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落とし物.その九

お願いします。

異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。


‘異世界落とし物お預かりセンター’


そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。


「それでは、失礼する」


「はい。ご親切にありがとうございました」


さて、今日は一体どんな落とし物が届いたのでしょうか?




「お、秀何か届いたのか?」


「あ、ケイベルグさん。今さっき来ましたよ。これなんですけど」


秀が持っていたのは一冊のノートだった。見た目はどこにでもありそうな普通のノートだがその表紙には何とも妙な文字が書いてあった。


「なんだこれ。‘地味に嫌なことが起きる呪文集’?」


そう、表紙には書かれていたのだ。マジックで書かれていたその言葉は何とも言えない異様な雰囲気を醸し出していた。

それにしても、地味に嫌なことってなんだ?


「なんにゃ? 落とし物かにゃ?」


ジェシカさんも奥からひょこっと出てきた。


「あぁ、今さっき届きました。これです」


「なんにゃ、これ?」


ジェシカもノートの表紙に書いてある文字を見て怪訝な顔をした。


「ケイベルグさん、これって一応魔法系の道具なんでしょうか?」


呪文、魔法系のアイテムはケイベルグさんに聞くのが一番手っ取り早い。でも、こんな手書きで書いてある表紙のノートがそういったアイテムとは思えないけど。


「んー? まぁ、一応それ的な魔力は感じるけどな」


「本当かにゃ!?」


「マジですか・・・・」


っていうことは、これは一応呪文書としては使えるのだろう。いや、使いたくなんてないのだけど。


「これはどこから届けられてきたのかにゃ?」


「えーと、マークレイ世界の紳士な男性の方が届けてくれました」


「俺の出身世界じゃねぇか。道理でなんか懐かしい匂いするなと思った」


ケイベルグさん、故郷の匂いとかもわかるのか。意外と鼻がいいのかな。


まぁ、魔法が発展している世界のものならこんなノートでも呪文集としてなりたつのかもしれない。そうなると、どうしても気になるのがノートの中身だ。


「と、ところでこのノートの中身気になりませんか?」


「気になる」


「気になるにゃ」


三人共やはり気になっていたようだ。

という訳で最初の数ページだけ読んでみることにした。秀がゆっくりと表紙のページをめくった。

すると一ページ目にはこう書かれていた。


「アルキズラ」

‘外で歩いているとき靴の中に小石が入って歩きづらくなる呪文’

これを使われた相手は必ず靴の中に小石が入り、踏むと痛いのでとても歩きづらくなる。


「「「・・・・・・」」」


こ、これは・・・・確かに嫌だ。っていうか本当に地味だな!! なんだこれ!! 「アルキズラ」ってこのシュールなネーミングもまたどこか地味だな。


「なんだこれ・・・・」


「地味に嫌なことが起きる呪文・・・・なんでしょう・・・・」


「本当に地味にゃ・・・・地味すぎるにゃ」


さらにそのページの下にはこんな呪文が書かれていた。


「ツメヨゴレ」


‘爪の間に若干気になる程度のゴミ、または砂利などが挟まり違和感を感じるようになる。複数回使えばより多くの爪の間に違和感を与えることができるようになる。


「あー・・・・これは嫌だな。地味だけど・・・・」


もしかして、こんなのがこのノートには延々と書いてあるのか? 何というか・・・・あまりにも地味すぎて逆にすごいというか、いや別にすごくはないのか? 


「まだまだありますよ。っていうかこのノート最後までびっしりと呪文が書かれてますね。どれも地味ですけど」


「よくこんなに思いつくにゃ。これ書いた人は相当な根暗だと思うのにゃ」


「ある意味で頭がいいなこいつ。褒められたもんじゃないけど・・・・」


「そうですね・・・・」


部屋の中に何とも言えない空気が流れる。今まで落とし物として魔導書とか、特別な魔法の使い方が書かれている巻物とか色々見てきたが、これはある意味特殊なものなんだろう。

そういうものと同等に考えるのはちょっとどうかと思うが。


「ところでさ、この呪文って本当に使えるのかにゃ?」


「ケイベルグさんが魔力を感じるって言ってるんですし、多分効果はあるんじゃないですか?」


「あぁ、多分魔力を持った物が使えば効果はあるんだろうな」


それを聞いたジェシカさんの耳と尻尾がゆらゆらと揺れていた。あれ? なんだろう。嫌な予感がする・・・・。


「それじゃあ・・・・」





その予感は見事に的中し、秀たちは呪文書を持って施設の外に出てきていた。施設内では魔法などの力はいっさい使用禁止なのだが施設外では決まった場所でのみそういった力を使用することができるようになっている。


「よーし、もっさんそれじゃ適当に秀くんに何か呪文かけてみて」


「ういーっす」


「ちょ、なんで僕なんですか!?」


ジェシカはこの呪文を使ったらどんな感じになるのかが見たいと言い出しその実験台に秀が選ばれた。


「ケ、ケイベルグさん! 頼むから軽めのでお願いしますよ!」


「軽めのって言われてもどれも地味だからな・・・・」


いや、確かにそうなんですけどね。


「じゃあ、行くぞ。うーん・・・・‘メガイタ’」


ケイベルグさんがそう呪文を唱えた。すると、ノートが一瞬だけ光りだしすぐに元に戻った。


「・・・・・・ん?」


「もっさん、今の呪文は何にゃ?」


「えーと、目の中にまつげが入り一時的に違和感、または目が痒くなる。だそうだ」


うわ、地味・・・・。


「ん? 目が。あれ? 目が痒い!」


本当に目の中にまつげが入りちょっとした違和感を感じたあと両目が痒くなってきた。

うわ、なにこれ地味に嫌すぎる! 


「おお、本当に効いてるにゃ!」


「地味だがな」


「目が、目がーーー!! ・・・・あれ? 治った」


効き目はそこまで続かないようだ。効果が短いあたりも地味な感じを醸し出していた。


「んじゃあ、ジェシカにもかけてみるか」


「にゃ!? 私はいいにゃよ!!」


「まぁまぁそう言わずに」


ケイベルグさんがページをめくりまた呪文を唱えた。


「よしこれにしよう。‘ハトレナ’」


「「ハトレナ?」」


今度のは一体どんな呪文なのだろうか? 今のところジェシカさんには何の異状も見られないが。


「ケイベルグさん、今のは一体どんな呪文なんですか?」


「えーと、歯と歯の間に食べ物の繊維が挟まりなかなか取れなくなる呪文。口の中に急に違和感を感じる。効果は一回、どんな食べ物の繊維が挟まるかはランダム。だそうだ」 


「「地味すぎ!!」」


もう何なんだよこの呪文書!! どんだけ地味な嫌がらせだよ! 


「にゃ? 何か口の中が気になるにゃ・・・・あれ? 奥の方に違和感を感じるにゃ!」


「うわ、効き目が出てきた!」


「地味だけどな」


ジェシカさんは奥歯の方が気になるのか口の中に指を入れひたすら何かを取ろうとしている。


「ふにゃー! はんにゃほれ! ものすぼふひになるひゃ!!」


「なんて? ジェシカさんなんて?」


違和感を取り除こうとするのに必死で何を言っているのか全くわからない。そんなに気になるのか。

よかった、これかけられなくて。


「ひにゃーー!! ぼれはいひゃぁーー!!」


ジェシカさんはその後、数分間自分の口の中と格闘していた。




「はぁーひどい目にあったにゃ・・・・」


「大丈夫ですか?」


「地味な割には効果は大きかったなあの呪文」


どうやら地味の中にも中々効果があるものもあるようだ。


「さてと、じゃあとりあえず保管しときますか」


「そうですね。とりあえず他の魔法系統の落とし物と一緒に保管しときましょう」


「一番下の方でいいんじゃないかにゃ」


こうしてまた一つ、地味な落とし物が増えたのでした。


「にしても、いったいどんな人が書いたんでしょうかね?」


「地味なやつだろきっと」


ああ、なるほど・・・・。

どうでもいいですが最近ツイッターなるものを始めてみた自分です。

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