1-11 闘技場のスライム
そして翌日のお昼時、僕達とブレンダがご飯を食べているところへ、ケイト先生がやって来た。
「食事中ですがそのまま聞いてください。三日後の午後一、第一闘技場でモンスターと戦ってもらう事になりました。万一の危険がないよう一応の警備は付けますが、基本手出しはしない方針です。これでいいですね?」
そう確認しつつ、これ以上の譲歩はしないぞって感じだな。だがこちらとしても、特に問題ない。
頷けないので、手を伸ばして縦に振った。
「多分わかったと言っていると思います」
おー、だいぶ意思疎通が出来るようになって来たな。
異世界でも通じるハンドサイン! まあ、そこまで大げさな合図でもないけれど、なせばなるって感じだな~
ちょっと異世界にも慣れて来たって思った瞬間だった。
「では、準備などあるようなら、三日後までに整えるようにしてください」
ケイト先生はそういうが、僕達の方というか僕に特に準備する事はないな。基本的に体一つだ。
そのまま僕達は、三日後まで通常の日常生活を過ごす。
そしてケイト先生に指示された三日後の昼食の時間。僕らは檻に入れられて闘技場方面へと運ばれて行くモンスターを見ながら、ご飯を食べていた。サーカスの猛獣みたいだ。大変そうだな~
僕とレイシアに特に思うところはなく、緊張も何もしていない。
まあ戦うのは僕だけだし、レイシアにいたってはほんとに緊張する事なんか無いのだろう。
のんびりとご飯を食べている。
いつもなら午後の実技の授業を受ける為に訓練場へと向かうが、今日の授業は自習になっていて、見学したい人は闘技場に見に来る事が出来ると先生達に言われていた。っといっても、生徒の半分も闘技場には来ていないけれどな!
スライムとモンスターの決闘。
まあ誰も別段興味が沸かないのだろう。
本当の物好きというか暇潰し? 興味本位とか冷やかしのような生徒達が数人、観客席からこちらを見ている。
真面目な表情をして観戦しているのはブレンダと、優等生と思える二・三人の生徒と、先生方だけだった。
まあ、こっちもあんたらに興味ないからどうでもいいけれどね。
「それではレイシアさん、準備はいいですか?」
昼食後、時間通りに第一闘技場へとやって来た僕達は、準備が整うまで闘技場の中央でボーっと立って待っていた。準備って言っても、モンスターが入れられている檻を運ぶだけなのだが、中に入っているモンスターが暴れるので、ちょっと時間がかかっているみたいだな。
そりゃそうか、調教された獣とは違うので普通に暴れる。
とはいってもほとんどの準備は出来ていたようで、檻が目の前に運ばれると声がかけられた。
レイシアの担当教師であるケイト先生が、取り仕切るようである。
僕が手を出して縦に振ると、それを受けてレイシアが先生に返事をする。
「いつでもいいです、先生」
「それでは開始します!」
そう言うと先生は檻から離れ、それにともないサポート役の戦士科の先生によって檻の扉を開放された。
それとほぼ同時にこちらに向かって飛び出して来るモンスター。
レイシアはダンジョンの時と同様、僕をモンスターへと投げ付ける。
見学していた生徒達から、え? 何しちゃっているのって感じのざわめきが聞こえて来た。
スライムを敵の目の前に放り投げる行為は、誰の目から見ても何でって思わせるようだ。視界の隅にチラリと見えたブレンダが、ニヤリってするのがわかった。
どうやらみんなの反応を見て、やっぱりそうよねって感じているみたいだ。
ブレンダも初め、そんな反応だったよな~
かくいう僕自身、ここまで敵に殴りやすいよう投げられると、信頼していると言われるよりはどうぞ殺してくださいって言われているような錯覚を覚える。こっちはこっちで初めは戸惑ったよ。
今ではどうにでもなるって信頼されていると思うのだが、初めは死んだら死んだでどっちでもいいのかとか、勘繰ったりした。
さて向かう先で待ち構えるモンスター、最初の相手はゴーレムのようだな。
こいつは魔法生物であって呼吸はしていないので窒息する事は無い。けれど、僕の取る戦法そのものは何も変わらない。
振るわれるゴーレムの拳に取り付き、頭に向かって移動を開始する。ここまではいつものパターンと何も変わりが無いので、ササッと行動出来た。
ゴーレムの方も単純なもので、排除目標を僕に変更し、立ち止まって腕を登る僕に殴りかかって来ている。
さすが魔法生物。自分を傷付ける可能性があるのに、気にせず僕がいる場所をボコボコ殴り付けて来た。
この攻撃は、止まらず触手による移動で簡単にかわすことが出来る。
ゴーレムは土で出来ているようだが、動きはそこまで早くない。常に動いていれば叩かれる事は無いだろうな。
土とはいっても乾燥しているからか、殴られれば即死しそうなので油断は出来ない。こっちの核は、子供でも踏み潰せるくらい柔らかいそうだからな。試してみる気も起きないよ。
まあそんな感じで到達した頭部。その周辺にちりばめられている魔法発動体。それに向かって触手を伸ばすとチューチューと食事を開始した。
ゴーレムは分類すると魔法生物に相当する。
実際はいないのだが、命令に従ってある程度自律的に動く事からそう分類されているみたいだな。
そして繁殖しないゴーレムが増える方法は、誰かに創り出される事。
まあこれはパッと見でわかる事だろうが。魔法で契約して操る過程で、魔法発動体を素材に埋め込んでゴーレムとするらしい。
今回のゴーレムはっていうか、大半のゴーレムはその魔法発動体が剥き出しになっているので、そこを狙えば簡単に倒せるのだ。
弱点がわかっているのだ。何も馬鹿正直に殴り合う必要などないよね!
そんな訳でスライムの体内で作られている強酸は、石だろうが肉だろうが鉄だろうがそんなものは一切考慮せず、溶かすことが出来るものだ。
魔法発動体を溶かす事も、もちろんお手のものだった。
その結果、魔法構造の一部を損傷し体の動きを阻害されたり、また魔法機能を破壊されてまともに動く事も出来なくなり、ただの土くれへと変わり果てる。
戦闘開始から数分の出来事だった。いや呼吸を止めるより早いくらいだろう。
先生はもちろん、冷やかし半分だった生徒ですら言葉を失い、呆然と事の成り行きを見ている。
僕を回収し終えたレイシアが再び待機位置へと戻と、レイシアが先生の名前を呼んだ。レイシアの仕事はこれだけだからな。通訳兼運搬係?
「ケイト先生」
その声を聞いて、やっと仕事を思い出したかのように次のモンスターを先生方が準備し始めた。
どうやらあまりにもあっさりと倒してしまった為、頭が真っ白になっていたようだ。
次の檻の準備が整ったのを見て、ケイト先生が合図を送って来る。
「次ぎ始めます」
言葉少なめに、ただ開始が告げられる。
レイシアは、先程と同じで僕をモンスターへと投げ付ける。
なんかわざとやっていないかってくらいに、次に出て来たリザードマンにとって絶妙な攻撃位置に投げ込まれた。
先程の戦いを見せてもらえなかったからなのか、リザードマンはこちらを馬鹿にしたように軽く剣を振り下ろして来た。
こちらはいつものように、迫り来る剣の攻撃を避けつつ攻撃して行こう。手を伸ばしてリザードマンの頭を掴むと、ササッと頭部へと体を引き寄せた。
後は毎度お馴染み、核を後ろに避難させつつ顔を覆って行くだけだ。
するとダンジョンの時と同様、剣を捨てて慌てて顔を覆う僕を引き剥がそうと暴れるリザードマン。顔の前を掻き毟っていたが、これまた数分暴れた後に力なく地面に崩れ伏す。
ここで気を緩めずさらに数分。僕は確実な死を与える為に張り付いた後、レイシアに回収されて定位置へと戻って行く。
まるで決められた作業のように、淡々とモンスターを倒す感じだな。
特に何も工夫する事もなく、その後も同じように数匹のモンスターを倒して行った。
そして最後にもはやお馴染みとなったミノタウロスが登場!
僕が斧を持ったミノタウロスを描いたからか、こいつも斧を装備して舐めくさった顔でこっちを見て来る。どうやらこっちと戦わされる事に気が付いていて、その対戦相手がスライムを持った少女だった事で楽勝だって思い込んだようだった。
多分ミノタウロスには、僕達は雑魚に見えたのだろうね。
僕達はミノタウロスすら作業のように淡々と倒して、闘技場を後にするのだった。
「レイシアさん、バグを進化させてみませんか?」
闘技場での戦いの後、僕達は規格外という判定を受けた。
その後普通に日常生活を送っていたが、ある日ケイト先生に呼び出されてそんな事を言われる。
えっ何、こっちの世界もゲームと同じで、LVを上げたら進化するのだろうか。
今の僕ってノーマルスライム辺りだから、レッドスライムとかイエロースライムとか、そういうのに進化して欲しいって事かな?
ちょっとレアっぽく、メタルスライムとかいいかもしれない? そんな事を考えながら続きを聞いてみる。
「レイシアさんは、召喚魔術以外に魔法ではないけれど、錬金術の才能もありましたよね。錬金術の合成で、スライムより上位のモンスターへと進化させる事が出来れば、さらに戦力の増強が望めるかもしれませんよ」
うん? 今ケイト先生は合成って言わなかったか? それって何か他のモンスターと混ぜられるって事?
なんかそういうゲームも確かにあったな。モンスター同士を掛け合わせて、別のモンスターを作るってパートナーシステム。
いやいやそんな粘土じゃあるまいし、リアルでモンスター同士を混ぜたからって強くなりませんって。
慌てて手を横に思いっきり振りまくった。
最近ではやっと横に振ったら嫌がっているのだって、わかってもらえたのでこれで僕の意思は伝わったはずだ。いや伝わってくれ、他のモンスターと混ぜ合わされるなんて嫌だよ。
「あの先生、バグが凄く嫌がっているのですが」
よし! 伝わった! そうだそんなの僕は嫌だぞ!
「ですが、例えばドラゴンにでも進化したなら、スライムなど及びもつかない程の力が手に入る事になりますよ。そこまで行かないとしても、スライムは最弱のモンスターですからね。何かしら上位のモンスターに進化させる方が、得策だとは思います」
思わずドラゴンになった姿を思い浮かべてしまう。僕がドラゴンか・・・・・・かっこいいかも。
ハッとして例えドラゴン程の強さを持ったとしても、魂や肉体を混ぜられた僕は、果たして僕で居続けることが出来るのだろうか? って可能性を考えてみる。
おそらくだか、そこに僕という存在はもはやいないだろう。
多分、よくいるただのドラゴンとなるだけじゃないかな・・・・・・最悪魂を破壊されたドラゴン。又は抜け殻になったドラゴンになる事も考えられる。
試すにはあまりにも危険過ぎる。
もう一度拒絶の意思を示しておいたけど・・・・・・レイシアは全然こっちを見ていね~
うわー。ドラゴンに乗っている姿を、妄想しているのがまるわかりだった・・・・・・
やばい、なんかとてつもなくやばい気がして来た。
身の危険を感じて即座に逃走する事を選択したよ! 当たり前だよね?
「バグ、戻っておいで!」
しかし肩から飛び降りた僕に素早く気付いたレイシアが、そう命令して来た・・・・・・何でこういう時だけ的確で、素早く命令出して来るかな・・・・・・
あー、命令を無視して叩く事は出来るのに、逃げるのは強制されている為出来ない。
何だよこの強制力。何が基準になっているのだよ・・・・・・
泣く泣くレイシアの元へと戻ったが、憎しみを込めてレイシアをペチペチと叩き続けた・・・・・・
僕の反抗的攻撃は、その後ひと時も休まる事もなく日が暮れても食事をしていても、日をまたいでもずっと続いた。そっちが諦めるまで、寝るまもなく叩き続けてやるぞ!
「わかった、わかったから。バグを進化させないから、もうやめて。お願い・・・・・・」
一週間後、僕は主に勝利した!
モンスター舐めんな! こっちは睡眠も取らずにずっと動き続けられるのだ!
レイシアはあまりのしつこさにとうとう根負けしたようだ。
それから数日、一応警戒していた僕だが特に問題なく過ごせていた為、まさか二週間も後になってから襲撃を受けるとは、予想もしていなかったよ・・・・・・
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時代は魔法より錬金術でしょう! ・・・・・・By ケイト先生
私は魔法使いとしてより、錬金術師としての実績を残したいと考えて生きて来ました。しかし今の時代、どこもかしこも錬金術の需要は低く、ポーションを作る仕事しか活躍の場かないのが実情です。
ですが! 錬金術には様々な可能性が秘められているのです!
中には最前線に立ち、錬金術の才能だけで戦い抜いた先達もいるのです。
今はポーション作りだけに焦点が向いてしまっていますが、いつかは錬金術の価値を世界に広めてみせたいと考えています・・・・・・
さてさて今年度の生徒の中で、魔法の才能を秘めてはいるのに、実力を発揮出来ない生徒がいました。
レイシアさんはそれでも諦め切れなくて、必死に頑張って学力だけなら相当優秀な生徒さんです。
そんなレイシアさんに、少しでも役に立てたらなって思って錬金術を教えてみたのですが、あまり上手くいきませんでした。
結局彼女は魔法使いになりたいのであって、錬金術師になりたい訳ではなかったので仕方がないですね。
無理強いはしません。これでも私は教師ですから!
まあそれでも、彼女に錬金術を学ばせることが出来た事は満足しています。
そんなある日、問題のレイシアさんが面白いスライムを召喚しました。
前から魔法は上手く使えなかったのに、召喚だけは適性があってびっくりするぐらいの実力を見せていましたからね。呼び出せるモンスターはバットとスライムですが・・・・・・まあドンマイ!
しかし今回、そのスライムがバッタバッタと敵を倒して行くのを目にした瞬間。ピンと閃きました!
錬金術を使えば、このスライムをもっと強いモンスターに合成することが出来るのです!
まさに錬金術と召喚術の黄金タッグっていうべき時代が来ました!
これでレイシアさんも、錬金術の素晴らしさを理解するに違いありませんね!
早速この事を教えて導いてあげなくては!
めくるめく錬金術の未来の為に!
バグ「そこは嘘でも、レイシアの為にって言っておけよ・・・・・・」




