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神様の宝物  作者: 小林 あきら
序章 変態素敵な賢者様
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第十七話 小指は逆には曲がらない ハク



〜ハク視点〜




「ん、ん……宿屋って事は戻った様ですね……ありがとうございます、お父さん」


 僕の胸の上で眠るお父さんをひと撫でして、礼を言う。

 そして、お父さんを抱き上げて、僕のフードの中にしまう。

 起きるまでは、いつもの位置にいてもらおう。


「さて、まずは準備からですね」


 腰の革袋から辺境伯に調査の為に貰った、この街の地図を取りだした。

 今更ながら、いつも普通に使っているこの何でも出てくる革袋。

 実はこの革袋も、列記とした『神宝』の一つである。

 名を『神宝:錬金術師の宝物庫』と言う。

 これは富裕層や一般の人に普及している『魔法の袋』と言う魔道具の強化版みたいな物だ。

 『神宝』と名が付いているが、これは荷物を入れたり、出したりと普通の使い方をする範囲では、代償を要らない優れ物である。

 外見も一般の物と酷似している為『神宝』だとバレる事は滅多にない。

 とても使い勝手の良い『神宝』の一つだ。


「今までの死体が発見された場所と時刻と状況は……それで、昨日ロッソが遭遇した場所がここで、時刻が夜だから……」


 そう呟きながら、地図にバツ印を書き込んでいく。


「なるほど……この変態……じゃなくて、犯人は、やはりまだ思考能力が残っていると判断した方が良いのかな?」


 ロッソと相対した時の会話や奇行が変に印象的だったが、どうやら、その言動や行動とは別に、しっかり考えて襲う場所や、時刻、状況などを判断して行動している。


「ふむふむ、でも、これだけ暴れると分かる事もあるな……次に襲うなら……ここら辺かな?」


 人通りが少なそうな道で、地図にバツ印が入っていない所を指差しながら、考えをまとめる。


「よしっ、これなら案外早く発見できそうだ」


 そして、地図を革袋に戻し、にこやかに部屋を出る。




*********




 一階に降りると、エリーが駆け寄ってきた。


「ハク兄様!もうよいのか?」

「ええ。ロッソから話は聞けましたので、今から出かけようかと思いましてね」

「そうか。それで……」

「ああ、大丈夫ですよ。ロッソは五体満足です」

「そ、そうか……うむ、ならよいのじゃ」


 僕がそう言い、安心させる様にエリーの髪を撫でた。

 というより、僕はそんなにロッソに対して厳しいのだろうか?

 少しこれまでの行動を振り返って、ロッソに対する態度を考え直した方が良いのだろうか?

 まぁ、今も上手くやっているし、これで問題ないのだろう、多分。


「ああ、それとハク兄様に客人じゃぞ?女じゃ」

「女?ああ、アリスさんですか……」

「アリスと言うのか。もしや、ハク兄様のコレか?」


 小指を立て、ニヤニヤしながら聞いてくるエリー。

 止めなさい、君はどこか幼女らしくないけど、その行動はちょっと、おっさんみたいだから。


「いえ、違いますよ。彼女は仕事仲間ですよ」


 そう言いながら、エリーの小指を握り、笑顔で逆方向に曲げる。


「いた、痛いのじゃ!ハ、ハク兄様!冗談!冗談じゃ!」

「おっと、僕とした事が、つい……大丈夫ですか?怪我はありませんか?」


 僕が笑顔で心配すると、エリーは涙目になりながら「うぅ〜」と唸っている。


「幼女虐待は立派な犯罪じゃぞ!?」

「ええ、今後は善処します」

「善処って、なんじゃ!ハク兄様のバカタレー!!」


 僕の玉虫色の返答に、プンプンと怒って去っていくエリー。


「バカたれですか……そうかもしれませんねぇ」


 その姿を見て心を満たした後、アリスの元へと向かった。




***********




「どうも、アリスさん。お待たせしたようで」

「いえ、女将さんと話をしていたので、時間を忘れていました」


 僕の言葉にアリスは笑顔で返答する。

 なにやら機嫌が良いらしい。


「そうですか。では、さっそくで悪いのですが、今後の行動について、少しお話をしましょうか」

「はい!」


 元気に返事をする彼女は、とても眩しいぐらいの笑顔だ。

 出会った時もこの様な素敵な笑顔を向けられていたら、少しは優しく出来たのに。


「さて、今回の犯人ですが、情報を整理してみると分かるのですが、なかなか頭が働く相手なようです。僕が仕入れた情報ですが、この犯人はボロの外装を着ており、手には禍々しい剣を持っていた。そして、人とは思えない動きをしたと目撃報告がありました」

「なんと……その目撃した方は?もっと、詳しく話を聞けるかもしれません」

「命からがら逃げ出して来たらしく、大変怖い思いをしたようですね。これ以上は残念ながら分かりませんでした」

「そうですか……」


 アリスは残念そうに相槌を打つが、この犯人が変態である事は説明しなくてもいいだろう。

 腰の革袋から、先程の地図を取り出し、広げて話を続ける。


「それでですね。これが、騎士団の方と僕が独自に仕入れた情報を明記した物です。どうですか?何か分かる事はありますか?」


 それとなくアリスがこの情報から僕と同じ結論になるか、彼女が使える人間か探る。

 アリスはうんうんと唸りながらも、指を地図に置いた。


「こことここなのですが、人通りが少なくまだ誰も襲われていません。この犯人は同じ場所で犯行に及ぶ事が無いことから、ここの二つを張るのはどうでしょうか?」

「そうですね……悪くはないと思います」


 僕も顎に手を置きながら、頷く。

 悪くない、できれば犯行日時の方も気にしてくれたら尚良かった。

 及第点と言ったところかな?

 いや、逆に僕には都合が良いかもしれない。

 是非とも利用させていただこう。


「では、こうしましょうか。僕がこちらの方の道を、アリスさん達、騎士団の方はこちらの道を見張るというのはどうでしょうか?」

「しかし、それではハク殿が危険なのでは?」

「そうなりますが、これは囮の意味もあります。大丈夫です。もし犯人に出くわしたら、火球を打ち上げて合図を送りますので、救援に来て下さい」

「……分かりました」


 彼女は渋々ながら頷く。

 どうやら、真意は見ぬかれずに、僕の意見は通ったようだ。

 もちろん、僕が選んだ方が本命だ。

 この犯人は犯行場所をバラつかせているが、癖と言うか法則性みたいなものがある。

 まぁこちらとしては、ついてこられると困るし、彼女達が複数でもう一つの方を見張ってくれるのなら、こっちに現れる可能性が高まるのでありがたい。


「それでは、今夜実行に移しましょう」

「はいっ!」


 やる気満々のアリスだが、残念ながら今回はそちら側で待機になるだろう。

 なぜか不安になって、もう一度念を押す。


「では、そういう事で、計画通りにお願いしますね?」

「はいっ!分かりました!」

「お願いしますからね?」

「はいっ!」


 アリスは敬礼でもしそうな勢いだ。

 しかし、彼女の元気な返事にとても不安を煽られるのは、僕だけなのだろうか?

 いや、気のせいだろう。

 辺境伯は彼女達に僕の下に付く様にと言ったんだ。

 つまりこの事件に関しては、僕の命令は辺境伯の命令と同等の効果を持つのだ。

 騎士であるアリスが反する筈はない。

 その筈なのに、この不安感は何なのだろうか?


 こうして僕は、なぜか納得いかない様な変な気持ちを抱えながら、作戦決行の時間まで宿屋で過ごした。

 もしかしたら、これがお父さんの言っていた『フラグ』なのかもしれないと思いつつ。





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