青春練習曲
最初は本当に些細なことだった。
なんてテンプレートな科白が頭に浮かんだ。でもテンプレートとは実際によくあることだからテンプレートなんて言われているわけで、まぁ実のところ君との喧嘩の理由を明確には思い出せない。
でも、多分今となってはかなりどうでもいいことだった気がするからやはり大したことではないのだろう。
喧嘩したのがどうでもいい奴だったのなら僕はきっと謝らなかったのだろうけど、不幸にもその相手は友達だった。
そして更に不幸にも、僕は人に謝ることが苦手なチキンだ。
軽く「ごめんごめん」で済むような謝罪なら僕にも簡単にできるけれど、君は本気で腹を立てているようだったので何事もなかったかのように話しかけるわけにもいかない。
要するにあの日から既に2週間、君と話していなかった。
チキンでコミュ障だけど何故かふざけることだけが得意な僕はその日ひとりぼっちにならない程度の軽薄な人間関係がほとんどで、いつも話せるような人間なんてひと握りどころかひとつまみだからタチが悪い。
とりあえずこんなに長ったらしく話してみたけれど簡単に言ってみれば仲直りしたいなんて単純なことだ。
まぁ君は僕の中で―――って定義になってるし。
…僕だけだろうけどね。
朝、これまではなんだか気まずくてわざと遅刻ギリギリの登校を繰り返していたけれど、勇気を出して普段通りのバスに乗った。
君が乗るのと同じバス。あとから乗ってくる君は入口近く、そして僕は出口近くの一人席にいた。
ここ最近はいつもより遅く起きていたので変なリズムがついてしまいとても眠いけれど、眠い目を瞬きながらいつ謝ろうか考えあぐねていた。
そんなことを考えていたら学校についてしまうのが時間の非常さってやつでして。クラスも階も部活も違う僕と君には、僕が会いに行く以外喋る機会はほとんど無いに等しい。
この日は結局、失敗に終わった。
「やばいなぁ、本当にこれはやばい。このままだと、なぁ」
僕は教室の一番前の右端の自分の席。通称「ボッチ確定ポジション」に座って頬杖を付きながらそう呟いた。
仲直りしようと決めたあの日から僕は何度も君に話しかけようとしたけど、結局喉の辺りで言葉が迷子になって、捜索願を出しているあいだに君は僕の前からいなくなっている。
なぁんてパターンが連続していた。
これで僕が徹底的に酷い人間だったならきっと君の事なんて気にしないで新しい友達を作ろうとしていたんだろうけど、僕は周りが思ってるほど人間をやめていないわけで。
きっと誰よりも泣くし誰よりも一人が耐えられない。
原因もわかっている気はするのだが過去を振り返っても目から雨が降ってきそうなのでやめておく。
そんなこんなで、僕と君が口を聞かなくなって
一ヶ月が経とうとしていた・・・
その時だった。
目の前を君が通り過ぎようとする。
僕はほぼ反射的に腕を伸ばして君の肩を掴んで振り向かせた。
今まで捜索願を出していた言葉達が僕の頭の中をグルグル回る。
「何ですか?」
よそよそしいわけじゃない。
君のテンプレートな敬語が耳に飛び込んできた。
ねぇ
「あのさ・・・」
こんな僕でもいいですか?
すぐ嘘つくし、性格悪いし、口悪いし、得意なことといえば人を怒らせること。
笑い方も挑発的だし、胡散臭いなんて言われるし
いいところなんて全然ないけど
これが最後のチャンスでもいいから
一度だけ、一度だけ聞いてくれないかな?
「こないだは…」
君は僕の中で
親友
って定義になっているからさ
そんなある日ある時の
君と僕の
青春 練習曲