落とし物.その七
そろそろ他のものも書かなきゃなと思う今日この頃。
異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。
‘異世界落とし物お預かりセンター’
そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。
「ほいじゃ頼んます~」
「わざわざありがとにゃー」
さて、今日は一体どんな落とし物が届いたのでしょうか?
「みんなー落とし物が来たにゃー」
「あ、はーい」
「さて、今日は何が届いたのかね」
という訳で本日のお届けものは
「これにゃ!」
「これは・・・・」
「何だ? これ?」
テーブルの上に置かれたのは一つのボード盤。真っ黒な板の上にはグニャグニャと右に左に曲がったマスのようなものが描かれている。ざっと三十マスくらいある。そのマスの一つ一つには何やら色々と文字が描かれている。右端の方には茶色い小さな木箱がついており蓋の部分にプレイヤーと書かれていた。中にはチェスのポーンのような駒と黒いサイコロが入っていた。
「これ、何に使うものなのかにゃ?」
「使うっていうかこれもしかして・・・・」
秀にはこれが何なのか思い当たる節があった。
「秀これが何か分かるのか?」
「いや、多分ですけど。これ、双六ゲームじゃないですかね」
「「双六ゲーム?」」
二人共、首をかしげる。どうやら二人には全く馴染みのない響きだったらしい。
「知りませんか? 人生ゲームとかそういうの」
「全く知らないにゃ」
「人生ゲームって何だかすごいゲームだな、おい」
他の世界には無いのかそういうボードゲーム。しょうがない一から説明するか。
説明中・・・・・・・・・・・・・・・・・説明終了。
「なるほどにゃ。つまりこのサイコロを振って出た目の数だけ進んで行けばいいんだにゃ」
「そういうことです」
ルールが単純なので説明は直ぐに終わった。後はこのマスに書かれているとうりにゲームを進めていけばいい。それだけだ。
「じゃあ、試しに一回やってみようぜ」
「うにゃ! やりたいにゃやりたいにゃ!!」
という訳で一回試しに全員でこの双六ゲームをやってみることにした。ケイベルグは緑の駒をジェシカは赤色の駒を秀は青色の駒を選んだ。
ジャンケンをして順番を決める。結果、一番ケイベルグ二番秀三番ジェシカの順番になった。
「んじゃ、俺からだな」
一番手のケイベルグが箱に入っていたサイコロを振った。出た目は五。
「お、なかなかいい滑り出しなんじゃねぇの」
そう言ってケイベルグは自分の駒を五マス目まで持っていく。そして止まったマスにはこう書かれていた。
‘大雨が降ってきて動けない。一回休み’
「一回休みって書いてあるにゃ」
「この場合ケイベルグさんは次の順番がきてもサイコロを降ることはできません。その場で待機になります」
「なんだよせっかくいい目が出たと思ったのに」
ケイベルグは唇を尖らせブーブー言った。
「それがルールなんですからしょうがないでしょう」
「そうだにゃ。大雨が降ってきて足止めなんてついてなかったにゃもっさん」
ジェシカがそう言った時だった、
‘プシャーーーーーーーーー’
「うにゃ!?」
「うわ!! 何だ!?」
「おいおい・・・・」
突然天井から大量の水が降ってきたのだ。しかもここだけではなく施設全体にだ。いたるところから悲鳴が聞こえてきている。あっという間に床や服は水浸しになってしまったが一向にこの水が降り止む気配がない。それどころかだんだん激しくなってきている。
「うにゃーーーー!! 冷たいにゃーーー!!」
「どうなってんですかこれ!? わぷ!」
「俺が知るか!!」
かろうじで開く目で天井を見てみればこの水がどこから降っているのかの原因が分かった。
どうやら施設内にあるスプリンクラーから水が降り注がれているようである。スプリンクラーとは基本何かが燃えているときに出る煙や熱を感知して動くはずなのだが、どういうわけだか作動してしまったようだ。
少ししてやっとスプリンクラーから水が出るのが止まる頃には施設内は軽い洪水状態になってしまっていた。
「「「・・・・・・・・」」」
なんだったんだこれ。全身ずぶ濡れになり三人とも呆然としていた。
「大雨が・・・・降ってきて」
「動けない・・・・」
「一回・・・・休み」
三人共ちらりとマス目を見る。ま、まさかね・・・・・・
「どうします? 続けますかこれ?」
「いや、やめておこう」
「そうだにゃ・・・・」
全員意見一致でやめようということになった。のだが・・・・
「じゃあ、片付けま・・・・あれ?」
「秀くんどうしたにゃ?」
「なんか勝手に腕が・・・・あれ?」
そして、知らぬうちにサイコロが手の中に握られていた。え? なにこれ?
「秀、何やってんだ? おい」
「いや、腕が勝手に!! うわ!?」
腕が勝手に動きまたしてもサイコロを振ってしまう。コロコロ転がり出た目は三だった。
「腕が勝手にって・・・・あれ、体が動かない?」
「うな!? 本当にゃ! 体が!! ぐぬぬぬぬぬ!・・・・だめにゃ動かないにゃ・・・・」
皆して混乱しているとさらにとんでもない事態が起きた。秀のコマが動かしてもいないのに勝手に進み始めた。そして、スタート地点から三マス目で勝手に止まった。
「これって・・・・まさか」
「嫌な予感がするな・・・・」
「え? え?」
もしかしてゴールするまで強制参加ですか・・・・
「それより三マス目にはなんて書いてあるんだ?」
「あ、ええと」
そこにはこう書かれていた。
‘石油を掘り当て大金持ち! 三マス進む’
「なんか今度はいいこと書いてあるにゃ」
「みたいですね。三マス進めるみたいですし」
「にしても石油で大金持ちって何だ?」
確かにそうだ。石油なんてどこにもないぞ。そう思った時だった。
「ん? 何だ?」
秀の足元が徐々に盛り上がってきた。まるで何かが地面から飛び出ようとしているかのようだ。
怪訝な顔でそれを見つめていたその時だった、
‘ブシャーーーーーーーーーー!!!!’
「わぼろろろろろろろろろ!!」
地面に大きな亀裂ができそこから黒くて粘り気のある液体が大噴出した。それを真正面から受けた秀は後ろに吹き飛ばされた。
「にゃあああああ!! 秀くーーーーーん!!」
「何なんだよもう!!」
部屋の中が石油臭くなり秀が真っ黒に染まりきってからやっと噴出の勢いがなくなってきた。テーブルの周りは大惨事である。秀は今だにひっくり返ったまま顔についた石油をゆっくりと拭い落とした。
そして、よたよたとよろめきながらテーブルに座り直す。
「「「・・・・・・・・」」」
三人共自然と無言になる。そんな中ジェシカは次は自分の番だとわかっているため生唾を飲み込んだ。
相変わらず体は動かないし動いても勝手にこのテーブルに戻されてしまう。もはや、諦めるしかなかろう。
「つ、次は私の番だにゃ・・・・」
「ああ・・・・」
「お願いします。・・・・うえっ」
ジェシカがサイコロを振った。今出ているのは三と五。それ以外ならどうなるかは分からない。
そして出た目は四だった。
「四にゃ・・・・」
駒が勝手に動き出す。
四マス目まで進むとピタッと止まった。そこにはこう書かれていた
‘サバンナの王様になる。さらに五マス進む’
「サバンナの王様?」
「また訳のわからんことが書いてあるな」
どう言う意味だろう? まぁロクなことにはならないのはわかるが・・・・
するとドアの向こうから何かがこちらに向かってくるような音が聞こえてきた。それもかなり大きい。まるで群れか何かが来るかのような・・・・
‘バーーーーーーーーーーーン!!!!!’
「ぬおわ!!」
「にゃああああああああ!!」
「おいおいおいおいおい!!」
勢いよく扉が吹き飛ばされ中に何かが入ってきた。
そこにいたのはなんと・・・・・・ライオンだった。それだけじゃない。チーターにハイエナ、フラミンゴ、バッファロー、カバ、ワニ、シマウマ、ミーアキャットや小さな子供の象、さらには子供のキリンまでいた。まさにサバンナにいる動物たちだ。それらがなだれ込んできたことによりテーブルの周りはサファリパーク状態である。
「うにゃー! みんなペロペロ、スリスリしないでにゃーー!!」
「「さすがサバンナの王」」
なるほどこういうことか・・・・。
そして、次の順番が回ってきた。ケイベルグさんは一回休みなので順番は秀からになる。
「それじゃあいきますよ」
サイコロをゆっくりと振る。出た目は・・・・・・六。
駒が六マス目で止まる。さぁ今度は何だ。
‘チャンスマス!! 出た目の二倍のマスまで進めるよ!!’
「おお!! 何やらいいマスに止まったぞ」
という訳でもう一回サイコロを振る。頼む大きい数字が出てくれ!! そう願いながらサイコロを転がす。結果出た目は・・・・・四だった。二倍なので八マス進める。これはでかいぞ!
八マス先までさらに駒が進む。これでゴールまであと十三マスだ。
「次、あたしにゃ・・・・にゃー! ライオンの舌ザラザラしてて痛いにゃー!!」
ライオンにほっぺたをペロペロされながらジェシカはサイコロを振った。
出た目は二。
「二かにゃ・・・・」
駒が二マス先まで進む。そして止まったマスにはこう書かれていた。
‘蟻地獄に飲まれて一回休み’
全員に嫌な汗が流れる。蟻地獄ってなんだ?
そう思っていた時だった
「うにゃ!? なんにゃ!? 体が!!」
「ジェシカさん!?」
「マジかよ!」
ジェシカの体が徐々に地面に沈んでいく。よく見ればジェシカの足元がまるで砂のようになっていき蟻地獄のような形になっていた。
「にゃー! 沈むにゃああああああああ!!」
「ちょ、ジェシカさん! 沈んじゃダメですって!」
ケイベルグと秀が腕を掴み必死に引っ張りあげようとする。しかし、体が自由に動かないため思うように力が入らない。
「ああ、くそ! どうすれば!!」
「仕方ねえ! こうなったらさっさとこのゲームを終わらせるぞ!! 次は俺の番だよな!」
そう言ってケイベルグは乱暴にサイコロを掴むと空中に放り投げた。板の上をコロコロ転がり出た目は六。
「よし! 早く進め!!」
駒は六マス目で止まる。そしてそこにはこう書かれていた
‘人類初の時間旅行へ!! 偶数マスが出れば未来へ! 十進む。奇数マスが出れば過去へ! 十マス戻る’
「うわ! 何この博打マス!!」
「おいおい、ここにきて戻るとか勘弁だぞ」
ケイベルグはギュッとサイコロを握ると思い切り空中に放り投げた。頼む偶数の目が出てくれ!!
板の上に落ちたサイコロは勢いよく転がった。どっちだ、どっちなんだ。息を飲んでサイコロを見つめる。勢いが無くなっていきサイコロは最後の一転がりをしてピタッと止まった。
そして出た目は・・・・・・・・・
二だった。
「よおおおおおおおおおおおし!!」
「さすがケイベルグさん!!」
駒がさらに十マス先まで進む。これでケイベルグさんはゴールまで後九マスだ。
「やりましたねケイベルグさ・・・・ってわああああああああ!!」
「にゃ!? どうしたにゃ!!」
ケイベルグを見た秀が絶叫したのには訳があった。なぜならケイベルグの顔、体その他諸々が一気に老けていったからだ。今以上にヨボヨボのシワシワになった姿を見て秀は思わず絶叫してしまったのだ。
「はっ!? もしかして未来に行くってそういうことか!!」
ケイベルグの時間だけが未来へと行ってしまったのだ。当然その分歳もとるわけで。
「ほうしたんじゃ、秀や」
「喋り方までおかしくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
けれどもそんなこと気にしてる場合じゃない。この間にもジェシカさんが地面に飲まれていっているのだ。
「次、俺の番!!」
ジェシカはもう膝の部分まで飲まれてしまっている。慌ててサイコロを振り出た目は五だった。
駒が五マス先まで進む。そのマスはにはこう書かれていた。
‘大量の蛇に襲われる! 一回休み’
「いいいいいいいやぁぁあああああぁぁぁぁ!!」
最悪のマスだった。次の瞬間どこからともなく蛇が湧き出てきた。その蛇は秀の足や腕さらには首に巻きついてきた。中には服の中に入ってきたやつもいた。
「うわああああ!!""#"#%##"$#&%$%%#&&!!!?!?!?!?!?!?」
もはや何を言っているのか分からない悲鳴をあげている秀。ほぼ発狂寸前である。
「秀くん!!」
「おお、次はわしの番かな」
完全に年寄りとなってしまったケイベルグはのんびりとした動きでサイコロを振った。
出た目は三。三マス進んで止まった駒のマスにはこう書かれていた。
‘雪山で遭難。氷ずけになる。一回休み’
「ありゃりゃ・・・・」
‘カキン’という音と共にケイベルグの体が一瞬で凍りつく。
「ぎゃあああああ!! もっさーーーーん!!」
ジェシカの叫びも虚しくピクリとも動かなくなってしまった。
「いってぇぇぇぇえええええ!! 噛まれた!! 蛇に噛まれたぁぁぁぁあああ!!」
秀も一回休みなので次はジェシカの番だ。
ジェシカの体は腰の部分まで蟻地獄に飲み込まれようとしていたがテーブルにしがみつき何とかサイコロを振ろうとする。
「うにゃーー!! このまま蟻地獄に飲まれるのは嫌にゃーーー!!」
半ばやけくそでサイコロを投げる。そして出た目は六。
「六にゃ!」
駒が動いていく。そして六マス動いて止まった。そこにはこう書いてあった。
‘天国か地獄マス。サイコロを振って一が出ればゴール!!。それ以外の目が出ればマスの数二倍に増幅!!’
「なんにゃこのマスーーー!!」
一が出ればこの悪夢のゲームを終わらせることができる。しかし、もしそれ以外が出れば最悪の展開が待ち受けているであろう。まさに天国と地獄である。
「うぅーーー・・・・やるしかないにゃ。こうにゃりゃやけだにゃーーー!!」
このサイコロに全てをかけるつもりでジェシカは思い切り空中に放り投げた。
(お願いだからもう終わって!!)
目をつむり神やら仏やらに必死に祈る。サイコロが止まるまでの時間がやたら長く感じる。一秒ってこんなに長かったっけ? と思えるほどだ。
そして、コロコロとサイコロが転がる音が聞こえなくなったのを確認するとジェシカはゆっくりと目を開けた。
ドクン、ドクンと心臓の音をながしながらサイコロを見る。
すると、そこに見えたのは、
一の面が上を向いてピタッと止まっているサイコロだった。
「あ、一・・・・・・」
紛れもない一。そうジェシカは奇跡的にもサイコロの一の目を出したのだ。
駒が勝手に進んでいく。秀のコマ、ケイベルグのコマを追い抜かしゴールのマスまで一直線に進んでいく。そして、ゴールのマスまでくるとそこで止まり駒が急に光りだした。
「うにゃ!!」
そしてその光が部屋中を包みこんだ瞬間ジェシカの意識は急に遠のいていった。
「・・・・さん。・・・・ェシカさん。ジェシカさん!!」
「うーん。なんにゃー」
ジェシカが目を覚ますと目の前には自分を心配そうに見ている秀とケイベルグがいた。
「お、気がついたか。大丈夫か?」
「あれ? 私、どうなったんだっけ?」
「ジェシカさんのおかげであのゲーム終わったんですよ。ほら」
そう言われて部屋の中を見ると先程までの地獄絵図は綺麗さっぱり無くなっていた。
水浸しの床も、吹き出た石油も、たくさんの動物も、秀に絡まっていた蛇も、氷ずけになっていたケイベルグも全て元通りになっていた。
「お、終わったのかにゃ? 本当に?」
「ああ、なんとかな」
こうして彼らの地獄の双六ゲームは終わった。
後日、このボード盤は厳重な金庫に閉じ込められそのまま本部へと送られていった。
「いやー、今回ばっかりはまじできつかったですね」
「ああ・・・・」
「そうだにゃー・・・・」
三人はテーブルに突っ伏しながらあの日のことを振り返っていた。
「もうしばらくはサイコロを見たくないです」
「まったくだな・・・・」
「蟻地獄はもう勘弁なのにゃ・・・・」
その日の彼らの顔色はずっと悪かったとかなんとか・・・・。
グダグダですいません。もしかしたらどこかに矛盾とかあるかもです。