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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
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1-3 帰り道

 異世界に来て、初めての朝がやって来た。徐々に見えて来る朝日で照らし出される光景を眺めてみると、地理的な物はさておき、地球とさほど変わらない環境なのだろうと推測出来た。


 これならなんとか暮らしていけるかもしれないな。


 現在地を改めて確認してみると、背後にはダンジョンがあった森があり、反対には建物などが見当たらない見渡す限りの平原が広がっていた。

 そんな中、細い道みたいな物が見て取れるが、舗装などはなさそうだな。




 しばらくして、さすがにちょっとした空腹を感じていると、少女がもぞもぞと動き出す気配を感じた。


 「うーん、おはようー」


 まだ少し眠そうな声ながら、一応目は覚めた様子だ。


 「送還、ウルフ!」


 どことなく、寂しそうな表情で消えていく狼を見ながら、あれそういえばなんで僕は帰さないのだ? と疑問を感じる。

 そんな事を考えている横で、少女はバックパックから昨日の夜も食べていた携帯食であろう干し肉を、ナイフで削って齧り出す。


 想い出してみれば、夜もご飯を食べていなかったな。

 夜中起きていた僕は少し空腹を感じていたので、少女の手元の干し肉へと足? 触手になった手を伸ばした。




 昨日はそこまで空腹感が無かったので、食事より人間とはあまりにも変わり過ぎた自分の体の方が気になって、ついていろいろと検証してしまったのだ。


 一日中ただボーと見張りをしているのは退屈だったから、余計に時間を持て余したともいう。


 核になった部分がおそらく僕の本体ともいえる体で、五感があるのは核の方みたいだ。

 周囲にあるゼリー状の部分は、付属部分? 手足や感覚器官を兼ねているようだが、核から機能を延長しているに過ぎないようだ。


 例えば痛覚なら、核にまで届かないダメージは痛みを感じないで済む。

 ミノタウロスに踏まれて飛び散った触手の先も、確かに痛くはなかった。ダメージはあったけれどね。


 視覚なら、水中から見ているように見えるのは、このゼリー部分が核を覆っているからって事だ。核を表面近くに移動させると、少し見やすかった。

 まあその分危険に近付くって考えると、あまりお勧め出来ないだろうな。


 味覚はよくわからない。

 草などを食べたりしてみたけれど、さすがに核の部分では食べられないからこれはゼリー部分だけの機能かもしれない。ちなみに雑草だったのか、苦いって感じはしたがただそれだけで吐き出す程のものではなかった。

 食べられればなんでもいい感じだ。


 そして手足としての機能だが、触手状にするだけなら五本でも六本でも生やす事が出来た。ただし細かく動かそうとすると最高で二本までかな。これは僕が元人間だったから、手のように動かせるのが二本なのかもしれない。

 何となくの動作なら四本までいけるので、足の感覚で操れるって事かもしれないな。


 そんな感じでいろいろと検証して過ごしていた。




 「うん? あなたも欲しいの? 仕方ないわね、一つだけだよ?」


 そう言いながら少女は、携帯食の入っていた袋の中から新たな干し肉を取り出して、僕の手に乗せてくれる。


 まあ検証でいろいろと動かしてみたので、少女から肉を受け取る動作も淀みなく出来た訳だ。

 それを体の中に取り込み、チューチュー吸う様にして溶かして食べる。携帯食料だから味は二の次って感じだな。ただただ塩辛い肉だった。


 そんな僕を横目で見ながら、野営跡を片付けて出発の準備をしてから、僕の方へと左手を伸ばして来た。

 あー、はいはい。その腕を足場にして彼女の肩に登って落ち着く。


 少女はどうやら、僕を送還する気が無いようだな。


 そのまま、移動し始めた少女がどこに向かっているのだろうと考えながら周りの景色を眺めていると、野営地から見ていた細い道のようなところに沿って左へと進んで行った。

 どうやら沢山の人が歩いた結果、踏み固められて道みたいになっただけって感じだな。こんなものでも、方向音痴な少女にとってはありがたい道なのだろう。

 逆にいえば、道があろうが迷う程の方向音痴ではないって感じか。いやそこまで行くともう漫画みたいな世界で、現実では生きて行けないかな~




 そんな道とも呼べない道を、何時間も歩く。


 パッと見体力なんかなさそうな少女だったが、休憩も取らずにしっかりした足並みで歩き続けているところを見ると、ちゃんとした冒険者なのだなって思えた。

 まあさすがに汗一つかかずにとか、息も乱さずって感じではないが、僕なら途中で絶対に休んでいただろう。

 魔法使いっぽいのに基礎体力はあるようだ。


 そして代り映えのあまりしない風景に飽きて来た頃、進んでいる道の先に小さく壁に囲まれた町らしきものが見えて来た。

 さすがに方向音痴でも、逆の方に行ったって事はなかったようだな。いや、それはまだ判断出来ないのか?


 少女の様子を窺ってみるに、町に気が付いた後も慌てたりしていないところから、目的の町に辿り着いたと考えて良さそうだった。

 ちょっと安心しつつ再び異世界の風景を堪能するのだが、特に目を引くものもなくだだっ広い平原や、遠くに森などが見えるくらいで何も無い場所のようだ。しいて言えば、生息している動物などに興味が惹かれる。


 かなり遠くにいるので詳細はわからないのだが、地球ではみられない動物達がそこにはいた。サイみたいな皮膚をした牛みたいな動物が、のんびりと群れを作っているのが見える。


 パッと見モンスターと区別はつかないのだが、草を食べているようなので動物に分類されるのではないかな?


 こういう時に同行者である少女に聞ければよかったのだが、スライムじゃあ会話も出来ないな。


 主である少女もただ黙々と歩くだけだった。まあスライムと話をしようと思う程、変人ではないのかもしれない。


 町を見てみると、川を跨ぐ様に町が作られている。

 壁の外側には田畑があって、人の営みが感じられた。壁が無ければ日本にある田舎の町って感じかもしれないな。


 まあモンスターがいる世界だから壁は絶対に必要なのだろうが、のんびりと歩きながら見てみると平和そのものだ。




 町も大分大きく見えて来る頃になると、今まで歩いていた道もただ踏みしめられた道ではなく、石を敷き詰めて造られたちゃんとした道へと変わった。

 その道の両隣には畑に麦かな? おそらくパンの素材の為に栽培されていると思われる作物が植えられていた。


 注目するところは、麦の成長度合いが区画によって違っているところだろう。


 植えたばかりの麦があったり、成長途中の青々とした状態の麦があったり、そうかと思えば収穫まじかな黄金色の麦なんかも見て取れる。

 ひょっとしたら地球とは気候が違っているのかもしれないな。


 麦以外に育てている野菜など見当たらないが、それらを眺めつつそんな事を考えていた。




 「ようやく町に帰って来れた~。もうしばらくは、ダンジョンなんか行きたくもないよ!」


 そう呟く少女の肩で僕も行きたくなんてないよ、命がいくつあっても足りやしないって思う。そう文句を言いたくても、声を出す事も出来ないので、抗議のしようもないのだが・・・・・・


 森からここまで来るのに太陽が真上まで来ていたので、大体五時間くらい歩いたのかな? そう考えるとこの少女はかなり体力がある。魔法使いっぽいのでもっとひ弱かと思っていたのだが、さすが異世界というか野生児というか基本的な体の作りが違うのかもな~


 これは人間として転生していたら、冒険どころではなかった可能性もあるかもしれないな。それともチート能力を貰って、平気になっていたのだろうか?

 現状ではどちらがよかったとは言えないだろうな~

 とにかくここまでの道中、僕はずっと少女の肩の上にいたので、楽ちんだったな!




 町の入り口に近付くと、門の前に兵士や他所からやって来た商人、冒険者らしい人達が見えて来る。

 数人の人が出たり入ったりしているけれど、地元の農民みたいな人達はそこまで厳しい取調べみたいなものもなく、簡単に挨拶みたいなやり取りを交わして後は人の流れを見ている感じだった。

 商人みたいな多分他所から来た人と思われる人は、それでも荷物のチェックみたいな事をされているのがわかる。


 僕の場合はどうなのだろうか。一応モンスターって分類になりそうなのだが・・・・・・


 「よう、レイシアちゃん、今回は随分と早いお帰りじゃないか~」


 門にいる兵士がこちらに気が付き、そう声をかけて来た。まあ、正確には隣の少女にだけれど。


 「おはよう、ランドさん。そんな事ばかり言っていると、いつか私が有名になった時後悔しますよ」

 「はっはっはっ、早く有名になってくれ~」


 そんな心配は無用とでも言うように、心底気軽にそう返事をする。レイシアと呼ばれた少女は、それ以上兵士と目も合わせないで、そのまま町へと入って行った。地元だからか、顔見知りって感じだな。


 そして僕はといえば、何も言われなかったな・・・・・・まあスライムなんか、何の脅威にもならないか。自分で言っていて空しくなりそうなのであまり深く考えないようにしておくか・・・・・・




 兵士の対応に疑問を抱いている間、レイシアという名の少女は道なりに進んで行く。


 門からしばらく町の大通りを真っ直ぐ進みやがて見えて来たのは、周りにある商店らしき家の十倍はありそうな大きさの壁に囲まれた建物だった。煉瓦で造られた壁に囲まれた、その建物の門の前へと彼女は向かって行く。


 ひょっとして彼女は凄い名家のお嬢様か、貴族の出身とかなのかな?

 そう思って見てみれば、そこはかとなく高貴な雰囲気がある気がしないでもない。

 でも、装備を見てみればそこまで高級品って感じはしないよな。


 まあ僕に鑑定スキルはないし、こういう物の価値を判断するような観察眼は持っていないから、絶対とは言えないのだがな。だがまあ、せいぜいが下級貴族か、商人か何かのお嬢さんってところじゃないかな? それはそれで身分の問題が、厄介そうだけれどね。


 微妙にビクビクしながらレイシアの素性を予測していると、門の前にいる人に身分証みたいな物を見せて、建物の中に少女は入って行った。


 そして門を抜け、建物を見た瞬間理解出来た。

 あー、これは学校ってやつだと理解する。


 まあ、彼女が高貴な身分の人間だったのなら、門番とかがあんなに気楽に話しかけないよな。なんとなく予想が外れて脱力状態の僕を乗せたまま、レイシアは校舎と思しき建物の中に入って行った。

 日本の学校と違うところは、下駄箱とかが無いところだろうか。

 そう考えつつ廊下を見てみると、あまり掃除もされていないのかたまに泥の付いた足跡なども廊下に残っている。

 建物自体は木造で、昔の学校って感じだな。


 ガラス窓が無いようで、よろい戸を開けて光を取り入れているようだった。逆に閉め切ったら夜のように真っ暗になるのだろうな。

 そして開けっぱなしだと冬とか随分風通しがよくて、寒そうに感じる。そう考えて内部構造を見てみると、窓と窓の間の壁には明かり用の松明が、等間隔に配置されているようだ。

 おそらく雨が降れば窓を閉める事になるので、真っ暗闇になるのだろう。それ用の松明かもしれないな。


 想像してみれば、夜のような暗さの校舎が思い浮かぶ。肝試しをするにはばっちりの建物だな。




 ――――――



 門番の憂鬱・・・・・・By ランド




 俺にもとうとう名前が付いた。この作品って人の名前や町の名前がなかなか公開されないから、これは今後俺の時代が来るかもしれない! 一兵卒でただの門番だった時代もこれでおさらばだ!

 そう思っていた時代もあったさ・・・・・・だが蓋を開けてみればこの通り! 俺の出番、たった二行! ちょっとレイシアちゃんをからかうように挨拶を交わしたくらいで、それだけで俺の出番はもう終わりってんだからやっていられるか!


 行商人「おいおっさん」


 俺の輝かしい華麗なる出番はどこに行った!


 行商人「おいそこの叫んでいる門番! さっさと仕事しろよ!」


 とんとん拍子に出世して、どこかの戦場で華々しく活躍して、ゆくゆくは勇者として活躍したとしてもおかしくはないんじゃないか。


 旅人「おいまだか? 何か揉めてんのか?」

 行商人「いや、この門番が仕事しやがらないんだよ」

 町人「ああその人ちょっと夢見過ぎなところがあるんだよ。待ってな、叩けば戻るから・・・・・・よいしょっと!」


 ガン!


 ランド「あ、何だよモブ」

 町人「アホな事してないで、さっさと仕事しろ!」

 ランド「なんだよ名前もないモブのくせに・・・・・・」

 行商人「名前があってもモブはモブだぞ?」

 ランド「え? ・・・・・・。」


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