表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア 過去から現在へ
17/39

レ-6 レイシアとブレンダ

 「うーん、おはようー」


 マントに包まっていたとはいえ、野宿だったので体があちこち痛かったけれど、気分的にはスッキリとした目覚めになった。やっぱり誰かが一緒にいてくれるっていうのはいいね。

 男の人だと、また違った心配があるんだけれど・・・・・使い魔にはそういう心配も必要ない。


 見張りをがんばってくれたウルフに、ありがとうという気持ちを込めながら送り返す。申し訳ないけれど、スライムだけはそのまま一緒に行動してもらおう。


 「送還、ウルフ!」


 さて、後は学校へ帰るだけなので、しっかりご飯を食べようと保存食の干し肉を取り出して齧っていると、スライムが食べたそうにしていた。


 そういえば、この子だってお腹くらいすくよね。

 干し肉に触手を伸ばしていたので、多分食べたいって意思表示だと思う。


 「うん? あなたも欲しいの? 仕方ないわね、一つだけだよ?」


 別に断る理由もないので、干し肉を取り出して渡すと、触手で器用に受け取って体内へと取り込んでいだ。

 硬い干し肉を、丸々溶かしている。私達が食べる時は、薄く削ってしっかり噛んでいるのに、いいよねー


 しかしこれを見て、やはり普通のスライムでは無いんだなと思う。

 普通のスライムだとしたら、金属だろうが土だろうがご飯と考えて何でも食べるはずなのに、この子はちゃんと人間の食料になったものを、ご飯と認識しているのだと思えた。

 でもある意味、何でも食べてくれた方が食費などかからず助かるのだけれど・・・・・・


 ますますただのモンスターと思えなくて、この関係は主従関係と言うよりはパートナーが一番近いんじゃないかなって考えてしまう。

 主と使い魔でなく、対等な関係こそが私達には相応しいような気がした。




 食事が終わると早速町の方へと歩き出しながら、もし本当にパートナーとして一緒に冒険出来たのなら、どんなに楽しいかってそんな事を考えていると、お昼頃に学校へと辿り着く。


 なぜか門番さんだけは、気軽に話しかけてくれるんだよね。話の内容はそれとなく冒険者をやめるようにって、言っているみたいだけれど・・・・・・心配してくれているのだけはわかった。


 余計なおせっかいだけれど、そこだけは嬉しかったりして邪険に出来ない。


 さてさて学校に着いて直ぐにケイト先生に報告したんだけれど、やっぱり良い評価はもらえずちょっと複雑。これでも前回よりはちょっと早く帰れたのにな~

 でも以前程悔しいとか、惨めな気持ちにはならなかった事が、少し不思議に感じられた。


 なんていうのか、焦りみたいなものが無くなったような気がする。多分この子が来てくれた事で、心に余裕が出来たのかもしれないな。

 その証拠に、女子寮へと帰る道すがらすれ違う生徒達に陰口を言われても、今までのようにざわざわ気持ちになったりしなかった。他人の評価なんて、まるで気にならない。


 逆に今の私は、これからの冒険が楽しいものになるという予感を感じて、とてもウキウキした気分だった。




 部屋に帰って来ると冒険の疲れと、野宿したとはいえやっぱりどこか緊張していたのか、しっかりと寝られなかったからなのか、そのままぐっすりと眠ってしまった。


 気が付くとそのまま翌日まで寝てしまったらしく、朝起きるとスライムが触手をゆらゆらと揺らしているのが見える。

 おはようの挨拶かもしれないね。ちょっと和むな~


 それを見詰めながら、やっぱりこれから一緒に冒険するパートナーなら名前が欲しいなって思い、何が良いかなって考えてみる。


 「バグにしよう。貴方の名前は、今日からバグね」


 名前を付けてあげると、触手をめい一杯揺らして喜びを表現してくれる。なんだか私の言葉にいろいろと反応を返してくれるのって、可愛らしいと思う。


 モンスター相手に可愛いって自分でも変かもしれないと思えるけれど、今まで冷たかった生徒達と比べるとやっぱりモンスターであってもホッコリ出来て安心する。


 さて、お腹も空いて来た事だし、着替えて食堂で美味しいものでも食べよう。さすがに保存食は食べ飽きたわ。


 次のダンジョン実習までにまた一杯勉強して、今度こそちゃんとした評価をもらいたい。今回の冒険で感じた事や改善したいところなどを勉強し直したいしね。




 心機一転、新たな目標も出来た事だし、まずはご飯を済ませよう。


 食堂に行くと、いつものようにパンとおかずをトレイに乗せて行く。

 するとバグが触手を伸ばすので、食べたい料理を選ぶのを不思議に思いながらも取って行き、テーブルまで運ぶ。そういえば、誰かと一緒にご飯を食べるっていうのも、久しぶりかもしれない。


 学校に来る時は、一杯友達とか出来て、毎日楽しく過ごせるんだって思っていたのにね。

 現実は上手く行かないな。まあそれも昨日まで、これからはバグが一緒にいてくれるんだから楽しく過ごせるでしょう。


 それにしても今の行動は、まるで人間の料理の味を知っていて選んでいるみたいね。バグの知識って一体、どこから来ているのかな・・・・・・

 ひょっとして過去に人間と過ごした事があるとか? そんな訳無いか・・・・・・


 席に着くと、これから食事だとわかっているかのように肩からテーブルの上に降りたので、バグの前にこの子自身が選んだ料理が乗ったお皿を置いてあげる。

 するとそこはさすがにスライムなんだなって思える微笑ましい動きで、お皿に覆い被さってご飯を食べ始めた。結構こういうのを見ているのも面白いかもしれないわね。


 普段スライムをじっくり観察したりする事なんて、なかなか無いものね。




 「レイシアさん、何でそんなスライムなんかにご飯なんてあげているの? もったいないからさっさと送還しなさいよ」


 突然名前を呼ばれてちょっとビックリしながらテーブル越しに正面を向くと、ブレンダが立っていた。

 彼女は私と同じ魔法科の同級生なんだけれど、今まであまり関わった事がない生徒だった。


 私と違って彼女は教室では派手で目立つ生徒で、家柄だけでなく魔法の実力に整った容姿で、みんなのまとめ役のような存在だった。


 今まで業務連絡のようなやり取りしかしてこなかったのに、何故突然話しかけて来たんだろう?

 そんなにバグの事が気にいらないって事なのかな?


 ブレンダはそのまま空いていた正面の席に腰を下ろすと、持って来た料理に口を付けつつ、こちらからの回答を待っているみたいだった。


 「別にいいじゃない、私の勝手でしょう」


 なんとなくバグが馬鹿にされるのは面白くなくて、きつい口調で言い返してしまう。




 その後軽く言い合いのようなやり取りをしていると、バグは食事を終わらせたようでお皿の中でプルプルと震えていた。

 それを見て、やっぱりバグは特別なんだという思いを強める。


 この子は皿を食べずに、お皿に盛られた料理だけを綺麗に食べていたわ。

 つまりバグの中ではお皿はご飯ではないと認識しているのだと考えられる。


 これはそこらの一般的なスライムではありえ無いという証拠よね。命令されたのだとしたら、こういう結果になったとしても不思議は無いんだけれど、バグの場合は自発的にしているんだもの。


 ブレンダの相手をしながら自分も食事を続けて、たまにバグの様子を見ていると、さっきまでプルプルしていたのが急に皿の中で平らになった。


 何かあったのかなって思って注目していると、ブレンダも興味を持ったのかバグの事を見ているのがわかった。


 しばらくの間そのまま変化が見られなくなって、ひょっとして体を維持出来なくなったとかじゃ! って考え付いた時、再び動き出した。

 触手を伸ばして、ブレンダの皿に乗せられていた飾りの葉っぱを持って行くと、自分の上に乗せてそのまま反応しなくなる。何か異常があったとか、そういう事情ではないみたいね。

 葉っぱが食べたかったとかそういう事でもないみたい・・・・・・まだバグの事は、わからない事だらけだわ。




 その後バグには特に変化がなくて、なんとなく会話も終わり食事を続ける。


 いくらスープがあるとはいえ、パンが固いから食事には時間がかかる。別にそれ程時間が差し迫っている訳でもないので、よく噛んで食べていく。


 すると、通りかかった男子生徒がバグを見てスープと勘違いし、バグを食べようとしたんだけれど・・・・・・スプーンをバグの体に突き立てたところを逆に台にして登られ、その勢いのまま首に巻き付いたのを見て始めて怖いと感じた。

 隙を見せた男子生徒はバグに喉を圧迫されていたのだから・・・・・・


 今のバグの行動は擬態っていわれるものに良く似ている。

 確か授業で習ったモンスターの一部に、擬態して襲い掛かって来るものがいると習っていた。

 おそらく今見た行動が、そういう擬態からの奇襲って攻撃方法だよね?

 日常生活の中に紛れ込まれてしまえば、警戒しろって言う方が酷というものじゃないかな・・・・・・少なくとも今の攻撃を避ける事は、私には出来そうになかった。




 スライムは最弱のモンスターなのに、知能を持つとここまで恐ろしい存在になるものなんだね。おそらく私のよく知っているスライムは、知能が無いタイプなんだと思う。

 それに対してバグは知能を得たスライムなんでしょうね。


 これは召喚したからなのかな? それともどこかにそういう知能の高いスライムが、実在しているのかな・・・・・・


 さっきはちょっと怖いって思ったけれど、少なくとも召喚主として繋がっている私には、バグが危険な存在ではないと感じられた。


 さっきの擬態した悪戯も、暇潰しのお茶目なんだと思う。

 この子は妙に人間っぽさがあるスライムで、なんとなく害意があった訳じゃないっていうのが伝わって来た。

 それはそれで困った性格っぽいけれどね。




 食事が終わり、ブレンダを部屋に案内してバグが優れた存在である証拠を見せてみたけれど、やはり信じてはもらえないみたい。

 まあ私もいきなりスライムがミノタウロスを倒すと言われても信じたりはしないし、証拠として討伐部位を見せられても変わらず疑ったと思う。

 それでも、信じてもらえないという事は悲しいと感じた。


 でも今の私にはバグがいるから、誰も信じてくれなくてもいいかとも思える。誰か一人でも信じてくれる人がいれば、それでいいかもしれない。


 しかしブレンダはそこで終わりにしないで、次の機会には一緒にダンジョンへ付いて来ると言っていた。

 何故彼女は嘘だと決め付けて離れていかないのだろう?

 本当かどうかを確かめたからって、彼女が得する事なんてないのに。


 今までたいして関わり合いにならなかった間柄なので、彼女が何を思い考えているのかわからなかった。




 その後はバグを連れて一緒の魔法の講義を受けたりする。


 本来ならば送還しなければいけないのだけれど、また召喚に応じて来てくれるのか確信が持てなくて、送還する事がためらわれた。そもそもバグを選んで召喚出来るのかもわからない。

 一度送還してしまえば、それらのリスクを負う事になりかねなかった。


 もしバグが私と友達になってくれれば、また召喚に答えてくれるのだろうか?


 完全なランダムだったとしたら、もう二度と出会う事は出来ないかもしれない。

 授業を受けながら、送還しない言い訳ばかり考えていた。


 唯一の味方。主従関係を結んでいるから絶対に私の事を裏切らないパートナー。

 でも何も命令など出さなくても、バグは今だに肩の上に留まり続けてくれている。


 やはりこの子は手放したくないと考えてしまう気持ちを、私は止める事を出来そうになかった。




 ――――――



 ブレンダ参上!・・・・・・By レイシア&ブレンダ




 「ブレンダ。登場おめでとうー。ドンドンパフパフ~」

 「初めまして、ブレンダ・ラングローズよ。さあ跪きなさい! おーほっほっほー」

 「・・・・・・ブレンダってそんな性格だったかな?」

 「レイシアさんこそ、何よその出だしは」

 「何となく? 初ゲストが嬉しくて?」

 「まあいいわよ。それより先に進めましょう。何を話せばいいのかしら?」

 「バグについて!」

 「そうねえ・・・・・・はっきり言ってよくわからないわね。ああ、一つ言えるとしたら、敵対だけはしたくないかも」

 「何だかんだと許してくれそうな感じだけれどね」

 「それは貴方だからよ。私とかたまに寒気がするもの・・・・・・あのスライム、絶対ノーマルスライムじゃないわよ」

 「じゃあ何?」

 「デーモ・・・・・・いえ、エンジェルスライムかしら!」


 しきりに私の後ろを気にしているみたいだけれど、今ここにバグはいない。

 事実、振り返ってもバグはいなかった。バグはどこかに遊びに行っているはず。


 「そんなに焦って、急にどうしたの? 特に何もないみたいだけれど?」

 「き、気にしないで!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ