落とし物.その二
二話目です。よろしくお願いします。
異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。
‘異世界落とし物お預かりセンター’
そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。
「それじゃあ、頼んます」
「はーい、確かにお預かりしましたにゃ」
さて今回はどんな落とし物なのでしょうか。
「あれ? ジェシカさん落とし物届いたんですか?」
奥の方で落とし物の整理をしていた秀が受付にやってきた。(結局残りの二人は面倒くさがってやらなかった)
「今さっき届いたにゃ」
「そうですか。で、どんなものが届いたんですか?」
「これにゃ!」
そこにあったのは、
「・・・・なんだこれ。スイッチ?」
白い正方形の箱の真ん中に丸型の赤い突起物。この見た目からして恐らくスイッチ的な何かだとは思うのだが。
「どこから届けられてきたんですか?」
「プラント世界からにゃ。届け主は女の人だったにゃ。なんでも家の前に落ちているのを見つけたそうにゃんだけど、何なのか分からなくて怖いからここまで持ってきたそうにゃ」
そりゃ、こんな物落ちてたら誰だって怖いよな。しかも、家の前とか怪しい以外の何者でもないだろうし。ここまで持ってきてくれただけでもすごいと思う。
「ところでプラント世界ってどんなところだったかにゃ?」
「えーと、確か・・・・科学技術が発展している近代系の世界だったと思いますよ」
「あー近代系の世界にゃ」
プラント世界は簡単に説明すると、普通に人型のロボットや自動車が空を飛んでいたりするような世界だ。気候や天気はすべて機会によって管理されており人間そっくりのロボット、俗にいうアンドロイドというものが人間の生活をサポートしていたりもする。
この世界に観光に行くほとんどの異世界人は自分の世界とは全く違う技術や光景に驚いてかたまるのだそう。
そんな噂を聞いて、自分もいつか行ってみたいなと思っている世界の一つだった。
「プラント世界から来たものだとすると何か機械のスイッチとかですかね」
「さぁ? というかこれ押したらどうなるのかにゃ?」
チラッと秀を見るジェシカ。
「さてと、それじゃ・・・・」
そう言ってジェシカは片手を上にあげ
「ポチッとにゃーーーー!!」
そのまま勢いよく手を振り下ろす。
「そぉい!!」
しかし、ジェシカの手がスイッチに触れるよりも早く秀が横から奪い取る。やっぱりやると思った。ジェシカさんの尻尾がフリフリと揺れ、耳がピコピコしたときは何かに興味を持った時とご飯を食べている時だけだ。それに気づいた秀はジェシカの行動を先読みしていた。絶対押したがっているな・・・・と。
「うにゃ!! 秀くん何するにゃ!!」
「何するにゃ!! じゃないですよ!! 何のスイッチかも分からないのに押そうとしないでください!!」
「だって気になるんにゃもん!!」
奪い取ったスイッチを奪い返そうとジェシカさんがしがみついてくる。
「返して! 返してにゃ!!」
「これはジェシカさんのじゃないでしょうが!! 落し物ですよ、落とし物!!」
スイッチを頭よりも上にあげ必死に抵抗する秀。それを取ろうと秀に体をくっつけてくるジェシカ。
「ジェシカさん、ちょ、危ないですって!」
というか、色々当たってるんですが。特に胸とか胸とか胸とか! それにいい匂いもするし・・・・。はっ!? いかんいかん変なことを考えては。
「うなー!! わかった。何もしないから返してにゃ」
「そんな尻尾と耳をピコピコ、フリフリしてる状態で言われても説得力ないですよ!」
そんな小競り合いをしてる時後ろでドアの開く音がした。
「うーす、おはよ・・・・」
振り返ればそこにはケイベルグさんがいた。こちらを見て固まっている。
「お、おはようございます・・・・」
ケイベルグさんは頭をポリポリと掻き
「すまん、邪魔したな」
そのまま静かに帰ろうとする。
「いや、ちょ、ケイベルグさん!! 違いますよ!! これには訳があってですね!!」
「いや、いいんだ。悪かったなお前らがそういう関係だって気づかなくって」
「ケイベルグさんお願いですから話聞いてくださーい!!」
「ちょっと触るだけにゃからー!!」
「ジェシカさんも落ち着け!!」
「つまり、ジェシカがこのスイッチを押そうとして秀がそれを阻止したと」
「はい、その通りでございます」
あの後、何とかジェシカさんを落ち着かせケイベルグさんにも事情を説明し今の状況にいたる。
テーブルの真ん中に置かれたスイッチを三人で凝視しながらこれからどうしようか考えていた。
「もっさんもこれが何のスイッチか気になるよね?」
よっぽど押したいのかケイベルグさんに同意を求めるジェシカさん。
「まぁ、気にはなるな。しかし、俺達は届けられた落し物を勝手に使用することはできん」
その通りである。ここに届けられるものは大抵が誰かの所有物なのだ。それを勝手に使うのは言語道断である。
「うにゅー・・・・」
ケイベルグさんにそう言われしょんぼりするジェシカさん。耳も尻尾もさっきとはうってかわってダラリと垂れてしまっている。
「ジェシカさん元気出してくださいよ。こればっかりはしょうがないですって」
しかし、ジェシカさんはテーブルに突っ伏したままピクリともしない。まいったな・・・・。
「あ、それじゃあこうしようぜ」
ふいにケイベルグさんが何かひらめいたようだ。
「俺達がここに落し物を保存していられる期限は最大で六ヶ月までだろ。だからもし六ヶ月経っても持ち主がここに来なかったらそのスイッチ押してもいいぞ」
すると、それを聞いたジェシカさんの耳がぴくりと動いた。
「本当に? 六ヶ月待って持ち主が来なかったら押してもいいの?」
「ああ。しかし俺はどうなっても知らんからな」
ジェシカさんの表情が徐々に明るくなる。さっきまでの落ち込みようが嘘のように一気に元気になった。
「やったー!!」
「ちょ、いいんですか!」
「まぁ、期限をすぎた落し物の預かり保証はしてないからな。それにそれだけ経てばあいつも興味を無くすだろ」
うーんどうかなー。意外としっかり覚えてそうだけど・・・・。
こうしてこのスイッチの落し物はここに保管されることになった。今はお茶菓子の入っていた箱の中に入れられ棚の上に保管されている。
そして、ジェシカさんは毎日待ち遠しそうにその箱の中のスイッチを眺めている。
「早く押したいにゃ~♫」
ちなみに、預かってから一週間経った今も持ち主は現れていない。
「・・・・・・・・」
秀はジェシカを見ながらどうか早く持ち主が現れてくれることを願った。
次回もよろしくお願いします。