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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
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1-4 冒険者養成学校

 幾つかの部屋を通り過ぎ、やがて一つの部屋の前に立つと、少女は微かに息を整えて部屋の中へと声をかけた。


 「レイシアです、ただいま帰還しました」

 「お入りなさい」


 部屋の中から、女性の声が聞こえて来た。


 声の調子からするとまだ若いな。十代って事はないだろうが三十にはいっていないと思う。


 「失礼します」


 そう言うとともに少女は扉を開け、部屋の中に入って行く。


 部屋の中は正面奥に一人用の大きな仕事机がありその手前、扉との間にテーブルとソファーがあり、おそらく生徒とかお客さんと面談出来るようになっていた。

 部屋自体の広さとしては日本の学校の教室を半分にしたくらいだろうか?

 本棚とか置かれているのだが、それを含めない大きさなので、かなり広めだろうな。


 学校の教師だろう人間の部屋だけあって、どことなく落ち着いていてらしい部屋だと思った。そんな風に室内を見回していると、部屋にいた女性が片方のソファーを手でそっちにって感じに指し示した。

 それに対してレイシアは軽く頭を下げるとおとなしくソファーに座る。

 レイシが指示されたソファーに向かうのと同様に、部屋の主も手にしていた羊皮紙を置いて、こちらへとやって来た。


 そしてこちらの対面に女性が座ると、レイシアに声をかけて来た。肩にスライムが乗ったままなのだが、それには一切触れなかった・・・・・・




 「今回は、前回よりは少しだけ早く帰って来ましたね。指定された物の回収は、出来ましたか?」

 「はい、ケイト先生」


 そう言って背負っていたバックパックを漁って、石版みたいな物を取り出し、先生の前の机の上にそれを置く。

 ダンジョンの最奥に会ったやつだな。


 そうするとあのダンジョンは、何かしらの試験みたいなものとして使われていたって感じか。ミノタウロスなんて大物だから、新人用のダンジョンって訳はないよな?

 僕がスライムじゃなくったって、あれは大物に分類されるだろう。


 いきなり向かうには厳し過ぎる難易度だ。


 「確認しました。ですが指定時間を大幅に過ぎているので、レイシア。あなたの評価は今までとかわりません。いいですね?」

 「はい、先生」

 「では疲れていると思いますので、今日のところは部屋に帰って休みなさい」

 「はい、失礼します」


 なんとなく気落ちした表情で、レイシアはその部屋を出る。少しは褒めてもらえるとか考えていた感じだな。

 一連の流れを見るに、この子はこの学校の落ちこぼれの召喚術士といったところか。


 これからどうなるかはわからないけれど、なんとなくこの先、苦労しそうな感じだなって思った。


 せめてもの救いといえば、まあむさい男に召喚されなかった事くらいか?


 まあスライムなので、いつ使い捨てられるかわかったものではないけれどな!




 先生がいた部屋を出て廊下を進んでいると、途中で同年代と思える男女とすれ違う事があったけれど、大抵の者が少女に対し最低ランクとか実力不足とか、向いていないなどとわざわざ聞こえるように呟いて来る。

 察するにレイシアはここではそれなりに有名であり、実力が劣っている事は周りに知れ渡っているという事だろう。


 彼らの声に一切反応しないで、レイシアはそのまま校舎を抜けて、宿舎と思われる建物の中へと入って行く。そして一つの部屋の中に入ると、二段ベッドが二つある部屋の右上のベッドの中に、着替えもしないで潜り込んでしまった。

 まあいろいろ言われたし、冒険から帰って来たばかりで疲れていたのだろう。少女から直ぐに寝息が聞こえて来た。まあそれはいいとして、何の命令も受けていないのでこっちは暇になってしまったな・・・・・・


 これからどうしようかな、一つの手としてはこのまま彼女の側を離れて、自由に生きるって行動も選択することが出来る。その場合は最弱のモンスターとして、あちこちで危険な目に会うかもしれない。

 他にはしばらくは彼女と一緒にいて、この世界の情報を集める。


 こっちは彼女の命令次第で命の危険はあるけれど、少なくとも人間に襲われる事は無くなるかもしれないのと、この世界の情報次第では今後の身の振り方を、考える時間が出来そうだ。

 まあ迷った時は、下手に動かない事が一番だよな~


 しばらくは様子見ってことでいいか。そんな事を考えながら、彼女と同じように疲れてはいないのだが意識を眠らせていった。




 身近で何かが動く気配を感じ取り、意識が覚醒する。


 もぞもぞと動いていて、レイシアが起きた事がわかった。


 そのまま枕元にいる僕の事を、これは何だ? みたいな目で見詰めて来た。

 いやいや、お前が召喚したスライムだろうが。言葉が喋れないので手を伸ばして、ゆらゆらと左右に振ってアピールしてみる。その様子をじっと見詰めていたレイシアは・・・・・・


 「バグにしよう。貴方の名前は、今日からバグね」


 おもむろにそんな事を言って来た。いきなりバグって、嫌々と手をさっきより激しく左右に振って拒絶を示す。


 バグって言えばコンピューター用語で言うところのプログラムの欠陥の事じゃないか、お前名前のセンスないぞ。


 「おーおー、気に入ってくれたみたいでよかったわ」


 いやいやいや、違うって。嫌がっているのがわからないのか? わからないからこんな事を言っているのだろうな・・・・・・

 ブンブン触手を振り回して抗議してみるも、思い込みが激しいタイプなのか、駄目そうだ。全然気が付きもしない。


 声が出せないって不便だな!


 微妙に落ち込んでいる僕をそのままに、二段ベッドの上から下に降りて行く。そしてタンスの中から制服を引っ張り出して着替え始めた。

 僕はその様子を腹いせのように当然眺める。あまり凹凸が無いせいか、それともスライムになったせいか、なんとなく見ていても性欲みたいなものは感じない。これって男としてどうよ・・・・・・とも思うが、まあ仕方ないかもな。


 着替えを終えたレイシアは僕を肩に乗せると、部屋を出て食堂とへと移動する。


 いつの間にやら朝になっているって事は、結局昨日はそのまま起きずに朝まで寝てしまったのだな。

 徹夜で見張りとかもしていたから、僕も疲れたのかもしれないな。

 


 レイシア以外にも同じぐらいの年齢の人間達が集まって食事をしている。


 パッと見た感じではレイシアが最年少って感じの年齢で、上は三十くらいの人間もいる感じだ。

 そこら辺りは日本の学校とは違っているようだな。


 後、今になって気が付いたのだが、料理の乗ったテーブルの近くを通っているのに、一切の匂いが伝わって来ない。

 どうやら体内の食べ物に関しては匂いを感じ取れるのだが、大概の匂いを感知する事は出来ないようだった。まだまだスライムについて、知らない事だらけだな~


 まあでもこれだけ目で食べ物の存在をアピールされれば、さすがの僕でも空腹を刺激される。

 そんな僕を肩に乗せたままレイシアはトレイを持つと、バイキング方式と思われる料理の数々を、上に乗せていった。


 これは便乗するしかないだろう!

 なので食べたい料理に向かって手を伸ばしてアピールしてみる。それに気が付いたレイシアが、今度は誤解なく理解したのかトレイの上に皿を置き、指さした料理を取ってくれた。

 一応主として、ちゃんとご飯は食べさせてくれそうで少し安心したぞ。

 最悪無しか、残飯って可能性もあったからなー




 朝という事もあってか、レイシアはあっさり目の料理と、男から見れば少なめな量をトレイに並べ、そこに追加で僕が選んだ料理を皿に乗せ、空いているテーブルを探して移動する。

 そして見付けたテーブルにトレイを置いたところで、僕は乗っていた肩から飛び降りた。


 席に着き、そんな僕の前に選んだ料理の入った皿を置いてくれる。


 お互いに食べる準備が整ったところで、レイシアはいただきます的な挨拶を神に捧げていたので、僕も触手を二本合わせていただきますって感じのポーズをする。


 ちらっとレイシアの方を見てみると、長い祈りとかではないようで、直ぐ食事に取り掛かる。


 本当にいただきますって感じの挨拶みたいなものなのだろう。それを確認し、皿の上にそのまま被さる様に移動。そのまま皿の中身を体で包み込むと、チューチューと食事を開始した。


 味は見た目と違って薄いというか、微妙に素材の苦みエグさが感じ取れる。

 せっかくまともな料理が食べられると期待していたのに・・・・・・そしてちょっと異世界料理っていうのも期待していたのだがなー

 これは期待外れだ。というか、もしかしてスライムになったせいでそう感じるのかな?




 「レイシアさん、何でそんなスライムなんかにご飯なんてあげているの? もったいないからさっさと送還しなさいよ」


 食事を始めてしばらく後、レイシアの対面に座って来た同年代の少女が、そんな事を言って来た。


 金髪でちょっとツンツンした、生意気そうな少女だった。


 こういう女ってよく出て来るよな。ちょっと家柄がいいとか成績が優秀とか、そんな感じのやつ。

 そういうやつが自分より劣っているやつを見付けると、ねちっこく嫌味を言って来たり、嫌がらせなんかして来るのだ。もはやテンプレートと言っていいだろう。


 そうなると、この後の展開が読める。


 「別にいいじゃない、私の勝手でしょう」

 「スライムみたいな、ただ飯喰らいの役立たずなんかに、ご飯なんていらないわ。せめて残飯にしなさいよ。ここの食事だって、それなりのお金がかかっているって事、忘れてもらってはかなわないわ」

 「この子は特別なのよ。役立たずじゃないわ」

 「ふーん・・・・・・どこにでもいる、ただのスライムにしか見えないけれどね。そこまで言うのなら、どう特別なのか、証明してご覧なさい」

 「なんでそんな事、あなたに証明しなければいけないの?」

 「それは、ここの学園に多額の寄付をしているのが、私の実家だからよ。当然そのお金は、この食事代にもなっているわね。私の家のお金を、そんな無意味なスライムの食事代になんか、使って欲しくないのよ。おわかりかしら?」


 「・・・・・・わかったわ、じゃあこの子がダンジョンで倒したモンスターのドロップアイテムを見せたら、納得してくれるかしら?」

 「ふん、スライムなんかで倒せるモンスターなんか、どうせたいしたものじゃないですわ」

 「それは見てから判断して」

 「そう、じゃあお手並み拝見って事ね。食事が終わったら、あなたの部屋にお邪魔させてもらうわよ」

 「ええ、いいわ」


 二人がそんな会話をしている間に僕は皿の中の料理を、全て消化し尽くしていた。




 それにしてもこのツンツン娘は、思っていたような嫌味キャラではなかったな。

 もっとこう理不尽に訳のわからない事ばかり言って、喧嘩を売って来るものだとばかり思っていたのだが、よくよく考えてみれば分相応の食事にしろって言っているだけだよな。

 いちゃもんを付けて、レイシアの事をいじめようって雰囲気ではない。


 言いたい事を言い終えた後、いじめっ子のようにどこかに行く出なく、そのまま正面に座って食事を始めるところも、他の奴とは違っていた。

 レイシアもそれには特に言及せず、自分の食事を続けている。


 まあ予想通り、仲良くはないようだけれどな。

 それでも気まずい雰囲気で食事をしているって感じじゃないだけ、まだましといっていいだろう。




 そうなって来ると、レイシアの食事が終わるまで時間が出来てしまった。


 レイシアの食べ方は、パンを一口大にちぎってはスープに付けて、よく噛んで食べているので全部食べ終わるまでにはもう少しかかりそうだ。


 待っている間こうして皿の中にいると、まるで皿に盛られたスープのようだろうな・・・・・・


 二人の食事が終わっていない暇潰しに、なんとなしに自分の体を皿に対して平行に、つまりぷにぷにの塊ではなく、スープに擬態するように平らになって納まる。


 レイシアがなんとなくこっちを窺っているのが見えた。ついでに、対面に座っていた金髪少女も僕を見ていた。


 ちょうど金髪少女の方を窺った時に、彼女の皿のふちに避けられた料理の飾り付け用の葉っぱを見付ける。

 あれを乗せたらますますスープっぽく見えそうだなって考え、手を伸ばして葉っぱを拝借した。


 一瞬彼女が警戒した様子を見せたが葉っぱを持って行くのを見届け、何をするのだろうって感じでまた様子を見て来る。


 取って来た葉っぱを自分の上に乗せて、そのままスープの振りをする。


 ただ単に暇潰しなだけで、特に意味はないけれどね。ひょっとしたら馬鹿なやつが引っ掛かるかもしれないな。


 それ以上僕に動きがない事を見て、二人はそのまま食事へと戻っていった。

 たまに思い出したかのように、ちらちらと様子を見ているようだけれどね。


 二人の間に初めの時の会話以外は特になく、静かな食事風景が続く。

 こうして二人を見ると優雅な食事風景で、どちらも貴族令嬢って感じに見えるな。金髪少女は間違いなく貴族だろうが、レイシアもおとなしい食べ方だからか、それっぽく見える。


 この学校に礼儀作法みたいな科目でもあるのかもしれないなー


 結局、もっと嫌味とか言うキャラかと考えたのだが、そこまでガミガミいう子ではなかったようだ。




 ――――――



 駄目な子ほど可愛い・・・・・・By 女教師




 私の受け持ちクラスに一人、駄目っ子がいる。


 入学試験自体、問題なく通過出来た事から考えるに、素質はあると判断しているけれど、今のところそれを発揮する兆しは見当たらないわね。


 当初は一年の終わりの試験で落第するものだと考えていたので、二年目までよくがんばっているといっていいでしょう。

 それだけ努力して来たという事だわ。


 私としても、前途ある生徒を何とか無事に卒業させたいと思っているのだけれど、今のところままならない。


 いっそ方向転換して、錬金術師になってくれれば手取り足取り教えるんだけれど・・・・・・

 本人が魔法使いに拘っているので、どうしょうもない。


 それにしても・・・・・・たった一人でダンジョン実習だなんて、無茶もいいところだわ。

 案の定今回も一日遅れで帰って来た。


 もういっそうの事、私が付いて行っては駄目かしら?

 生徒の生命を守る為って言えば、許可が出ないかしらね!


 そうね。何かあってからでは遅いもの。早速許可を貰って来なくっちゃ!


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