1-5 スライムスープ
「あれ、今日ってこんなスープってあったか?」
テーブルの側を通りがかった男子生徒が、僕の方を窺いながらそんな事を言って来た。
「え、いやこれスープじゃなくて・・・・・・」
「青いスープなんて、見た事ないけど、どんな味なんだ?」
そう言って、彼女達の話も聞かずに、僕にスプーンを突き刺して来る。
深皿の底が青かった為、全体的に青いスープに見えたようだな。
二本で青いスープを見付けたら、ブルーハワイ味って考えるのだろうか? 確かにどんな味なのか、気になるかもしれない。
「ちょっと!」
「ちょっとくらい、いいだろ~」
その男子生徒は、そう言いつつそのままスープを飲もうとスプーンを押し込んで来た。
そもそも女子が手を付けている食べ物を、横取りしようっていうのもマナーがなっていない話だよな。こっちの世界ではあまりそういう事に拘らないのだろうか?
まあ小学生でもあるまいし、間接キスがどう乗って騒ぐやつもいないかもしれない。
しかしそういうのを抜きにしても、やめろって言っているのを無視するっていうのはいただけないな。
ちょうどその男子が他所見しているし、ちょっとからかいがてら脅かしてやろう。
スプーンを持ったその腕を伝ってよじ登り、そのまま男子生徒の首へと巻き付きつつ軽く首を絞めてやる。
ダンジョンのモンスター相手に、さんざんやって来た行動なので、実にスムーズに憑りつく事が出来た。
一回触手を伸ばすだけで届く距離だったのも、一瞬で巻き付けれた要因だろう。
「うっ、うわー」
男子生徒が軽くパニック状態になる。
あー、ちょっと脅かし過ぎたか・・・・・・。ごめんよってスープの振りをしていた時に乗ったままだった葉っぱを、口の中に放り込んで机の上に戻る事にした。
はっきりわかるようないじめをしていた訳じゃないので、直ぐ開放した。
首元の圧迫が無くなった男が、距離を取って警戒しながら机の上を凝視して来た。
余程怖かったのか? ここって一応冒険者を育てる学校みたいなところだと考えたのだが、ちょっと平和ボケし過ぎていないか?
元日本人の僕より平和ボケって・・・・・・あー、貴族のボンボンの可能性もあるか?
「ス、スライム?」
「ごめん、この子。どうもいたずらが好きみたい」
「え、スライムがいたずら?」
レイシアがそう言った後、ごめんよーの変わりにレイシアの皿にも乗っていた葉っぱを手で掴み、男子生徒に向かってそれを左右に振る。そんな僕を、ぽかんって感じで男子生徒が眺めて来た。
対面に座っている金髪少女も、ちょっと引きつつそんな僕を見ているのに気付いたので、葉っぱいるって感じで彼女の方へと触手を伸ばしてみる。
「い、いらないから」
おー、ちゃんと意思疎通出来た。
葉っぱを引っ込めると、再びスープの振りをした。
そんな感じで暇を潰す。まあ、多分意思疎通なんか出来ていないのだろうけれどね。
食事を終えたレイシアと金髪少女は、連れ立って部屋へと向かった。
暇だしいじめっ子的な少女に、たまにからかい半分で手を伸ばそうとすると、その都度少女はレイシアから数歩、距離を取る。
レイシアの部屋に着く頃には、完全に二人分くらいの距離を空けて付いて来ていた。
からかい過ぎたかな?
まあでも、二人に会話らしいものもないし、レイシアも特に止めなかったので、特に思うところはない。
二人の関係性がよくわかるって感じだ。
部屋の中に入り、レイシアが早速バックパックを出して来ると、中からミノタウロスやリザードマンといったモンスター達から取って来た戦利品を、共有だと思われるテーブルに並べていく。
それを見た金髪少女が、驚きの表情で固まってしまった。
おそらくレイシアではこれらモンスターの討伐は、難しいとわかっているのだろう。
実際一緒にダンジョンの中を彷徨っていた時、レイシアは攻撃魔法など使わなかったしね。
楽していただけじゃないよな?
多分まともな魔法も使えないとか、そういう感じなのだろう。落ちこぼれって言われているみたいだしな。
「嘘でしょう? レイシアさんの実力じゃあ、ミノタウロスなんて到底倒せるはずないじゃない。いくらレイシアさんと一緒に戦ったとしても、スライムじゃあ何の足しにもならないわよ。・・・・・・リザードマンにしてもゴーレムにしてもレイシアさんには悪いけど、強さのランクが桁違いでしょう。ミノタウロスなんて、卒業生でも油断したらやられるはずよ」
「勘違いしているみたいだけれど、これを倒したのはこのバグ一匹だけでなんだよ。私はこの子に倒すように指示を出した後は、後ろに下がって見ていただけだったわ」
「冗談じゃないわよ。スライム一匹でミノタウロスなんて倒せる訳がないわ。誰か他のベテラン冒険者がいたとかじゃないでしょうね? 残念だけれど、とてもあなたの言っている事を信用する気になれないわ。せめてその片鱗でも実際に見てみないことにはね」
「まあそうでしょうね、私も実際に見ていなければ、信じられなかったから。でも当分はダンジョンになんか、行きたくないわ」
「そう。・・・・・・じゃあ機会があれば、一緒に行動させてもらうわよ」
「ええ、その時は声をかけさせてもらうわ」
そんな会話をした後、金髪少女は部屋から出て行った。事務的なやり取りってやつだな。
金髪少女と別れた後、僕を連れたレイシアは宿舎から校舎の方へと移動した。どうやら授業とやらに参加するようだな。
異世界の学校っていうのもなかなか面白そうだ。
冒険者について教える学校だよな? 魔法とかも教えていたりするのだろうか?
一緒に授業したら、僕も魔法とか使えるようになったらいいのだけれどなー
まあ、早々都合よくいかないだろうが、ちょっと楽しみにしておこう。
僕は相変わらず彼女の肩の上を定位置にして、周囲に文句を言われないのを言い事に、一緒に教室まで付いて行った。
教室は、後ろの席程高い位置になる階段状の構造で、どこか大学を思わせる造りになっていた。
席を見ると、百人くらいは入れそうな大きな教室だ。
しかし生徒の人数はあまり多くはないようで、教室の三分の一くらいしか埋まっていない。
生徒の大半が前の黒板の方へと集まっていて、レイシアはその生徒達の一番後ろ、真ん中辺りの席に座った。
席に着いて待っている間、教室ではあちこちで話声が聞こえて来た。
とはいっても僕達には関わり合いのない内容ばかりなので、特に聞き耳を立てるようなものではない。まあ聞こえて来た内容としてはよくある普通の雑談だな。
比較的女子生徒が多いからか恋愛系の話が多めで、後は服飾や食事、噂話などなので、特に参考にするような情報は増えなかった。
やがて教室の前にしかない扉を開けて、女教師が入って来た。
あれはダンジョンから帰って来た時に、石板を見せに行った教師だな。確かケイト先生とかいっていたか・・・・・・
そして挨拶もそこそこに、点呼や授業開始のチャイムなどもなく、いきなり授業が開始された。
生徒達もそんなあっさりとした開始にも慣れているのか、ケイト先生が教団まで移動するまでに本を用意し、いつでも授業を受けられるように準備していた。
日本とは似ているようで、やっぱり細かいところで違いがあるようだ。
さて肝心の授業内容は、さっぱり読めない文字を黒板に書き込んでいて正確にはわからないけれど、基礎的な魔法概念などを学んでいるようだ。
本や黒板の文字はわからないままだが、どういう理屈か聞こえて来る言葉の意味は頭に入って来る。なのに書かれている文字の内容は理解出来ないっていうのも不思議な感じだ。
相手のイメージみたいなものを読み取っているのか?
主との繋がりで知識でも手に入れたのか? それなら文字も理解出来るはずか・・・・・・よくわからないな。
どちらにしても好都合ではある。
よくよく考えれば、言葉が通じないって最悪だよな。
異世界補正なのか何なのか、とにかく会話は問題なく通じそうな事にホッとする。
まあこんな状態じゃあ、ろくに内容を理解出来ないだろうがな。
まあいい、今は魔法について考えよう。
異世界の魔法には興味がある。だから集中して話を聞き取る努力をした。
ざっと説明を聞いた話を簡単にまとめると、魔法とは・・・・・・火を起こすイメージを頭の中になるべく細かくイメージする。そしてここで長々とした呪文を唱えるのは、その呪文に応じてイメージがより鮮明になるのだそうだ。
だからレイシアみたいな初心者は、呪文詠唱をしっかりと覚える必要が出て来るらしい。
丸暗記でもある程度魔法は発動するという話しだ。
ただし、戦闘中にそんなに長々と詠唱している時間はない場合がほとんどなので、ある程度省略出来るくらい使い込む必要が出て来るそうだ。
熟練者になって来ると、呪文を省略して魔法名のみで発動出来るようになるらしい。
そうなれば十分実戦で戦えるだろうな。
ちなみにレイシアは、長々とした呪文を使っているのだが、途中で呪文をつっかえたり間違えたりして、まともに発動させることも出来ていないらしい。
さて、呪文自体が何とかなったとする。
後はイメージに従って魔力を練り込み、それを任意の位置で発動、操作して相手に投げ付ける。又は相手のいる座標そのもので魔法を発動させる。
ここで丸暗記の呪文の場合は、自動で魔力が吸い出されて魔法が発動する。
その為たいした威力は望めないのだそうだ。
しっかりした威力を出したいなら、やはりイメージをしっかりと持つ事が大事らしい。
僕の場合はイメージするのは問題ないだろうな。
しかし元の世界には魔法なんて概念は無かった。だから当然魔力を込めるとか、どうやればいいのかさっぱりわからない。
そもそもが呪文を唱えようにも、声が出せないからな。
どうも、心の中で詠唱しても駄目らしい。
こっちの生徒のように、呪文を覚えてから省略して行くって方法が使えず、いきなり無詠唱で魔法を扱う必要がありそうだ。難易度高いな・・・・・・
途中必要ないかなって感じの説明をしている間、いろいろとイメージとそれに魔力練り込む練習をしてみたのだが、当然の如く上手くいかなかった。
何か取っ掛かりが欲しいものだな。
その後も座学として基礎的な呪文の暗記、系統別の魔法の種類、簡単な魔法の歴史など授業は続いていた。
――――――
スライムの恐怖・・・・・・By 男子生徒
僕はあれからスープが苦手になった。
それだけでなく、最弱の種族と言われるスライムも怖くなった。
あの時、喉を締め付けて来たあの瞬間・・・・・・喉がキュッと絞まったせいで、悲鳴すら出せなくされたのを今でも時々思い出す。
子供でも踏んで潰せるっていう程、スライムは弱いはずで・・・・・・弱いという事はそれだけ力も強くないって事なのに、あのスライムの力は異常だったと思う。
あのまま力を込められていたら、確実に喉は締まって窒息していたと確信出来てしまった。
おそらくだがレイシアがあの時命令を出していれば、僕は確実に絞殺されていたに違いない。
そもそもあの鈍い動きしか出来ないスライムが、奇襲して来るという事自体が異常なんだ!
でも俺がさんざん周りの奴らに危険だって訴えても、教師すら鼻で笑って俺の事を臆病者だと言って来る・・・・・・
優等生「仕方ないさ。スライムが秘めている力を理解出来ないやつは後で痛い目にあうだけだ。スライムは決して馬鹿に出来ない可能性を持った魔法生物だ!」
生徒「理解してくれるのはお前だけだ!」
以前はスライムの研究をしている優等生って聞いて馬鹿にしていたけれど、これからは自分の為にもスライムの弱点を探る為に手伝って行こうと決意した!