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No.006 悪性

xxxx年 7月 20日


(――旧型惑星観察機(人工知能付き)が惑星chronoに漂着)

(――世界樹の葉)


 極寒の夜。遥か遠くの地平線がヒトデ・マグマによって埋め尽くされる。

 「NOVVOOOOOOOHHHHHHHHHRRRRRRR………………」

 敵の数は圧倒的だった。対するこちらは五分の一ほどしかいないだろう。斥候と思しき敵の兵隊は溶岩を冷やして固めたような黒い槍を装備している。そして想定していた最悪の事態が訪れた。

 「GU、GYO、GOOOOOOHHHOOHHHHHHHHH…………!!!!!」

 ヒトデ・マグマはヤキトリ・ロウガイを従えている。やはりこれまでの襲撃には偵察の意味もあったのだろう。


 ヒトデ・マグマがじりじりと距離を詰める。射出装置に敵を近づけてしまったら、もはや勝ち目はない。男は敵を足止めする前衛部隊のひとりとして息巻いていた。まだだ。あと少し。次の瞬間、左右に展開しているヒトデ・マグマ達が姿を消した。決まった! そこには大規模に掘られた落とし穴が準備されていた。男も手伝い、即席で仕上げたものだったが、敵の侵攻は目に見えて遅くなっている。少なくとも、これで左右から囲まれて袋叩きにされる心配は無くなった。前衛達は正面から押し寄せるヒトデ・マグマを迎え撃つ。

 出し抜けにヒトデ・マグマが奇妙な笛を鳴らした。すると音を聞いたロウガイが興奮したようにスピードをあげて接近し始める。こちらも出し惜しみはしない。砂埃を巻き上げながらいくつもの射出装置を展開する。樹木の鎧たちが丸太をセットし、一斉に発射。少なくともカコイの数は減らさなければならない。

 しかし第二射準備の途中でロウガイがあの奇妙な声を上げた。いくらなんでも早過ぎる。カコイを全然減らせていない。減らしたヒトデ・マグマの数を踏まえても、まだ明らかに戦力差で負けている。ロウガイが火炎を吹く兆候を見せたので、前線に出ている男とヒトデ・ハナイ達は慌ててヒトデ・マグマ達の方へ突っ込む。装置を操作していたヒトデ達も持ち場を離れ、地下へ避難しようとしたその時だった。

 「GYU、GO、GOVAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!」

 熱さで頭が焼ける! 焼き払われた場所から距離があるにもかかわらず凄まじい熱気が男を襲った。直撃した場所には装置の残骸と溶けかけた金属だけが残っている。が、まだ勝負はついていない。

 「POPOPOOOOOOOHHHHHHH~~~~~~~~~!!!!!!!」

 装置の残骸ごと、砂が押し上げられる。それは焼けた装置の数倍の大きさがある、新たな射出装置だった。ロウガイは一度火を吹いてから、まだ次弾の準備が出来ていないようだ。別働隊は急いで巨大装置の準備に取り掛かる。これを使って発射するのは丸太では無い。溶けた射出装置の残骸を弾丸にする。ロウガイが大きく息を吸う。男は奪った槍でヒトデ・マグマの一体にとどめを刺しながら、横目で伺った。間に合うか。

 一斉発射と同時にロウガイが再び火を噴いた。

 発射が間に合ったのはたった三発。一発目は取り巻きのカコイにぶつかり、そのまま落下していった。続く二発目がロウガイの右の翼をかすめるも、少しずれている。しかし最後の弾丸は狙いを外さずロウガイの右の翼に直撃した。装置は溶けたいびつな形のまま夜の寒さで急激に冷え固まり、ロウガイの翼に癒着した。途端にロウガイの羽ばたきがぎこちなくなる。飛行を続けるための絶妙なバランスが崩れた。硬い表面に傷を与えられないなら、重心を崩す方に狙いを付ける。これは男が戦闘訓練の過程で学んだ事であった。飛ぶ力を失ったロウガイはその巨体を支えきれなくなり、轟音と共に地面に墜落した。

 ヤキトリ・ロウガイのあっけない最期だった。


 行軍を鈍らせたヒトデ・マグマ達の多くは、ロウガイの落下を避けられず潰された。

 その巨体が起こした衝撃は凄まじく、気が付くと男はあらぬ方向へ吹き飛ばされていた。

 ロウガイの首は衝撃で折れ、見るからに即死だ。その身体から溶岩が流れ始め、あたりは高熱に包まれようとしている。鼻をつく悪臭のガスも漂ってきた。ヒサマサ達は無事だろうか。地下窟のあたりは既にマグマで覆い尽くされていた。男の方にも溶岩が接近しているため、もう地下窟へ近づくことは出来ない。

 地下窟に居たネコ達は全滅しただろう。汗を流した訓練場もあとかたも無いはずだ。ヒトデ・ハナイ達の築き上げてきたちっぽけな文明は、この戦いで滅びてしまったのかもしれない。

 戦いに勝利したにも関わらず、男の胸には複雑な思いが渦巻いていた。

 もはや何かを共有できる仲間はいない。男は心の溝を埋める手段を持ち合わせていなかった。



 ヒトデ・マグマの生き残りを見掛けたため砂漠を離れ、しばらくは膿沿いを歩いた。

 「人間、良い物を持っているな」

 ぎょっとして足元を見ると、昆虫のような形状をした四ツ足の機械がこちらを覗きこんでいた。機械は足を伸ばすと、素早く男から超物質を奪い取る。

 「ふん、これは良いものだ」

 機械は足を器用に使い、一人で勝手に納得している。

 「ああ、失礼。初めまして人間。君には何でも好きな物を与えてやろう。力か、知恵か、君は何を望む?」

 「…………、……ヒト」

 「なら、あっちだ」

 男は振り向くと、そこには男と同じ人間が、恐る恐るこちらをうかがっていた。


 集落には人間が何人も居た。

 「これを持っていなさい。簡単に死なれては困る。君も貴重な人材だからね」

 機械は足を使って植物の葉を男に渡す。

 「ここに漂着して以来、あれこれ手を回して集めたのだよ。人間も、資材もね」

 そして集落の中央には巨大な球体がまるで儀式のように供えられていた。四ツ足の機械は男を案内し終えると球体の方へ駆けて行き、側面にある凹みにぴったり格納された。

 すると球体は青い閃光に包まれる。集落で作業をしていた人間も手を止め、球体の方へ集まってきた。

 「さあ共に、新たなる道を歩もう」

 球体の言葉に呼応して周りの人間が手を叩き賛同する。なかには祈りをささげている者も居る。

 「私には強化学習システムが搭載されている。より正確に観測できるよう環境に適応/進化し解析を進める機能だ、分かるかね? 私は広大な宇宙の寒空を漂いながら考えた。正確な観測とは何だろうか。考えあぐねていると、ひとつの光を見つけた。あの紅い惑星が見えるだろうか。我々は惑星pyonkitiと呼んでいる。あそこに巣食う異物/TAME56はやがて惑星を食らい尽くし、跡形も無く消し去るだろう。そこで私は思考/定義を変えた。極限まで完璧で正確なデータを観測するには、観測対象/惑星chronoを未来永劫一定の状態に保つしかないと。変化の余地/可能性/未来を食らい尽くすことこそ、正確な観測への最善手であると」

 

 

 「人間、全てを与えてやる。その代わりに手を貸せ」


 球体は力強い声で告げる。 


 「私と共に、この惑星を滅ぼすのだ」



 名前:(名前を習得していない)

 状態:疲労、困惑

 知性:少年

 思考:冷静

 Kill/Death ratio : 2/1 (2.00)

 装備:多肉植物の服

 所持:世界樹の葉

from chronoLab's sys.

聞こえていますか研究員、コンソールの前にいるあなたのことです。

惑星chronoへ刺激/影響/変化を与えて下さい。

私たちは「感想欄/一言」から物資/事象/知恵を参照し、発展を支援します。

これはMonte Carlo methodによる強化学習実験の一部です。

これは高度な文明を再現することが期待されます。

その価値が重み付けから評価/選択されることに注意して下さい。


研究員:「漂着者」光煌ひかル[4,1,3,0,0]

■評価+1

変容

文明+1

協調

独自

end of message.

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