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神様の宝物  作者: 小林 あきら
序章 変態素敵な賢者様
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第四話 吾輩は猫である クロ

 〜クロ視点〜




「吾輩は猫であるっ!」

「ええ、そうですね。猫ですね〜」


 俺が『くわッ!』と効果音でも付きそうなぐらい、目を見開き力強く声を出すと、すかさずハクは、俺の言葉にニコニコしながら肯定してくれた。

 まぁ、なんだ?さっきつい言ったのは、一度は使ってみたい言葉の上位に食い込む言葉である。

 日本人ならそうだろ?

 だがそれも、俺が猫の姿になってから……なのだがね。


 今、俺たちはイディオットの街にいる。

 門に入るまで、何やら一悶着あったようだが、まぁ無事入れたのだから関係ない話だ。

 街の門をくぐるとそこは、綺麗に石畳が敷かれ整備された道の両脇には、レンガや石や木材で作られた家が並んでいる。

 ここら辺では、よくある街並みで、所謂中世ヨーロッパ風な街並みだ。

 『〜〜風』と言う逃げにも等しい言葉だが、この言葉が一番しっくりくるだろう。

 きっと、日本人が考えたそれらしい(・・・・・)街並み。

 他にも、街の人々の服装なども同様にそれらしい(・・・・・)ものを想像してくれたらいいだろう。


「無事に潜入できましたね」

「ああ」


 ハクの言葉を上の空で答える。

 なぜかって言うと、それは目の前に広がる絶景のせいだろう。

 先程、俺は「よくある街並みだ」と言ったが、俺が見ているのは「その街並み」とは少し違う。


 猫の姿になって一番良かったと思う事は、それは猫の視点というやつだ。

 皆が俺をただの猫と扱う。

 これこそが、この体となっている俺の一番の利点であると考える。

 今、俺は指定席と言えるハクのフードの中から降りて、わざわざ地面を歩いているのだが、そこから見える光景は正に絶景だ。


 大事なことなので何度でも言おう。

 それは絶景だと!!


 白、ピンク、水色、黒、赤、など様々な色が、目の前に鮮やかに咲き誇り、この疲れた心を、ストレスを消し去ってくれる。

 そう、覗き放題なのだ。

 乙女の秘密――スカートの中をなっ!


「お父さん難しい顔をしていますが……何か問題でも?」

「なに、気にするな……お前にはまだ早いかもしれんからな」

「???」


 ハクは俺の言葉が分からないのだろう。

 なんせハクは、俺の事を『本物の大賢者様』だと思っている。

 そう、俺の事をもの凄く賢い立派な人だと思っている、思い込んでいる。

 そんな人間が、いや、猫がパンチラを見て歓喜している。

 更にその事を我慢する為に、難しい顔をしているとは、絶対に考え付かないであろう。

 こういう風に難しい顔をしていると、勝手に勘違いしてくれるのは助かるけど。


 ここで、一つ誤解を解いておきたい。

 それは、ハクが俺の事を『強く、優しく、頭が良く、懐が深く、カッコよく、弱きを助け、強きを挫く、何でも知っている賢者様』と思っている事だ。


 誰だそれ?何の冗談だ……いや、マジで!!


 どっちかって言うと、俺は先程、道端で拾った「ひゃっはー!ひゃっはー!」言っている、あいつらに近い存在だ。

 ただ、親やヒーローに憧れる子供の、その感情自体は否定してはいけない、裏切ってはいけないって事ぐらいは、こんな俺でも理解しているつもりだ。

 このハリボテの賢者様は、今日も今日とてメッキを剥がれない様に気をつけるのだよ。


 どれ、まぁ見ているといい。

 やってやろうではないかっ!


「ハクよ……ひとつだけ、お前に助言しよう」

「ぜ、是非お願いします」


 ハクは眼を輝かせ、生唾を飲みながら問うてくる。

 嗚呼、その顔は……お父さんにはとても眩しいです。


「うむ。この何気ない情景。これを見るだけでも、この街を知る情報である。これだけ言えば分かるな?」


 俺がドヤ顔で適当な事を口走ると、ハクは今まさに天啓を得たかのごとく頷いた。


「なる……ほど」

「ほう……分かったのか?」


 俺は「やっと気づいたか!」みたいな顔で問いかける。

 最近気付いたのだが、ここでこの表情がハクに尊敬されるポイントの一つだ。

 間違っても「マジで!?今のだけで何が分かったの?」 とは口に出さない。

 てか、出せない。 


「つまり、この何の変哲もない日常。この日常を見る事でこのイディオットの街や民についての見識を深めるのですね。彼らの服装や、街の活気、市場での売れ行きや、何気ない会話の中に含まれる噂などからも、情報を得る事が出来る。更には、領主がどのように民を扱っているかも分かる。そこから、領主の人となりも分かる。なので、ただこうして街を見るだけでも、それは欠かせない情報となる。そして、こう言ったことを知ってこそ、街の人に馴染み、より効率良く情報を獲得し、任務遂行しやくする……という事ですね」

「…………」


 成程ね!街を軽く見るだけでそんな事が分かるんだな。

 よくそんなこと思いつくな。

 この子、本当に頭いいな。


「ち、違いましたか?」


 ハクは俺が感心して返事を忘れていると、ちょっと心配になってオロオロし始める。

 この子はどうして、こんなに頭が良いのに、俺なんかの意見で右往左往するのだろうか。


「ふっ」


 そんな光景が、おかしくなって笑ってしまった。


「あっ」


 不味いと思って、つい笑ってしまった事を隠すように、俺がするのは、薄く鼻で笑い「やればできるじゃないか、坊や」みたいなハードボイルドな表情でやり過ごすことだけだ。

 肯定もしないし、否定もしない。

 ハードボイルドな男は多くを語らないのだ……多分。


「いえ、何でもないです。お父さん」


 ハクが俺の表情を確認して、ニコリと微笑んでいたので、俺のこの切り返しは正解らしい。

 ハクとは別に俺も心の中でホッとする。


「…………」


 そして、この何気ない俺とハクの会話を、無言で見ている奴がいる。

 いや、見ているというよりも、観察や監視していると言った方が正しいだろう。

 まぁ、普通に考えてみたら、ハクは商人にあるまじき強さを持ち、自称:使い魔(俺の事だな)を使役している、いかにも怪しい人物である。

 更に、商人と言ったが、この年齢にして騎士を圧倒する、戦闘能力を持っている事が気になるのだろう。


 よく考えなくても、怪しくない筈がない。

 100%何かあるだろう。

 このおねぇちゃんは間違ってない。


 まぁ、何かあるのだろうが、この騎士のねえちゃんは「怪しいけど、さっき疑って、間違えて攻撃した事に罪悪感があるし、下手したら戦闘力ではハクの方が高いかもしれない。それに、また勘違いだったら、騎士としてのナンタラカンタラ――」って考えているのだろうな。

 それでしょうがないから、観察や監視だけに止めているって感じだろう。


 なんて考えが読みやすいのだろう。

 真面目で良い人の天啓的タイプだな。

 からかうと、さぞ愉しいのだろうな。


 そして、何より第一印象からずっと思っていたが、この騎士のねえちゃん……アナル弱そうだしなっ!

 きっとイジったら「んほーっんほー!」って言って、悦び、むせび泣いてくれるに違いない。


 おっと、思考が逸れてしまったな。


 さて……では宿に着くまで、この騎士のねえちゃんのスカートの中でも堪能するかっ!

 全く、戦闘服である騎士服に、こんなデザインを正式に採用した、この国の国王は良く分かってるな!




 ********




 しばらくすると、一行は宿屋に着く。

 モチロン俺の視線は、この騎士のねえちゃんのスラっと伸びる御御足と、その奥に見えるレースをあしらった白い布地に釘付けであった。

 しかし、流石に見過ぎていたのもあって、騎士の姉ちゃんと目が合って、バレてしまう。


「あっ……」

「ん!?この猫!私のスカートの中を覗いているのか!?」

「どうかされましたか?」


 ハクがその声を聞き、駆け付ける。

 すぐさま視線を逸らすが、後の祭りだ。

 ヤバい、ヤバいぞ。

 ハクに……尊敬の目を向けられるべき、ハクにバレた。

 しかし、なぜか俺が思っている方向とは全く別の方向へと事態は進む。


「このクソ猫が私のスカートの中を覗いていたのだ!このエロ猫め!」


 そう、騎士のねえちゃんが俺を罵倒したのだ。

 当然だ。

 こんなセクハラ行為、人だと非難されて当然だ。

 それは猫であっても当てはまるモノなのだろう。

 しかし、だが、しかしだ。

 ここでは、その行為はマズかった。


 いつもニコニコ笑っているハクの顔から、笑顔が消える。

 ハクは目の前から一瞬消え、次の瞬間には、片手で騎士の姉ちゃんの首を持って吊るし上げていた。


「お父さんが……糞だと?もう一回言って頂けますか?」

「くっ……うぅぅ」

「きっと、僕の聞き間違いなのでしょうが」

「うっ……」

「うっ?きちんと言葉を話して頂かないと分かりませんよ?騎士様?」

「あっ……うぅぅ……」


 ハクの本気の殺気を当てられ、吊られたまま騎士のねぇちゃんは涙を流し、口からは涎を垂らし、他にも色々モノを流し、震えていた。

 あっ、これはヤバいかも。


「ハク」

「……うっ」


 俺はなんか逆に冷静になって、ハクの名を呼ぶ。

 ハクは肩を震わし、その手を離し、それはもう「やってしまった〜」って顔で俺を見る。


「げほっ、げほっ。う、うぅううえ」


 解放された騎士のねえちゃんは盛大に咳き込んで、えずいている。

 まぁ、色々漏らしてしまったが……なんとか無事なようだ。


「落ち着いたか?」

「はい。申し訳ありません。お父さん」

「こらこら、謝る相手が違うぞ?」

「くっ……」


 その言葉を聞いたハクは、苦虫でも潰した様な表情で唸る。


「す、すいませんでした。騎士様」


 まぁ、アレだ、本当に嫌そうな顔で謝罪した。

 いやここはまるで、女忍者が敵地で敵兵に捕まって、拷問される前の表情とでも言うべきか?


「げほっ、い、いえ、き、貴殿の父君を、ぐすっ、ば、罵倒した、わた、私にも責があります」


 騎士のねえちゃんは、なんとかそんな言葉を返す。

 ここでそんな言葉を吐ける騎士のねえちゃんを尊敬する。

 こいつマジか?人間出来過ぎだろ?

 これからは、少し優しくしてやろうと心の中でこっそり思う。


「そうですか。以後気を付けて下さいね?」

「うっ、は、はい」


 ハクは笑顔だが目が笑っていなかった。

 全くもって謝る態度ではない。

 きっと、あの騎士のねえちゃんもこの異常を感じ取ったのだろう。


 正解だ!正解だよ、騎士のねえちゃん。

 普段は温厚な人がキレると、本当にヤバい。

 つまり、この状態のハクはマジでヤバいのだ。

 特にハクは普段はニコニコしているが、アイツはドSだ。

 先程の脅迫の時の表情を思い出してもらえば分かるだろう。


「ふぅ……では、お父さん。中に入りましょう。お手数をおかけしました」

「あ、ああ。そうだな」


 もう少しここに留まり、騎士のねえちゃんを見ていたら、濡れたアレコレの生着替えが覗けるかもと頭の中を過ったが、流石にこれ以上は可愛そうだと思い諦めた。

 俺達は、こうして宿屋に入った。




*************




 宿屋に入ると、そこはなんというかもう、テンプレ的な酒場の様な所だった。


「ごめんくださーい!」


 ハクが大きな声で呼ぶと、店の奥から恰幅のいいおばちゃんが現れた。


「はいはい、いらっしゃいな『安らぎの家』へようこそ。なんだい?泊まりかい?メシかい?それとも、酒かい?」

「泊まりとご飯とお酒、全部です。一週間程で三人部屋ですが、空いていますか?」

「ああ、大丈夫だよ。帝国銀貨7枚を6枚半にまけといてやるさね」

「ありがとうございます」


 ハクは腰の革袋から硬貨を取りだして、カウンターに並べる。


「ちょうどだね、まいどあり。部屋は二階に上がって一番奥だ。それともし荷馬車とか、でっかい従魔がいるなら、宿の裏にある小屋に置いてきな」

「はい、分かりました。あっ、申し遅れました。僕はハクで、こちらの黒猫は父のクロです。お世話になります。他にも後二人、僕の弟がいるのですが、今は寝ていまして、また各々自己紹介させますので」

「はっはっは、そうかい。アタシはルーシーだ。よろしくな、そっちの猫さんもな」

「ん?ああ、よろしく頼む」


 ルーシーという恰幅のいいおばさんは、気持ちのいい笑い声と口調で、俺にまで話しかけてきた。

 実は喋る猫っていうのは、このファンタジー世界でも珍しく、目立つので、あまり喋らない様にしていたのだが、自然に話しかけられた為、ついつい返事をしてしまった。


「おや!もしかして、精霊様かい?」

「ん?ああ、俺か?違う違う。そんな良いモノじゃない。他よりちょいと長生きしただけだ。それと、俺はハクの使い魔って事になってんだ。まぁ、そう言う事だ、察してくれ」

「はっはっは、そうかい、そうかい。まぁ、どうでもいい事だったね。改めてよろしく、クロ様」

「ああ、世話になる。人の子ルーシーよ」


 ここで無駄に威張る気もないのだが、隣のハクの為にも、俺はなんかそれっぽく返答しておく。

 ハクは目を細めて、眩しそうに俺を見ていた。

 きっとハクには、俺の後ろに後光でも見えているのだろう。


 ハクは「では、荷馬車を停めてきます」と言って、俺を宿屋のカウンターに置いていった。


 俺は周りを確認する。

 店の名前、それに見事なほど、うちの店に似ている酒場。

 ……成程ね。

 今は酒場が営業時間外なのか人もいないし、丁度いいかな?


「なぁ、ルーシーよ。ここは酒場もやっているのか?」

「ああ、見ての通りだよ。帝都でアタシとウチの旦那が、昔通っていた店から暖簾分けしてもらったのさ。なかなかいい所だろ?」

「ああ、だからか。店の雰囲気が似ていると思ったんだ」

「おや、クロ様も知っているのかい?」

「ああ、俺と俺の恩人達でやっている『安らぎ亭』という店なのだがな、この帝都にも暖簾分けしている筈だ」

「おやまぁ……ん?って事は、クロ様の正体は――」

「おっと、喋り過ぎたな」


 ニヤリと笑い、ルーシーの言葉を遮る。


「俺は今、ただの黒猫だ。そうだろ?」

「あ、ああ……そうだね」


 ルーシーも俺が言いたい意味が分かったのか、俺と同じ様に笑う。


「ここは温かみがあっていい所だ。かの『安らぎ』の名に恥じないようだ」

「ふふふ、そいつは嬉しいね。なら、サービスしてあげるから、長く利用しておくれよ」

「ああ、用事が終わるまでは厄介になろう」


 ここをこの街の安全な拠点として使う為に、自分の正体をほのめかしておく。

 それと頼みをきいてもらう為に。


「それで……だ。ルーシー、ちょいと頼みをきいてくれんか?」

「おやおや、クロ様。悪い顔をして、なんか悪企みかい?」

「なに……ちょっとしたお願い事だ。ちょっとした……な」


 俺はそう言い、金貨袋を自分の影から取り出し、カウンターに身を乗り出すルーシーに、ちょっとしたお願い事をした。





クロ様は下種ですね。

でも、そんなクロ様が大好きです。

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