第十三話 アレは危険だ アフォード
〜アフォード視点〜
「では、辺境伯様。例の『神宝』の件は、事件を解決後にお邪魔させていただきます」
「ああ、手入れをして待っておるよ」
「では、僕はこれで失礼します」
そう言い、ハクと名乗った若い商人は、深々と頭を下げて部屋を出て行った。
彼が出て行った後、少ししてから、私は顔を歪めて、我が姪であるアリスに愚痴をこぼす。
「……アリス。君はとんでもない者を連れてきたな」
「す、すいません。伯父様」
「いや、すまない。良いのだ……あんな者に目を付けられた時点で、君だけでは対処できんだろうしな」
眉間を軽く揉んで、外していた眼鏡をかける。
「では、や、やはり……ハク殿は……」
「だろうな。彼が『神の御使い』か『神殺し』か『契約者』かは分からんが……ああ、つまり『神宝』の所持者で、使用者だな」
彼が身に着けていた、一見上等な服などが『神宝』だとしてもおかしくない。
できれば、詳しく見て見たかったが、あの状況では無理だと判断した。
「…………」
「しかも、我が精鋭である護衛の者を、あの程度と言えるほどの実力者だ。下手したらこの街一つ滅びかねんな」
私の言葉にアリスは顔を青くする。
「だが、今回の態度や行動を見る限り、彼は理知的だ。人の世界の常識を弁えていたし、力でどうこうする人間には見えないのが救いだな」
「そそそ、そうですね」
私の言葉に同意をするアリスだが、凄い速さで目を左右に揺らしている。
これは……何かあったのか?
「ところでアリス?」
「は、はいっ!」
「彼との出会いをもう一度正確に話してもらえるかな?」
「……は、はぃ……」
しゅんと下を向きながら、アリスはぼそぼそと彼との出会いを語りだした。
********
「そ、そうか……」
「はい……不甲斐ないばかりです」
アリスから話を聞いた限りでは、彼を盗賊と間違え斬り殺そうとして、極めつけは、あの温厚そうな彼を怒らせ、殺されかけたたらしい。
我が姪ながら、なんて……なのだろう。
この話を聞いてから、どうも頭痛がする。
アリスの行動が、彼との火種にならないことを神に祈る。
「こうなると、彼をこちら側に正式に雇い入れるのは難しいか……」
「すいません……」
アリスは泣きそうになりながら謝る。
「いや、彼とどの派閥より先に、顔を繋げたのはアリスの功績だから気にしなくて良い」
「そ、そうですか!?」
「ああ、気にしなくていい。関係はこれから築いていけばいいのだから。信頼や信用はこれからの行動で積み上げていけばいい。逆に彼からの好感度は底辺なので後は上がるだけだ」
私がなんとか言葉を尽くし慰めると、アリスは顔を上げパァと笑顔になる。
我が姪はなんと言うか、子犬みたいだな、なんて関係ない事が頭に過る。
「それとアリス。今回の件で君を彼の元に付けたが、分かっているね?」
「はい!大丈夫です!」
「できるだけ彼の意見を尊重するのだよ?」
「はい!このアリスにお任せ下さい!」
「穏便にするのだよ?」
「はい!任せて下さい!」
「彼に任せるのだよ?」
「はい!この命にかけて!」
とても彼女の言動が不安で仕方がない。
しかし、ここは叔父として辺境伯として彼女の事を信用しようと思い、これ以上何も言わなった。
いや、彼女のやる気に満ちた表情を見て何も言えなかったというのが正しいのかもしれない。
私はきっと後悔する事になるのだろう。
我が姪アリスは、彼女の母――我が妹に似て『ポンコツ』なのだから。
彼に加護を与えし神に切望する。
どうか、我が姪を救い給え……と。