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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第一章  気付くと僕は、スライムでした。
10/39

1-10 もう僕は英雄スライムでいいんじゃない?

 「レイシアと」

 「ブレンダです」

 「どうぞ、入りなさい」


 二人が声をかけると、中からケイト先生の声が聞こえて来た。直ぐに返事が返って来たものの、ちょっと意外そうな声である。


 ダンジョンの前にあった森を抜け、そこで休憩したのが昼頃だったので、学校に着いたのはそれから大体五時間後。大分日が傾いて来て、夕焼けみたいにオレンジに染まる時間帯であった。

 こちらの世界にも夕日ってあるのか。麦畑を赤く染める風景を眺めながら、学校まで帰って来た。


 移動中や休憩途中も他の生徒を見かけなかったので、おそらく僕達が一番のままなのではないだろうか?

 確定はしていないものの、ちょっと期待している。


 「「失礼します」」


 レイシアの肩に乗ったまま部屋の中へ入って行くと、奥の机に座ったままケイト先生が、机の前に来るようにと合図する。

 二人は机の前に移動して軽くお辞儀すると、レイシアがバックパックから石版を取り出し机の上に置いた。


 それを見たケイト先生が二人に声をかける。


 「お疲れ様でした、さすがブレンダさんね、一番での帰還でした」


 先生はブレンダが今回、大活躍したと思い込んでいるようである。

 そして当のブレンダも、まんざらじゃない表情・・・・・・


 お前は何もしてないじゃん!

 なんとなくムカッとして、同罪のレイシアの頭を一度叩いて、そのついでの様にブレンダの頭を何度も叩いた。


 「ちょっとブレンダ、バグの機嫌を損ねるような行動するのをやめてよ、またこっちまで巻き添え来たじゃないのよ」

 「ちょっ、わかった。わかったから、ちゃんと説明するから叩くのをやめてよ」


 先生がそんな二人と僕を見て、何これって感じの表情を浮かべていた。




 「えーっとケイト先生、今回私はレイシアさんに付いて行っただけで、実習自体には何も手出しはしなかったんです。ですので、今回の成績はレイシアさんというか、主にこのスライムのバグが活躍した結果なんです」

 「はっ? ブレンダさん、何を言っているんですか?」


 先生が、意味がわからないって感じの表情を浮かべた。


 僕が思わずブレンダに向かって手を上げると、ブレンダが慌ててわかっているから、ちゃんと説明するからって感じでこっちの手を押さえて来た。その様子を見て、一応叩くのをやめる。


 「以前のダンジョン探索で、レイシアさんはミノタウロスを倒していたようなのです。私は今回レイシアさんというよりは、主にバグがほんとうにモンスターを倒す事が出来るのか、他の冒険者の倒したアイテムを取って来ただけじゃないのかっていうのを確認する為に、レイシアさんとパーティーを組んで一緒に行動させてもらいました。

 その結果、今回のダンジョン探索はこのバグが探索順路を指示して、罠の解除と敵の排除を行って、最深部まで行きました。帰りもそのまま最短コースをバグが指示して、ここまで帰って来ました。

 よって今回の探索で、私は何一つ手出しをしていません」


 そう言い切ったブレンダをケイト先生はしばらく凝視していた。どうやら言われた内容を理解出来なかったようだな。

 それとも理解したくなかったのか?


 どちらにしても、ケイト先生はしばらく無言でブレンダを見詰めたまま固まっていた。その表情は信じられないと思っているような感じだな。




 「ちょっと待ってくださいブレンダさん、それではあなたはスライムが今回、ダンジョン探索をクリアして来たと言うのですか?」

 「ケイト先生、私は事実をありのまま脚色も何もなく報告いたしましたわ。もし私が信じられないと言うのでしたら、ケイト先生も私同様レイシアさんと共に、ダンジョンに潜ってはいかがかと思いますが?」


 ブレンダも信じてもらえない事実にちょっと怒っているのかもしれないな。微妙に自分で見て来いって無茶振りしている。

 確認の為にって・・・・・・出来れば他人に振り回されたくないな~


 「ブレンダさんが嘘を言っているとは思いませんが、さすがにあまりにも信憑性がなさ過ぎて・・・・・・直ぐに判断する事が出来ませんね。この事は他の先生方とも話し合って、何かしらの結論を出そうと思います。

 とりあえず二人とも、お疲れ様でした。部屋に戻って、ゆっくりと疲れを取ってください」

 「「わかりました」」


 二人声をそろえて返事をする。


 一緒にダンジョンに潜って、仲良くなったのかもしれないな。




 ケイト先生の部屋を出ると二人は宿舎へと向かいながら、疲れたように溜息を付いていた。


 「やっぱり信じてはもらえなかったね」

 「まあ私も報告していて、嘘っぽいって思っていましたもの」


 まあ、僕はただのスライムだしな! 顔がないのにドヤ顔しておいた。


 この世界でスライムが強いって話して、素直にそれを信じる者などいないだろう。

 なんといってもスライムは、子供でも倒せる最弱のモンスターと言われているらしい。逃げたり避けたりもしないくせに、相手を捕食しようとするから始末に終えないのだそうだ。


 そんなモンスターがよく生き残れるものだといいたいが、どうやら何でも食べるスライムにとって、敵を倒せる必要はあまりないらしい。死体とか植物とか、いざとなれば地面すら食べるそうだからな。

 で、単細胞生物らしく分裂して個体数を増やすのだそうだ。

 つまり、プチプチ潰していっても、どこかで増えている最弱モンスターって訳だ。もはや村人ですら脅威とみなしていない。


 たぶん冒険者ギルドの討伐クエストで、スライムの討伐なんてものも無いのだろうな~


 まあせいぜい侮っていればいいさ。僕自身は強いはずだから、舐めてかかって来るやつは倒してやろう。


 その後二人は宿舎の食堂で静かに食事をとり、それぞれの部屋へと向かった。部屋に戻るとレイシアは直ぐにベッドに潜り込んで熟睡する。前の時もこんな感じだったな~


 まあ今回も僕は一杯活躍して疲れたから、ここは寝ておくかな。肉体的には全然疲れていないが、主に精神が疲れたので休もう。




 強化実習の日から数日。僕らは再び日常的な? 学校生活を送る。


 日本の学校はなんの役に立つのかわからないような授業もやっていたので、こっちのような専門分野だけを学ぶ学校の方が楽しいと思える。まあ魔法の授業など、聞いているだけでも結構面白い。自力で魔法が使えればもっといいのにな~


 それはさておきダンジョン実習以降、ブレンダは僕がご飯を食べていても特に文句など言って来なくなった。それと、レイシアに対して以前程、高飛車ではなくなったのがちょっと変わった。


 そんな平穏っぽい昼食の後、ケイト先生から呼び出された。平穏ぽいって言うのは、あいも変わらずレイシアが疎まれているからだ。

 まあちょっかいさえかけて来なければ、無視すればいいのだけれどね。


 さて当然だけれど、レイシアが呼ばれたら僕も一緒に付いて行く事になる。


 早速呼び出しに応じてケイト先生のいる部屋に向かった。




 「今回の強化実習において、ブレンダさんの報告に疑問を持った先生方が複数人いた事を受けて、あなたに再実習の課題が出ました。ついては何人かの教師の方と一緒に、ダンジョンへ潜ってもらう事になります」


 呼び出され、ケイト先生の用件を聞いてみれば、こんな内容だった。


 生徒が信じられないから再試験? しかも特に不正なくクリアしたのに、強制的なやり直し?

 なんかむかむかしてケイト先生に手を伸ばす。

 しかしそれを察したレイシアが、慌ててその手を掴んで止めた。


 やろうと思えば四本くらいまで触手を伸ばすことは出来るものの、さすがにそれは大人気ない。仕方なく伸ばした触手でなんとか小突けないか力を込めるが、意外とレイシアの抵抗は強かった。

 このこのってお互いに押し合っているその様子を見ていた先生が、再び声をかけて来る。


 「どうやらそのスライム君は、再実習が納得いかない様子ですね」

 「はい、不満のようです」


 とりあえずレイシア達に、僕の不満が伝わったので手を引っ込める。


 それを見たケイト先生も、困った表情を浮かべていた。うーん、どうしたら納得してもらえるのだろう?

 いくら納得させる為とはいえ、不正をしてもいないのにカンニング扱いのように再試験っていうのは、さすがに納得がいかない。けれど先生方を納得させるくらいなら何かしらしてもいいとも考えていた。


 まあいちいちダンジョンに潜るのが面倒だからね。




 お互いに納得いくような考えがまとまらず、何かいいアイデアが思い浮かばないかなって感じで部屋の中を見回していると、部屋の隅に廃材のような木の破片を見付けた。


 さすがにこの世界の文字は読めないし書けないけれど、絵でなら意思疎通出来るのではっという考えが浮かぶ。

 ジェスチャーで伝わればお手軽だが、レイシアを見るとそれも難しいからな。


 完璧とはいえないまでも、こちらの意思を伝える手段があるのなら、アイデアが無くも無い。

 まあ駄目元で試してみるかなと考え、木片に手を伸ばしてみた。

 拾った木片を手にしたまま、意味が通じるかわからないけど、レイシアに向けて何度も叩いて見せる。

 これで少なくとも言いたい事があるって伝わるだろう。


 「先生、これって壊れても問題ありませんか?」


 おおー。絵を描くのは理解されないけど、削ったり壊したりしてもいいかくらいは通じたみたいだな。

 しかしそれだけ伝わってくれれば上出来だ。


 「えっと一応そんな物でも大事なものなので、出来れば他の物がいいかしら。少し待っていてください」


 そう言うと、ケイト先生は部屋を出てどこかに行ってしまった。




 何分くらい経過したのか・・・・・・十分程かな、それくらいしてケイト先生が戻って来ると、手に持っていたのは何かの看板みたいな平らな木片だった。

 一体何が書かれているのか、興味があるのだがさっぱり読めない。

 言葉の壁って結構デカいよな・・・・・・


 何かの字が書かれた面をひっくり返して、裏のまっさらな部分を上にして床に置く。そこにあまり上手くはないけれど斧を持ったミノタウロスやリザードマンの絵を、木の表面を溶かす事で描いていく。

 初めての試みだったけれど、溶けた部分というか腐食するのかな? 上手い具合に黒っぽく染まって見やすくなってくれた。

 こういう絵をSDキャラって言うのだったか? なかなか特徴を捉えられて、僕的には会心の出来だと思う。


 絵心があれば、同人誌とか作れたかもしれないな~

 まあ人間に転生出来ていないから、本など作っても意味は無いだろうが、もしこっちでやっていたらがっぽがっぽとか性で、お金持ちになれたかもしれない。

 あー、絵心だけじゃなく、ストーリーも考えなければいけないかな? まあいいや。どちらにしても意味の無い仮定だ。




 モンスターの絵は満足したので、次に簡略化した学校と訓練場を描いてモンスターから訓練場へと矢印を描き込む。その状態で板を覗き込んでいるレイシアとケイト先生の様子を伺ってみた。


 二人とも何をしているのだろうと、興味心身って感じで見ているな。

 しかし二人の様子から、現時点ではいまいち何を言いたいのかは理解されていそうに無い。結構な力作なのだが。


 僕は先程の絵の下に再びモンスターを描き込んで、今度は学校ではなく自分を描き込んで、自分とモンスターその真ん中に向かって、それぞれが進むとぶつかるように矢印を描き込んでいった。

 そしてモンスターの上に罰印を書き込んで、二人の様子をまた窺って見る。頭の上に罰点の印を付けたのは、力作のモンスターを傷付けるのがもったいなかったからだ。いいからこれでわかれ!


 「あの先生。バグはみんなの前で、モンスターと戦うって言っているのだと思います」


 よし通じた!

 まだまだ付き合いは短いとはいえ、レイシアも僕の事がわかって来たのかもしれないな。


 長々とダンジョンに潜るより、さくっと戦って信じてもらった方が楽ちんだからな。どうせ見たいのは僕が戦えるのかどうかなのだし、さくっと戦って終わらせようじゃないか。


 ケイト先生の様子を窺うと、しばし思案顔をした後こう言った。


 「私の一存では決められませんので、もう一度他の先生方と協議をしてどうするか決定してみます。少し遅くなりましたが、今から通常の授業に戻ってください。また改めて呼び出します」

 「わかりました、失礼します」


 そう言って、僕達は授業へと戻った。




 ――――――



 錬金術の成果・・・・・・By ケイト先生




 スライムがこの世に誕生するきっかけは、錬金術だったといわれています。


 一番最初に誕生したスライムは、錬金術の失敗によって捨てられた産廃物で、それらが不法投棄されて偶然生まれたのがスライムだとされていますね。


 産廃物から生まれたスライムですが、彼らが生まれる基になったものがポーションなど作る為に込められた魔力。つまり彼らは魔法生物に分類出来ます。


 この世界の物質には大なり小なり魔力が詰まっているので、スライムはそれらを本能で理解し取り込もうとします。まあこれが食事でしょうが、知能が無いので回避行動などは見られませんね。


 今では世界中で見られるようになったスライムですが、初めは産廃物と一緒に川に流され、それが増殖したのだとされていますね。




 さてここでわかる通り、スライムには知性というものが無いのがわかる事でしょう。


 しかし目の前にいるスライムは一体何といったら言いのでしょうか?


 木片を要求したかと思えば、そこによく特徴を捉えた絵を描いたではありませんか!

 スライムが絵を描くのですよ!


 これは錬金術の新たな一歩といってもいいんじゃないでしょうか!


 バグと名付けられたこのスライムは、ついに神の如く人間が錬金術で生み出した新たな生命体ではないでしょうか。


 出来るならば、知性の発生のタイミングを知りたいものですね~


 今後の錬金術の発展がとても楽しみです!


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