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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
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1-7 優等生ブレンダ

 レイシアの生活も元に戻った。とはいえ相変わらず蔑まれているところは変わらないけれど、一応は平穏な日常の生活へと戻ったようだ。


 それからある日の授業終了後、強化実習という名のダンジョン探索が始まると知らされた。

 学科に関わらず、学校全体の共通行事みたいだな。ようは戦士とか魔法使いとかがパーティーを組んて、普通に冒険者をすればいいだけだ。


 「バグ、またダンジョンの探索が始まるわ。今度はブレンダも一緒に来ると思うけど、よろしくね」


 ブレンダって誰だよ、まあ誰かは知らんがとりあえず手を振っておくか。


 日々をのんびりと過ごすのもいいが、せっかく異世界に転生出来たからには冒険もしてみたい。まあ今の僕は召喚されたスライムなので、主であるレイシアから離れられないが。

 そうなると、冒険する為にはレイシアが冒険してくれなければいけない状態だ。

 おそらくはまた、呼ばれた時に潜っていた遺跡に行くのだろう。

 あそこならミノタウロス以外、危険な事は無い。今の僕はスライムだからなるべく安全マージンを取って、死に戻りしないように冒険を楽しみたいものだな。


 あー、ゲームじゃないから死んだら終わりか・・・・・・




 さてさて、問題はレイシアのパーティーの方だ。


 ダンジョンの探索はモンスターもいる関係で、いろいろな職業の生徒が混在するパーティーでの活動が基本になる。しかしレイシアは落ちこぼれだと知れ渡っているので、彼女をパーティーに入れてくれる人はいなかったりする。

 パーティーの中に足手まといがいる場合、パーティー全員の成績がマイナスの評価になってしまう。


 だからかレイシアのことが学校中で知られているという事は、パーティーを組んでくれる相手がいないという事だ。

 誰も不利になるとわかっている人材など、パーティメンバーにしたくはないだろう。


 一応レイシアもメンバーを探そうとは努力していた。


 わざわざ他の科に出向いて話しかけようとしていたのだが、それより早くレイシアを見付けた者は避けるように立ち去ったり、こちらをちらちら見ながら聞こえるように悪口を言うのを見て、立ち去る事になった。


 だから僕が召喚された時、ソロでダンジョンの中を彷徨っていたのだろう。


 せめて普通に基本くらいは出来ていないと、さすがにパーティーを組んではもらえないって事だろうな。まあこれは当然だ。


 だが今回は特別にブレンダという生徒がくっ付いて来るという話らしい。

 ボッチ卒業じゃないか。よかったな~




 話を聞いてから二日後くらい経ち、強化実習のダンジョン探索の日がやって来た。


 「レイシアさん。今日はバグの腕前、しかと見せてもらうわね」

 「ええ、多分大丈夫」


 僕達は予想していた通り、出会った時のダンジョン前にやって来ていた。


 学校全体で二百人いるかどうかの人数だろうか? ほとんどの生徒が四人から六人ぐらいのパーティーを組んでいる。

 そんな中、僕達のパーティーはっていえば・・・・・・レイシアともう一人のたった二人だけだった。しかもレイシアが一応召喚術師という魔法系なのに、やって来たブレンダという少女も魔法使いだった。

 というかブレンダって誰だよって思っていたら、この前食堂で会った金髪少女だった。


 言われてみれば、部屋に招いて討伐部位を見せていた時に、一緒に行くとか何とか言っていたな~


 まあそれはいいがパーティーを組むっていうのなら、誰か連れて来いよ!

 ブレンダならメンバーくらい集められるだろうって思ったが・・・・・・成績を下げたくないって言われて、集められなかったとかかな?

 でもこのブレンダも含めた二人パーティー、しかも魔法使いだけってお前ら、ちゃんと協力して戦えるのかねー

 パーティーバランスとか、ちゃんと考えているのか?

 ブレンダは優秀そうだからまあ、何とか出来るのかな?

 そう考えると、今までパーティーを組んだ事の無いレイシアの方が連携出来なさそうだ。そもそも攻撃手段が無いけれどね。




 まあレイシアには選択の余地も無いのだろうけどさ。ブレンダよ、せめて戦士系とかでも仲間に誘っておいて欲しかったぞ。


 そんな事を考えていると、声が聞こえて来た。


 「えー、それでは皆。今回もダンジョンの最深部には石版を配置してある。もちろんトラップや、モンスターなんかも既に配置済みじゃ。今の自分達では勝てないモンスターなんかもいるかと思うが、パーティーで協力して倒すなり、臨機応変に避けるか逃げるなりして、目的地から石版を持ち出して来るように」


 ダンジョン前の広間にやって来た長老風な格好の先生が、そう生徒達に話しかける。


 洋画とかで見る賢者、老魔法使いみたいでちょっと年季の入ったローブを着た人間だったな。

 ちょっと大魔法とか操ったりしそうな感じで、ワクワクしてしまったよ。


 せっかく魔法のある世界に来たのだから、一大スペクタクルな魔法とか、見てみたいよな~

 つくづく魔法が使えないこの身が恨めしい・・・・・・


 そんな事を考えていると、生徒達が次々とダンジョンの中へと入って行った。




 「では、レイシアさん。私達も行きましょうか」

 「ええ」


 生徒達の一番最後、レイシアとブレンダがダンジョンへと入って行く。一応二人だけだけど、隊列としてはレイシアが先頭でその後ろにブレンダ、僕はレイシアの肩に乗ったまま進んで行った。


 入り口からの光がぎりぎり見えるくらいまで進み、最初の別れ道に来たので十字路の左側の壁に印を付け、そっちに手を向ける。

 レイシアはその手の示す方向へと歩みを進めた。


 前回の時のダンジョンで、僕が指示を出してダンジョンを抜けたのと、森でも同じように誘導した事もあって、レイシアは僕の指示に不満もなく素直に従ってくれる。

 よしよし。前回のパターンを覚えていたようだ。


 欲を言えばマッピングして行きたいところだけれど、壁に印を付ける事で何とか対応して行こう。


 何気なしに後ろのブレンダに意識を向けてみると、あんた下僕に使われているの? って感じの表情を浮かべていた。

 本当にレイシアの方が下僕のようだよな。でもレイシアに任せていたら、いつまでたっても帰れなくなりそうだから仕方がない。

 たぶん今の僕は、飢える事が無いからずっとここにいても問題はないと思うけれどね。




 しばらく進み、手を上げて止まるように指示を出す。


 「え、何で止まるのよ。モンスターでもいた?」


 ブレンダが不意に足を止めたレイシアに、不満そうな声を出した。


 それには反応を示す事なく、足元に転がっている石を長々と伸ばした手で拾って、前方の足元へと放り投げる。


 ガコン


 前方に現れたのは、底が見えない大きな穴であった。

 よくあるダンジョンの定番、落とし穴だ。


 底が見えない事からこの穴に落ちると、強制的に下の階層へと落とされるのだろう。定番の罠だな。

 最悪の場合は足の骨などを折ってしまい、そのまま人生が終わる事もあるかもしれない油断ならない罠。怪我が無くても再び地上に出る為には現在地不明のまま歩き回る事になる為、非常に厄介な代物なのだ。


 僕がこの落とし穴に気が付いたのは、たまたまといえばたまたまだ。

 スライムになって、全周囲に広がったおかげで不自然な切れ込みを偶然見付けた。


 初めは意識外の視界は歪んで見える為、はっきりと落とし穴に気が付いた訳ではない。しかし、初心者にも見付けやすいように用意された罠なのか、気が付いてしまえば怪しいってわかるような溝が見付けられた。

 おかげで人一人が飲み込まれそうな、大きさの穴がそこにある事がわかる。


 こんな雑な罠でも、モンスターなど気を取られたりすれば初心者が気付く事もないだろう。逆に罠にばかり気を配っていれば、モンスターに不意打ちされかねない。

 バランスが大事って事だろうね。それか経験か?


 レイシアになるべく壁際を通り抜けるように、手で指示を出す。

 まあこれくらいの指示ならは誤解も曲解も無く、理解出来るようで思い描いた通り罠を避けて進んでくれた。

 ブレンダも同じように後に付いて来るのを待ってから、再び先を急ぐ。

 どうせなら良い成績でダンジョンをクリアしたいしな。




 しばらく進むと前方に部屋が見えて来る。その部屋の中央にはリザードマンが一体待ち受けているのが見えた。

 僕はそれを知りつつ前進するよう指示を出す。


 そして部屋に入る寸前で、レイシアが僕をリザードマンに向けて投げ付ける。


 別にレイシアの機嫌が悪いとかそういう理由ではない。

 前回ダンジョンをさまよっていた時に、こうした方が効率よくモンスターを排除出来るって気が付いただけだ。


 初めは倒して来てって頼まれて、自力で向かったのだ。

 しかしスライムの移動はジワジワとしか進めない。だからといって、触手を伸ばしての移動を相手に見せてしまうと、頭部に張り付く時に意表を付けない。敵にはこちらを雑魚だって侮ってもらわないとな~


 結果レイシアに投げてもらって、モンスターがそれに反応しようとした隙を突く作戦が確立したという訳だ。

 そんな訳で、今回も僕はモンスターの正面に投げられる。




 飛ばされた場所はちょうどリザードマンの目の前、モンスターが装備した片手剣を振るうのに絶好な位置だった。リザードマンはそれを見ると余裕をもってショートソードで斬り付けて来る。

 当たり前だよな。ぱっと見余裕で排除出来そうなのだから。


 「ちょっ、貴方いくらなんでもそんな!」


 驚き思わず叫んだブレンダの視線の先。向こうからこちらに都合がいい間合いに来てくれたので、手を伸ばしリザードマンの顔へとへばり付く。


 さすがに空中で移動出来ない状態だったから、油断していたのだろう。

 避けられる事なく取り付く事が出来たよ。後は妨害されないよう、核を後頭部へとずらして必勝パターンの完了だ!


 この方法なら剣の軌道から外れるとともに相手の呼吸を止め、チューチューと顔を溶かしてダメージを与えられるので、確実に敵を倒せる。ミノタウロスのような巨体なら、ワンクッション必要だろうけれどね。


 よほど強いモンスターか、初見をかわされない限りは通用するだろう。


 こちらの先制攻撃が決まったリザードマンは持っていた剣を捨てて、慌てて顔にへばり付く僕を引き剥がそうともがくが、核を頭の後ろに回しているので、どれだけ顔の前で手をばたつかせても液体を掴む事は出来ない。

 少し冷静になれば、核を探して引き剥がせるかもしれないのだがな。

 おそらくは窒息だけなら多少は冷静なのだろう。だがジワジワと溶かされれば、早々冷静に考える事は出来まい。


 そのまま数分の間、待機しているだけで僕の仕事は終わる。事実、呼吸困難により崩れ落ちそのまま動かなくなった。


 リザードマンが確実に動かなくなるまでそのままへばり付き、もういいかなと判断するとレイシアの肩の上へと戻る。


 さてさて始めて僕達の連携を見たブレンダの反応はどうかな?


 「確かリザードマンってそれなりに強いはずなのに、やけにあっさりと倒したわね。さすがにこれは予想外だったわ」


 そんな感想を言いながら、僕の方をじっと見て来た。


 興味津々な様子で見て来るけれど、知能以外はたぶんただのスライムだぞ。突っ込みたいが声は出せない・・・・・・




 ――――――



 冒険者の卵達がダンジョンへと潜って行く・・・・・・By 学長




 今日も今日とて学生達がダンジョンへと挑んで行く。


 いくら死なないよう指導をしようとも、モンスターや罠のあるダンジョンには危険は付き物じゃ。

 しかし、まるっきり危険の無いダンジョンに潜っては、それはそれで身になる成果は得られないじゃろう。


 いずれにしても冒険者として進んで行くのなら、こういう試練は避けて通れぬものじゃ。


 それはそうと、今年はちょっと不安の残る生徒がいる。


 前回の実習で、あわや脱落者が出たかと騒がれた落ちこぼれの魔法使いじゃ。


 今回はどうやら優等生のブレンダが同行する事になって、最悪な事は起こらなそうじゃが、油断は出来ぬじゃろう。一応万が一を考えて、いつでも救助隊を出せるようにはしておくかのう。


 少々不安じゃ生徒達が、ダンジョンに飲み込まれて行くのを見詰めつつ、ベテラン冒険者でもある教師人に指示を出した。


 「暗くなっても帰って来ぬ生徒がおったら、捜索を開始するように」


 頷く教師陣を横目に、最後の生徒達がダンジョンへと入って行ったが・・・・・・一番最後に入って行った二人組み。問題の落ちこぼれと優等生。


 「何故にスライムが指示を出しておるのじゃ?」


 ちらりと見えた後ろ姿から、スライムが触手を伸ばして指示を出しているのがちらりと見えた・・・・・・


 「やはり心配じゃのう・・・・・・」


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