ティアワナコ神殿へ
ギルシュは、町をこっそり回っていた。
この日も、何の収穫もなく、普段であれば、帰る頃であったが、ふと足を止めた。
彼が無言で見上げたのは、城下町から離れた町にある、神殿であった。
ティアワナコ神殿は、歴史上、王家と深い関わりがあり、白魔法を伝授する場であるので、黒魔法を使う宮廷魔道士が近寄ることを疎んでいた。
そのため、王族の側付き魔道士のみが、護衛のために送り迎えする程度にしか、許されなかったのだった。それも、門の外までである。
セルフィスの供で、ギルシュも数回だけ、来たことがある程度だ。
マリスや、彼女の産みの母であるジャンヌと縁のある神殿であれば、何かわかるかも知れないと思いながらも、ずっと躊躇していた。
民たちの中から、味方を探し尽くしたが、見付からなかった。それを、自分の中での理由にすれば、ここへ来ることが出来た。
最後の賭けだと覚悟して、ギルシュは、神殿の門を叩いた。
「一介の魔道士が、いったいなんの用だね」
門の小窓から、じろりと、門番が睨む。
彼が、取り次いでもらえる唯一の手段は、正直に身元を明かすことだった。
町民や旅人に変装したり、嘘偽りを並べるよりも、はるかに信用がある。
ギルシュが、自分はセルフィスの遣いだが、お忍びでやってきたことを告げると、門番は慌てて謝罪し、彼を神殿の入り口へと案内した。
間もなく、神官が現れ、奥の礼拝堂へと、ギルシュを招く。
それには、ギルシュも内心驚いていた。もっといろいろな理由を述べないと、話を聞いてももらえないと思っていたからであった。
(もしかしたら、神殿側も、待っていたんだろうか? セルフィス様とコンタクトを取りたいと望んでいたとか)
美しい青色を基調としたステンドグラスから、夕日が差し込み、室内は、紫色に照らされていた。
(まるで、あの方の瞳の色みたいだ……)
そう思った瞬間、ギルシュの心の奥から、湧き上がってくるものがあったが、急いで振り払う。
礼拝堂の中央まで来ると、神官が、ゆっくりと口を開いた。
「マリス様とジャンヌの様の行方は、こちらでもわかりません。お城の方々が、何度もお見えになりましたが、その度に、そうお話ししているのです」
神官の表情には、疲れが見えていた。
「しかし、あなたが大公妃殿下ではなく、セルフィス公子様の遣いだと言うので、こちらにお招きしたのです」
その神官の言葉に、感謝するように、ギルシュは丁寧に頭を下げた。
表情を曇らせた神官が、話を続ける。
「町の方々が、訴えに見えます。ミラー家のお茶会に出席された方や、マリス様と士官学校が同じであっても、話をしたこともない方でさえ、城に連れていかれ、あれこれ尋問されたり、彼女を少しでも良く言おうものなら、大公妃の逆鱗に触れ、投獄させられてしまったと、ご家族が相談にいらしたりもしています。今のところ、神殿は、従来通り治外法権ですが、国王代行の大公妃殿下が女王に即位なされば、王家とこの神殿との、これまでの関係が壊される可能性もあるのではないかと、ここの者たちも、怯えております」
神官は、ギルシュの顔色を伺うように、おそるおそる語り始めたが、彼の人好きのする雰囲気から、徐々に安心したような口調にもなっていった。
「セルフィス様は、ご幼少の頃から、わたくしどももよく存じております。あのお方は、大公妃殿下とは違うと、我々は信じております」
「そのお言葉を聞けて、また、私のことも信用してくださり、安心いたしました」
ギルシュも、ほっとして、微笑んだ。
「それで、……セルフィス様は、どのように? 」
遠慮がちに、神官が尋ねた。
「殿下も、この国の今後を心配しておられます。表向き大公妃殿下に合わせてはいますが、常に、国民の心配をされています。そのため、私が、しょっちゅう城を抜け出して、国民の皆様のお話を聞いて回っているのです」
完全に神官たちを信用したわけではなかったため、セルフィスの秘密組織を作るのが目的であることを、ギルシュは、まだ話すわけにはいかないと思っていた。
神官は、感激して両手を組み合わせた。
「おお! さすがは、セルフィス様! やはり、あのお方は、我が神殿とベアトリクスの民たちのことを、いつでも心に留めておいでなのですね! 」
そう言って、彼は、胸の前で神の印を切ると、祈りの言葉を呟いた。
それから、ひとりの巫女を連れてきたのだった。
神官服を着た、ギルシュよりも少々若い少女だった。
「巫女のマーガレットでございます。しばらく、他国の神殿で修行を積んでおりましたが、この神殿の巫女となってからは、まだ間もないので、セルフィス様とは面識はありませんが。……城の遣いの者たちには黙っておりましたが、彼女は、マリス様とも、彼女のお仲間とも、接触のあった人物でございます」
金髪をひとつに束ねた、青い瞳の少女は、キッと、ギルシュを見据えている。
ギルシュは、丁寧にお辞儀をすると、人払いを頼んだ。
礼拝堂には、マーガレットとギルシュの二人だけとなった。
「あなたが、マリス様ともつながりのあったお方ですか。皆、投獄されてしまったものですから、やっとお会いできて光栄です」
ギルシュが微笑んだ。
マーガレットの方は、うさん臭そうに、彼を見ている。
「そんなに怖いお顔をなさらないでください。私は、敵じゃありませんよ」
警戒心を解きほぐそうと、ギルシュが肩を竦め、無防備に笑ってみせる。
「あなた、勘違いしないで」
マーガレットは、ギルシュの予想に反した言葉を吐いた。
「私、マリスなんかとは、友達でもなんでもないわ。ほんの一〇歳頃、ちょっと知り合いだったっていうだけよ」
ギルシュは意外そうに、目を丸くして、彼女を見た。
「まだ私のことを疑ってるんですか? 大丈夫ですよ。あなたを城に突き出そうなんて、そんなことしやしませんから」
「どうやって、それを証明するのよ? 」
「証明ですか? ……う〜ん、困りましたねぇ」
ギルシュは顎に手を当てて、考えた。
「それをすれば、質問に答えてもらえますか? 」
「私が納得すればね」
(なかなか一筋縄ではいかない巫女さんですね)
ギルシュは心の中で苦笑したが、実際、それほど嫌な気はしなかった。
「じゃあ、こうしましょう」
彼は、深呼吸すると、両手を口に添えて叫んだ。
「大公妃のバッキャロー! 」
マーガレットは呆気に取られ、ぽかんと口を開けた。
「ああ、スーッとした。ストレス溜まってたもんで」
ギルシュのすっきりした顔を見て、マーガレットが吹き出し、笑い出した。
「どうです? 我ながら、なかなか勇気のいったことだと思うんですが。宮廷魔道士の誰が聞いているかわかったもんじゃありませんからね。これが聞こえたら、私は間違いなくクビです。悪くて、反逆罪で死刑にもなってしまうかも知れません。こんな危険を冒してまで叫んだんですから、信用して頂けますね? 」
マーガレットは笑うのをやめると、再びギルシュを睨んだ。
「よく言うわ。神殿の中は、宮廷魔道士であろうと、治外法権で、干渉は禁じられているのよ。結界によって、彼らには聞こえるはずがないわ。それを知ってて、あえて叫んだんでしょ? 」
ギルシュは、目をパチクリさせた。
「そういえば、そうでしたね。だったら、無駄に魔力を使っちゃったことになりますね」
ギルシュの周りの空気が、微かに揺れた。
「あなた、……結界張ってたの? 」
「ええ、そうです。ホントに聞こえたら、ヤバいですから。今クビやら死刑やらになるわけにはいかないんです。セルフィス様をお守りするのが、私の勤めなんで。それまでは、いくら大公妃のことを、嫌な女だと思っていても、それを顔に出すことすらマズいので、これくらいのズルは、許していただけませんか? 」
マーガレットは、しばらく、ギルシュを、驚いたように見つめていたが、そのうち、クスッと笑った。
「あなたって、おかしな人ね」
「よく言われます」
マーガレットは笑った。
「わかったわ。あなたを信じるわ」
「ああ、そう言っていただけて、やっと安心しました! 」
「あなたの方こそ、簡単に、私を信用していいの? 」
「これでも、私は、人を見る目は、培ってきたと自負しておりますので」
「そう。それじゃ、ちょっと、そこで待っていて」
マーガレットは礼拝堂を出て行き、三人の同じ年頃と思われる青年たちを連れて、戻ってきた。
三人は、田舎の町の者のような格好をしていた。
一見すると地味な、ただの田舎者であったが、服の下に隠された体格は、鍛えられたものだということは、ギルシュには、なんとなく見当がついたのだった。
「彼らは? 」
「右から、カルバン、パウル、クラウス。皆、マリスと同じ士官学校の出よ。でも、それだけじゃないの」
マーガレットが、人差し指を立て、真剣な表情になった。
「彼らはね、ダンの作ったハヤブサ団の一員なのよ」」
「ハヤブサ団……! 」
ギルシュが驚く。
セルフィスから聞いたことがあった。ダンは、士官学校の優秀な生徒たちを集め、若者だけの部隊を作っていたのだと。もちろん、マリスもその一員であり、彼の右腕として、活躍していたとも。
「クラウスは、作戦部長だったから、特に、ダンやマリスとも親しかったの」
眼鏡をかけた利発そうな青年が、無愛想に会釈をした。
思いもよらない、理想的な人材に、「絶対に口説いてみせる! 」と、ギルシュの胸は高鳴っていった。
だが、ここでも、ギルシュは、その思いに反した言葉を聞くことになった。
「けっ! 公子のイヌがっ! 」
そう吐き捨てたのは、カルバンだった。
「俺たちは、ダンに忠実であって、公子とは、何の関係もねぇや! 」
「そうだ! ダンを追い出した公子の言うことなんか、おとなしく聞いてやるもんか! 」
パウル、クラウスまでもが、カルバンに続く。
拍子抜けしたギルシュは、すぐに気を取り直した。
「あのー、皆さん、……公子様のことが、お嫌いなんでしょうか? 」
「当ったり前だろ! 」
三人が、口を揃えた。
「なんでですか? 」
不思議そうにしているギルシュに、イライラした口調で、カルバンが言った。
「ヤツがマリスを奪ったから、ダンは、この国を出て行くハメになったんだ! 」
パウルも続く。
「まったく、マリスもマリスだ。王女だったのがわかった途端、コロッと寝返りやがって。ダンを見捨てたんだ。あんなに仲が良かったのに……! 」
「所詮、女なんて、身分に弱いんだ。ダンが可哀想だ。一生懸命頑張ってたのに」
ぼう然と、二人の言い分を聞いていたギルシュは、我に返った。
「う〜ん、つまり、あなたがたは、無実の罪に問われているマリス様を、探す手伝いは、してくださらないと……? 」
「そんなの当たり前だろ! 」
血の気の一番多そうなカルバンが、食いつくように言った。
「マリスの罪が、例え濡れ衣だろうと、そんなの自業自得だろ? ダンを裏切って、公子に寝返った罰だ! 」
「そうだ、そうだ! ダンを追いつめて、失踪させたマリスを、なんで、俺たちが探してやらないといけないんだよ! 」
パウルも、カッカしている。
ギルシュは、皆を見回してから、溜め息をつくと、大袈裟に肩をすくめてみせた。
「やれやれ。元武人と言えども、女々(めめ)しいやつらばかりで、がっかりしちゃいましたよ」
「なんだと!? 」
「この魔道士野郎! もういっぺん言ってみろ! 」
二人が食ってかかるが、ギルシュの方は、平然としていた。
「だって、そうでしょう? たかが失恋くらいで、なんです? そのような、誰もが経験する珍しくもないことが原因で、国を逃げ出しちゃうなんて、僅かな間でも、そんなんで、よくこのベアトリクスの騎士が勤まったものですね」
「こっ、こいつ……! 」
三人は、怒りのあまり言葉に詰まるが、パウルが言った。
「たかが魔道士になにがわかる! ダンとマリスは、いずれ一緒になる運命なんだって、俺たちだって、そう思っていたんだ。それを、横から、権力にもの言わせた公子なんかに奪われたんだ。お前に、そんなダンの気持ちがわかるか!? 」
(わからなくはないですよ。その上、こちとら、そのセイルフィス様に、お仕えしなくてはならない身なんだからな)
ギルシュは、冷めた視線で、パウルを見た。
「ダンさんが、ただ逃げただけだと思うのは、彼を見くびることになりませんか? 彼は、亡命する直前、セルフィス様のところへ、挨拶に来ました。自分の軍隊を作り、国を取るのだと、腕のいい将軍の多いこの国では、自分の力を発揮できないから、他国でそれを試したいと、そう言っておられましたよ。彼が、マリス様を取られたことくらいで、くよくよするような人間には、私には思えませんでしたがねぇ」
その場は、静まり返った。
ギルシュは、あまりよく思っていないダンのことを、美談にしてしまったことに、心の中では悪態をつきたくなったが、彼らを丸め込むためには、仕方がないと、我慢した。
「そうよ、皆、ギルシュさんの言う通りよ」
それまで黙っていたマーガレットが、突然発言したので、皆、驚いて振り返った。
「ダンが、マリスにフラれたくらいで、ひねくれちゃったりするもんですか。そんなの、あなたたちが、一番よくわかってるじゃない。ダンは強かったわ。だからこそ、あなたたちのような血の気の多い人たちだって、彼に付いていったんじゃなかったの? 」
マーガレットの言葉に、動揺したのか、言葉もなく、三人は、ただ互いの顔を見合っていた。
「ダンさんだったら、おそらく、こう言うでしょうね、『マリスは、俺が必ず助ける! 』って」
ギルシュが、心の中で、唾を吐きたくなるのを抑えて言ったセリフに触発され、マーガレットは、頬を上気させた。
「そうよ、そうに決まってるわ! ダンなら、なんの見返りも期待せずに、この狂いかけたベアトリクスを立て直してくれるわ! 」
(そうでしょうかね)
ギルシュは、横目でマーガレットを見てから、続けた。
「マリス様は、この国には、必要なお方です。今のこのおかしく歪んできたベアトリクスを軌道修正するには、是非、あの方の力が必要なのです。それに、マリス様は、セルフィス様とご婚約されてからも、ずっと、ダンさんのことを、気にかけていらっしゃいました。セルフィス様も、未だに、ダンさんを慕っておられます。どうか、それだけは、信じて頂けないでしょうか? 」
ギルシュが熱のこもった視線で、三人に訴えかける。
三人は、しばらく目で訴え合っていたが、そのうち、パウルが口を開いた。
「だったら、俺たちは、ダンを探す。ダンを先に探して、それから、一緒にマリスを探す」
もし、ダンが先にマリスを見つけてしまえば、セルフィスを助けずに、そのまま突っ走るかも知れないと案じたギルシュは、内心慌てながらも、平静を装って言った。
「待ってください。それは、どうでしょうか? ダンさんは、今は、ご自分の軍隊を作っている最中なのです。そのような時に、水を差すようなことは、避けた方がよろしいのでは? 」
「なにぃ〜? 」
うさん臭そうに、パウルとカルバンが、ギルシュを睨む。
だが、腕を組んで考え事をしていたクラウスが、顔を上げた。
「それは、その魔道士の言う通りかも知れない」
全員が、クラウスの眼鏡顔を見つめる。
「俺は、ダンと一緒に、よく作戦を考えていたから、わかるんだ。ダンは、ただがむしゃらに戦う男ではなかった。学校で習ったアレクサンドロスの兵法を熟読していた。『まずは作戦だ』と、言っていただろう? 」
クラウスは、人差し指で眼鏡を押し上げてから、続けた。
「ダンが、今、独自の軍隊を作っているんだったら、そのまま、それを続けてもらった方がいい。あいつのことだ、マリスのこととなると、熱くなって、すぐに駆けつけようと、してしまうかも知れない。……まあ、それは、ダンがまだマリスに未練があれば、の話だが。士官学校を卒業して、若手の隊『流星軍』の初陣戦でも、それで、黒鷹団の将軍で同行してたラン・ファ先生に止められたことがあっただろう? 」
カルバンもパウルも、顔を見合わせて、頷いた。
「どのくらいの期間で、ダンが自分の軍隊を作れるかはわからないが、きっと精鋭たちを集めていると思う。それだけ、ダンには、剣の腕だけじゃなく、人を惹き付けるものがある。その間に、俺たちが、マリスを探す。あの女は、無茶苦茶だが、強いことは強い。
マリスがいれば、育ての親であるミラー将軍の白龍団が立ち上がるだろう。白龍団は、国王陛下の親衛隊で、忠義を尽くしてきた。大公妃よりも、ベアトリクス国王に味方するだろう。
そして、ダンやマリスの兄さんたちのいた金獅子団の将軍は、ダンの遠縁に当たる人だ。ダンとマリスがベアトリクスで合流すれば、間違いなく、彼らに味方してくれると思う。金獅子団ランカスター将軍は、ミラー将軍の親友でもあるしな」
一同、しんと静まり返った。
その中で、ギルシュは、クラウスに感心した。
「さすが、作戦部長だっただけありますね、クラウスさん。見事ですよ! 私は、そんなことまで、考えつきませんでした! 」
「すごいわ、クラウス! 」
マーガレットも、両手を組み合わせて喜んでいた。
クラウスは冷静なまま、カルバン、パウルに振り向いた。
「どうだ? マリスのことを探してみるか? 後に、ダンの行方も追うとして」
パウルの瞳は輝いてき始めたが、カルバンが、暗い表情になった。
「だけど、昔のハヤブサ団で無事なのは、俺たち三人だけだぜ。後は、牢屋の中だ。どうするんだよ」
パウルの輝きかけた瞳も、カルバンの言葉で、輝きを失っていく。
「三人だけだって、いいじゃない」
マーガレットが言った。
「あなたたちだって、充分、強かったじゃない。ダンは、ひとりで国を出て、何もないところから、たったひとりで造り上げようとしているのよ。それに比べたら、マリスを探して、助太刀するくらい、わけないでしょう? それに、少人数の方が、大公妃の追手にも、見付かりにくいと思うわ。幸い、あなたたちは、この国を出て行ったと思われているんだし」
「だ、だけどさ、マーガレット……」
「そんなこと言ったってなぁ……。俺たち、いくさ以外で、この国を出たことなんか、ないし……」
煮え切らないカルバン、パウルに、マーガレットが、両手を腰に当て、じれったそうに言った。
「しょうがないわねぇ、もう、いいわ。私も一緒に行く」
「ええっ!? 」
それには、カルバンたちのみならず、ギルシュでさえ驚いた。
「何を言ってるんだ、マーガレット! お前は、この神殿の大事な巫女じゃないか。それが、わざわざ危険な旅に出るなんて! 」
「そうだよ、だいたい、女には、無理だよ! 」
カルバンとパウルが口々にそう言うが、マーガレットの決心は固そうであった。
「何言ってんの。あなたたち見てると、旅立っても、いつ腰が引けて戻ってきちゃうかわからないわ。私が、時々、お尻を叩いてあげる」
「だ、だけど……! 」
「マーガレット、お前には無理だ。お前を連れては、行けないよ」
クラウスまでが加わり、マーガレットを止めようとするが、ギルシュが、手をポンと叩いた。
「それは、いいかも知れませんね。女性には、過酷な旅になるかも知れませんが、巫女さんであるマーガレットさんなら、白魔法の回復技が使えるでしょうし、時々、私とも連絡を取ることが出来ると思います。マーガレットさんがいた方が助かるのは、あなたがたの方かも知れませんよ」
三人は、どうしたものかと、顔を見合わせていた。
マーガレットが同行すれば、魔法でギルシュとやり取りが出来るかも知れない。いちいち帰国して状況を報告するのは手間であり、危険も伴う。ベアトリクスの門番のチェックも、厳しくなっているし……などと、彼らは話し合った。
「それに、魔法が使える人がいると、心強いですよ。場所によっては、夜には、魔物が出たりもしますしね」
三人の顔が、引き締まった。
「私がいれば、剣に『魔除け』もしてあげられるから、魔物対策もバッチリよ」
マーガレットが、拳を握った。
「なんだか、マリス様と似てますね」
ギルシュが、マーガレットに笑いかけた。
マーガレットの頬が、ふくれる。
「あんな、物事の善悪もつかない子と、一緒にしないでよね。私だって、役に立つこともあるんだと思えばこそなんだから」
「そういうことにしておきますか」
くすっと笑ったギルシュに、マーガレットも、少しだけ笑った。
「また来ます。その時は、あなたがたを、公子様のもとへ、お連れします」
マーガレット以外の三人は、顔を見合わせるばかりであったが、そう言い残して、ギルシュは神殿を去って行った。
ギルシュの帰り道の足取りは、軽かった。
といっても、彼は空中を飛んで移動していたので、足は使っていなかったが。
ティアワナコ神殿でのことを、ギルシュは、逸早く、セルフィスに報告したかった。
そして、明日にでも、サリナエにいるバルカスにも知らせようと思っていた。
その時だった。
不吉な念波が、彼に届いた。
瞬間的に、それがバルカスのものだとわかった彼は、急いで方向転換した。
外伝2『光の王女』に、ちらっと出て来た子たちでした。
…っていうか、ギルシュ含め、全員外伝の登場人物でした。(^^;