試作品ロボット第二弾
ケインがマリスの手を引き、街中へ歩いて行く。
「マリスの好きそうな店、前に見つけたんだ。こっちだ」
マリスの鼓動が、どきんと鳴った気がした。
あたしのために、わざわざ探してくれた? もしかして、少しは記憶が戻ったとか?
どんなお店かしら?
「前から、マリスには、こういうのが似合うと思ってたんだ」と、服やアクセサリーの店に入る。
貴族が旅の際に着るような、控えめな旅行着を試着したマリスに、「きれいだよ」とケインが微笑むーー。
そんな場面を想像していると、マリスの頬が、染まっていく。
いざ店に着いてみると、ケインが連れて行った店の前には、鎧と剣の置き物が飾られていた。
「なっ? マリス、武器見るの好きだっただろ?」
まったく邪気の無い笑顔のケインが、マリスを見る。
「アストーレの武器・防具屋も、楽しそうに見てたもんな」
そういうことは、覚えてるのね。
マリスは、ケインを見上げた。
もうちょっとロマンチックな発想、ないのかしら?
……えっ、ロマンチックって、……なによ?
何気なく浮かんだ考えを、すぐに打ち消した。
セルフィスの時みたいに、貴族の生活じゃないんだから。一般庶民は、服装やらアクセサリーだとか、そんな気楽なものじゃないんだからと、思い直したのだった。
武器や防具を眺めているうちに、マリスは、いつの間にか、ウキウキと見入っていた。
知らない外国製の武器もあり、意外と楽しめた。
自分で買うつもりだったが、ケインがプレゼントしたいと言って譲らなかったので、ケインの予算的にも、軽くて使いやすいアイアン・ナックルに落ち着いたのだった。
帰り道、マリスは尋ねた。
「いつの間に働いてたの? 知らなかったわ」
ケインは笑った。
「マリスが図書館に通ってた間、俺は、ハッカイの紹介で、よろず屋やってたから。よろず屋の仕事って、仕事らしくないのばかりだからさ、気付かなかった?」
マリスは、なんだか嬉しく思った。
魔物退治やその他で、まとまった金をもらってきた彼女には、地道に人々の役に立ち、感謝された報酬でプレゼントしてくれたことが、ありがたく思えたのだった。
これまで、そのように考えたことすらなかったと、気が付いた。
マリスは、手にはめたアイアン・ナックルを、じんわりと、嬉しそうに見る。
「ありがとう。これ、絶対壊さないわ。大事にするね」
ケインは、にっこり笑った。
「それなら目立たないし、装備もしやすいから、ベアトリクスに帰った後も、王子を護ってやれるだろ」
マリスの足が、ピタッと止まる。
「記憶……戻ってない……」
そのマリスの呟きは聞こえていないケインは、にこにこと笑ったままだ。
「良かったー。マリスのためにも、王子のためにもなるものを、あげたかったんだ!」
マリスは、複雑そうな顔で、もう一度、アイアン・ナックルを見つめた。
その時、爆発音が聞こえた。
ケインとマリスは、顔を引き締めて見合うと、音の方へと駆け出した。
ある食堂の、天井が破壊されていた。
二人が駆けつけるが、店の中は瓦礫と煙で、見通せない。
「ケ~イ~ン~……」
その息も絶え絶えのかすれた声に、ケインとマリスが振り返ると、瓦礫の下から、カイルと、中年の男が見えた。
ケインが瓦礫をどけ、マリスが、店主である男を引っ張り出し、次にカイルを引っ張った。
二人は、髪も衣服も黒焦げになっていた。
クレアもラン・ファもまだ戻らない。
ケインとマリスは、店主とカイルに肩を貸し、町の医者へと連れていった。
「いてててて!」
痛がるカイルの全身に、薬を塗りたくり、医者が包帯を巻いた。
「見た目ほど大変なケがではない。黒いのは、火傷ではなく、煤じゃからのぅ」
老年の医師は、そう言うと、今日はなんだか忙しいとぶつぶつ言いながら、他の患者を診ていた。
「たいしたケガじゃなくて良かったな」
ケインがほっとした顔で言った。
「ああ、俺の美貌が!」
包帯を巻かれた手で鏡を見ながら、カイルは、煤の充分取り切れていない自分の顔と、少々縮れた輝きを失った金髪とに嘆いていた。
「もうすぐ、クレアたちも戻ってくるわ。ちゃんと治療してもらえば、大丈夫よ」
マリスが、ほっとした顔から、少し真面目な表情に変わった。
「それで、いったい、どうしてそんなケガしたのよ? あなただったら、船が沈没する前に逃げ出すネズミのように、その魔法剣様が、危険を察知してくれて、とっくに逃げられたはずじゃなかったの?」
カイルが、まだ手鏡を離さずに、答えた。
「だから、この程度で済んだんだよ。なにしろ、店の天井は、ぶち抜けちまったんだからな。店の客と、あの店長を助けてたら、逃げ遅れたんだよ。もっとも、今までの俺だったら、そんな時は、自分だけ逃げてたから、無傷で済んだはずだがな」
カイルは、ギロック博士の連れた、木の人形の話をした。
「偉いじゃないか、カイル! 俺は、てっきり、魔道士の女の子口説こうと、何か失礼なことでもして、炎の術でもくらったのかと思ったぜ!」
「お前なあ……」
カイルは、感心しているケインをにらんだ。
ケインとマリスは、カイルを両脇から抱え、ハッカイの居酒屋に戻った。
「クレアもラン・ファさんも、まだ戻らないのか。ミュミュも、どこ行ったんだ? こんな時に限って、いやしねえ! 早く治さないと、怪我の跡が、顔に残っちまう! ああ、なんだか小腹が減ったぜ。のども乾いた!」
文句を言いながら、ほとんど全身包帯巻きのカイルは、椅子に腰かけ、マリスが口元まで運んだ焼ブタの薄切りを、頬張った。
ケインも、カイルに言われるまま、ミルクのツボをかたむける。
実際は、それほどの大怪我ではなかったのだが、カイルがあまりにも痛がるので、二人は、ほぼ彼の言いなりになっていた。
いれば必ず叱るであろうクレアがいないのをいいことに、怪我を口実に、カイルは、わがまま放題であった。
「ハッカイさん、ここも気を付けた方がいいぜ。さっき、俺がいた店で、小柄で背中の丸まった、拡大鏡みたいな片メガネをしたじいさんが、ロボットとかいう木の人形に、掃除だとか仕事を手伝わせてみろとかなんとか言ってたからな、気を付けなよ、ここにも来るかも知れないぜ」
カイルが忠告すると、カウンターの中から、ハッカイは微笑んだ。
「もしそのロボットってやつが、言うことを聞いて、作業してくれるんなら助かるが、俺は、自分の店で出すものは、自分の手で作りてえなぁ。こう見えても、昔から美食家だったんだぜ。うまいものが食いたくて、とうとう自分で作るようにまでなっちまったんだ。
俺が、この店で出すのは、どれも腕によりをかけて作ったものだ。ただ、決められた分量通りに、調味料を使えばいいってもんでもない。その時の加減に合わせて出来るようになるには、料理人としての経験が大きい。俺の弟子たちならともかく、機械人形には、そんな判断は出来ないだろう」
と、ハッカイが語っていた最中であった。
バタンと扉が開くと、そこには、小柄な老人と、人の形をした木の人形とが現れたのだった。
カイルの目付きが鋭くなった。
「噂をすれば、なんとやらだぜ。あいつが、今話した、博士を名乗るじいさんと木偶人形だ。あのじいさん、同じような人形を、いくつも作ってるらしいな。俺が見たヤツは、爆発しちまったからな」
「ふ~ん……」
ケインもマリスも、カイルの世話を焼きながら、じっと、老人と、木で出来た人形を見つめた。
カイルの話した通り、片方だけ拡大鏡を付けた老人は、人形を後ろに連れ、ハッカイへ向かって行った。
「あんたが、この店の店主かね? ワシの作ったお手伝いロボット試作品第3号を、試してはみないかね? なぁに、試作品じゃから、給料は、一ヶ月ほんの銀貨一〇枚。どうじゃ、お得じゃろう?」
「ハッカイさん、そいつが、今まさに、俺が話していた、ギロックとかいうイカレじいさんと、イカレロボットだぜ!」
カイルが叫んだ。
「なんだね、お前さんは? ミイラ男かい? いきなり人をキチガイ呼ばわりはないじゃろう」
「なんだと!? 俺がこんな姿になったのは、すべて、てめえのせいだろ!」
カイルとギロックの間に、厨房から出て来たハッカイが入り、穏やかに切り出した。
「それで、じいさん、あんた、もし仮に、俺が、そのロボットを使ってやったら、どうするんだい? 給料もそんなにかからないんじゃ、あんたに何の得があるんだね?」
人の好いハッカイの笑顔と態度に、博士は、気を良くして答えた。
「ワシは、この世に、科学で貢献しようとしておる学者のうちのひとりじゃ。今の世の中は、魔法を使う者が偉いとされているかのようだが、魔法が人々の生活を良くしたことと言えば、病気や怪我を治療することや、攻撃呪文でモンスターを退治するくらいじゃ。
もっと人々の身近な部分で、役に立ったことは? 例えば、掃除、洗濯、料理……どれも出来ぬではないか。それなのに、魔道士の塔やら魔道士協会というところは、威張り散らし、人々も、魔道を使う者を尊敬すらしておる。本当は、自分たちの普段の生活なぞ、何も楽になってはおらぬというのに」
博士は、顔を上げ、まるで何かに宣言するように、口調を強めた。
「ワシは、魔道などは信じぬ! 信じられるのは、科学のみじゃ。魔道よりも発達の遅れておる科学を、今にもっと実用的に応用できるよう研究を続ける! 魔道などという曖昧なものではなく、科学という確かなもので、この世に貢献するのじゃ。
金が欲しいわけではない。ワシの作ったロボットが、おぬしたちの役に立てることがわかれば良い、それだけで満足なのじゃ。今は掃除くらいしか出来ないロボットの開発が主じゃが、もうじき、すごいロボットも出来る予定じゃ。それが完成すれば、人々も、魔物は魔道士や剣士たちにしか倒せないという概念を、取り払えるはず」
ケイン、カイル、マリスは、顔を見合わせた。
突拍子もない話に、ハッカイが、半開きにしていた口で、そのまま尋ねた。
「じいさん、あんたの話だと、……そいつのような木の人形が、そのうち魔物まで倒せるようになるってことかい?」
博士が、誇らしい笑いになる。
「魔物撃退用は、木製ではない。もっと頑丈であり、巨大であるのじゃよ」
「へえー!」
ハッカイは、なんとも言えない様子で、ギロック博士とロボットを眺めていた。
「なあ、今の話、どう思う?」
カイルが顔を歪めて、ケインとマリスに問いかけ、そのまま続けた。
「俺は、今までいろんなところを旅して来て、あんな動く人形なんかには出くわしたこともないし、聞いたこともない。ただひとり、科学を、人々の生活に役立てようとしていたヤツを知っているが、そいつと違うのは、魔道に対抗意識が強いところだ。それが、ちょっと気になるぜ」
ギロックを見つめていたカイルは、マリスを見た。
「ベアトリクスではどうだった? あそこなら、他の国よりも進んでいるからな。科学の情報、なんか入ってこなかったか?」
マリスが首を傾げる。
「う~ん、あそこは、魔道の方が盛んだったからね。科学者も、いないことはなかったけど、研究しているばかりで、特に、何かを開発するようなことはなかったと思うわ。
ああ、そう言えば、士官学校の兵法の時間に、聞いたことがあったわ! 鉛や鉄を溶かして形状を変え、大砲とか銃とかって武器を作れば、剣と違って、遠くの敵も倒すことができるんですって。
ベアトリクスやその他の大きい国も、軍事目的として、その開発を進めてたけど、結局、実用できるところまではいかなかったし、黒魔法の方が、遥かに威力があったから、魔道と武器の生産の方に、資金を回すようになったわ。西洋では、どこもそんな感じかしら。東洋はわからないけど、やっぱり科学よりは、魔道に力を入れていたんじゃないかしら」
その間にも、ギロックは、自分の科学論を、ペラペラと語っていた。
「……というわけで、このロボットたちを実際に使用していただき、店主方のご意見を聞き、改良を加え、より実用的にしていきたいと思っておる。だから、ワシが、あんたや他の店に、この木人形を置いてもらいたいというのは、決して、金儲けのためではないんじゃよ。世界に科学で貢献できれば、ワシは、それで満足なんじゃ!」
彼の目には、その意思の現れであるように、強い光が浮かぶ。
それを認めた上で、ハッカイは、口を開いた。
「じいさんの考えは、よくわかったよ」
「それでは、おぬし……!」
ギロックの表情が、期待を込めて明るくなるが、ハッカイは、残念そうな顔で、首を振った。
「いや、悪いが、じいさん、うちは、今の従業員たちと、開店当初から頑張ってきたんだ。例え、その人形の方が出来が良かったにしても、あいつらを首にしてまで、そいつを使いたいとは思わねえ。そそっかしいヤツ、失敗するヤツもいるが、俺はそいつらを、人間的に買っているんだ。そんなわけで、俺には、あんたの研究の協力は出来そうにない。悪いが、他を当たってくれないか?」
老博士の片方の肉眼からは、みるみる光が失われていった。
「今まで、ワシの話を、ここまで聞いてくれた者はおらんかった。せっかく、お前さんならば、ワシの研究の偉大さを、わかってくれたと思ったんじゃが……」
「もちろん、じいさんの心がけは立派だよ。その志に協力したいのは山々なんだが、できない事情があるんだ。悪く思わねえでくれ」
すまなそうにハッカイがそう言うと、老人は、まだ諦めがつかず、しつこく食い下がっていたのだが、ハッカイの気が変わりそうもないとわかると、その態度は急変した。
「ワシが年寄りだからって、うまいことを言って、追い返そうとしとるんじゃろう? ワシの言うことなんぞ、どうせホラだとでも思って。年寄りをバカにすると、今に痛い目を見るぞ!」
「いや、じいさん。じいさんをバカになんか……」
「いいや! おぬしだけでなく、今まで交渉して来た者どもも、皆、ワシの言うことをまともに聞き入れなんだ。世界のために科学で貢献しようという、ワシの尊い志を、誰もわかろうとせんかった! 所詮、イカレた老いぼれジジイのたわごととしか思わなかったんじゃ!」
博士は、カッカと怒り出すと、後ろに突っ立っている木の人形を振り返った。
「3号、ワシらをバカにする人間どもに、お前の力を見せてやるのじゃ!」
博士が人形の背の突起を操作すると、人形は、頭のてっぺんから、蒸気を吹き出し、店の中を、突然、人が走るほどの速さで、あちこち移動を始めた。
人間と似た形の足がありながらも、それは動かさず、足の裏についたいくつかの小さな丸い部品が回転し、すーっと地面を滑るように進んでいる。
人形型ロボットは、テーブルや椅子にぶつかっても構わず突き進み、それは、カイルたちに向かって来たのだった。
「うわー、来るなー!」
カイルが、腕で顔をかばいながら叫ぶと、ケインが、カイルの前に立ち、木の人形を押さえた。
「脅すのは、やめろ!」
ギロックは、人形を手で支えるケインを、じろじろと見回した。
栗色の髪に、青い瞳でキッとにらむ、幾分、童顔の青年である。
「科学で、この世に貢献しようという、じいさんの話を聞いて、立派だと思っていたけど、受け入れられなかったからと言って逆恨みして、その人たちを脅したり、仕返ししたりするのは、筋違いじゃないか」
「小僧、貴様なぞに何がわかる! ワシは、褒めて欲しかったわけではない。ワシの意思を、世の中に広めなければ意味がない。口では賛成しておいて、実際に協力出来ないという方が、よっぽど筋が通っておらんではないか。そんなことでは、ワシの言ったことを本当に理解したとは言えん。皆、口ばかりで、科学の必要性を、わかっとらんのじゃ!」
「わかっていても、そういうわけにはいかない事情が、人それぞれあるんだ。それくらい、わかるだろ?」
「やかましいっ! 凡人の事情など、天才には通じぬわっ!」
ギロックが、動きをケインに押さえられている人形を、「返せ!」と言って、引っ張っていると、
「ケイン、こんなヤツに、言い聞かせたってダメよ」
マリスが立ち上がり、ケインの隣に並ぶと、にやっと笑った。
「どうやら、このじいさんは、この木偶人形を、ぶち壊してやらないと、わからないみたいよ」
マリスが、手を組み合わせ、ボキボキと鳴らすのを横目で見たケインが、ぼそっと言った。
「さも、ぶっ壊すのが楽しそうだな」
「あら、気のせいですわ」
「いいぞ、マリス! やってやれ!」
カイルは、包帯を巻いた腕を、ぶんぶん振り回した。
だが、マリスがまだ何もしないうちに、木の人形の頭の上から出ていた蒸気が、一層勢いを強め、内部からは、バチバチッと、プラズマのようなものが走ったと思うと、突然、頭の上が発火したのだった。
「やばいっ! また爆発する! ハッカイさんも、皆も、逃げるんだ!」
カイルは慌てて椅子から立ち上がり、店の外へ走るが、足の包帯がほどけて絡み、転んでいた。
それには構わず、マリスが博士をにらんだ。
「中の機械が故障したの?」
「おそらく、部品に使っておる金属が熱を持ち、木の水分と反応したのかも知れん。2号と同じ原因か。3号の木は充分乾かしておいたつもりじゃったが……」
「何を冷静に分析してるのよ。木で出来てたら燃えやすいに決まってるでしょう!? ロボットには不向きな材質だったのね。あんた、ホントに、ちゃんと考えて造ってるの!?」
マリスは、博士の襟首をつかんだ。
「く、苦しいっ! 放さぬか!」
そうしている間にも、ケインの押さえている人形は、ガタガタと揺れ出した。
「マリス、博士を連れて離れろ!」
マリスはギロックを小脇に抱えると、部屋の隅に連れて行った。
それを見届けてから、ケインは、人形の腹を、蹴り飛ばした。
人形がガタガタと後退すると、腹からも、足の付け根からも、発火した。
「ダーク・ドラゴン、力を!」
同時に、ケインが、マスター・ソードを引き抜き様に、振り下ろした。
刀身全体が青白く光ると、無数の細かい氷の粒が、吹き付けるように、人形全体を覆っていった。
火は消え、焦げた人形は動きを止め、間もなく、巨大な氷漬けとなった。
「おおお! なんということじゃ……!」
博士は思い切り見開いた目で、氷の岩に閉じ込められた人形に駆け寄るが、どうすることも出来なかった。
「貴様、魔法を使う者であったか」
背を丸め、がっかりした博士は、ケインを振り返る。
「科学は魔道に劣ってはおらぬ! 今度会う時には、それを証明してみせようぞ。その時は、ビビるでないぞ、小僧!」
ケインに、指を指して宣言した博士は、カイルの脇を横切り、よたよたと店を出て行った。
「その前に、安全対策、万全にしとけよー」
ケインは、呆れた顔で、博士の背に向かって返した。
「いやあ、ケインがいて助かったな!」
ハッカイが、厨房のカウンターの中から、ひょっこり顔を覗かせた。
「にしても、その剣は、黒魔法が使えるのか?」
「ああ、今は、黒魔法だけな」
「へえー……! レオンも、バスター・ブレードって、どデカい剣を使っていたが、お前も、なんだかすごい剣を持ってるんだなぁ!」
ハッカイは、鞘に納めたマスター・ソードと、ケインとを、まじまじと見ていた。
「それより、どーすんだよ、これ」
カイルが腕を組み、店の中央に、どんと置かれた氷のかたまりを、あごで指す。
椅子に座らずとも平気そうであったが、そこは誰も突っ込まないでおいた。
「このまま、ここに置いとくわけにはいかないし、といって、壊すのも、気が引けるなぁ」
ケインが、氷の中の、ぴくりとも動かない人形を見る。
「あら、でも、あの博士、このロボット置いてっちゃったから、もういらないんでしょう? ケインが壊すのに抵抗あるんなら、あたしが斧で割ってやるわ。木の部分は、乾かせば、薪に使えるわよ」
マリスが、にっこり笑う。
「……やっぱり、ぶっ壊すんだな」
横目で見るケインであったが、ハッカイの家の斧を刃こぼれさせないためにも、部分部分を、黒魔法の炎で氷を融かしたところから、マリスや従業員たちが分断していったのだった。