第四話 みっしょんいんぽっしぶる ロッソ
〜ロッソ視点〜
急に視界が揺れる。
ああ、これは緊急の呼び出しだ。
すぐさま魔力を全身に廻らせ、戦闘に入れる様に構える。
まずは状況の確認だ。
目の前にはドワーフのおっさんと親父か。
という事は、このドワーフのおっさんが敵か?それとも、ここに襲撃をかける奴の対処か?
「ロッソ、大丈夫だ」
親父の言葉で、ひとまず戦闘の構えを解く。
戦闘が起きそうなのか、これから起こるのか分からないので、親父の言葉に頷き、体を覆った魔力だけはそのままにしておく。
「説明を頼む」
言葉を短くし、状況の確認をする。
「そのなんだ?今すぐに戦闘は起こらないから、その魔力を解除してもいいぞ」
「ああ……なんだよ」
体を覆っていた魔力を散らす様に治める。
オレが呼び出されるという事は、大体の場合は戦闘なので、こうして直ぐに戦えるようにしている。
しかし、どうやら今はそういう状況ではないらしい。
「んで、こんな人前で急に変わるなんて、ハクの兄貴は何を考えているんだ?」
「ああ、それなんだがな。急な調査が必要となった」
「分かった……けど、このドワーフのおっさんには正体がバレてもいいのか?」
「問題ない。俺が『死神』である事も話したからな」
「マジか?……このおっさんは何者だ?」
「ロングスケールの一族……親方の子孫にあたる」
「ん!?マジか!?……じゃあ、問題ない……のか?」
マジかぁ……
どうりでこのおっさんは親方に似ていたのか……いや、オレにはドワーフのおっさんなんて、皆親方に見えてしまうけどな。
「な、なぁ?クロ様……は、ハクはどうした?」
「ん?説明してなかったのか?」
「ああ、ハクなりの悪戯だろう」
驚いているドワーフのおっさんに、オレは笑いながら話しかける。
「あ〜なるほど。じゃあ自己紹介だ。オレはロッソ。ロッソ=ルーエ=タナトスってもんだ。さっきまでいたハクの兄貴の弟で、そこのニヤニヤ笑っている黒猫の息子だ」
まぁ、普通の人間ならこの状況は理解できないだろう。
「そんで、ハクの兄貴とは体を共有しているって言えば分かるのか?」
「共有?」
「まぁ、ハクの兄貴でもあるし、このオレ、ロッソでもある。できれば、個々で扱ってくれると助かるな」
「ああ……よく分からんが……ロッソだな。俺はブリーズ、ブリーズ=ロングスケールだ。よろしく」
おっさんは突き出したオレの手を握り挨拶した。
どうやらこのおっさんは考えるのを止めたらしい。
その考えは共感できるので、このおっさん――ブリーズとは仲良くできそうだ。
ブリーズと会話もしたいが緊急なようなので、悪いが後回しだ。
「で、親父。調査って何だ?」
「ああ、その事だったな。お前には辺境伯の性格というか身辺の調査を頼みたい」
「まぁ、そういうのは俺の仕事だけど……で、期限はいつなんだ?」
「明日だ」
「明日か……って明日!?」
「ああ、明日だ」
二度聞きしてしまったぞ、こんにゃろうめ。
親父はこの反応が来る事が分かっていたかのように、オレの目を見ずに告げる。
親父ェ……
「なぁ?親父?いやさ、親父殿?オレの事を高く買ってもらったのは嬉しいが、人には出来る事と出来ない事があるって知っているだろ?」
「まぁ、俺もお前とは同意見だ。だが、それをハクの前で言えるか?」
「くっ!痛いとこを突いてくれるなぁ……」
確かにハクの兄貴から直々の指令と言う事は、断ると後が怖い。
でも、よく考えてほしい。
期限が明日って、無茶振りにも程があるだろ?
こういう人となりを調べる調査っていうのは、本来ならひと月とか、もっと長いスパンで調査をするものだろう。
最低でも一週間、いや、三日は欲しい。
流石にハクの兄貴でもそんな事は分かっているだろう。
……と言う事はだ。
もしかしたら、オレ馬鹿だから、勘違い、もしくは、オレの聞き間違いかもしれない。
てか、オレの勘違いであってほしい。
「なぁ、親父……マジか?」
「ああ、明日だ」
「明日って……今何時?」
「夕方だな」
「もう、今日が終わるじゃん?」
「……ベストを尽くせ」
「マジかぁ……」
勘違いでない事は分かった。
更に悪い事に、オレが考えているより時間が無い事も分かった。
ダメダメじゃん?
「どうすんの?これ?ベストって何さ?」
「…………」
親父はオレと目を合わせてくれない。
「お〜い!親父殿?ここにアナタの愛する息子が困っているよ?アナタの息子の手によって困らされているぞ?」
「…………」
親父はオレと目を――以下略。
「まぁオレがこの任務をこなせなくても、ハクお兄様に怒られるのは、ええ、オレでしょうね……反応なしかよ……」
「…………」
親父――以下略。
「ならば、親父よ。そっちがその気なら覚悟するがいい。オレは昨日の屈辱を、ハクの兄貴に売られた事を忘れていない。ハクの兄貴に洗い浚い親父と共に犯した罪を白状してくれよう。死なば諸共だぁああ!!ふはっ、ふーはっはっはー!!」
「…………!?」
親父はオレと目を――合わせたくてウズウズしている。
「どうした親父殿?何か言ったらどうだ?」
「…………くっ!」
親父は仲間になりたそうにこちらを見ている。
「なぁ、お前ら何してんだ?」
冷静なブリーズがようやくツッコミをいれる。
ここらが潮時か。
「まぁ、てな訳で、モチロン親父も手伝ってくれるんだよな?」
「ああ、もちろんだ。まさか、息子が困っている時に手を貸さない理由が無いな」
親父はついに折れて首を縦に振る。
その親父の嫌そうな顔がとても、それはもうオレの心を満たしてくれた。
これでは、ハクの兄貴の事を悪く言えないなと少し思った。
これで10万字いったので、改稿やらなんやらしようと思います。
もし、更新が遅れても罵声を浴びせないで頂ければ幸いです。