落とし物.その四
なんだかんだで四話目です。
異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。
‘異世界落とし物お預かりセンター’
そこでは今日も様々な出来事が起こる。
「うにゃ~。平和だにゃ~」
「そうですねー・・・・」
「ふぁぁぁぁぁ・・・・」
今日の職場はとても平和だった。今のところ一つも落とし物が届けられていない。まぁ毎日そんなに落とし物を届けられても大変なのでむしろありがたいのだが。
特にすることもないので三人は奥のテーブルでお茶を飲みながらのほほんとしていた。
「なんかここまで平和なのも久しぶりですね」
「そうだにゃー。ここ最近は色々と落とし物が届けられてきたからにゃー」
「まぁな。だが落とし物が無いのはいいことだし、何より仕事しなくていいのはありがたい」
「・・・・・・」
この人は本当にいつもやる気ないな。もうちょっとシャキっとして身だしなみとか整えれば渋くてかっこいいおじさんになると思うんだけどな。
「にゃはは、もっさんらしいにゃ」
そんなグダグダとした会話をしながらだらだらと過ごしている時だった。
「す、すまない。ちょっといいだろうか」
突然誰かが受付カウンターにやってきた。確認しに秀が受付に向かう。
そこにいたのはふさふさした銀色の毛並みをした獣人の男性だった。前に少し飛び出した口元。狐のような耳。それからもふもふの尻尾。恐らく彼は狼族の方だろう。
「はい、どうかされましたか?」
ジェシカさんのおかげで獣人を見るのは慣れているので驚くこともなく冷静に対応する。
「ここに手紙の落とし物は届いてないだろうか?」
「手紙ですか?」
どうやら彼は手紙の落とし物をしてしまったらしい。
「すいませんが、お名前の方をお伺いしてもいいですか?」
「ああ、すまない。私の名前は‘ベルガ・ロウ’という。出身はマウンダ世界だ」
マウンダ世界ということはジェシカさんと同じ世界の出身者の人か。
「ベルガ・ロウさんですね。少々お待ちください」
手紙の落とし物ねぇ。どこにあったっけ。棚の中や箱の中をゴソゴソと探す。
「あれー? ジェシカさんケイベルグさん手紙の落とし物ってどこに保管してありましたっけ?」
「手紙かにゃ? うーんどこだったかにゃー?」
「俺もちっと覚えてないな。あ、そうだ。秀、スキャニング使えよ」
「そうですね、そのほうが早いですね」
秀はカウンターにある引き出しからモニターのついた薄い板のようなものを取り出した。
モニターに手をかざすと映像がつき続いて部屋の映像が映し出される。画面のしたにある‘検索’と書かれたところに‘手紙’と文字を打つと部屋の映像の中に丸い印が映し出される。ちょうど棚と棚の間にあるちょっとしたスペースのところのようだ。
「あ、こんなところにあった」
その印がつけられた所を調べるとそこには手紙の入った袋が置いてあった。挟まるように置かれていたその袋を引っ張り出し中を調べる。
すると、その袋の中にはいくつかの手紙が無造作に入れられていた。
「落とし主でも来たのかにゃ?」
「はい。マウンダ世界から男性の獣人の方が」
「ジェシカと同じ世界の住人か」
その袋を受付にいるベルガさんのところに持っていく。何やらそわそわしていたのでもしかしたら急いでいるのかもしれない。
「お待たせしました。届けられた手紙の落とし物はこの袋に入ってるだけですね」
「わざわざすまない。中を見てもいいか?」
「どうぞどうぞ」
ベルガさんは袋から一枚一枚手紙を取り出し自分のものがないか探し始めた。よほど大事な手紙なのか一つ一つ丁寧に確認している。一体何の手紙なんだろうか?
「あ、あった! これだ!」
そして、ベルガさんは自分の手紙を見つけたようだ。ベルガさんの手にはカラフルな花柄の可愛らしい封筒に包まれた手紙が握られていた。
ベルガさんの見た目に反してなんともキュートな封筒は見れば見るほどミスマッチである。
本当になんの手紙なんだろう?
「見つかってよかったですね」
「ああ、よかった。本当にありがとう」
嬉しさ全開のベルガさんは最初の方のクールそうな雰囲気がどこかに飛び、尻尾をフリフリしている姿がなんとも可愛らしかった。
「それじゃあ、ここにお名前と住所のご記入をお願いしますね」
そう言って書類を渡す。
「ちなみにそれなんの手紙だったんですか?」
秀は気になったのでベルガさんが書類を書いているあいだに聞いてみることにした。
すると、ベルガさんの手が急にピタッと止まった。あれ? もしかして聞いちゃいけないこと聞いちゃった?
「こ、これはその・・・・」
急にどもりはじめるベルガさん。そしてどことなく顔も赤くなってきているような。
やっぱり明らかに普通の手紙ではないようだ。
「もしかして、ラブレターかにゃ?」
「!!」
「うお!! ジェシカさんいつの間に!?」
知らないうちに隣にいたジェシカさん。そして今なんて言った? ラブレター?
「ど、どうしてわかったんだ?」
ベルガさんは驚いた顔をしていた。ジェシカさんの憶測はどうやら当たっていたようだ。
「やっぱりにゃ。その女の子向けな可愛い封筒。それにやたら綺麗に書かれた宛名。それからその赤くなった顔を見ればなんとなくわかるにゃ」
ジェシカさんは無駄なところで観察力があるようだ。これが女子力というやつなのだろうか?
「じ、実はそうなんだ。前々から渡そうと思ってた相手がいたんだがなかなか渡せなくてな。そうこうしているうちにいつの間にか無くしてしまって。もう一度書こうと思ったんだがうまくいかなくてな、やっぱりあの手紙が一番しっくりくると思ってずっと探してたんだ」
「そうだったんですか・・・・」
なるほど。そりゃ見つかれば嬉しい訳だ。ずっと探してたんだから。
「それでそれで、相手はどんな子なのかにゃ?」
ニヤニヤしながらジェシカさんが聞く。この人相手のプライベートをさらっと聞きやがった。本来ならここで注意しなければいけないのだが自分も気になるので今回は黙っておく。
「あ、相手はその・・・・き、狐族の女性の方でな。とても綺麗で笑顔が素敵な人なんだ」
「ほうほう。にゃるほどにゃるほど」
さらにニヤニヤするジェシカさん。そして秀も少しばかりニヤニヤしてしまう。
「でも何で渡せなかったんですか?」
いい手紙が書けたのならば後は渡すだけなのだ。なぜベルガさんはいつまでも手紙を渡せていなかったのだろうか。
「自分は狼族でこんな見た目だからな。怖がらせてしまうのではないかと不安になっていつも渡せずにいるんだよ。まったく意気地なしだよな俺は」
「ベルガさん・・・・」
なるほどそう言う理由で渡せなかったわけか。確かにいきなり手紙を渡されたらちょっと怖いかもしれないな。
「でも、そんなこと言ってたらいつまでもあなたの気持ちは伝わらないにゃ」
「・・・・・・」
「もしその人が他の男に先に告白されたらどうするにゃ?」
「それは!! ・・・・・・困る」
「だったら早く自分の気持ちを伝えなきゃ駄目だにゃ!! 迷ってるだけじゃ何も変わらないにゃ!! 男なら堂々と胸張って行くにゃ!!」
ジェシカさんの言葉を受けてベルガさんの表情が引き締まった。
「それにもしかしたら向こうだって待ってるかもしれないにゃ」
「「え?」」
ジェシカさん今のどう言う意味だ?
「とにかく頑張って行ってくるにゃ!! 大丈夫きっとうまくいくにゃ!! あなたの気持ちを相手にぶつけてくるにゃ!!」
「あ、あぁ!! そうだな!! このままじゃ何も変わらないもんな!!」
手紙をしっかりと握りなおすとベルガさんは深呼吸した。
「ありがとう。今から行ってくるよ。本当に世話になった」
そのまま背を向けて走り去ってしまった。
「行っちゃった・・・・」
「ニュフフフフ・・・・これであの子もお悩み解決だにゃ」
「え? 何か言いましたか?」
「にゃーーーんにも!!」
ジェシカさんはやたらニヤニヤしながら奥のテーブルに戻っていってしまった。
ジェシカさんどうしたんだろう? 秀は首をかしげた。
こうして今日は無事一つの落とし物が返却されていった。
「いやー今日は本当に平和だにゃ~」
グダグダ四話でした。ありがとうございました。




