遭遇
川岸では、渡し船を前に、ダンとタイガ、サイスが並ぶ。
「なあ、ダン、本当に、向こう岸へ行くつもりか? 野盗どもは、町を襲っていたわけじゃないんだから、わざわざ行くこともないと思うけどな。こんなことしてるうちに、ますますナルガス公国へ向かうのが、遅れるぜ」
サイスが再びそう言ってみるが、ダンの瞳を見れば、一目瞭然であった。
サイスは、肩をすくめて、今度は、タイガを見た。
彼の視線に気が付いたタイガは、にやっと返す。
「やれやれ、こっちもか」と言うように、再び、サイスが肩をすくめた。
「狼煙は向こう岸からって、言ってたな。今は、上がってないみたいだが」
ダンは前方を見据え、渡し船に乗る順番を、サイスに指示させてから、船に乗り込んだ。
ダンと数人の傭兵たちを乗せた第一便が、川を渡って行く。
船の前方で、腕を組んで立つダンの後ろ姿を見ながら、不思議そうな目をしていた傭兵のひとりが、タイガに耳打ちした。
「タイガさん、なぜリーダーは、こんな縁もゆかりもない村なんかを、助けようとするんスかね? 俺ぁ、サイスさんの言ってることの方が、正しいと思うんスよ。こんなことをしている間に、ただでさえ遠回りをしなくちゃならねえナルガス公国が、さらに遠くなっちまう。リーダーの目的は、ナルガスと敵国のいくさに参加することだったんじゃなかったんスか? 最初から参加した方が、配当金だっていいし」
タイガは、その傭兵の肩を叩いた。
「まあまあ、おめえらがそう思うのも無理もねえが、ダンは、ちゃんと考えちゃあいるのよ。俺もサイスも、ダンの最初の仲間だからな。その辺りは、よくわかってるぜ。あいつぁ、向こう見ずに見えるかも知れねえが、ちゃあ~んと、頭ん中では、作戦立ててんのさ。なにしろ、あの強力な軍隊を誇るベアトリクス王国の元騎士で、幼い頃から、アレキなんとかって兵法を学んでたってんだからなぁ。俺たちならず者の傭兵とは、モトが違うのよ」
「ベアトリクスっつったら、すげえ大国じゃねえっスか! リーダー、あんなところの出身だったんスか! しかも、騎士ってことは貴族!? 」
「それも、ベアトリクス金獅子団って最強の隊を率いる、ランカスター将軍の遠縁でな、元は平民出身だが、功績を認められて、実力で貴族の称号を手にしたんだ」
タイガの話に、傭兵の目は、驚きと尊敬が入り混じったかがやきを、たたえていった。
「すげえ! だけど、そんなこと、俺らの前では……」
「ふりかざさないだろ? その謙虚さが、俺ぁ気に入ったのよ。もし、ヤツが、いくら実力があっても、鼻持ちならねえヤツだったら、この『荒くれ傭兵』と言われていた俺だって、付いて行こうなんざ思わねえぜ! 」
タイガは無精髭を手でこすりながら、付け加えた。
「ヤツが寄り道をしようとしてまで、この町や村を助けようとしているのも、俺にはわかる。あいつは、強い者に向かって行く習性なんだ。そして、勝ってみせる。今までだって、絶対に無理だと思われた敵にも、勝ち抜いてきた。人数じゃないんだって、俺ぁ思ったぜ。あいつには、剣の腕だけじゃなく、気迫も備わってんだよ。その辺の腕自慢どもとは段違いの、なんつうかなぁ……鬼神のような、とでもいうのかな。戦いぶりを見りゃあ、おめえだってわかるぜ、新人! 」
ばしっと、傭兵の肩を叩くと、タイガは豪快に笑った。
村へ着くと、ダンたちの思っていたほどの惨劇にはなっていないようである。
野盗の姿も見えない。
閑散とした空気が、村中を包み込んでいる。
「妙だな……」
ダンが呟いた。
「野盗が、この村を襲っているって聞いたが、どこにも、そんな跡は見られない。それどころか、なんだ、この静けさは? 」
「リーダー、あの方向に煙が」
傭兵のひとりが指さした方では、黒い煙が、細く燻っている。
「よし、とにかく、あそこへ行ってみよう。おい、新人、次のサイスたちの便が来るまで、そこで待機していろ。そして、後に続くよう伝えておけ」
「了解っス! 」
ダンたちは、新人の傭兵を、その場に残し、進んでいった。
木でできた小屋のような家が立ち並ぶ中には、誰もいる気配はない。密集している家々の合間を抜けて進むが、どの家も、どこにも破損した様子はない。
野盗の襲撃に遭ったというのは、町人の勘違いではないだろうか?
そのような考えが、皆の頭の中を掠めた時、そこにたどり着いた。
村の人々が、全員集まっているのか、広場には、人が溢れんばかりであった。その奥の方で、黒い煙が上がっている。
ダンは何も言わずに、近くにあった木によじ登り始めた。
彼が、人だかりの向こうを見ようとしているのが、タイガにはわかった。タイガは、大柄で、木に登ることは出来なかったが、長身を生かし、人混みの後ろから、首を伸ばした。
木の上のダンが見たものは、大衆の前で、ゴミの塊のように見えるものが、篝火のようにされ、その横には、二人の黒い軍服を着た男が、村人に話をしている光景だった。
「なんだ、あの男たちは? 軍人みたいだが……」
不可解な顔で呟くダンが、男たちの後ろに、目を留める。
それは、黒々した、人とも思えないものだった。
しゃがんで、背が丸まったままでも、充分大きい。立てば、人間の二倍はありそうだ。
ボルトのような、大きなネジがいくつもついた太いベルトを、身体のあちこちに巻き付けている。
手が長く、だらんと垂らし、指の先に生えている長い爪は、牙のようだ。
尾も生えている。
髪の毛の一本もない頭の左右には、エルフのように尖った耳があり、眉もない目全体は、緑色のガラス玉をはめ込んだように光っていた。
今はおとなしくしているが、暴れ出したら、人間などひとたまりもない威力を発揮しそうだ。
「野盗の言ってた化け物ってのは、あいつのことか。なるほど、見るからに、魔物だぜ! 」
ダンは、後方の、自分たちが渡って来た川の方にも、目をやった。
「サイスとアスタルテたちも追いついたか。言いつけ通り、残りの隊は、向こうの町で待機してるな」
それを確認すると、ダンは、木をするすると下りて行き、タイガの隣へと並ぶ。
軍服の男が、声を張り上げた。
「……というわけで、このように、突然の野盗の奇襲も怖くはない。その上、病気や怪我も、我々の組織が派遣する、薬商人の薬で助かるのだ」
その説明が聞き取れたダンは、ハッとした。
「そうか、あの燃やされていたのは、ゴミじゃなく、野盗たちか! あの化け物がやったに違いない! 」
「なんだか、うさんくせえな」
タイガも、イヤな顔をして、ダンにささやいた。ダンも、わかっているというふうに、頷いてみせる。
「何を言うのです。いくら、世界の危機が来ようと、悪魔に魂を売るなど、間違っています。魔王を崇拝するとは、それこそ、神への冒涜。今までのように、神を信じてついていくべきです」
灰色の神官服を身につけた、祭司長らしき男が、進み出て、強い口調で言い切っていた。
「ほほう、我々の話を聞いても、まだそんなことを言っているのか、じいさん? 」
黒服の男は、黒めがねの奥で、不気味な光を放った。
「そうだ、祭司長様の言う通りだ! そんな話は、信じられるもんか! 世界の危機が来るなんて、なんで、あんたたちにそんなことがわかるってんだ! でまかせに決まってる! 」
「ワシは医者だが、あんたらの言う、病気も怪我も治ってしまう万能薬なんぞは、ありえない。素人の生兵法が、一番危険なのじゃ。だいいち、そんなものを売られたら、他の薬商人の商売もあがったりじゃ」
口々に反対の声が上がると、二人の男は、口元をつり上げて言った。
「どうやら、我々の話を信じぬ者が、まだまだいるようだな。それでは、これならどうだ? 」
男のひとりが、ヒュッと口笛を吹くと、後ろに控えていた黒い生き物の目が、カッと開いた。
それが祭司長を見たと思うと、驚異的な跳躍力で、軍服の男たちを飛び越え、まっすぐに腕を突き出した。
その牙のように鋭い爪は、祭司長の腹を、突き刺したのだった。
「ああっ! 」
祭司長の叫びは、村人の悲鳴で、かき消された。
腹からは、どくどくと血が吹きこぼれた。
祭司長の目は、信じ難い事実に見開かれ、震えながら、化け物と、黒い男たちとを、ただただ見ていた。
「どうした? お前の敬愛する神とやらに、祈ってみてはどうだ? 神が、本当に存在するならば、貴様を助けてくれるんじゃないのか? 世界の危機が来ても、真っ先に、お前たち神官を救うのではなかったか? 」
「……か、神を、試すようなことは……しては、ならん……」
老人の口からは、かろうじて、そのような言葉がもれていた。
「いもしないものに祈ったところで、どうにもなるまい。お前たちの信じてきたものなどは、所詮は、こんなものなのだぞ」
男の声に、村人は身を寄せ合い、おろおろしている。
「おい、医者。お前の言う通り、我らの万能薬があれば、お前達の商売は上がったりだろう。それならば、せめて、そんな気苦労はしないよう、すませてやろう」
もうひとりの男の合図で、緑色の目をした化け物が、今度は、医者に向かった。
尖った、ぎっしりと詰まった歯で、医者の首にかぶりつく。
村人たちは目を覆う。再び、悲鳴が上がった。
医者も、祭司長も、がくんと、足元から、地面に崩れた。
「これで、医者もいなくなった。だが、我らに素直に従う者は、万能薬で、病気も怪我も、心配はいらない。このデモン・ソルジャーがいるかぎり、野盗たちからも、村を守ってやれる。お前たちの生活は、なんら今までと変わることはないのだ」
「有り難く思え」
二人の合図で、デモン・ソルジャーと呼ばれた黒い魔物のような生き物は、おとなしく引き下がった。
村人たちは、倒れている祭司長と医者に駆け寄り、泣き叫ぶ者もいれば、恐ろしさのあまり、すくんでしまった者、狂ったように叫び回るものなどもおり、混乱が続いていた。
「ひでえ! いくらなんでも、無茶苦茶すぎるぜ! 」
タイガが、吐き捨てた。
遅れて到着したサイスも、タイガに続き、真面目な表情で呟いた。
「やつら、いったい何の組織なんだ? あの化け物を、デモン・ソルジャーとかなんとか言っていたが」
「ありゃあ、合成獣か? 」
「キメラなんて、そうそう作り出せるもんじゃない。これは、意外と大きな組織かも知れない」
サイスのセリフが終わると、タイガが、ダンを見た。
「おい、ダン、やつら、なんかヤバそうだぜ。引き返して、ナルガスへ急ぐことにしよう」
だが、タイガがそう言うにもかかわらず、ダンは、ずかずかと、人混みの中へ、入っていき、人々をかきわけて、進んで行ったのだった。
「お、おい、ダン、待てよ! あんな化け物じみたヤツ、相手にするのは、無謀だぞ! 」
タイガもサイスも慌てて、ダンを引き留めようと追いかける。
彼らの後方では、静かに見守るアスタルテの瞳があった。
「聞きたいことがある」
人混みの中から現れたダンに、軍服を着た男二人が、振り向く。
「なんだ、小僧。お前は、この村の者ではなさそうだな? 」
「それでも、我々に従うというのなら、歓迎するがね」
「へっ、そんなんじゃねえよ」
ダンは肩をすくめて、笑った。
「この村の向こうは山脈だと聞いたが、お前たち、その山脈を、どうやって乗り越えてきたんだ? そこの灰になっちまった野盗どもも、山脈の向こうにいたんだろ? 」
「やれやれ、道を尋ねてくるとは、とんだ迷子だな」
男たちは、見下したように、笑い出した。
「山脈を隔てて隣の国と、この村とで、昔使われていた抜け道があったのだ。なあに、特に、この村にあてがあったわけではないのだが、来てみれば、野盗どもが、のさばっていて、邪魔だったものだから、道を開けてもらったまでだ」
「抜け道か。そいつは、いいことを聞いたぜ。それと、もうひとつ、ついでに聞くが、お前ら、何モンだ? この村に、新しい宗教でも広めに来たのか? それも、魔王を拝む? あんな獰猛なペットまで連れてるたぁ、どうやら、ただの薬売りでもなさそうだし、見えて来ねえなぁ、何が目的なんだ? 」
「見た通りだ。我々は、来たる世界の終わりに備え、人類を救うために、活動しているのだ」
「その、『世界の終わり』ってのは、なんなんだ? 具体的に、どうなるっていうんだ? 」
「今、村人の前で説明すると、余計に混乱するので、徐々にと思っていたが、貴様は、なかなか度胸があるようだから、特別に教えてやろう。近いうちに、魔物たちの逆襲が始まるという、魔道士たちの中では、信憑性のある予言が、伝わっている。それは、一年先か、一〇年先かはわからぬが、それに対抗するには、魔道士の魔法や、神官の術、または人間の兵士たちの戦力では、到底かなうものではないのだ」
「なるほど、それで、そこにいるキメラみたいなモンを開発し、それに備えてるってわけか」
ダンは、どうやら、彼らは、一応、本気らしいと思った。薬や用心棒代は、そのソルジャーの開発資金か何かに、あてるつもりなのだろう、と。
いや、本当は、そのキメラを軍事目的として作り出し、兵器として、各国に売るのが目的なのかも知れない。ありがちな話を引っ張り出して、体よくこじつけているだけかも知れない。
そうも思えるのだが、だからといって、それらと自分とは、何の関係もない。
祭司長や医者が、目の前で殺されても、それは、彼らと村人の問題だ。
うさん臭い組織であることには違いないが、ナルガス公国のいくさの相手とも違うようなのもわかった。
ダンは、先を急ぐことに決めた。
「それじゃ、邪魔したな」
ダンが再び村人の間を通り、仲間のところに戻りかけた。
「待て、小僧。その、肩に止まっているものは、なんだ? 」
軍服を着た男のひとりが、こわばった声で尋ねた。
ダンの肩の上には、いつの間にか、エルフが現れていたのだった。
「妖精!? 」
「まさか!? 」
男たちだけでなく、村人の中でも、ざわめきが起こっていた。
「なんだ、ジャック、いたのか? 」
ダンが笑いかけるが、ジャックは、黒い生き物を、じっと見つめていた。
そして、黒い生き物ーーソルジャーの方も、ジャックに気が付くと、突然、唸り声を上げたのだった。
「どうしたのだ、二〇〇六号」
その声に、ダンが気が付くと、ソルジャーの黒い額の横には、そのような番号が焼き付けられていた。
軍人らしき男のひとりは、ソルジャーの様子がおかしいことに気付き、近付いていった。
もうひとりの男が、ダンを見て、ハッとした。
正確には、ダンの肩に乗ったものを見て。
「貴様、もしや、以前、我々の組織と、遭遇したことはないか? 」
奇妙なことを聞くとばかりに、ダンは不思議そうな顔をして、男を見る。
ソルジャーをなだめていた男も、ダンを振り返った。
「そうだ。他の隊の報告では、以前、接触した戦士は、ちょうど貴様くらいの年格好で、妖精を連れていたと聞く。伝説の剣を二つ持っていたとも……! 」
「片方の剣では、黒い影のようなドラゴンを操っていた、とも聞いたぞ! 」
こわばった顔の二人の男を、改めて、ダンは見つめた。
タイガ、サイスも驚いて、顔を見合わせる。
「伝説の剣を二つも!? 」
「それに、ドラゴンだって!? どういうことだ!? 」
「しかも、ダンの他にも、妖精を連れたヤツが……!? 」
ダンには、その言葉は、聞き流せなかった。
それどころか、突き刺さるような衝撃を受けていた。
ダンの脳裏には、女戦士アスタルテの言葉が、響いた。
『伝説の勇者には妖精が付く』と。
「巨大な伝説の剣バスター・ブレードと、ドラゴン使いの剣を合わせ持つ、貴様が例の戦士ーーケイン・ランドールなのか? 」
男が訊くと、ダンは、口を引き結び、彼らを睨み据えてから、答えた。
「俺は、お前らなんか知らねえし、その戦士とも違う」
「例え別人でも、その可能性のある者を、みすみす逃すわけにはいかぬ」
「貴様を、我が組織に連行する! 」
緊迫した空気を察知して、タイガとサイスが、ダンのもとへ駆けつけた。
「おい、ダン、ケンカなら付き合うぜ」
隣で、タイガが、にやにや笑っている。
「仕方がないから、俺も付き合うか」
サイスも、クールに笑ってみせた。
黒いソルジャーは、がるるるるる! と唸り、今にも飛びかかりそうだ。
村人たちは、また新たな戦いが始まるとばかりに、一目散に逃げ出し、辺りは一層、混乱をきたしていた。
「二〇〇六号、あやつらを生かすな! 」
男がダンたちを指すと、それを合図に、デモン・ソルジャーが飛び出した。
「はっ、速いっ!? 」
サイスが、よけようと身を躱したが、一瞬遅れた。
手にしていた剣は、武器クローのような、ソルジャーのかぎ爪に弾かれ、飛んでいった。
同時に、サイスの右腕は、食いつかれた。
「サイス! 」
タイガが、通常のものよりも大きい段平を振り下ろすが、ソルジャーは、接触する直前に、ひょいっと飛びすさった。
腕を食いちぎられることこそなかったが、サイスの右腕からは、鮮血がしたたり落ちていた。
「サイス、大丈夫か!? 」
ダンがサイスに駆け寄り、目は油断なくソルジャーを捕える。
「気をつけろ、ダン。あいつ、見かけによらず、身軽な上に、力もある」
サイスの顔が、貧血で青ざめている。
「ジャック、治してやってくれ」
ダンの肩からサイスの腕に飛び移ったエルフは、両手を、怪我の部分に向け、不思議な光を放った。
「そりゃあっ! 」
タイガが段平を振りかざす。
ソルジャーは、片手でそれを受け止めた。
体格は、ほぼ五分であったが、タイガの手は止まってしまい、それ以上、剣を押すことも引くことも出来ないでいた。
タイガの額に、汗がにじむ。
「なっ、なんだ、こいつの、この力は!? この俺の剣が、びくともしねえ! 」
『荒くれ傭兵』の異名を持つ彼ですら、ソルジャーの前では、敵ではないのか。
傭兵たちも、アスタルテの後ろから、信じられない思いで、食い入るように、ソルジャーに見入った。
「サイスは、傭兵団の中でもスピードはダントツだ。タイガの力だって、並み外れてる。なのに……! 」
ダンが、呟いた。
人間離れしたソルジャーは、動物よりも、魔物に近いと思えた。
「もし、魔物の要素があるなら、この剣なら、効くかも知れない! 」
ダンは、握っていた右手の剣に、力をこめると、一気に、ソルジャー目がけて駆け出した。
タイガの剣が押し上げられていき、ソルジャーのもう片方の手が、タイガをも毒牙にかけようと、突き出された時だった。
ガシャッ!
ソルジャーの緑色の目が、わずかに見開かれると、突き出したかぎ爪の手は、ダンの剣の先を掴んでいた。
剣と接触したところから、煙が吹き出し始めた。
「オオオウウウウウ……! 」
呻き声のような獣じみた声を上げ、ソルジャーは手を引く。
すかさず、ダンが、ソルジャーの腕に斬りかかった。
「オオオオオオオ! 」
斬り落とされはしなくとも、ソルジャーの黒い腕からは、どす黒い、緑色をした血が、ぼたぼたと垂れ始めた。
「なんとなくわかったぜ。やっぱり、そいつは、魔物だったんだな? 」
余裕のあらわれたダンの声に、軍服の男たちの目が、ピクッと揺れた。
「この剣には、魔除けの護符が貼ってあるんだ。普通の剣では、かなわなくても、この剣でなら、相当のダメージがあるはずだぜ」
不敵な笑いを浮かべたダンは、続けた。
「サイス、タイガ、下がっていろ。こいつは、俺がやる! 」