落とし物.その六
お願いします。
異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。
‘異世界落とし物お預かりセンター’
そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。
「じゃ、じゃあ後はお願いしますわ」
「はい、わざわざありがとうございました」
さて、今日は一体どんな落とし物が届いたのでしょうか?
「・・・・・・」
何故だ。何故これを落としたんだ。その落とし物を預かった秀は考え込んだ。っていうか落としちゃいかんだろうこれは。
「ん? 秀くん何かお悩みかにゃ?」
難しい顔をしながらウンウンうなっている秀をジェシカが覗き込んできた。
「あぁ、いや実は今この落とし物を預かったんですけど・・・・」
「ほうほう」
「ちょっと・・・・いやかなりおかしいものでして」
そう言って秀はジェシカの前にその落とし物を見せた。
「こ、これは!!」
そこにあったのは・・・・
「王冠にゃ!! しかも何かすごいキラキラしてるにゃ!!」
そう。王冠だった。マッシュルームのような形をした赤い布に色とりどりのキラキラした宝石が惜しげもなく散らされている。枠組みは見事な金で出来ておりどこから眺めてもピカピカと光が反射してとても眩しい。高級感たっぷりのその王冠は両手で持つのが少しキツイくらいの重量感があり、本当にこれかぶれんのか? という疑問すらうまれるほどだ
「ほえー。私こんなでかい宝石見るの初めてにゃ」
「でしょうね。こんなの一ついくらするのやら」
恐らく自分たちの年収どころか数十年働いた貯金をはたいても買えないだろうな。
「ところでこれはどこから来たのにゃ?」
「えーと、届け主はダゴン世界の女性の方でした。道端に落ちてるのを見つけて届けてくれたようです」
「これ道端に落ちてたのかにゃ・・・・本当にいろんな意味ですごいにゃ」
「まったくです・・・・」
ちなみにダゴン世界はどんなところかというと他の世界とはちょっと変わっていて国が全部空中に浮いている。空の上にある世界なのだ。色々な大陸が文字通り宙を漂っており国から国へと移動する際は空を飛んでいかなくてはならない。そこに住んでいる人種は全員鳥人であり顔などの見た目は人間と同じような感じだが腕には大きな翼がついていて足も鳥のような特徴的な形をしている。当然、翼がついているので空を飛ぶこともできるので生活には何の支障もない。この世界ではそんな彼らと一緒に空を飛んだりすることができる体験ツアーが行われておりとても人気となっている。最近では鳥人スピードレースなるものが開かれており観光客に大評判なんだとか。
「でも、ダゴン世界って王様とかはいない世界なんじゃなかったかにゃ?」
「そうなんですよ。だから多分どこか別の世界のものだとは思うんですけど」
それが厄介なのだ。ダゴン世界に王様なりなんなりいればそこに連絡して一件落着なのだが、ダゴン世界にはそういった制度がない。
「まぁ、とりあえず保管しときましょうか」
「そうだにゃ」
という訳で保存用に置いてある箱の中に入れようとして秀はふと考えた。
「こんなすごいものこんな普通の箱に保管して大丈夫なんでしょうか?」
「なんでにゃ? 別に大丈夫じゃにゃいの?」
「だってこんな宝石やら金やらいっぱいの物をこんな簡単に保管しといたら危なくないですか?」
「うーん。まぁ確かににゃ」
「誰かが盗む可能性とかももあるし・・・・」
そこで妙な沈黙が二人の間に流れ始める。
「な、なんにゃ秀くん。なんで黙ってこっちを見てるにゃ」
「ジェシカさん。まさかとは思いますがとったりなんかしませんよね?」
「にゃ! 秀くん私のことをなんだと思ってるにゃ!! そんなことしないにゃ!!」
耳と尻尾を思い切りピーンと伸ばし怒りの抗議をするジェシカ。
「そういう秀くんだって勝手に持ち出してどこかに売りさばこうとか考えてるんじゃないのかにゃ?」
「な! そんなことしませんよ僕は!!」
秀も眉間にしわを寄せ抗議する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
またしても二人の間に沈黙が流れ始める。
「はぁ~いやまさかそんなことあるはずありませんよね。疑ってすいませんでした」
「そ、そうだよにゃ。こっちも変なこと言ってごめんにゃ」
結局先程の箱に保存することになった。一応蓋の上に‘絶対に開けないこと!!’ と書き置きしたのだがなんだか心配である。
「いまいち安全な気がしないいんですよね・・・・」
「たし・かに!!」
うーんと考える二人。するとジェシカが何かを思いついたように手を叩いた。
「そうだにゃ。じゃあ、もっさんで実験してみるにゃ」
「実験?」
ジェシカの案はこうだ。この箱をテーブルの上に置く。そしてこれから来るケイベルグさんにそれをわざと見せる。それで開けなければまぁ安全。開けてしまったらアウト。
「どうにゃ?」
「それで安全ってことにするのはどうかと思いますが・・・・。でもとりあえずやってみましょう」
ということでテーブルの上に箱を置いておいた。明らかに怪しいオーラを醸し出しているのだがケイベルグは果たしてこの箱を開けるのか。
それから少しして
「うーっす」
ケイベルグがドアを開け中に入ってきた。
「お、おはようございます」
「お、おはようにゃ!」
変な緊張のせいで態度が少しおかしい二人。
そんなことには全く気がつかずそのままテーブルに座るケイベルグ。
「ふぅー。さてとお茶でもって・・・・何だこりゃ?」
そしてテーブルの上に置かれた箱に真っ先に気がついた。
((気づいた!!))
「絶対に開けないこと!! ・・・・なぁ、これなんだ?」
「さぁ。何でしょうね?」
無表情で秀は答えた。
「開けないことねぇ・・・・」
ちらっとこちらを見るケイベルグ。
そして
「えいっ」
「「あ」」
なんのためらいもなく開けてしまった。
「おお、なんかすごいの入ってるな」
そんでもってケイベルグさんは中身を見ても全く同様しなかった。それどころか自分の頭にかぶせて「どう、似合う?」なんて聞いてきやがった。
「なんかさっきまであーだこーだ言ってた自分が馬鹿らしく思えてきました」
「そうだね」
「ねぇねぇ、似合ってる? これ似合ってる?」
「「やかましいわ!!」」
ケイベルグから王冠を取り返したあと再びどうしようかと考える。
「もういいんじゃにゃいあの箱で?」
「いや、ダメでしょう。あんなあっさり開けられてちゃ」
「じゃあさ、本部に送っちゃえば?」
「え、本部にですか?」
「だってあそこならここよりセキュリティしっかりしてるし何より管理がしっかりしてるじゃん」
確かに。本部はここよりも何倍もでかい施設にあるし、管理システムも超最先端だしいいことづくしである。
「でも、あそこの手続き複雑すぎて面倒くさいのにゃ」
「大丈夫、大丈夫。俺のつてで何とかなるから」
「ケイベルグさんつてなんてあるんですか?」
するとケイベルグはにやりと笑い
「まぁ、昔にちょっとね・・・・」
なんだろうすごく嫌な予感しかしない。一体何があったというのだろうか。
というわけでケイベルグさんに連絡をとってもらったところ本部から一人の男性がやってきた。ケイベルグの顔を見るなり滝のような汗を掻いていたが大丈夫なのだろうか?
「じゃあ、頼むな」
「は、はい! わざわざご連絡ありがとうございました!!」
綺麗なお辞儀をすると王冠の入った箱を持ちながら逃げるように帰ってしまった。
「お茶でも飲んでいけばよかったのににゃ」
本当に何があったのだろうか?
それから数日後。王冠を受け取りに来た本部の方から落とし主が来たと連絡があった。落とし主はクレイドル世界で王子候補に選ばれている三兄弟だったらしい。どうやらその王冠を一番最初に手に入れたものが王子になれるとかなんとかで誰が受け取るか揉めた挙句その場でバトルが勃発し本部内は滅茶苦茶になってしまったとのことだ。結局王冠は一緒に来ていた執事の方が引き取りそのまま帰っていったという。
「そ、そんなことが起こったんですか・・・・」
よかった、本部に送っておいて。下手したらここが惨状になっていたと考えるとゾッとした。
「と、ところでケイベルグさんは私のことについて何か言ってましたか?」
「え、いや別に何も・・・・。何かあったんですか?」
「ああ、いや! 何も言ってないんならいいんです!! それじゃあ失礼します!!」
そう言うと慌てて電話を切ってしまった。何なんだ一体?
「ケイベルグさん。彼と何があったんですか?」
「さーて、何でしょうね? ま、年寄りはいたわることだよ諸君」
王冠のことよりもケイベルグと彼に何が起こったのかの方が気になってしまった秀であった。
「ふふふふふふふふ・・・・」
「もっさん気持ち悪いにゃ・・・・」
どうでもいいことですが昨日は自分の誕生日でした。本当にどうでもいいですね。




