落とし物.その三
よろしくお願いします。
異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。
‘異世界落とし物お預かりセンター’
そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。
「それでは、頼む」
「ほーい。わざわざどうもー」
今日は一体どんなものが届いたのでしょうか。
「二人共ー落し物が来たぞー。確認してくれー」
「あ、はーい」
「さてさて、今日は何が届いたのかにゃ?」
ケイベルグに呼ばれて奥でお茶を飲んでいた二人は受付に向かう。
「ほれ、今日はこんなものが届きやがりやがったぞ」
ケイベルグが持っていたものそれは
「あ~・・・・また剣ですか」
「にゃはは、これで何本目かにゃ?」
「三本目だな」
「剣ってかさばるし置く場所をとるから嫌なんですよねー」
そもそも何故こんな大きなものを落とすのだろうか。普通気づくだろう。重さだってあるし、何よりほかの世界では自分の身を守るための重要な道具でもあるのだからそれがないのは本人も困るのではないだろうか。
「ちなみに届け主はガッド世界の男性。随分とガタイがよかったからあれはきっと武闘家とか騎士系のの人間だろうな」
「ガッド世界ってことは・・・・」
「武術国家の世界だにゃ!」
ガッド世界。様々な武術や戦術が発達した世界だ。この世界には観光で行くというよりも武闘家や格闘家が修業をしに行ったりするのが主である。年に一度この世界一の武人を決めるための大会が開かれるのだがそれが大変人気なイベントで、世界中のお偉いさんも見に行ったりするのだとか。デルータ世界で開かれる武闘大会とは迫力もレベルも全く違うし規模もかなりでかいらしい。
それと、もう一つ特徴的なのはこの世界の出身者は‘気を操る’という特有の現象を操れるらしく拳から火を噴いたり、蹴りをはなった時に足から龍を出したりすることができる。
出身者に出会ったとしても絶対に喧嘩だけはしたくないものである。
「武術国家ってことは余計にこういう武器って大事なんじゃないんですかね」
「さぁな。よっぽどおっちょこちょいな奴なんじゃないのか」
おっちょこちょいで済むレベルじゃないと思うのだが・・・・。
「とりあえず保管しといてくれ。他の剣があるところに一緒に置いとけばいいだろう」
「わかりました」
秀はケイベルグから剣を受け取った。見た目は結構大きさがあったので重いかと思ったが意外と軽かった。よく見ると柄の部分には青い龍の模様が描かれていた。その時に気づいたのだがこの剣少し汚れてしまっている。刃の部分は泥のようなものが付着しており、柄の部分も砂埃がついている。
「一回綺麗に拭いてあげますか」
濡れた雑巾を持ってきて刃の先端の方から汚れを拭い落としていく。手を切ってしまわないように気を付けながら綺麗になるまで丁寧に拭いていく。
「なんか秀くんが自分の武器の手入れしてるみたいだにゃ」
ジェシカがからかうような口調で秀に言った。
「そんなにピカピカにしてやるとその剣に懐かれちまうぞ」
ケイベルグもケラケラと笑いながらそんなことを言う。
「秀くんが剣を構える姿か・・・・」
「秀が剣をねぇ・・・・」
そして二人して秀が剣を持っている光景を想像し
「無いにゃー」
「ねぇなー」
「お二人共こっちは集中してるんですから邪魔しないでくれます!?」
ちくしょう!! 勝手なこといいやがって! 僕だって剣の一本や二本くらい・・・・
「・・・・・・・・」
無いな。うん・・・・
こうして秀の手によって綺麗にされた剣はここに保管されることになった。
次の日。
「おはようございます」
「おっはようにゃー!!」
今日もジェシカさんは元気いっぱいである。
「さてと・・・・」
今日は秀が受付担当だった。カウンターに座り準備をする。その時、
「カシャン」
何か金属的なものがどこかに当たったような音がした。振り向くとそこには昨日、届けられてきた剣が床の上に落ちていた。
「あれ? 何でここに?」
昨日ちゃんと保管したはずだ。それにさっきまではそこに剣なんてなかったはずだ。
ジェシカさんか?
「ジェシカさん。この剣動かしました?」
奥のテーブルに座っていたジェシカさんに聞いてみる。
「うんにゃ。何もしてないにゃ」
ジェシカさんじゃない? じゃあ一体どうしてあそこに移動してたんだ?
「たまたま落ちたのかな」
そうだ。きっと何かの拍子にあそこまで落ちてきてしまったんだろう。
剣を拾い昨日あった場所まで戻す。さてと、準備準備。
受付のシャッターを開け窓口に記入用紙を置いたときだった
「ガシャン」
またしてもさっき聞いた音が聞こえてきた。
・・・・・・まさかな。そう思いながらも後ろを振り返る。するとそこにはまたしてもさっきの剣が落ちていた。しかもさっきよりも距離がだいぶ近くなっている。
「な、何なんだ?」
一体何がどうなっているのか。まじまじと剣を凝視し考えていると
「ガシャ、ガシャン」
「うお!」
なんと剣が勝手に動き出したのだ。ズリズリとこちらに這い寄ってくるように少しづつ近づいてくる。
「ちょ、なになになになに!!」
怖い! 何この剣!! 滅茶苦茶怖いんですけど!! 何でこっち来てんの!?
「く、来るな!! ジェシカさん!! ジェシカさーーん!! ヘーーールプ!!」
大声で部屋の奥に向かって叫ぶ。
「どうしたにゃ秀く・・・・うにゃ!?」
ジェシカさんもこの異様な光景を見て固まってしまった。
「ジェシカさん!! これどうにかしてください!!」
「ど、どうにかって・・・・どうすればいいにゃ?」
「この剣を取り押さえてください!!」
「ええ! 嫌にゃよ!! 怖いもん!!」
「そんな簡単に諦めないでくれます!?」
そうこうしているうちに剣が秀の目の前まで迫ってきた。そこで剣は急に柄の部分を上にして起き上がり始めた。
「おお! すごいにゃ!!」
ジェシカは目をキラキラさせて見ていた。
「すごいにゃ!! じゃないですよ!!」
そして、剣が完全に直立に起き上がるとそのまま秀目掛けて突っ込んできた。
「秀くん!!」
「う、うわああああああ!!」
反射的に顔の前を腕で覆う。目を瞑りどうなるのかと体を震わせた。
すると胸のあたりにポスっと何かが当たる感触があった。
何だ? 何が当たってるんだ? 気になった秀はゆっくりと目を開ける。腕の隙間からチラッと胸元を見るとそこには
「すりすりすりすり」
柄の部分だけで胸元を優しくこすってくる剣が見えた。
「・・・・・・へ?」
「なんにゃ?」
これは、一体どういう状況なのでしょうか。剣が空中に浮き上がりながら自分の胸元にすりすりしてくる。状況的にはシュール以外の何者でもないのだが。
「うーす。おはようさん」
「あっ、もっさん。おはようにゃ・・・・」
「お、おはようございます・・・・」
「どうしたんだ?」
こっちが聞きたいです。どうなってんのと。
「なるほどな。そんなことが起こっていたわけだ」
「はい」
ケイベルグさんに状況を説明しどうなっているのか解明することになった。その間にも剣は秀の腕のあたりをすりすりしていた。
「ふむ。結論から言おうか」
「え?」
「もっさんどうしてこうなったのかわかるのかにゃ?」
「あぁ。恐らく秀はその剣に懐かれたんだろう」
「「・・・・はい?」」
秀とジェシカはケイベルグが何言ってるのかさっぱりわからないという顔をした。
「いやな、俺も噂に聞いただけだから本当かどうか分からなかったんだがガッド世界で作られた武具には時折、意思が宿ったりすることがあるんだそうだ。本当に希なケースらしいがな」
「武具に・・・・意思?」
「ってことはにゃもしかしてこの剣にも?」
「恐らく意思が宿っているんだろう。そんで秀に懐いちまったってわけだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 懐かれるようなことした覚えありませんよ自分は!!」
仮に意思とやらがこの剣にあるとして何故自分が懐かれてしまったのかがさっぱり分からない。
「何言ってんだ昨日言っただろう。そんなにピカピカにすると懐かれちまうぞって」
「あーそういえば言ってたにゃ」
「いや、確かに言ってましたけど・・・・それだけでこんなに懐かれるものなんですか?」
「そりゃ自分のことを大切にしてくれるやつなら懐くだろうな。あんなに丁寧に拭いてやってたし」
そんなー・・・・剣に懐かれても自分、全然嬉しくないです。
「まぁそんなに落ち込むなよ。別に害があるわけじゃないんだからよ」
「そうにゃ。むしろ職場に可愛い相棒が出来てよかったじゃないのかにゃ」
「すりすりすりすり」
はぁー・・・・もはや秀にはため息を吐くだけの気力しか残っていなかった。
こうして秀に懐いてしまった剣だが、普段はおとなしくしていて特に問題はなく秀が休憩の時にきれいに掃除してやったり撫でてやったりすると気持ちよさそうに(秀にはそう見えるらしい)している。
「なんだかんだ言いましたがだんだん愛着が湧いてきました」
「にゃはははは」
「いい機会だからガッド世界で修行でもしてきたらどうだ?」
「それは勘弁してください・・・・」
そうして今日も秀は剣を綺麗に拭いてやるのだった。
書きたいように書くというのはとても大事なことですね。改めてそう思いました。それにしても剣がすりすりって全然需要ない気が・・・・