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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
サイド:レイシア 過去から現在へ
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レ-3 迷子のレイシア

 バットがいた場所をちらりと見ながら軽く食事をとり、素早く移動の準備を整える。


 その後私は森を半日程かけて抜けると学校のある町まで帰って来た。


 ただの実習のはずが、かなり長い冒険になっちゃったな。


 次からは何があってもいいように、万全の準備をしておこう。特に食料!

 もっと多くの携帯食料を持って行った方がいいみたい。


 「レイシアちゃんじゃないか。いつまで経っても帰って来ないから学校ではモンスターにやられたって大騒ぎしていたぞ。何だ、迷子にでもなっていたのか?」


 町に入る時に身分証を見せようとしていると、門番のランドがそう声をかけて来た。

 学校で成績が悪いからなのか、門番のおじさんにまで名前が知られているみたい。でも学校と違うところは、馬鹿にしたり見下したりしてこないところね。

 だからといって嬉しくもなんとも無いけれど・・・・・・


 どうせ名前を覚えられるのなら、有名冒険者になって覚えられたかったな・・・・・・

 そんな事を考えながら、私はおじさんに言い返した。


 「失礼ね、冒険者が迷子なんかになる訳ないじゃない」

 「そりゃそうだな。何だ、罠にでもはまってダンジョン内をさまよっていたのか? まあ早く帰って、先生達を安心させてやりな」

 「言われなくても。じゃあこれ身分証」

 「よし、確認した。がんばりなよ」


 学校では他の生徒達と会話する事もあまりないので、門番のおじさんの声を聞くと、なんだか帰って来たんだって気がしてホッとしてしまう。


 学校はもう私にとっては帰る場所になっているのかもしれないわね。




 「レイシアです。ただいま帰還しました」

 「レイシアさん、無事でしたか・・・・・・。とにかくお入りなさい。詳しく話を聞かせてもらえるかしら?」

 「はい、失礼します」


 お茶が出され、それを飲みながらダンジョン内での行動の全てを、ケイト先生へと報告する。温かい飲み物が体に染み渡るように感じて、緊張がほぐれて行くような錯覚を覚える。


 「やはり一人での探索は貴方にはまだ早過ぎますね」


 今回の実習で、思っていた以上の時間がかかり過ぎたせいで、先生を不安にさせてしまったみたい。

 このままじゃあ実習を受けさせてもらえなくなると考え、必死にお願いする。


 「ケイト先生、私はもう冒険者になるしか生きて行ける道がありません。がんばからどうか実習を受ける許可をください」

 「では、引き続きパーティーは探しなさい。それとダンジョン内での行動について、もっと勉強をしてもらいますよ」

 「わかりました」


 何とかダンジョン実習を受け続ける許可はもらえた。


 しかし先生に言われるまでもなく、今のままでは駄目だという事も自分ではっきりとわかっていた。




 それからしばらくはダンジョン内で出来る事、気を付ける事などいろいろな知識を学んでいった。

 次のダンジョン実習までの間に少しでも知識を詰め込んで、今回のような無様な結果だけは避けないとね。


 ようは他の生徒の後をこっそりと付いて行くだけで十分なのだ。それさえ出来れば実習をクリアする事だけは可能なはず。

 後を付いて行くだけでは実力は付かないと思うが、今はコツコツと出来る事を増やして行くしかないわね。


 そしてあっという間に一週間が過ぎ、次のダンジョン実習の日がやって来た。この実習が私の人生の転機である事も知らず、その一歩を踏み出す。


 今回のダンジョンでは、なるべく生徒達の姿を見失わないように出来るだけ距離に気を付けての移動を心がける。

 最初のうちは上手く行っていて、おそらくはダンジョンの半分は何の問題もなく進む事が出来たと思う。


 しかしやはりというのか、ダンジョン探索というものは早々予定通り行く事はありえないみたい。追跡していた生徒の後ろ、その私との間にある隙間に巡回していたと思われるモンスターが割って入って来た。

 しかもそのモンスターに気付かれてしまい、襲われる事になってしまった。前回と同じパターンだけれど、こればかりは仕方ないかもしれない。




 モンスターの種類はリザードマンといい、初心者の冒険者が中級になる為の最初の障害ともいえる相手でもあり、ゴブリンすらまともに倒せない今の私では、まともに対峙する事も叶わない相手だった。

 直ぐに勝てない相手だって理解出来たので、その場を離れる事にする。


 初動でリザードマンとは距離を開けたけれど、残念ながらリザードマンが追って来ている事は、背後から聞こえて来る足音で分かってしまう。ヒレのある足なのに、意外と足が速いわ。どうしても引き剥がせない。


 リザードマンと私の身体能力の差ではいずれは追い付かれそうなので、苦肉の策として近場の部屋の中へと飛び込む事にする。


 このダンジョンは学校が造った擬似的なダンジョンらしいので、巡回モンスターは部屋に、部屋の中のモンスターは通路に、それぞれ移動する事を禁じられているという秘密をケイト先生より教えられていた。

 これは本来生徒には知らせない事らしいけど、私はモンスターとまともに戦う事が出来ないので、安全確保の為に教えてくれた緊急処置だった。

 ただ、部屋に入るという事は部屋の中のモンスターとの遭遇を意味する。だから本当に緊急措置でしかない。


 部屋に入って直ぐ、別の通路を探してそちらへと走り抜けようと考えたのだったが・・・・・・




 「ミノタウロス・・・・・・」


 その部屋には、絶望という名の悪魔がいた。


 このダンジョンのボスともいえるモンスター。初心者では絶対に勝てない相手。


 ミノタウロスは飛び込んで来た獲物を見て、いたぶるかのようにゆっくりとこちらへと向って来た。


 動揺し呆然とそれを見ていた私は、ハッとして苦し紛れに召喚魔法を使っていた。


 「召喚、スライム! 時間を稼いで!」


 この一週間でいろいろ対策を練って来たおかげで、とっさに囮を召喚出来たんだと思う。


 ただ、おそらくは何の役にも立たないと理解しているけれど・・・・・・ほんの少しでも手間取ってくれたら・・・・・・


 なぜその時バットではなく、スライムだったのか。それは私にもよくわからない。

 ただ召喚したスライムが少しでもミノタウロスの足を止めてくれるように祈りつつ、リザードマンがいない通路へと走る事だけを考えて足を動かし続けた。


 スライムで時間が稼げるとは思えなかったけれど、怖くて後は見れなかった。


 バットでもスライムでも、ミノタウロスの前に出てしまえばおそらく一瞬で殺されてしまう事は理解していた。しかし、その一瞬を稼いでくれれば通路まで辿り着く事が出来るかもしれない。

 そのわずかな可能性という奇跡を祈り、そしてほんとに奇跡を手にいれて無事に通路へと抜け出す事に成功した。


 そのまま信じられないという想いとともに部屋から遠ざかる。

 さすがにあの部屋にはもう戻れないよね・・・・・・




 予定が大幅に狂ってしまったけど、今はまだ生きている事に感謝しつつこれからの事も考えないといけない。


 まずは冷静になれる場所を見付けて、気持ちを落ち着けるのが先だと判断した。

 いつ死んでもおかしくもなかった危機をやり過ごし、今だ心臓がバクバクと波打っている状況では、まともに今後の事を考えるのも難しいわ。


 歩きながら深呼吸を繰り返すうちに少し冷静さを取り戻していく中、不思議な感覚を味わう。


 「使い魔がまだ生きている?」


 役目を終えた使い魔は、必ず送還するように気を付けている。


 先生に送還までおこなって初めて完成された召喚魔法だと教わっていたからだけれど、それでいくと今私が呼び出している召喚モンスターはスライムだけのはずだった。


 本来召喚魔法が使える人は、使い的感覚が繋がっていて、使い間が見ているものを見ることが出来たりする。でもまだ未熟だからなのか、私は感覚の共有が上手く出来なかった。

 せめて視界が共有出来ていたら、バットを召喚して偵察とか、役に立つ事はいくらでもあったんだけれどな・・・・・・出来ないものは仕方がない。


 そんな訳で、囮として出したスライムしか、召喚していないはずだった。

 そしてそのスライムは、ミノタウロスの行動を一瞬でもいいから妨害する為の捨て駒として召喚したものだったはず。

 おそらくはその一瞬ですらまともに稼ぐ事が出来なくて死ぬはずだったスライムが、まだ生きているのがわかる。




 スライムが生き残っている事はわかるけれど、今どういった状況なのかはさっぱりわからない。

 こればかりは見に行って見なければわからないよね?


 自然と足が止まり、ミノタウロスがいた部屋を振り返った私をさらに混乱させるように、力が流れ込んで来たのがわかった。


 今の感覚。


 自分が急に強くなったような、成長したような不思議な感覚。召喚者と、使い魔を繋ぐ何かを通じて流れ込んで来たその力に勇気付けられるように、私は再びミノタウロスのいた部屋へと歩き出していた。


 「まさか?」


 ふとさっきの成長した感覚に、召喚魔法のさまざまな仮説の一つを思い出した。


 召喚された使い魔がモンスターを倒すと、召喚主も使い魔と同じように経験を積むことが出来る。


 剣や攻撃魔法などと違い召喚魔法の習熟は、ただ召喚し続けるだけではあまり成長しないって話だった。

 しかし使い魔でモンスターを倒すと、召喚魔法は成長する。だけどバットやスライムで倒せるモンスターがいない。

 それがバットとスライム以外呼び出せない理由になっていた。ひょっとして・・・・・・?




 召喚したスライムは、何も命令を与えていないので、どうやら今はじっと待機しているようだった。


 待機というか、気が抜けた感じかな? スライムの想いのようなものが伝わって来る。


 スライムがミノタウロスを倒すなんて少しも想像出来なかったので、恐る恐る通路から部屋の中を覗き込んでみると・・・・・・そこには倒された、強敵であったはずのミノタウロスと、その上に乗ったままボーとしているスライムを確認出来た。

 スライムは召喚主というか、主人というか私の事に気が付いているようだけれど、特に反応してはいないようね。




 子供にすら負けると言われているスライムが、ミノタウロスに勝てたという事がどうしても信じられない。

 でも勇気を出して、部屋の中でピクリとも動かなくなったミノタウロスに警戒しながらも近付き、本当に死んでいるのかどうか確かめてみる。


 注意深くその巨体の周りを回っておかしな所がないか確認してみると、死んだ振りって感じではなさそうね。だって呼吸の為の動きもまるでなかったから。


 うつ伏せに倒れたまま、後頭部にスライムを乗せて動かないミノタウロス。ちょっとわかりにくいけれど、呼吸は確実に止まっていた。




 「本当に死んでいる? 顔が溶けているって事は、おそらくこのスライムが倒したって事で、間違いないのよね?」


 信じられなくて部屋の中を見回して、他の冒険者がいるのでは? ひょっとしてミノタウロス以外のモンスターがいるとか?

 そんな可能性も考えてみるものの、そんな痕跡すら見付ける事が出来なかった。


 状況から判断して、このスライムがミノタウロスを倒した事実は確かだと思う。いや、信じられなかったのだけれど、そうとしか考えられなかったといった方が正しいかな?


 どうやったらスライムが、中級の冒険者ですら下手をすればやられてしまう強敵に勝ったのか、疑問が残るもののとにかくこのスライムに希望を見出していた。

 ドラゴンのような強力な使い魔ではないけれど、ミノタウロスを倒せる程の実力を持っているのなら十分だわ。


 これからの冒険を楽しみにしながらも、私はミノタウロスの討伐部位を回収する事にした。まさか始めて討伐した証拠を回収する相手がミノタウロスになるなんて、予想もしていなかったな~




 これがマグレでないのだとしたら、この子がどうやってモンスターを倒したのかを調べる必要があわね。

 もし本当にこの子に相応しい実力があるのだとしたら、これからこのスライムと一緒に冒険を続けて行く事になるのだろう。だから私は、この先一緒に冒険して行く仲間のスライムに語りかける。


 「おいで!」


 討伐部位の回収も終わった事だし、ここに用事はもう無い。


 これからはこの子の事をもっとよく知らないと駄目ね。そう思いつつスライムに手を伸ばす。


 スライムは伸ばした私の左腕を伝い、肩へと登るとその場所に落ち着いた。

 初めに触手を伸ばして来た時は、さすがに少し気持ちが悪いかなって思ってしまう。べたべたしていそうだしね。

 でもなんとなく肩の上を定位置として落ち着いたスライムを見ていると、それ程わるいものではないかなって思えた。


 なんと言ったらいいのかな。なんとなく愛嬌がある気がしないでもない。


 そんな事を考えつつ、先に進む事にした。




 ――――――



 バグ登場回!・・・・・・By レイシア




 前回に引き続きまた私って事は、毎回コメントするのかしら?


 でも今回はバグの活躍回! スライムでありながらミノタウロスを倒しちゃうなんて、まさに英雄的デビューじゃないかしら?

 えっ? 違う? スライムの時点で英雄じゃない?

 そうかなー。このまま数々の冒険を私達が経験して、いずれは魔王に匹敵するモンスターなんかをスライムが倒しちゃうかもしれないじゃない!


 そうなったらさすがにスライムだからなんて、言っていられなくなるわよ!


 ああ早く正式な冒険者になって、世界を旅したいな~


 有名になったら何て呼ばれるのかしら? やっぱりスライム使いとか呼ばれるのかな? 今のうちにコンビ名を決めておいた方がいいよね!


 あ~。こんな時にこの子とちゃんと会話が出来ればいろいろと相談出来るのに・・・・・・お喋り出来ない使い魔は、やっぱり不便だわ・・・・・・


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