レ-7 バグと一緒にダンジョン攻略
午後の授業では魔法の実技をおこなうので、着替えて訓練場へと向う。
座学と違い苦手な授業なので、いつも以上に足取り重く感じる。それというのも、肩の上にバグがいるからだわ。
何故かバグには駄目なところを見て欲しくないって思う。
どうしてだろうか・・・・・・情けないところを見られたら、見捨てられると考えたのかもしれないな。
ただでさえ苦手な実技なのに、今日は集中力がさんまんなせいか、余計に失敗してしまったのが恥ずかしい。
でも召喚魔法だけはこんな状態でも普通に成功していた。
これだけは胸を張って誇る事が出来る。
しかしそんな私を、周りの生徒は疎ましそうに見ているのを感じた。
大丈夫、私にはバグがいるのだから。そう考えてバグの方を見てみると・・・・・・
「なっ、ちょっと・・・・・・バグが何で魔法使っているのよ」
バグの触手の先に小さな炎が出ていて、思わず声を上げてしまっていた。
しまったと思い慌てて口を手で押さえたけれど、既に周りの生徒達にも見られていて、ざわざわ騒がしくなる。
それに気付いたケイト先生が、こちらに向かって来るのが見えた。
誤魔化しようがなかったので、大人しく先生が来るのを待つ。
「皆さん、少し下がっていて下さい」
厄介な事になりそうで焦る中、バグを取り上げられたり引き離される事だけは避けなければと、心の中であれこれ考えていた。
結論から言えば、そんなに気にするまでもなかったんだけどね。
特別室に軟禁状態にされたりはしたものの、調べに来た調査団も所詮はただのスライムと馬鹿にするだけだった。
どうも元々真面目に信じていないようだった。
結局は何の変哲もないスライムだと判断して帰って行ったので、かえってこちらの方が飽きれてしまったくらいだわ。
偉い学者さんもいたのだろうに、バグの知性に気が付きもしないなんて・・・・・・さすが最弱と見下されたモンスターというよりは、人間という存在の薄っぺらさが見えた気がする。
バグが連れて行かれたりしないでよかったって思うんだけど、正当な評価が得られないのもまた、悔しいって感じる。
もしバグが人間に牙を剥いたとしたら、相当上級な冒険者でなければ返り討ちになるんじゃないかな?
それを無害で下等な存在だと判断するなんて、って思うと信じられなかった。
でも、私もそんな人間の一人なんだと思うと、何故か悲しくなった・・・・・・
調査団が問題無しと判断した事で、元通りの生活を送る事が出来るようになったので、ここぞとばかりにバグをどこにでも連れて行くようになった。
誰もバグのことを危険な存在、特別な存在とは見ていないので、咎められる事もない。それだけは気付けなかった調査団に感謝ね。どこからどう見ても、普通のスライムじゃないと思うんだけど・・・・・・
おかげで私はバグと一緒に生活出来て、毎日がとても充実している。
誰かと一緒に生活する事なんてお母様以外は知らなかったから、毎日がとても楽しかった。
これでお喋り出来たり手を繋いだり出来たら、どんなに素晴らしいかと考えると、それだけがちょっと残念かな。
そんな生活をしていると、次のダンジョン実習の日がやって来た。
「バグ、またダンジョンの探索が始まるわ。今度はブレンダも一緒に来ると思うけど、よろしくね」
返事が無い事はわかっているけれど、ついついバグに語りかける癖が付いてしまった。
親しい人や、友達がいない代償行為なのかもしれないけれど、気にならない。
バグからの返答はないけれど、私の言葉は理解出来ているみたいで、よく触手を振って反応を返してくれるのよね。
それがわかっているから余計に、いろいろと話しかけてしまう。
あきらかに人間並みの知能があるわ。
さて今回はダンジョンでちゃんとした結果を出したかった。
結果が出せたなら、夢見ていた冒険者に一歩近付く事が出来るのだから。
そういえば昔ほど必死になって、冒険者になりたいって拘っていない。
もし冒険者になれなくても、バグと一緒に旅をして行くのもいい気がするのよね。
なんとなくバグなら狩は得意そうだし、旅をしながら動物などを狩って、日銭を稼ぎながら旅を続けられそう。そう考えると、冒険者でなくてもかまわない気もする。
バグはミノタウロスを倒す事が出来るので、ボディーガードとしてはばっちりだし、なんとなく誰かに気兼ねしないで自由に旅を楽しめそうよね。ちょっといいかもって思っちゃった。
まあしかし、進路としてはやっぱり冒険者になるという目標を変えたくない。
新たな夢はバグと一緒に冒険をする事。その為にまずはこの実習でしっかりとした結果を出そうと気合を入れた。
実習日が発表になってその二日後の当日、私達はダンジョン前に集まっていた。
「レイシアさん。今日はバグの腕前、しかと見せてもらうわね」
「ええ、多分大丈夫」
ブレンダ・・・・・・冗談じゃなくて本気で付いて来るつもりだったのね。
いっそ忘れているか、以前の発言は気まぐれでそう言っていただけだと思っていたんだけれど、案外生真面目な人なのかもしれない。まあ、邪魔をしないのなら別に問題はないかな。
私は自分のやるべき事をするだけだわ。とはいっても、ほとんどはバグに任せるだけになりそうだけれどね・・・・・・
召喚術師ってこれでいいのかな? また疑問が増えた気がした。
学長からの話が終わり、参加していた生徒達がダンジョンに入って行く。
「では、レイシアさん。私達も行きましょうか」
「ええ」
ブレンダの挑戦的な言葉に促され、私達もダンジョンへと入った。
今回はバグが初めからどっちに行けばいいのか指示してくれたので、それに従って移動する。バグも気合十分なのかな? 自分から誘導するかのように、ノリノリで指示を出して来た。
ブレンダは私達の後を付いて来ている。たぶん手出しはしないって事なんだろうね。
ガコン
途中バグが触手を上げて止まれと指示して来たので止まると、石を投げて罠を発動させた。
このダンジョンにある罠は、新米用の罠なのでほぼ落とし穴だけみたい。しかもバグに罠があると教えられているうちに、私も何となく罠の存在に気が付けるようになっ来た。
というのも、この罠が素人にも避ける事が出来るような雑なものだったからなのだけれど・・・・・・
確かに言われて見てみれば、そこまでたいした罠でもなく、穴の形の切れ込みが丸見えになっていた。
ダンジョン内が薄暗くてモンスターも徘徊しているから、床だけを気にしていられなくて見落としてしまうみたいね。
わかってしまえば単純なものでも、新米の私達には難しかった。
まあパーティーを組んでいれば、罠の発見に集中する役割の人を用意したらいいだけで、普通はソロで活動するのが駄目なんだと思う。
このダンジョンは訓練用だからいいけれど、本物の遺跡は専門職でないと通用しないよね。前途多難だわ。
罠を通過して先に進むと、前方に部屋が見えて来る。バグはその部屋に向うようにと指示を出して来た。
部屋の中にはリザードマンが一体、私達を待ち構えているのが見える。
なので以前と同じで肩に乗っていたバグをそっと手に掬い取り、部屋に入る手前でリザードマンの方へと投げ付けた。
「ちょっ、貴方いくらなんでもそんな!」
剣を振り下ろすリザードマンを見て、ブレンダが驚いた声を出す。
私とバグにとってその動作は、リザードマン自身が自ら破滅へと進む動作に見えていた。実際にリザードマンはなす術もなく目の前で倒れて動かなくなる。
どのモンスターもバグを見れば、同じような動きをするわね。
バグを拾い上げて肩に乗せると、討伐部位の回収をしながらそう思った。
それよりバグは、モンスターをご飯にはしないみたいねって考えていると、ブレンダが感想を言って来た。
「確かリザードマンってそれなりに強いはずなのに、やけにあっさりと倒したわね。さすがにこれは予想外だったわ」
やっとバグの事を理解したのって、ちょっと誇らしい気持ちになる。何でか自分の事でもないのに嬉しかった。
その後もバグの活躍で、面白い程快適にダンジョンを進んで行くと、少し他の部屋よりも大きな部屋が見えて来る。
そしてそこには運命の出会いの引き金になった、ミノタウロスが待ち受けている事に気が付いた。
バグの指示はそこへ向かえというものだった。
ちょっと前でしかないその思い出を懐かしく感じていたら、バグの出した指示に反応するのが少しだけ後れてしまった。けれど、バグを信じて疑問を抱く事なく指示に従えばいい。多分上手く行く。
こちらに気が付き走って来るミノタウロスを目にして、ブレンダが嫌々って感じで震えているのがわかる。
それでも私はバグを信じると決めたので、いつも通りにバグの事をミノタウロスの前へと投げる。
よくよく考えるとブレンダって、バグがミノタウロスを倒すところを見に来たんじゃなかったのかな?
何度かモンスターを倒したバグを見たら、手順は同じってわかるのにね~
何を怖がっているんだか・・・・・・
「ちょっといくらなんでも正面からなんて、無謀過ぎるわよ!」
後ろでブレンダが思わずって感じで叫んでいたけれど、今は戦いに集中しておく。私に手助けするような事はないと思うけれど、バグを無視してこっちに来たら厄介だしね。
バグが振り回された斧をかわして武器の上に取り付いたのを確認し、大丈夫上手く行ったと確信出来て、その後は安心して見ていられた。
ミノタウロスはスライムがその攻撃で死んだとでも思ったのか、そのままこちらへと走って来たけれど、それを避ける気にもならなかった。
だって既にバグは腕を登り、頭部へと迫っていたのだから。
ミノタウロスも何か違和感を覚えたのか、途中で立ち止まり自分の肩に顔を向ける。
そこをバグに襲い掛かられ、四・五分くらいもがき苦しんだ後、今までのモンスターと同じく動かなくなった。ちょっとだけ生命力が強かったのか、長く暴れていたけれどね。結果は変わらなかったよ。
こっちに向かって迫って来るのは、迫力があったな・・・・・・そんな事を考えながら討伐部位の回収をしつつ、ブレンダとバグについて少し話しをする。
大体バグがミノタウロスを倒したって言っても信じてもらえないし、そもそもこうやって話が出来る相手がいないので、なんとなくお喋り出来る事が嬉しかったりする。
今ならいろいろとありえないと思える事も、信じて意見なども言い合えるしね。
大体私も、実際にミノタウロスを倒すところを見るのは初めてだったから、同じ視点で話し合えた。今でも信じられない気持ちの方が大きいかも。
そんな事をブレンダと話し合っていると、授業の最中にバグが魔法を使った事を指摘された。
そういえば私も授業以来、バグが魔法を使っているところは見た事がなかったよ。
じゃあ次は魔法を使ってもらおうって話しになって、移動を開始した。
――――――
いろいろと納得がいかないわ!・・・・・・By レイシア&ブレンダ
「ミノタウロス・・・・・・やけにあっさり倒したわね」
「今更だけどブレンダ、バグは凄いんだよ?」
「わかっているわよ。実際にこの目で診たんだから、今更疑ったりはしないわよ。でもね、どうしても信じられないの。わかる? 子供でも踏ん付けて倒せるスライムが、ベテランの上級冒険者じゃないと倒せないって言うミノタウロスを倒すのよ!」
「凄いね~」
「確かに凄いけど、そうじゃない! 非常識なのよ」
「わかる。でも呼吸しないで生きていられる生物って、魔法生物くらいじゃないの?」
「あれは魔法生物って名称にはなっているけれど、正確には生き物じゃないわ。違うそうじゃなくてね。実力差の話をしているのよ」
「だから力で対抗するんじゃなくて、いろいろ工夫したんじゃないの?」
「あーうん。確かに工夫は大切よね」
「だからバグは凄いんだよ!」
「あれって工夫でどうにかなるようなものかしら!」
「凄いスライムなんだよ!」
「はいはいそうね。そういう事にしておきましょう。規格外過ぎて、なんとも言いようがないわよ」




