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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第三章  自由を求めて
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3-5 黒歴史が増えた!

 やって来た狼とは意思の疎通が出来ないので、洞穴の奥で狼と並んでボーとする。


 隣で大人しくお座りしている狼は、僕がもぞもぞと動くと腰を浮かせてこちらを見て来るので、おそらく逃げ出さないよう警戒しているようだ。


 このまま待っていればレイシアがやって来るのだろうが、主従の関係が無くなった今、彼女はどうするつもりでいるのだろう?

 再び捕獲して主従関係になろうって言うのだろうか?


 そういう事なら普通に抵抗すればいいだけだが、なんとなく荒っぽい事にはならない気がする。


 だからまあ、無駄な抵抗などしないで大人しくレイシアが来るのを待っていたらいい。


 森の中で自分の状態を確認してみたけれど、おそらくは相当強くなっているはずだ。それは魔法だけに限らず、身体能力もただのスライムとは比べ物にならないくらい高いはず。


 別に本気を出せば狼くらい振り切れるのだが、何なら倒してしまえばいい。今なら狼など、どうとでも出来る相手だ。


 主従関係が無くなった現在、そこまでして逃げる必要は無いと判断した。


 無論、束縛されるつもりは毛頭ないが、話くらいは聞いてみてもいいかなって考えている。


 その内容次第でこれからどうするか、改めて決めようと思う。




 それからしばらくすると、洞穴の入り口付近に何かが近付いて来る足音がして、レイシアが到着した事がわかった。


 「バグ! ごめんなさい、帰って来てくれないかな」


 出入り口からわずか五メートル。それだけで奥が見通せなくなる洞穴で、狼と待ち構えていると折れ曲がった通路からこちらを覗き込んで来るレイシアが見えた。


 その彼女の第一声が今の台詞だ。


 彼女が顔を見せると、隣で何する訳でもなくずっとお座りしていた狼が尻尾を振っていて、少し前までは僕もこんな感じで主大好き状態だったのかな、なんて考えたりした。


 まあそれは置いておいて・・・・・・


 「僕はもう、お前の支配は受けていない」


 二回の錬金合成を体験し、既にその行為がゲームの時の様に危険が無い事は理解出来た。種族を変える以外の変化はなく、当初懸念していたような人格が破壊されるようなデメリットは無いのだと知ると、思っていた程の怒りは湧いて来なかった。


 さすがに会話も出来ない状態で、詳しく話し合って決めたりは出来ない訳だしね。


 合成自体が嫌かどうかって意思は伝えられたが、レイシアにとってこっちは元々召喚で呼び出した配下で、そこまで気を遣うような存在ではなかったのだろう。

 そう考えるとやられた事に関してはただ僕の事を進化させて、扱いやすいモンスターにしたかったのだと推測出来る。

 それが僕の意思を完全に無視した行動だっただけだ。


 まあ魂が混ざって別物になった訳でもなさそうなので、現時点ではそこまで怒る要素も無くなったって感じだな。


 けれど、やはり無理やりってところだけは納得がいかなくて、それが態度に出てしまうのは仕方ないよな。


 自分でも幾分突っぱねるような言い方になってしまったので、内心ビックリしているところだ。


 ある意味で拒絶の答えをレイシアに返す事になったが、迎えにやって来たレイシアに、素直に尻尾を振る訳には行かない。曲がりなりにも僕には自我があり、自由意志を持った生き物なのだからね。


 まあ例え人じゃないから人権が無いとしても、僕には弄ばれても仕方ないなどといういい訳は納得出来るようなものではない。

 レイシアからしたら中身が元々人間だったなんて、予想すらしていないのだからそこまで怒る程の事ではないだろう。


 事情さえ理解していれば、すれ違いだったとわかる。そうとわかっていてやったのなら確信犯だろうな。




 「バグ、こんなところにいたのね」


 そう言いつつレイシアの後から声をかけて来たのは、ブレンダだった。

 どうやら一緒に行動していたらしい。


 その後ろにはランドルとフェザリオがいるところを見ると、あの後パーティーは解散しないでもう一度やり直す事にしたみたいだな。

 彼ら四人をまとめて見てみると、どことなく落ち着いて見えるというか、全員で一つにまとまって見える。


 おそらく連携訓練などをして、ちゃんとしたパーティーになったのだろう。


 ただ人数を揃えただけで、オロオロしていた冒険者って感じはなくなっていた。

 僕がここで停滞していた間に、彼らはしっかり成長していたみたいだな。


 「パーティー、解散しなかったのだな」


 何となくレイシアと話す話題が無くて、おまけで付いて来たブレンダ達にその後のパーティーについて話しかけていた。


 「ちょうどバグがいなくなった事もあったから、いろいろ考えさせられたわね。みんなで話し合って、もう少しがんばってみようって結論になったのよ。あの後、一杯連携の訓練なんかもしたんだから。今日もみんなで訓練してたらレイシアが突然見付けたって言って、森の方に走って行っちゃったから、慌ててみんなで追いかけて来たのよ」

 「そうか、もう一度言うが僕はもうレイシアの支配は受けていない。今は誰の命令も聞く必要のない、一匹のスライムモンスターだ」

 「ええ、わかっているわ」


 改めて自分の考えを表明した。


 ブレンダに向かってそう言ってはいたが、ここにいる全員にもう縛られていないのだとわからせる。

 だがブレンダはそう言うと、僕にそれ以上干渉するつもりはなかったようで、洞穴の入り口の方へ出て行った。

 後は元主従で話し合えって事だろうな。




 「ねえバグ、もう一度だけ、私と来てくれないかな・・・・・・。私にチャンスをくれないかな」


 狼だけが見守る中、一人残ったレイシアが長い時間躊躇した後、語りかけて来た。


 「召喚獣ではなくなった僕が、レイシアに付いて行くメリットなんかあるのか? 今の僕は、人前に出ればただの野良モンスターとして討伐の対象になるだけだぞ」


 まあ実際には、スライムなんてたいした脅威には見られないから、片手間に攻撃を受けるくらいでギルドが重い腰を上げてまで、殺そうとはして来ないだろうけれどね。


 おそらくは町中で見かけても、わざわざ殺そうと思うような奇特な者は、子供かむしゃくしゃしている乱暴者くらいだろう。


 「今まで役に立てなかった私が、バグと出会ってからモンスターを倒す事も出来るようになった。依頼を受けて、普通の冒険者のように仕事をこなすことも出来た。バグと一緒に冒険していて凄く楽しかった。だからもう一度、チャンスをください」

 「今言ったのは、全部レイシアにとってのメリットでしかない。そこに僕の利益は何一つないんじゃないのか?」


 ・・・・・・。

 反論すると、レイシアは長い間沈黙していた。


 なんとなくレイシアの感じている楽しかったっていう感覚は理解出来る。

 僕だって自分の事で悩む暇があまり無いくらいあれこれとあって、一緒に暮らして行くのもいいかなって思ってはいたのだ。


 僕は人間ではなかったけれど、せっかく異世界に生まれ変わって体がモンスターだったっていう事が気にならないくらいには、レイシアと一緒にいるのが楽しいなって感じられたのだ。


 しかし無理やり生産素材のように捏ね繰り回されるのは許容出来ない事だろう。

 いくらこの世界が日本よりも命の価値を低く考えているからといって、軽く見られるのは不快な事だった。


 まあ結局は召喚獣に戻って下さいっていう催促だろうが、今戻っても何で僕がこんなに嫌がっているのかという事に気が付かなければ、また錬金合成されるだけなのだろうな~

 そう考えると、僕にそれを受け入れる必要は結局のところ無いよね。


 せっかく手に入れた自由を手放す馬鹿は、よっぽどの馬鹿かマゾじゃないのか? そう思う。




 「・・・・・・一緒に来てくれるなら、戦わなくてもいい。ただ側で、友達として一緒にいて欲しい。お願い」


 長い沈黙の後、レイシアはそう言って頭を下げた。


 友達か。

 僕の事を支配するんじゃなくて、そういう関係を求めているのなら悪くないのかもしれない。


 どうせ僕には他にやりたい事も、一人で居続けたい理由もないのだから。


 それに、前世でも彼女と呼べる存在はいなかった訳だし、こんなにも近くに女性がいた事もなかったからな。

 そう考えるとやる事が見付かるまでの間なら、暇潰しとして付き合ってやってもいいのかもしれない。


 あくまでも暇潰しだ。


 「召喚獣には、戻らないからな」

 「! 構わない。帰って来てくれる?」


 そう言って、恐る恐る震える手を伸ばして来たのを見て、ここら辺りで妥協しておこうかと考えた。


 まだまだこの世界の情報にも乏しいし、やっと会話が出来るようになった今だからこそ、一緒に付いて行って様々な情報を手にする機会が出来るというものだろう。

 何をするにもまず情報収集が必要不可欠だ。


 一緒にいる間、せめて周辺地理と過去の国や世界の大まかな歴史や基礎知識くらいは知っておきたい。

 それがレイシアと一緒にいることの、僕が得られるメリットになるだろう。


 こうして僕の、家出のような恥ずかしい黒歴史は幕を閉じた・・・・・・。




 わずか数日足らずではあったけれど、帰って来たって思える懐かしい宿舎でゆっくりと休み、レイシア達に誘われて翌日依頼を受ける為ギルドへと向かった。


 僕がいない間にがんばっていた成果を見せたいらしい。


 そういう訳で前回集まった時のパーティーメンバーそのままで、違いといえば今回の依頼に関して僕は一切手出しをしないで見学する事になった。


 なので当然依頼の内容も、彼らに自身に見合った討伐ランクに合わせて、抑え目で受けるという話を事前に聞いていた。

 僕に頼らないで自分達だけで戦えるよう訓練していたのだそうだ。


 それに友達として付き合って行くのに、いつまでも頼ってばかりではいられないって感じらしい。

 一方的に頼る関係は、どう見ても利用しているだけで友達とはいえないだろうね~




 前回と違い全部自分達でやらないといけないからか、若干緊張しながらも冒険者ギルドまでやって来た。


 「これ辺りがいいかしら?」


 そうそう受付で学生向けの討伐一覧を要求したのだが、内容は雑魚ばかりが載っている一覧だった。


 その討伐一覧をざっと確認してブレンダが選び出した依頼は、彼女達の実力からして余裕過ぎるのではって思えるようなオーク退治だった。


 いくらなんでも実力を低く見過ぎじゃないのか? それとも安全マージンを取っているのかな?

 確かに冒険者なんてやっていれば怪我や故障などは日常茶飯事になる。

 怪我などをしないように戦う事を考えれば、わからない選択ではないだろうな。


 ただこれだとつまらない冒険者になりそうな気がする。


 当たり前に倒せる依頼ばかりをこなす冒険。それは冒険じゃなくてただの作業ともいえるな。


 受付のお姉さんは前回担当してくれたギルドの人で、前に比べてかなりランクの低い討伐依頼を引き受けている彼女達に、不思議そうな微妙な表情をしている。

 わかる。前回引き受けた依頼との差が大き過ぎるからな。何でって思ったのだろう。

 事情を知らなければ僕もそう思うぞ。


 あっいや、前と違ってイフリートがいなくなっているので微妙な表情をしたのかも・・・・・・




 「それでいいよ」

 「僕もそれで問題ないです」

 「それにしよう」


 受付のお姉さんはそんな感じだったけれど、レイシア、フェザリオ、ランドルはそれぞれに問題はないと発言する。


 いや、当たり障りの無い依頼を選んだ事で、男子達はホッとしているようだな。


 ちなみに相手が雑魚だけあって、討伐目標数はちょっと多目で二十体となっていた。


 まあ僕にとっては楽勝と思えるだけで、新米冒険者にしてはハードかもしれないけれどね。

 実際の話、彼らはまだ見習い冒険者であって、まだ初心者にもなっていない。

 本来ならゴブリン相手に泥臭い戦いをしていても、おかしくはない実力なのではないかな?


 学校で習った訓練を思い出しつつ、実戦の空気を味わうのがこの実地訓練である。


 一対一ではきついので、パーティーを組んで弱いモンスターをどつきまわすのが本来の学生が受けるクエストだったりする。


 ちなみにダンジョン実習で出て来たモンスターは、実際に出て来るモンスターより幾分弱く、知能も低いらしい。

 傍から見ればずいぶんとえげつない戦い方で、全然冒険者らしくないよな~

 まあそれも貴族の子女や三男四男辺りが混じっているから、仕方がないのかもしれない。


 さほど優秀でもない貴族出の人間が、そうそうかっこよく戦える訳もない。

 そして学校側としても、下手に怪我をされては困るって理由もあるのだろう。




 ――――――



 使い魔としての矜持・・・・・・By ウルフ




 俺はウルフ。名前はまだない。


 今日はご主人の元から逃げ出したっていう、ダメダメな先輩を探して洞穴まで来ていた。


 俺のご主人は、かなり腕のいい使い手だと思う。何て言っても俺を呼び出して従えているんだから大した雌なのは確かだ。それなのに逃げ出したっていう先輩は許せんって思わないか?

 まあ逃げ出すような負け犬などどうでもいい。今後は俺がいるからな!




 だというのに何故かご主人はそのスライムというやつを連れ戻したがっている。俺というものがありながら!

 まあ不快には思うが、俺は心が広いからな!


 たっぷりと実力の差というものを見せ付けて今後逃げ出さないように躾けてやろうと思う。


 まあスライムにご主人を敬うような知性はないだろうがな!


 そこはこれから俺がしっかり監視して、ばっちり仕込んでやろうじゃないか。でもって俺の方が役に立つってところをしっかりとご主人にアピールしておこう。




 匂いを辿ること数日。


 まあちょっと時間はかかったものの、微かにご主人の匂いを感じ取った俺は、逃げたスライムがいると思われる洞穴を発見、さっそく飛び込んで行った。

 まずはガツンと一発主導権を握っておかないといかんだろう!


 直ぐ行き止まりとなっていた洞穴の天井、尋常じゃない殺気を感じて上を向くと・・・・・・そこに奴がいた。


 えー、何こいつ・・・・・・めちゃくちゃ強そうなんだけど・・・・・・


 スライム「ひょっとしてお前、レイシアの下僕か?」


 あ、はいそうです先輩!


 ここは愛想笑いで乗り切ろう・・・・・・


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