表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の宝物  作者: 小林 あきら
序章 変態素敵な賢者様
20/29

第十九話 巫 ハク&クロ



〜ハク視点〜




 時刻は夕方から夜になり、月明かりが夜道を照らしだす。

 僕はお父さんを抱えながら、月明かりを頼りに裏路地を歩く。

 自らを囮とすることで、犯人を誘き出す、とても単純な作戦だ。


「さて、今回の『魔剣』はどれ程のものでしょうか……」

「どうだろうな?結構強いかも知れんぞ?全力ではないものの、仮にもロッソの一撃を受けて、あれだけ動けたんだ」

「確かに……そうですね。僕が普通に戦ってみて、ダメなら、アレを使ってもいいですか?」

「ああ、構わんさ。俺も久々に暴れたって、罰は当たらんだろうしな。だが、そこまで心配ないと思うがな」

「ありがとうございます」


 お父さんの快い二つ返事にお礼を述べる。

 これで勝ったも同然なのだが、問題は犯人が出てくるかだ。


「それにしても……彼女は尾行のつもりなのでしょうか?」

「ああ、アレは尾行だったのか……バレバレ過ぎないか?」

「どうしましょうか……」


 後ろから、それはもう怪しい街娘がつけている事に気が付いている。

 というかアレで隠れているつもりなのだろうから無視していたが、あんなバレバレな尾行は正直困る。

 その街娘とは、僕があげた服を着たアリスの事だ。

 僕が困っていると、お父さんが助言をしてくれる。


「ここは、あの騎士のねぇちゃんにも働いてもらったらどうだ?」

「え?彼女を囮に使うのですか?」

「ああ。ここまで来たって事は、それ相応の準備をしているに違いない。領主は『神宝』だって持っているんだろ?なら、アーティファクトの一つや二つ借りてくるなり、ポーションを所持しているだろう」

「なるほど。確かにこれから強敵と戦うと分かっている時に、何も準備していないとは考え難いですね」

「だろう?それに、犯人が一人の奴しか狙わないのを知っているのに、あの尾行だ。そう考えるとあそこまでバレバレな尾行は、逆に考えるべきなのだろう。『私が囮になります』と言う、こちらに対する無言の提案だろう。作戦は変わってしまうかも知れんが、ここは囮になってもらって、俺達は準備をしつつ待とう」

「そう……ですね。彼女の行動にそんな意図があったなんて、流石お父さんです。分かりました。まぁ最悪の場合でも、彼女はそこそこ強いですから、少しは持つでしょうね」


 お父さんの意見に賛成し、囮は彼女に任せる事にした。

 きっと大丈夫な筈だ。

 不安ではあるがお父さんが言うのだから間違いない。


 それから、僕達は裏路地の脇道の様な所に姿を隠すふりをして、跳び上がり建物の上に着地した。

 それから少しすると、アリスは僕達が姿を消した、脇道を見て驚いている。

 どうやら、隠れた僕達には気が付いていないようだ。


「後は待つだけ……ん?……あれは……」

「ああ、どうやら来たようだな……中々せっかちなこって」


 アリスの後方に目を向けると、何か嫌な感じがする魔力が近づいてくる。

 アリスもそれに気付いたのか、迎撃の態勢を取る。


 それから、アリスと犯人が斬り結んでいる姿を観察するが、アリスが一方的に押されている。


「お、お父さん……これは……」

「あ、ああ。どうやらあの騎士のねぇちゃん……何も用意してないな……マジかぁ」


 僕とお父さんは、なんとも言えない表情で戦闘を眺めていた。

 お父さんの予想を逆の意味で上回る行動をするなんて、アリスはもしかしたら逸材かもしれないとも思った。

 そして、お父さんが過去に言った『フラグを回収する』とは、この事なのかと関心さえした。

 しかし、何も対策をしていない彼女をこのまま戦わせる訳にもいかない。


「……お父さん。非常に不本意ですが、使います」

「ああ、なんか悪いな……俺のせいで」

「いえ、彼女の命が優先です」


 申し訳そうに謝るお父さんを見て、賢者を謝らせてしまったと更に申し訳なくなる。

 ごめんなさい、不肖な息子で……色々と止めるべきでした。


 僕は気を取り直して、戦闘の準備を始める。


「『神宝:賢者の石』起動開始」


 胸に手を当てて賢者の石を起動させる。

 賢者の石、お父さんの宝物の一つ。

 僕が普段使っているのは、この賢者の石の力の一端に過ぎない。

 その本当の性能は、周りにある魔素――魔力の源を際限なく吸収して、己が魔力にする力。

 そして、賢者の石から無尽蔵に生み出される、この圧倒的な魔力こそが、この神宝の力だ。


 自分に集まる魔力を確認しながら、胸に手を当て、片膝を折り詠唱を始める。


『我、十二神と契約を交わし者。名をハク』


 詠唱を始めると、僕の体が光り出す。

 ここからだ。

 僕の本当の役割は(かんなぎ)と呼ばれる者。

 神を祀り神に仕え、神意を人々に伝える存在。


『我、求めるは死を司る力。我、黒き神と契約を結びし者』


 僕の声に合わせて、お父さんの体も光り出す。

 黒猫という仮の姿がぼやけ、徐々に本来の姿を表わす。


『我が血肉、我が魂を御身へ捧げ賜う』


 詠唱が進むにつれて、僕の白い髪が徐々に黒く染まる。

 僕が行うのは、神をこの人の世界に呼び出し、己が身に降ろす行為。


『黒き神よ!我が身に宿り賜え!』


 これは詠唱であって詠唱ではない。

 そうこれは、神との誓い――そして、神への祈りだ。


【神憑り:死神タナトス】


 その名と共に顕現する。


 漆黒の衣を纏い、骸骨を模した面を付け、魂をも両断する大鎌を手に地に立つ。

 死をその身に宿した姿。

 それはまさしく、死の象徴。


 体から発する、全てを塗り潰す程、神の如く魔力。

 いや、神の如くではない。

 この世界にはいるのだ。


 ――そう神が――


 そして、今の僕が――いや、俺が神だ。




*********




 〜クロ視点〜




 久しぶりに戻った本来の姿で、騎士のねえちゃん達を見下ろす。

 俺の存在に気が付いたのか、魔剣は剣を振り下ろすのも忘れて、警戒するように、こちらを睨んでいる。


 どうやら、間に合った様だ。

 正直ギリギリだった。

 俺のミスというか、騎士のねえちゃんのミスで、目の前で死なれては寝覚めが悪いからな。

 それに可愛い、もしくは美しい女の子は世界の宝だ。

 みすみす見殺しにする訳にはいかない、勿体無いお化けが出る。


 さて、ピンチに駆け付けた、ヒーローっぽくいくかな。

 この闇夜に、乙女の危機に颯爽と現れた謎の男。

 うん、カッコいいじゃないかっ!


「その剣……ほう。これはなかなかの大物だな。それにしても、随分と楽しそうな事をしているじゃないか?」


 中々決まっているのではないだろうか?

 ヒーローの登場シーンとしては、申し分ないだろう。

 騎士のねえちゃんが、俺に惚れてもおかしくないシチュだな。


 しかし、俺の言葉に反応がない。

 ああ……そうか?魔力か。


「ん?ああ、すまんな。くくくっ、久しぶりにこの姿になったからな」


 どうやら、魔力が垂れ流しになっていたらしく、騎士のねえちゃんにはちょっときつかったようだ。

 魔力を外に漏らさない様に、コントロールする。


「これでいいか?」


 俺が魔力を抑えると騎士のねえちゃんは、倒れ込んだ。

 マジか……折角、素晴らしいシチュエーションだったのに……


「……今は眠るがいい」


 俺は精一杯優しい声で告げておいた。

 まぁ、しょうがないか。

 後で、寝ているところに悪戯でもしてやろう。

 それで色々とチャラだな。


 さて、気分を入れ替えて、魔剣の相手をしようか。


「それで、お前はいつまで突っ立っているつもりだ?魔剣よ?」

「…………」


 俺の言葉に返事はない。

 そうですか、無視ですか……さっきから一人で喋っていて、独り言を延々と呟く怪しい人みたいで、こちらはやるせない気持ちになっている。

 君は気付いているのかな?


「なら、こちらから行かせてもらうぞ?」


 了承の返事を待たず、建物の上から飛び降りながら、着地時の牽制も兼ねて鎌を振るう。


「くっ!」


 魔剣は俺の一撃を受けずに、後ろに跳ぶ事で避ける。


「正解だよ。魔剣」


 地面に降り立って、仮面の下でニヤリと笑いながら告げる。

 ここは敵を追い詰めた悪役みたいに、ご丁寧に説明してやろう。


「この鎌はな、斬りたいものだけを斬るという、ぶっ壊れ性能の鎌でな。少しでも触れれば――」


 道の隅に無造作に積み上げてあった、木箱を斬りつける。


「――ほらっ!この通りだ」


 木箱は中に入っていた、鉄の鎧や盾や剣ごと綺麗に切断してみせた。


「なんだと!?で〜も、こ〜れなら!」


 俺の鎌の性能を見ても果敢に突っ込んで来る魔剣。

 鎌を斜めに構え、その斬撃に合わせる様に、鎌を振るう。


「ぎゃは!か〜かったぁああ〜〜〜!『曲がれ』ぎゃははは!」


 鎌と魔剣がぶつかった瞬間、魔剣が叫ぶ。

 先程、騎士のねえちゃんと戦った最後に見せた技だろう。

 推測すると、奴の魔剣はその言霊に反応して、武器破壊か武器をかすめ取る様な効果、もしくは、斬撃自体が言葉通りに曲がるのかもしれない……本来ならな。


 しかし、何も起こらない。


「な……ぜ……?」

「だから説明してやっただろ?」


 魔剣を見つめ、あざ笑うかのように告げる。


「この鎌は『斬りたいものだけを斬る』って。つまり、お前のその技をかりとらせてもらった」

「ば、ばかな!?化け物か?」

「失礼なやつだな」


 魔剣は俺と再び距離を開け、こちらを睨んでくる。

 焦っているのか、さっきまでのナメきった口調では無くなっている。

 そうだ!もっと怯えろ!


 魔剣はこの鎌の性能が分かったのか、それとも俺との力量差を感じ取ったのか、じりじりと俺との距離を開ける様に後ろに下がる。

 でも残念、そんな事はさせない。


『全てをゼロに、凍れ』【アブソリュート・ゼロ】


 呪文を唱え、鎌を持っていない左手を薙ぎ払うと、俺を中心として辺り一面が、急激に温度を下げ、白く染まり、美しい銀世界へと変わる。

 勿論、逃げようとした魔剣にも魔法はかかっている。

 特別に遅行性にしておいた為、汚いボロのローブの先端から手足へと順に凍っていく。


「魔法もだと!?き、貴様何者なんだ!?」

「俺か……俺は通りすがりの死神だ」


 ちょっとこのセリフは言ってみたかった。


「死神だと……な、なぜお前の様な存在が……」

「神は皆、気まぐれらしいぞ?」

「そんな……ふざけるなぁ!」

「貴様がそれを言うのか?」


 怯える魔剣を見ながら、淡々と答える。

 それが奴には恐ろしいのか、凍りつく両足で必死に逃げようとする。

 それを見ながら、ゆっくりと近づき、最後に魔剣に問う。


「どうだ?貴様が他の者にやってきた事をされる気分は?」

「くぅぅううそぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」

「ふふふっ、はーはははあっはははあはっ!!」


 俺はとても人様に見せられない様な顔で笑いながら、魔剣の顔めがけて鎌を振り下ろした。


 仮面があって本当に良かったよ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ