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神様の宝物  作者: 小林 あきら
序章 変態素敵な賢者様
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第三話 交渉という名の・・・ ハク


 〜ハク視点〜




 放心していた女騎士は、僕達が近づくと、ビクッと震え、最初に会った時の凛とした様な雰囲気は微塵も無く、泣きながら怯えて震えていた。

 どうやら、商人に戦闘で負け(まぁ、自爆だけど)、更にお父さんの言葉で言いくるめられ、精神的に追い詰められているのだろう。

 お父さん……これはやり過ぎではないのだろうか?

 いやむしろ、この女騎士のメンタルが弱いのだろうか?


「さて、騎士様」

「な、なんでしょうか?」


 女騎士は心が折れて、こちらに対し敬語になっている。


「いつまでも騎士様と言うのも失礼にあたるかと思うので、騎士様のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「え、ええ。名乗り遅れました。私はアリス=グランド=レイルロードです。今はイディオット辺境伯の下で騎士をしております」

「やはり……そうですか」


 自分の推測が正しい事を確信し、顔に出さないように笑顔を顔に張り付けて会話を続ける。


「先程、父が奴隷などと言いましたが、僕はその様な事はするつもりはありません」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。僕の心情に反しますし、レイルロード様の勘違いであったようですしね」


 女騎士――アリスさんは、あからさまに安心したように肩の力を抜く。

 僕の腕の中でお父さんは「え?」みたいな顔をしているが、これはきっと演技だろう。


「ですが、僕は賊と間違えられて殺されかけました。これはいくら騎士でも犯罪であり、揺るがない事実です。そして、これは民を守る騎士道に反する行動ではないでしょうか?」

「……はい。そうです」

「しかし、僕はこうして生きています。そして、この事を誰かに言うつもりもありません」

「あ、ありがとうございま――」

「ですが!僕も死ぬ思いをしましたし、商人の端くれでして、タダとはいきません。つまり、代価をいただきます」

「お、お金でしょうか?」


 アリスさんは、恐る恐る訊ねる。

 彼女の言葉に、ニコッと笑い答える。


「いえ、違います。商人とは人と人の繋がりを大切にします。殺されかけたのも何かの縁ですね。レイルロード様なら簡単なことです。領主様――イディオット辺境伯様に顔を繋いでいただけたらと思いまして」

「確かに顔を繋ぐ事は可能でしょうが……しかし、今日初めて会った素姓の確かではない商人を、その領主様に……」

「ほれ、ハクよ。この様だ。紹介?そんなこと、どうでもよかろう?甘い事言わずに性……犯罪奴隷にしよう?そっちの方が商人としては儲かるしな。な?な?まだ遅くないぞ?」

「まぁまぁ、お父さんここは僕に任せて下さい」


 絶妙なタイミングで、お父さんが我慢できないような演技で口を出してきた。

 とても切実な気持ちがこっちまで伝わってくる気がするのは……気のせいだろう。

 僕も騙されそうになるぐらいの、凄い迫真の演技だ。

 お父さんを宥める振りをしながら、彼女の顔を盗み見ると再び肩に力が入り、血の気が引いている。


「それでどうなさいますか?レイルロード様?僕はできれば穏便に済ませたいのですが……」

「え、ええ。ハク殿の提案を受け入れます」

「おお!そうですか。ありがとうございます。ああ、ちなみにこの会話は『録音の魔石』という魔道具によって記録しております」

「な……なんだって?」


 ポケットから何の変哲もないただの石を取りだして、見せびらかすように左右に振り、再びポケットにしまう。


「これからも、いい関係(・・・・)でいたいものですね。では、彼らにも事情を説明してきますので、しばらくお待ち下さい」

「…………」


 にっこりとほほ笑み、彼女の前を後にする。

 そして、抱えていたお父さんに向かって小声で話しかける。


「どうでしょうか?お父さん?」

「ふ、ふむ。まぁまぁの出来だな」


 お父さんは僕の腕の中で、何か居心地が悪そうにしている。

 もしかしたら、僕がこのような事すら気付くのが遅かったので、機嫌を損ねてしまったのだろうか?

 もしくは、脅迫という名の交渉が、あまりにも下手だったのだろうか?

 よしっ!確認の為に、普段あまり語りたがらないお父さんの代わりに、僕が少し語ろう。


「今回の件で、あの女騎士がイディオット辺境伯と関係のある人物である可能性が高かった。それは、街の近くであのような高価な騎士鎧、更に紋章までついた鎧を纏い、女性ながらもかなりの腕を持つことから推測できます。そこから、彼女自身も爵位持ち、もしくは、かなり上の立場にある事も推測できます。そして、僕達はまず、普通にこのまま街に潜入しても辺境伯と会える確率は限りなく低かった。ここまでは合っていますよね?」

「……続けなさい」


 お父さんは僕と目を合わせずに、ボソリと喋る。

 ここまでの推測が正しことを確信し続ける。


「僕達の当初の目的である領主への謁見、もしくは、紹介。これを誰かにさせる必要がありました。そこで、この女騎士であるアリスです。彼女はこちらを賊として襲っています。もし、このアリスが貴族であったとしたら、こちらがありのままを街の憲兵に訴えた所で、もみ消されるか、下手したら逆にこちらが処罰されかねません」

「そうだな。この国の貴族はそれだけの力があるからな。それで?」


 お父さんは、ふんふんと首を縦に振りながら、続きを促す。


「はい。ここでお父さんが行った行動が生きてくる訳ですね。お父さんが逆ギレにも等しい発言で相手の出鼻を挫き、彼女の性格を確認していました。そして、彼女は関係ない一般人に手を上げてしまう事を良しとしない、とても真面目で善良な騎士という事が分かりました。まぁ、少し早とちりする様な所もありますがね」


 僕は肩を竦め、口を半開きにしながら話を聞く、お父さんに苦笑いしながら話を続ける。


「お父さんの言葉攻めによって、彼女は精神的に追い詰められて「何でもする」なんて言質を取って断れない様にする。正直、貴族の力を全力で行使したら断れますがね。しかし、それを言葉巧みに行わない様『助かる為にはそれしかない』と思わせる。金銭などの賠償が一般的な所に、そこで代償として、特に女の人には屈辱的な性奴隷なんて酷い条件を突きつける。なんて、卑劣な……ではなく聡明なのでしょう」

「……え、演技だぞ?」


 お父さんは体をビクッと震わせながら、僕に告げる。

 その言葉に頷きながら返答する。


「ええ、分かっています。敢えてお父さんが悪役になってくれたのですよね?予め言葉でボロボロになるまで追い詰め、そこへ僕が割って入り、襲った事を水に流す代わりに『領主への紹介』という、それよりも軽く、なんとかなりそうな条件を付け相手に飲ます。交渉や取引でよく使われる手ですよね。そして、今後の事を考えて、相手はお父さんの事を恐い悪の様な対象として警戒して、僕の方が優しく懐の深い善人という様に、信用しやすくいようにした。そういうことですね?」

「……ふっ」


 お父さんは意味ありげに笑うだけで、何も語らない。

 さながら、今更この事に気付いたかとでも言いたそうだった。

 くそぅ、お父さんカッコいい!


「いやぁ、お父さんも人が悪いですよ」

「な、なぁにハクよ。お前なら、俺のこの少しの言動で気付くと思ったのだ。そ、その通りだ。お前が商人として、目上の人間と強気に交渉できるか試したまでだ!」

「やはりそうでしたか!」


 流石はお父さんだ!

 僕が気付くか、そして、商人としてこの任務を全うできるか試していたんだ。

 やはり、まだまだ僕では足元にも及ばない英知の持ち主だ。

 遠い目をしたお父さんを抱きかかえながら、うんうんと頷くのだった。




**********




 僕とお父さんは、会話もそこそこに彼らのもとに向かった。

 しかし……


「アレは……お父さん……あの、彼らは何を?」

「ああ、あいつ等がやっておるのはエアギター……いや、エアバンドとでも言うべきか?」

「そ……そうですか」


 それ以上、何も言葉を発せなかった。

 彼らは本当に逞しいと思う、なぜなら彼らは喋れない状態なのだ。

 それなのに、彼らは何を思い、何を考え、あのような行動を取っているのだろうか?

 全く彼らの行動の意図が理解できない。

 先程まで、お父さんの英知の末端にでも触れる事が出来た気がして、それなりに成長したと思っていた自分が恥ずかしい。


 棒立ちの僕を見かねたのか、お父さんはちらっと脇道の方を見てから、僕の腕の中から飛び降り、二本足で着地して彼らに話しかけた。


「おーしっ!てめぇーら!今から魔法解除するから騒ぐなよ!あと、返事は、ひゃっはーかファ×クで答えやがれ!」


 お父さんが彼らの返事を聞く前に魔法を解除した。


「よし!じゃあ、質問だ!まず、てめぇらは盗賊か?」

「「「「F×CK!!」」」」


 彼らは中指立てて、とても大きな罵声が聞こえる。


「おし!次だ!てめぇらは吟遊詩人(バンドマン)だな?」

「「「「ひゃっはー!!」」」」

「てめぇらアレだろ?移動の金ケチって、糞みたいな荷馬車買ったせいで、ぶっ壊れたんだろ?」

「「「「ひゃっはー!!」」」」


 あっ、なんか彼らの返事の法則が分かった。


「この馬鹿野郎共めぇええ!!だが、命より大事な楽器や機材を守った事だけは、評価してやる!グダグダ言ってないで、俺らの荷馬車に乗り込みやがれ!」

「「「「ありがとうございまーす!!」」」」

「馬鹿野郎!そこはひゃっはーだろうが!」


 やはり、彼らは悪い人じゃなかったみたいだ。

 とても礼儀正しいじゃないか……さっきの騎士より。

 いや、そんなことより言語が通じなかった人達をまとめるお父さんカッコイイ!!

 なんて、僕が思っていると、お父さんは「ふんっ」と鼻で息を吐いて僕の体をよじ登り、フードの中に入った。


「おしっ!奴らが乗り込んだら馬車を出せ!」

「え?あの……彼らの相手は?」

「俺は寝る」


 お父さんはそのまま、本当に寝息を立てて幸せそうに眠りだした。

 お父さんはきっと、気恥ずかしかったのだろう。

 彼らとの会話やアリスさんとの事後処理を、全部僕にまる投げした訳じゃないよね?

 そうだよね……お父さん……





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