第十二話 きなこもち ハク
〜ハク視点〜
宿屋にお父さんと共に帰ると、騎士の恰好をしたアリスが女将さんと話していた。
「女将さん、ただいま戻りました……おや、アリスさん。どうされましたか?」
「ハク殿、どうかされたではありませんよ。昨日私に頼まれた、領主様への紹介についてです」
「ああ、そちらの件ですか。それでどうなりました?」
「お会いになるそうです。急ですが直ぐにでも来てほしいとの事ですので、今直ぐとなりますが来ていただけますか?」
「それは光栄ですね。では、荷馬車に献上の品もありますので、僕の荷馬車で向かいましょうか」
「分かりました」
アリスの言葉に頷き、了承する。
そして、お父さんとエリーの方を向きながら確認を取る。
「では、僕は少し出かけますが、エリーは流石に危険かもしれないので置いて行きますが、お父さんはどうされますか?」
「ふむ、誰も見ていないのは危険だろうから、俺が付いてやろう」
「そうですか、ありがとうございます。では、エリー。お父さんの言う事をしっかり聞くのですよ?」
「うむ。しかし、ハク兄様よ?妾をそう子供扱いせずとも大丈夫じゃぞ?」
「まぁ、この宿の中にいる内は安全だと思うのですけど、念の為ですよ」
僕の言葉に、エリーは腕を組み若干ふてくされ気味に返事をする。
まぁ、こういう所は子供らしくて、可愛いかもしれないね。
「では、アリスさん行きましょうか」
「はい」
アリスと共に領主の待つ館に向かった。
*********
館に到着すると、一人のメイドさんが門の前に直立不動の姿勢で立っていた。
その美しい顔立ちのメイドさんは、長い髪をお団子の様に綺麗に纏めている。
そのお団子が、メイドさんの髪色のせいなのか、なんとなくきな粉餅に見えてきた。
とても美味しそうだ。
久しぶりに食べたくなってくる。
僕達は待っていたメイドさんに連れられて、領主のいる部屋まで案内される。
部屋の前でメイドさんがノックをすると、中から威厳のある声がする。
「入れ」
「失礼します」
アリスと共に部屋に入る。
部屋に入ると一気に人の気配が濃くなる。
天井に二人、隣の部屋に二人、机の下に一人……か。
僕達が入室すると、眼鏡をかけた知的な雰囲気の四十歳ぐらいの男性が、煌びやかな椅子に座り、羊皮紙に何か書いていた手を止め、その顔を上げ僕達を視界に入れる。
「ほう、今回の商人は若いな」
「はじめまして、タナーカ商会にて骨董品を扱っているハクと申します」
「ふむ、私がアフォード=イディオットだ。して、何ようだ?」
「この度は、我がタナーカ商会をお見知りおき願いたく参りました。そして、これをお近づきのしるしとして持って参りました。辺境伯様のコレクションに比べましたら、些細な物と思いますが、どうかお納めください」
後ろに立っていた、きなこもちのメイドさんに合図を送り、持って来た物を辺境伯に渡す。
今回用意したのは、アーティファクトと呼ばれる古代の魔法が付与された逸品だ。
そのアーティファクトの中でもそこそこ良い物を持参した。
美術品としての美しさもある刀剣。
日本刀、名を『風水』という。
これは、さる有名な刀匠によって打たれた逸品とされる。
だが、今回の物は数打物のひと振りだ。
それでも、数打ちの物とは思えない程の性能が備わっている、本来なら。
しかし、今回はそれを敢えて僕の魔法で、汚れや錆など施し、実際の性能と美しさを偽装させてもらった。
今渡したそれは、汚らしい刀でしかない。
これにどう反応するかで、この辺境伯が商売相手として相応しいか分かる。
「そうか、どれ見させて……!?こ、これは!?……お、おい。ハクと申したな?お前は何者だ?どこでこれを手に入れた?」
「我が商会の機密に関する事なので、辺境伯様と言えど話す事はできません。申し訳ありません」
喰いつく辺境伯に残念そうな顔で、深く腰を折って謝罪する。
「しかし、手入れがなっておらんな……ふむ、鞘や刀にかかった魔法のせいか。これを解いて、修復の魔法をかければ元の美しさと性能が――」
などと、ブツブツと独り言を言い始めた。
成程、この良さが分かるという事は、この人は本当に目利きが出来るらしい。
それなら、少しは期待が出来るかな?
「それより、これ程の物を本当に献上するのか?売ればひと財産となろう?今なら買い取る事も厭わんぞ?」
「はい、確かに辺境伯様のおっしゃる通りです。しかし、男が一度出した物を軽々しく引っ込めるものではないと、父より教わっております」
「くくくっ、いいだろう。タナーカ商会のハクと申したな?その名しかと覚えよう」
「ありがとうございます」
献上の品を買い取ると言うとは、中々器の大きな方の様だ。
これは、こっちもそれなりに胸襟を開いて話すべきなのだろうか?
そんな事を考えていると、面白そうに笑っていた辺境伯は、眼鏡を外し、腕を組みこちらを見た。
「では、本題に入ろうか。こう見えて、私も忙しい身なので、前置きは無しだ。こうしてアリスを使い、無理をしてでも、私に直接会いに来た本当の理由を聞こうか?」
「…………」
流石大帝国の南部を支配する大貴族と言うべきか、こちらに違う目的がある事に気付いていたのか。
そして、相手の真意を判断できるような鋭い眼光。
その目で見られた者は、心の中まで見透かされてしまうような感覚を味わうのだろうな……普通の人なら。
先程までの姿は外向けの姿で、今の顔が本来の姿なのかな?
眼鏡を外しただけなのに、ガラッと印象が変わるものだ。
僕がどうしようか言葉を選んでいると、至る所から殺気が漏れてくる。
これは僕にプレッシャーをかけているのだろうか?
普通の商人なら卒倒しかねないが、正直に言うと僕にはこれくらいどうってことはない。
このような態度をとられては、僕にも色々と言いたい事はあるが、それならこちらも少しは本当の顔を出してもいいのかな?
「そうですね……では、単刀直入に言いましょう。辺境伯様が所持している『神宝』の確認を行いたいのです」
「ほう、怯えるどころか、よもやその様な事を言ってこようとは」
辺境伯は僕の態度を面白そうに観察する。
笑顔を崩さずに答える。
う〜ん……でも、やられっぱなしは趣味じゃないし、ちょっと仕返しをしてやろう。
「ええ、アリス様と同等かそれ以下の手練を五人用意した程度では、僕をどうこうできませんので。それに、殺気を漏らしては、折角隠れているのに場所を教えている様なものですので、お勧めしませんね」
指で隠れている護衛の人の場所を、順に指差しながら提言する。
そして、最後に後ろを指差しながら微笑む。
「ああでも。そこのきな粉餅のメイドさんとはできればやり合いたくありませんね。この部屋に案内する時の彼女の歩法は、暗殺者のソレでしたね。それに、女性との殺し合いは僕の趣味じゃありません」
「くくくっあーはははっ!そうかそうか、この程度か。それに……きな粉餅か、くくくっ。ああ、君の忠告は感謝する。今後は注意しよう」
しまった……つい、きな粉餅と口に出してしまった。
「過ぎた事を……申し訳ございません」
大きな口を開けて笑う辺境伯に頭を下げ、その後、辺境伯にニッと笑いかけておいた。
「ふぅ、久々にこんなに笑ったよ。よし、いだろう。君にだったら見せても構わないが……それとは別に少し頼まれてくれないか?勿論きちんと報酬も出そう」
「ありがとうございます。それで頼みとは、どのような事でしょうか?」
「君のその腕を見込んでね、今この街やその付近で、惨殺事件が起きているのは知っているかね?」
「ええ、噂程度でしたら」
「そうか、それなら話が早い。是非その犯人を捕まえてもらいたい」
腕を組み考える振りをする。
アリスから協力を要請されているし、もしかしたら『神宝』が絡んでくる可能性もあるので、断る理由は無い。
理由は無いのだが、少しごねて報酬を追加してもらうのもアリかな?
「なるほど、しかし、それなら騎士団の方々が居られるのでは?」
「ふむ、それがその犯人は思ったより、強く狡猾でな。夜道に一人孤立した者や人通りが少ない道でしか、襲わないのだ。いくら騎士が強くとも、本来の彼らは集団戦や団体行動にこそ、本領を発揮するからな」
「確かに管轄違いですね。しかし、僕一人でこの事件に当たるとなると、それなりの準備が必要になりますね」
「流石に一人ではやらせんよ。君の後ろにいる、アリスっ!」
「はっ!」
「君とその隊も、彼に協力して事にあたってくれ」
「はっ!一命にかけて!」
「これでどうかね?」
「……分かりました。では、報酬の話に移りましょうか」
笑みを浮かべて頷く。
本気を出すなら一人の方が、都合が良いのだけど、まぁ問題ないかな?
粘り強い交渉の結果、報酬はその犯人の所持品を全てと、追加で金貨十枚となった。
やったね!
その後、犯人の目撃証言や被害者の死体があった場所など、出来る限りの犯人の情報を聞き出した。
こうして僕は色々と満足して、ホクホク顔で辺境伯の屋敷を後にした。
そうだ!帰りにきな粉餅でも買って帰ろう。
売っているといいんだけど……




