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神様の宝物  作者: 小林 あきら
序章 変態素敵な賢者様
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第十五話 情報収集と言えば ハク



〜ハク視点〜




「……ん……ん〜ん……」


 朝起きると、いつもより少し長くて寝てしまったのか、部屋には誰にもいなかった。

 どうやら昨日はぐっすり眠れたようで、体がいつもより元気だ。


「さて、今日も頑張りますか!」


 自分に喝を入れて部屋か飛び出し、一階へと向かう。

 一階に降りると、朝の仕事帰りの遅めの朝食を取りに来たのか、はたまた、早めの昼食なのか、僕の他にお客さんがちらほらといた。

 カウンターに座り女将さんを呼ぶ。


「すいませーん」

「はいはーい。お待たせしたのじゃー」


 僕の呼びかけに応えたのは、女将さんではなく、可愛らしい前掛けを身に付けた幼女だった。

 というか、昨日から僕の妹になったエリーだった。


「エリー……君は何をしているのですか?」

「ん?見て分からんのか?ハク兄様?」

「そうですね、僕が今ある状況で考えると……店員さんと言ったところでしょうか?」

「うむ、流石ハク兄様じゃ。ロッソとちごうて説明が楽じゃなぁ」

「そうですか……まぁ、楽しそうで何よりですね」

「うむ!」


 エリーが楽しんでいる様なので何も言わない事にした。

 きっと、昨日僕がいないうちに、女将さんと交渉して働かせてもらえるように頼んだのだろう。

 まぁ、お金の事なら気にしなくてもいいのだが、僕やお父さんもお仕事があるのでずっと構ってやれないし、好きにさせよう。


「じゃあ、店員さん。僕に朝食をお願いします」

「了解したのじゃ!」


 エリーは元気よく返事をして厨房に向かおうとする所に、僕は再び声をかける。


「ああ、エリー?」

「ん?なんじゃ?他にも何かあるのか?」

「ええ、大切なことです。その格好ですがとてもお似合いです。とても可愛いですよ」

「くっ!?」


 僕が褒めると、不意打ちのせいか、エリーはその言葉で顔を赤く染めた。

 その事を自覚したのだう、照れた顔を片手で隠しタッタッと逃げる様に奥に引っ込んでいった。

 ふふふ、どうやら僕の方が一枚上手の様だ。


 その後テンパった様子で働くエリーの姿をニヤニヤと眺めながら、朝食を美味しく頂いた。




*********




 朝食を食べ終え、食後のコーヒーを飲んでいると女将さんに話しかけられた。


「ハク坊、今日はどうするんだい?」

「ああ、女将さん。丁度良かった。今日は仕事をしておこうと思います」

「そうかい。それでちょうど良かったって何の事だい?」

「それはですね。ここ最近の事件について知っている事はありますか?例えば、惨殺事件……とかですね」

「ん?仕事ってその事かい?商人のアンタがかい?」

「ええ、辺境伯様直々に仕事として請け負いました。僕の探し物と被る所がありましてね、渡りに船とはこの事ですね」

「そうかい。まぁ、危ない事はしないようにするんだよ」

「まぁ、それは相手次第ですがね」


 肩を竦めて、コーヒーを口に運ぶ。


「それで、何か情報はありますか?」


 そう言ながら、革袋から銀貨を数枚取り出し、銀貨をカウンターに並べる。

 女将さんは片手で銀貨を拾い、ポケットの中にしまい、身を乗り出し、声を潜める。


「そうさねぇ。調査依頼を受けたって事は事件のあらましは知っているだろう?」


 無言で頷き、女将さんの話の続きを待つ。


「なんでも、その犯人は最近こっちに来た奴らしい」

「へぇ、それは初耳ですね。詳しくお願いできますか?」

「ああ、なんでも闇ギルドもちょっとばかし絡んでるって噂だね」

「闇ギルドですか……正直胡散臭いですね」


 眉間にしわを作り女将さんを見る。

 女将さんは僕の顔を見て、優しく笑い話を続ける。


「まぁ、そう言わずに聞きな。ここの闇ギルドは、チンピラの様な連中から暗殺者までいるんだけどね。そこにフラッと現れた他所者がいたらしくてね、そいつが現れた後から、この事件が発生し始めたって噂だよ。闇ギルドの連中も何人かやられたらしく、懸賞金が付いているってさ」

「それで、その他所者の外見の特徴は分かりますか?」

「いや、現れたのはその一度きりだったみたいでね、その時もボロの外装を着て、フードを被っていたから顔は分からないってさ。ただ、そいつが持っていた剣が……なんと言うか禍々しかったって話さね」

「……そうですか」


 顎に手を当てて考える。

 女将さんの情報を信じると、どうやら犯人はその他所者で確定だろう。

 しかし、本当に魔剣が絡んでいるとなると少し厄介だな。


「どうだね?少しは役に立ったかい?」


 女将さんは考え込んでいる僕に、二カッと笑い訊ねる。


「ええ、大変参考になりました」


 僕も笑顔で答える。

 そして、中々有益な情報だったので革袋から追加で銀貨をカウンターに置く。


「ああ、それとその闇ギルドって言うのは、潰してもいいのですか?」

「……え!?なんだって?」


 女将さんはカウンターの銀貨を手に取ろうとしていた手を止め、こちらを向いた。


「いえ、その闇ギルドが悪の巣窟なら、もののついでに潰しておくのも悪くないかなと思いましてね」

「あ、ああ……それには及ばないさ。ここの闇のギルドは、確かに善か悪かで問われたら悪かもしれないが、そんなギルドでも、色々と表では頼みにくい、出来ない仕事をしているんだよ。例えば、娼館の管理だったり、悪ガキ共がやり過ぎない様に見たり、屑みたいな貴族の排除だったり、麻薬などの薬物の取り締まりだったり、凶悪な犯罪者をこの街に寄せ付けないようにしたり、とかね」


 なるほどね、闇ギルドはマフィアとかの事だと思えばいいのかな?

 確かに彼らは裏の世界では絶大の力があるし、単に潰せばいい訳ではないな。

 でも、闇ギルドって名前はどうなのか?

 そんな疑問もあったが、それより気になる事があるので質問の続きだ。


「でも、入ってきていますよね?」

「まぁ、中にはそんな奴がいるからね。闇ギルドは出来ては潰れたりするし、一枚岩じゃないし、それに闇ギルドだって、この街全てをカバーできないさね」

「なるほど、これは勉強になりました」

「まぁ、他所から来た人には、特に分かりづらいだろうね」


 この街が意外に複雑な状況なんだな、と他人事の様に思った。

 しかし、それなら尚の事、領主が動き、その手勢がこの事件を解決することに意味があるのかもしれない。

 権力争いか……今回で僕の立ち位置は領主派ってところかな?


 ああ、なんか考えるのが面倒くさくなってきたな。

 でも、権力が色々な所に分散されているという事は『神宝』も分散されているのか?

 う〜ん……こういうのは、事件を解決してから考えよう。

 まずは、魔剣の回収からだ。

 うん、それがいい。


「ふぅ……では、僕は少し出てくる事にしますね」

「ああ、気を付けなよ。ハク坊はウチに色々とお金を落としてくれる、大切なお客様だからね、はははっ!」

「ははは、そうですね。それでは命を粗末に扱えませんね」


 女将さんの歯に衣着せない言葉に、少し元気をもらって僕は席を立ち上がった。

 お父さんが入っている外装を二階に取りに行き、それを着てまた一階に降りるとエリーがいた。

 エリーは僕を見上げて口を開く。


「ふと、女将さんとの会話が聞こえての?ハク兄様の耳に入れておいた方がいいと思ってのう」

「ん?どうかされましたか?」

「ハク兄様は、昨日ロッソが夜、街に行ったのは知っておるか?」

「初耳ですが、まぁロッソなら行くでしょうね。ああ、そういえば。ロッソは、僕の手紙を読みましたか?」

「う、うむ。ロッソはハク兄様の手紙を見て、それはもう怯えておったわ。それで、ロッソが夜の街に行った話じゃ。妾が部屋で寝ておるとな、ロッソが街から逃げる様に帰ってきたのじゃ。そして『ハク兄様の手紙の最後に、変態が出るから気を付けろと書いてあった事が現実に起きた』と言っておった」

「そう……ですか……変態……ですか」


 どうやら、ロッソのファンタスティックな頭脳では、僕の手紙の最後の一文が、どういう経緯を辿ったのか分からないが、その様に変換されたらしい。

 彼の頭の中がどうなっているか、実に興味深く、知的好奇心をそそるものがあるのだが、今はエリーの話の続きを聞こう。


「ああ、変態じゃ。どうもその変態はボロい布切れを纏っておって、禍々しい剣を使うらしいぞ?」

「……嗚呼。これは……言わなかった、僕のミスなのでしょうね」


 どうやら、ロッソは一足先に犯人と遭っているらしい。

 ただ、そんな怪しい奴がいたのなら、是非とも討伐してくれたらよかったのに。

 僕が手で顔を覆い、天を仰いでいると、エリーが心配そうな声で僕を呼ぶ。


「の、のう。ハク兄様?できればでいいんじゃが、あんまり、ロッソを叱らんでやってはくれぬか?」


 僕はその言葉に顔を、エリーに向け訊ねる。


「ほう、それはどうしてです?」

「あ、あのじゃな。ロッソはその、今回の事件を知らなかったし、妾の事もあって、震えるほど怯えておったしな。そのなんじゃ?あやつなりに頑張った結果じゃからな、できればで良いんじゃが、叱らんでやってはくれぬか?」

「ふふふ、ふははっはははーはははっ」


 エリーの言葉に目を大きく開き、心の底から笑った。

 そうかロッソに、こんなにロッソの事を考えてくれる人が出来たのか、幼女だけど。

 どうやら、ロッソも上手くやっているみたいじゃないか。


「ははは、はぁ……なかなか面白い事を言いますね?」

「……ダメかのう?」

「ええ、いいでしょう。約束します。彼を叱りません。まぁ、それ程怒っていた訳でもないので、心配しなくても大丈夫ですよ」

「そうか、良かったのじゃ」


 エリーはほっとしたのか、胸に手を当てて笑った。

 そんなエリーを見て、あまり家族以外に優しくしてこなかった僕だけど、もう少し人として優しくなりたいと思った。


「では、エリー。僕は野暮用が出来たので、部屋に戻りますね。部屋には誰も近づけない様にお願いします」

「うむ、わかったのじゃ」

「ああ。それと、お仕事頑張って下さい」


 厨房に消えていくエリーを見送り、二階の自室へと歩き出す。

 さて、どうやら調査の前に、僕は我が弟から色々と聞きださなければならないらしい。





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