうよ」
そう言うと男は手をかざし詠唱を始めた。
「χινοσειρειιο、υαγαμαριοκουμοτιτεμοεσακαρε」
かざした手のひらに光が集まり火を生成していく。集まりきった光は赤く変色し燃え盛る火として手から放たれた。
「ぐあぁぁーー、あ、熱いぃぃ」
「や、焼けるぅぅう」
盗賊の男達が苦しむ姿を見て男を凍て付く様な視線を向けたままスッと手を降ろし近場の石に腰を下ろした。男は燃え盛るが消えるまで視線を逸らすことはなかった。
火が消え、人であったものが黒く変色しいる事を確かめると腰を上げ、馬車の中で横たわっている子供を抱えて森の奥へと歩みを進めた。
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