2-2 対決、バグ対ケイト系と先生
どれくらい探し回ったか、やがて複数の先生が集団となって目の前に現れた。そしてその中に探していたケイト先生を見付ける。
それを見て思わず、狂いそうな程の怒りが体中を駆け巡る。体が燃えるように熱い。
どうやら余程頭にきていたみたいだな。
今から存分に、その怒りを叩き付けてやるとしよう。
僕やレイシアを弄んだこの先生を、手に入れたこの炎で焼き尽くしてやる。
心の中に湧き出たその暗い炎を持って、先生集団へと攻撃を開始した。
まずはケイト先生を守るかのように、前に出て来た先生達からだ!
「キュル・キュキュ、キュルルルキュ。(邪魔だ、お前達はそこで燃えていろ)」
むっ、なんか自分の声がうるさい。
何だこのキュルキュルとした、ガラスを引っ掻いた様な不快な音は・・・・・・
間違いなく火の矢が飛んでいったのはいいが、自分が出したと思える甲高い声が耳障りだった。これって悲鳴みたいなものなのか?
いや、違うな。
ギャー
「うわ何だ、この炎レジストが全然効いていないぞ!」
こっちがいろいろ考えている間、前に出ていた二人の先生が炎に包まれて倒れる。あっちもあっちでうるさい感じだ。
何ていうのかな・・・・・・魔法の炎だからなのか、火を消そうと手伝ったもう一人の先生にまで燃え移っていた。
床で転げ回っても消える様子はない。
それと木造のはずの校舎に、燃え移ったりもしていないみたいだ。
まるで意思があるかのように、目標だけに燃え移る炎。これはちょっと自分でも引くぐらい恐ろしい。
おっと、僕の後ろにも伏兵の先生が来ているようだな。これは戦士科の教師か?
なんとなく殺気のようなものを感じ取れて、相手の位置が特定出来た。
前方で注意を引き付け奇襲しようとは、さすが冒険者を育てている学校の教師だな。おそらく教室を利用して、背後に回り込んだのだろう。
とっさに判断して連携するのはさすがといってもいいが、バレバレだぞ?
「キューキュキュウ、キュキュユルル(後ろにいるのは、わかっている。邪魔をするな)」
僕は振り向きもせずに背後に迫る先生を燃やす。
グッ
苦痛の呻きと共に驚きの息遣いが前後から聞こえて来て、燃えた教師が床に崩れて行くのが気配でわかった。
自分でもどうかって思う炎の攻撃だが、だからといって使う事に躊躇はない。
使えるものは使うべきだしな。
前方にいる先生集団は、このわずかな戦いで不利を悟ったのか、じりじりと後ろへと下がり出す。もちろん足元で倒れた負傷した先生を連れてだが、まあ僕の邪魔さえしなければそれは別にどうでもいい。
派手に燃えているようだけれど、ダメージ自体は皮膚の表面を燃やしたくらいのものみたいだ。こういうのを手加減っていうのだろうか?
別に殺したい訳ではないので、そこはちょっと予想外の結果で、安心出来た。
邪魔者を排除出来ればそれでいいしな。
「キュルルルギュ、キュルキュキュ(僕の目標はお前だけだ)」
ケイト先生へと炎の矢を飛ばした。
その射線へと、盾を持った先生が走り出て来て炎の矢を受け止めようとする。
だが盾に矢が当たった瞬間、盾の表面を覆うように燃え広がった炎と、そのまま貫通した炎の矢が一纏めになって、その先生を燃やす結果になった。
この炎の矢。なんか予想外に強くないか?
「なっ、こいつは危険過ぎる、撤退、撤退を!」
「ここは、私が何とか支えてみます、皆さんは怪我人を連れて、下がってください」
ケイト先生が集団の先頭へと出て来た。思わずニヤリと笑う。
僕の魔法を見て、魔法の知識がある自分が前にってことだと思う。たぶん魔法抵抗があった方がいいと判断したのだろう。
「どうやらこのモンスターは、私が狙いだったようです」
ケイト先生が他の先生にそう告げつつ、僕を空き教室へと誘導しようとしている。ゆっくりとこちらを視界に捕らえつつ、横に移動して行く。
一対一がお望みって事だな。
まあ僕としても、関係ない先生や生徒まで襲う気は初めからない。
そう考えると、壁をぶち破って先生が誘導しようとしていた空き部屋の方へと、自分から飛び込んで行った。
思わず気が焦ってぶつかってみたが、結構簡単にぶち破れたな。まあいいか。
一瞬、ケイト先生はそのまま逃げるか教室に入るかで迷った様子を見せたが、結局は教室の中へとやって来た。
まあもし逃げ出していたら、周りの先生もろとも攻撃を仕掛けるだけだったので、その判断は正しいんじゃないかな?
「どうやらあなたは、それなりに知能が高いようですね。私にどんな用事があるのかしら?」
先生はおそらく会話にならないと感じながらも、そう問いかけて来たのだろう。
「キュキュルル、キュキュルルキュ(わからないかもだが、僕らを弄んだからだ)」
こちらも通じないと知りつつ、こちらも先生の質問に答える。
あー、本当に自分の声が耳障りでうるさい。
先生は言葉を操れる相手でありながら、その言葉が理解出来ない悔しさに顔をしかめているようだ。
どれだけ考えたところで、意思の疎通は無理だろう。
「キュキュルル、キュキュルル・キュルル(そろそろ決着を付けうか)」
ケイト先生が理解するのを諦めたような顔をして、改めて臨戦態勢を取った。
ここからはお互い真剣勝負、もう言葉を交わす事もないだろう。
「全てを凍りつかせろ、アイスバーン!」
教室の前後に離れて対峙して始まった僕達の戦闘は、先生の一撃から始まった。
ケイト先生は教壇がある辺りに立っていたので、こちらは見下ろすような位置関係だな。
油断なく見ていたけれど、僕はケイト先生という魔法使いの実力を知らない。
故にまずは自分との実力差を比べておく事にする。
相手の強さを知らなければ勝てる相手か、きついのか勝てないのか、いつ逃げればいいのか何もわからない。
普通に考えれば、先生をしているくらいだから、強いのだろうな。
「キュ(盾よ)」
魔法の範囲から逃げながら、目の前に炎の盾を作り出し、先生の魔法を受け止めた。さすがに真正面から受ける気はない。
射線上に残した炎の盾と、氷の塊がぶつかるのが見えた。
どれくらいの威力があるのか見ていたところ、盾にぶつかった瞬間弾けた氷の塊は、そのまま蒸発するように気化して消えて無くなる。
うん問題なく防ぎ切れたな。
炎の盾は先生の氷の魔法で、わずかの損傷も与えられてはいない。
先生も結果を見ていたのか、表情がわずかに曇ったのがわかる。まだ最初の一撃でありこれが実力の全てだと思い込むと、手痛いミスに繋がりかねない。フェイクって可能性もあるしね。
だからまだ油断は出来ない。
少なくともケイト先生は、教師として生徒を指導する実力は有る魔法使いには違いないのだから・・・・・・
「キキュ(炎の槍よ)」
今度は僕の方から先生に向けて、矢などではなく炎で出来た槍を撃ち出す。
さすがに今までの矢では、威力が足りないだろうしね。ちょっと力を込めてみた。
「空気よ凍りつくせ、アイスシールド!」
すかさず先生が氷で作った盾でもって、槍を防ごうとする。
ケイト先生の方でも、こちらの実力を試しておきたいのだろう。
初めは自信があったのか、盾に隠れるように対峙していたのだが炎の槍が盾に接触する寸前、作り出した盾をその場に残したまま、転がるようにして槍の射線から飛びのく。
置き去りにされた氷の盾を見ていると、槍の直撃を受けた盾はものの見事に貫通し、なおかつ燃え上がって溶けてしまった。あれではコンマ何秒すら攻撃を阻害する役にたたないだろう。
今の結果だけを比べれば、あきらかに僕に有利な状況だ。
ちょっと優越感に浸りそうになったが、フェイントって可能性を考えたら無邪気に喜べないよな。
さてさて相手は教師であり僕はまだ自分の体に慣れていない新米、油断はするまいと心に誓い再びケイト先生と向き合う。
そんな僕の様子をじっと観察した先生は、半ば諦めたような顔をして声をかけて来た。
「普通のモンスターならこの結果から慢心して、一気に襲いかかって来るものです。ですがあなたにはまるで慢心というものが存在しませんね。あなたが冒険者であれば、間違いなく優秀な冒険者になり、いずれは英雄や勇者と呼ばれるような、歴史に名を残すような人物になったのでしょうね」
「キュルルキュルル・キュ(僕には、名誉なんか必要ない)」
「ああ何故かしら、あなたはそんなものには興味がないようですね。不思議とそれだけは理解出来た気がしました」
ケイト先生はその瞬間だけ、素の感情で笑った気がした。
やっぱりこちらが隙を見せるのを、冷静に待っていたようだ。
たぶん実力差は僕の方に有利っていうのは、あっているのだろうな。だがケイト先生が全力を出したっていうのは、まず間違いなく間違いだ。
奥の手なりもっと上級の魔法なり、何かしら手段を残しているのがわかる。
それでも、僕が調子に乗って隙を見せなければ、通用しないと判断したのだろう。さすが教師だけのことはある。
しばしお互いに反応を窺う。
だけどしばらくすると、おそらく先生は覚悟を決めたのだろう。
警戒を解いて、普通に僕と向かい合った。
まるで無防備だ。
冒険者とは常に生にしがみ付き、どんな時でも生き残ろうとする者達だ。
そんな冒険者の中にあって、ケイト先生は何か綺麗なものや正義とか純粋なものを夢見ている感じがする。
だからだろうか今この瞬間において、ケイト先生は何が何でも生き残ろうという執念が見当たらず、これまでの自分の人生を満足そうに振り返っているような感じがした。
さっきの自分のようだなって、不思議と似た様な気持ちも湧いて来る。
それでも僕は先生よりは生き足掻いたよ、強制力のせいで逃れ切れなかったけれど。
そして僕は、さあどうぞとでもいいたげな表情を浮かべる先生に対して向き直る。決着を付けよう・・・・・・
――――――
戦い終わってその後の会話・・・・・・By 教師陣
戦士科教師A「いや―それにしても、マジ死ぬかと思ったぜ」
盗賊科教師「いやいや、イフリートっていったらドラゴンに並ぶ最強種族じゃないっすか。あんなん俺らが敵う訳ないっしょ。本当にマジ勘弁して欲しいわ、ケイト先生よー」
戦士科教師B「あれ、元はスライムって本当ですか? もしそれがイフリートに化けるっていうんでしたら、あまりにも理不尽っていうもんでしょう」
戦士科教師盾「さすがにイフリート相手じゃ、盾も全然役に立ちませんでしたわー。俺死んだって思ったもんよー。今思い出してもよく生き残れたなって不思議でしょうがないぞ」
神官科教師「どうも狙いはケイト先生だったらしいですから、手加減されていたようですよ。よかったですね、本気のスライム君に相手をされなくて」
戦士科教師一同「「「え?」」」
盗賊科教師「それマジな話? 手も足も出なかったあの戦闘がお遊びだと? もう何してくれてんっすか、ケイト先生!」
戦士科教師B「私これからレイシアさんに指導して行く自信がありませんよ。科が違って今日程よかったって思えた事はありませんね」
戦士科教師A・盾「「だな!」」
魔法科教師「・・・・・・私彼女には才能がないって言って、学校をやめるよう言ってしまいました」
盗賊科教師「ご愁傷さまです」
魔法科教師「ねえそれって、確定事項なの? だって事実、初級魔法すらまともに使えなかった子なのよ!」
戦士科教師A「俺、これから落ちこぼれの子にも優しくしようと思う」
戦士科教師盾「ああ、俺もそうするよ」
魔法科教師「ねえ、私悪くないよね。ねえ。大丈夫って言ってよー」
盗賊教師「・・・・・・ご愁傷さまです」
魔法科教師「いやーー」




