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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
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1-2 召喚術師の少女

 ミノタウロスが完全に沈黙した後、しばらくの間そのままの体勢で呆然とした。


 僕が受けた命令は時間稼ぎ・・・・・・実際には倒しちゃったけれど。他に受けた命令はなかったので、その場で自分に何が起きたのか考える時間が出来た。


 スライムになってしまった事が原因なのか、記憶と呼べるものが酷く曖昧なのだが、確か僕はモンスターなどいない世界で普通に人間として生活していた気がする。


 そして記憶に強く残っている出来事は・・・・・・向こうの信号は赤なのに、自分に向かって突き進んで来る車だった。

 あー、思い返してみれば何って事もない。

 交通事故で死んで、このモンスター溢れる異世界にスライムとして転生してしまったって事なのだろう。


 普通こういう転生者って英雄とか、勇者とか言われる人に転生するものじゃないのか・・・・・・神様みたいな案内役なんかも見ていないぞ。

 異世界チートみたいなものを貰って何かしらやらかしたり、いろいろと活躍するものじゃないのか?

 あまりにあんまりな成り行きに、かなりの時間を呆然として立ち尽くしてしまった。足はないけれど・・・・・・




 そんな状態から抜け出せたのは、空気の流れが乱れたからだ。


 どうやらゼリー状の表面は、かなり敏感に空気の動きを感知出来るようだな。


 まあいいや、それよりも何者かがこちらに向かって近付いて来ているようだ。ミノタウロスなんてモンスターがいるのだ、他に何かしら出て来たとしても不思議ではないだろう。ファンタジーな世界だからな。


 警戒しながらおそらく何者かが潜んでいるのであろう方向に意識を向ける。

 別に特に意識しなくても周囲一帯は見えているのだが、あえて見ようと意識してみるとはっきりと見る事が出来るのがわかった。


 なんとなくで見えている周囲は、水中から見ているように少し歪んでいるので見えにくいのだ。

 それが意識して見ると結構くっきりして見える。


 このとき体の方向を、見たいと思う方向へ向ける必要はない。おそらくスライムに正面とかそういう概念はないのだろう。

 ある意味便利な体だよな~




 でもって意識を向けた先から恐る恐るって感じで顔を出したのは、まだ少女といってもいいかもしれない若い人間だった。

 質素なローブとねじくれた杖を両手で握り締めて、ゆっくりと部屋の中に入って来る。なんとも気弱そうな人だった。


 そして夢かファンタジーだって確信出来る、リアルではありえない髪の色。

 そう言えば自分が夢を見ているって考え方もあったな。まあこれ程はっきりとして迫力のある夢なんてありえないだろうが・・・・・・スライムの体の設定とかリアル過ぎて、とても夢の中とは思えん。


 さて少女は、部屋の真ん中でピクリとも動かなくなったミノタウロスに警戒しながらも近付き、本当に死んでいるのかどうか確かめるかのように、その巨体の周りを一周している。


 僕については特に警戒していないようだな。まあそれは当然なのか・・・・・・スライムだし。


 「本当に死んでいる? 顔が溶けているって事は、おそらくこのスライムが倒したって事で、間違いないのよね?」


 今だミノタウロスの体の上に留まり続けている僕に向かって、語りかけるように独り言のように呟く。いろいろと、納得がいかないような表情をしながらも、少女はミノタウロスから戦利品と思える素材などを回収し始めた。とはいっても少女の二倍はありそうな巨体だ。持って行ける戦利品などたいした量ではないだろうな。


 それにいくら牛とはいえ、肉は食べないだろう。それともこの世界では何でも食べるのかな?

 物語によっては人型のモンスターでも、食料として扱う小説なんかもあるからな~。さすがに人型のものは遠慮したい。


 そんな事を考えつつ見ていると、頭部にある角を抉るように回収しているようだった。

 見た感じ魔法使いっぽい少女だから非力だろうし、事実中々思うように回収出来ないようで、角を抉り出すのにはちょっと時間がかかりそうだった。


 この少女から敵意は感じないし、少し時間が出来て暇になったので改めて周囲を見回してみる。

 少女が冒険で使っているランタンが光源となり、部屋の中がよく見えるようになったからな。


 石造りの古代遺跡って感じの部屋だ。

 そこそこ広い部屋になっていて床は砂埃が積もっているけれど、部屋一杯にわざわざ円形の舞台みたいにされているところを見ると、ここで元々戦闘でもするように造られた部屋なのだと判断出来た。

 壁などに軽く模様が描かれていたのだろうが、ところどころで崩れてしまっているところからかなりの時間が経過している事が感じられる。




 「おいで!」


 回収作業が終わったようで、しゃがんだまま僕に向かって少女が左手を伸ばして来た。

 彼女のそのあまりにも短い命令にわずかな強制力が含まれている事を理解する。特に逆らう事もなく足を伸ばして核を移動させて、その手の上へと移動して行く。どっちにしてもこれからの事を考えれば情報が欲しいからな。


 それにやはりというかなんというか、薄々わかってはいた事だが、この少女が僕を召喚した主らしい。

 もちろん主である彼女に対して、攻撃する意思を向ける事が出来ないと本能が言っている。


 危うく殺されかけた僕としては殺すまでは行かないとしても、少しは痛い思いをさせたいところだったのだが、召喚された者の悲しさというか、やはり絶対服従なのかと思ってしまう。


 そんな事をつらつら考えている間に、少女は僕をそのまま抱えてその部屋を後にし、入って来たのとは違う通路へと向かった。




 びくびくとしながらほんとにゆっくりとした移動なので、ダンジョン探索は遅々として進まない。

 それでも途中の十字路でリザードマン一体をミノタウロスと同じように倒して次の部屋へと辿り着いたのは、さっきいた部屋から大体二十分くらい経った頃だろうか?


 こういうダンジョンや遺跡ならシーフとパーティーを組むのがセオリーなのだが・・・・・・何でこの少女はソロでダンジョンなんかに来ているのだ?


 不思議に思って聞いてみようと考えたのだが、声が出ない・・・・・・口や喉が無いから無理かなって思ってはいたけれど、やっぱり会話は出来ないか・・・・・・予想はしていたのだが、今の状況をいろいろ調べるうえで、喋れないっていうのはきついなー

 仕方ない、ここは大人しく状況を見守るかな・・・・・・でも本当に何で、遺跡に来ているのにシーフを連れて来ないのだ?

 シーフがいれば、こんなにびくびくしながら罠を警戒しなくて済むのにな・・・・・・




 さてさて辿り着いた部屋の中からは何かの気配が微かにあるからか、少女はじっと様子を窺う。目視で何もいない事を確認した後も、足元の石を投げるなどしてなかなか警戒をやめない。

 あー、モンスターだけじゃなくて、罠を警戒していたのか。そうすると部屋に入ったらいきなりモンスターが落ちて来るとか、扉が閉まって閉じ込められるなどもあるのかもしれないな。ゲームなどでは、そういう罠がよくある。


 少女なりにいろいろと試してみたのか、結構な時間を使って調べると、やっと納得して部屋の中へと入って行った。

 けれどその部屋には罠など存在していなくて、特に何事も起こる事はなかった。

 おそらく微かに残る気配は、既に討伐されたモンスターのものかもしれない。確証はないが、他にも冒険者がいるのだろう。それかモンスター同士が潰し合っているってパターンもあるが、死体が無いしね。


 部屋の中央まで進んだ少女は、よほど緊張していたのか座り込んで溜息をついていた。そんなに心配ならシーフと組んで来たらよかっただろうに・・・・・・何か事情でもあったのだろうか?


 ボッチとか・・・・・・




 まあそんな少女の事なんてどうでもいい。それよりもこのダンジョンはいったいなんなのだ?


 そしてこのモンスターがいる世界は何だ?


 僕自身がスライムなせいで声が出せないから、疑問に思っても問い掛ける事など出来なくて、何一つ情報を得ることが出来ない。


 おまけに今の僕は彼女に召喚されたからか、自由に動く事もままならない。まあ、死なないならもう少しこの少女の好きにさせるしかないのかな? いやさっき囮に使われたばかりだから油断は出来ないな。


 いろいろ考えていると、少女は部屋である程度休憩した後、さらに時間をかけてあちこちフラフラ歩き回った。

 出て来る敵は僕が倒して行く。

 そして気が付いたのだが、この少女は見た目魔法使いなのだが、どうやら魔法を使えないようだ・・・・・・おそらく僕を呼び出したって事は、召喚系魔法使いってところだろうな。いや召喚特化といった方がいいか?


 「どうやったら、ここから抜け出せるのよ!」

 (迷子かよ!)


 声は出ないが思いっ切り心の中でツッコんだ。


 ・・・・・・びっくりしたわー。突然召喚された僕なら仕方ないと思うけど、召喚主である主もまた迷っていたなんて・・・・・・


 こりゃいつ抜け出せるかわからないから、のんびりと行くしかなさそうだ。


 まあ自分には選択権すらないけれどね・・・・・・




 あれからどれくらいこのダンジョンの中を彷徨っていたのか、いくつか移動した部屋の中にリザードマンと呼ばれるモンスターがいた。

 けれど彼女が僕をリザードマンに投げ付け、飛ばされながら足を延ばして相手に取り付くと、ミノタウロスの時と同じように顔を覆って倒す。それを確認したら少女が戦利品を漁るという感じで探索は進んで行った。必勝パターンが完成したよ。


 しばらくそうやって探索していると気が付いた!

 この子、方向音痴なのではないかと!

 よくよく見ていると、分かれ道が来るたびに、右にばかり移動していた・・・・・・あー、主? お前、同じ場所をグルグルと回っているぞー


 こんなにも声が出せない事が苦痛とは! ツッコミすら出来ない・・・・・・いや別にそこまでお笑いに厳しくはないが。ひとこと言いたくなる。


 仕方がないので次の別れ道に来た時に、足を左の通路へと伸ばしてみた。


 紙などにマッピングなど出来ないので、ダンジョンの壁を溶かすなどして、目印を付けつつ少女を誘導して行く。

 あー、方眼紙が欲しいな。あれがあると、マップを作るのが楽になるのだよね~。ゲーマーの血が騒ぐな。


 途中最奥と思われる場所で石板を回収し、何度も現れるモンスターを全部僕が倒してそのまま進み続けると、ようやく外へと続くかと思われる出口らしきものが見えて来た。

 風の流れから多分外で間違いは無いと思うけれど、僕はこの世界の外を見た事がないのでなんとも判断のしようがない。




 「やっと出られた~」


 しかしそんな事を考えていると、少女は今までの慎重な足取りとは違って転がり出るかのように出口へと走り出した。


 ダンジョンを出て直ぐの場所は少しだけ空間がある森だった。後は崖があり、そこに洞窟の入り口があった。


 洞窟前の開けた場所に僕達はいて、奥は木々がうっそうと茂る木々のせいで、せっかくの外の光景がわからなかった。

 僕としては絶景でなくとも、それなりに世界観がわかりそうな景色が見たかったのだが、まあ今はダンジョンの外に出られただけでもいいかと考えておこう。


 一応空を見上げると青空が見え、種類自体はわからないが木があり森になっているところから、地球とそれ程環境が違う訳でもなさそうだ。よかった、変な色の植物ばかりとかじゃなくて・・・・・・




 「この子、結構役に立つわね」


 少女は僕を肩に乗せながら、そんな事を言う。まあスライムだし、使い捨ての駒って思われていたのだろうな。そんなことを考えているうちに、少女は森の中へと歩き出した。


 そして森を進むこと一時間。そこで思い出した! こいつ、方向音痴だった!

 木を避ける時にまたも右へ右へと流れて行くので、延々と同じ場所を彷徨い歩いているようだった・・・・・・


 勘弁してくれ・・・・・・それ程方向感覚に自信はないけれど、それでもまだましだと考え、足を延ばして何とか少女を誘導して行く。


 確か右にばかり移動して行く人がメンバーにいるのなら、なるべく左に行くようにすれば真っ直ぐ進めるとか聞いた事があったはず。バランスが重要だろうな。


 やがて辺りが真っ暗闇に包まれる頃になって、やっと森を抜け出すことが出来た。せっかく視界が開けたものの、夜じゃあ風景が見えないよ・・・・・・

 一応この世界にもちゃんと夜はあるようだな。月は見当たらないが・・・・・・おかげで真っ暗だ・・・・・・




 「はぁ~、やっと森を出られたわ・・・・・・ここって迷いの森だったのかしら?」

 (お前が方向音痴なだけだよ!)


 何だこれ。どうせならもっと優秀な主に召喚されたかったな。

 まあ、その時はスライムなんて、文字通り捨て駒にされていたかもしれないか。


 少女が枯れ枝を集めて火を起こし、野営の準備を進めている横で、そんな事を考えていた。


 「召喚、ウルフ! 見張りをしなさい」


 ワフ


 少女が狼を召喚して、見張りを命じた。


 「貴方は、敵が近付いて来たら、迎撃ね」


 休みは無しか?


 不思議と疲れというものも眠気も感じてはいなかったが、それでも一日中働き詰めってどうよ? 労働基準法違反で訴えてやりたい!

 はぁ、でも強制力が働いていて逆らえないかー


 まあ一人きりで見張りをしないでいいだけまだましと思っておこうと考え直し、狼の方へ意識を向けると狼はめっちゃ僕の事を見ていた!

 何んだよお前、ちゃんと見張りしろよ・・・・・・


 お互いに意思疎通出来ない者同士、ただ互いに見詰め合う事しか出来ない。なんて不毛な睨み合いか・・・・・・


 どれくらいそうしていたか、わんころなんか気にしないでいいかと多少ちらちらと様子を窺いつつも、真面目に見張りを続けた。




 ――――――



 森の脅威・・・・・・By ウルフ




 俺はここいらの森で最大規模の群れを率いるボスだ。その俺様としたことが、抗いがたい力に呼び出され、人間の小娘の召喚獣として使役される事になっちまった。


 しかもこの俺様をボディガードとして使おうっていうふざけた小娘だ。


 だがまあ呼び出されちまったものは仕方がない。それよりも俺様が言いたいのは隣のスライムだ。何でこいつと一緒に見張りをせにゃあならんのだ?

 スライムっていったら森の中でも最下層のぼんくらで、食う価値もない種族じゃねぇか・・・・・・


 その最弱の種族でこんなやつに負ける間抜けなどいやしないはずだ・・・・・・しかし目の前にいるスライムからは目を離したら食われそうな圧倒的な力を感じる。

 向かうところ敵なしの俺様としても、一瞬の油断も出来ない程だ。何だ、何でこんなとんでもない奴がこんなところにいるんだよ!


 ・・・・・・。


 小娘に見張りを頼まれた俺様は、最大の脅威から片時も目を離すことなく朝を迎えていた。


 「送還、ウルフ!」


 ああ、やっとこの恐怖から解放される・・・・・・


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