表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

落とし物.その十四

異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。


‘異世界落とし物お預かりセンター’


そこには今日も様々な落し物が届けられてくる。


「デハ、オネガイイタシマス」


「はいはい、どうもにゃ」


さて、今日はどんな落とし物が届いたのでしょうか。


「ジェシカさん何か届きましたか?」


「うん。今さっき届けられてきたにゃ」


そう言ってジェシカは届けられてきたものを秀に見せた。


「これは・・・・」


そこにあったのは、鎖で繋がれている二つの鉄でできた棒のようなものだった。その棒にはまるで古代文字のような記号がびっしりと描かれていた。


「何なのかにゃこれ?」


「何ですかねこれ?」


この見た目と今のこの寒い時期を考えると思い当たるのはあれかな。形もそれっぽいし。


「あれじゃないですか、よく夜に街のパトロールとかしてる人が鳴らすやつ。火の用心!! って」


「あぁ、あのカンカン鳴らすやつかにゃ」


「はい、なんか似てるなぁと思ったんですけど」


「でも、こんなごつい物持って夜パトロールしてる人達見たくないにゃ」


まぁ確かに。本来のあれは木とかで出来てるものだしやっぱり違うか。


「秀くん、試しに一回鳴らしてみたらどうかにゃ?」


「これをですか?」


「軽くでいいからどんな音がするか聞いてみたいにゃ」


ジェシカさんから落とし物を渡された。人のものだからあんまり勝手にいじっちゃダメなんだけど・・・・まぁ軽くならいいか。


「じゃあ、やってみますね」


秀は鉄の棒をそれぞれ両手に持つと軽く勢いをつけて叩いてみた。

すると、


‘キュイーーーーーン’


何とも綺麗な高音が部屋の中に響き渡った。その音は反響し不思議なことに徐々に大きくなっていった。


「かるく叩いただけなのに結構大きな音鳴りますね」


「そうだにゃ~、でも何だか綺麗な音なのにゃ」


少しの間反響した音は次第に小さくなり聞こえなくなっていった。


「「おおーーー!!」」


中々すごいなこれ。用途は違うのかもしれないけどこういう使い方もいいんじゃないかな。


「ういーす。なんだ今の音」


「あ、おはようございます」


「おっはようなのにゃ!! いや、さっきこんな落とし物が届いて試しに鳴らして見たのにゃ」


そう言って落とし物を見せるとケイベルグさんはまじまじとそれを見つめた。


「これってあれだよな。火の用心的なやつ」


「あ、やっぱりそう思います? 僕もそう思ってたんですよ」


どうやらケイベルグも秀と同じことを考えていたらしい。見えるよなやっぱり。






とりあえず箱の中に保存し、その後は誰も来ないのでまったりとお茶をすする落とし物センターの面々。暖かいストーブと美味しいお茶のせいで完全に気を緩めていた。

その時、


‘ドズゥゥゥゥンン!!!!’


激しい地響きとともに大きな爆音が聞こえてきた。


「にゃ!!!!」


「うおっ!!!」


「な、ななななななな何だ!!!! 何だ!!!」


館内に‘皆さん落ち着いて行動してください’というアナウンスが流れてきた。


「な、なんなのにゃ!?」


「今の外から聞こえてきたよな」


「ちょ、ちょっと様子を見に行ってみましょう」


という訳で三人は何が起こったのか確認するために外に出てみることにした。

外に出てみると、既に館内の他の職員も何人か外に出てきていた。


「どうやら広場の方で何かあったみたいだな」


「行ってみるにゃ!!」


館内の近くにある大きな広場。周りは自然に囲まれていて草の上に数個ベンチがあるだけの職員の休憩所としても利用されている憩いの場である。

そんな憩いの場に向かってみるとそこには思わず目を疑いたくなるようなものがいた。


「うえ!? あ、あれって・・・・」


「おいおいおい・・・・」


「マジかにゃ・・・・」


それは・・・・


「ド、ドラゴン・・・・?」


見上げるほどの真っ赤な体に大きな翼まるでトカゲのような面影のある顔つきに頭には立派な角。鋭い目つきにこれまた鋭い爪。後ろでゆらゆら揺れているどでかい尻尾。

そう、そこにいたのは普通なら絶対にいてはいけないもの。というかいる訳がないものなんだけど。

というのもドラゴン族というのは異世界の中でも大変貴重な種族のため、基本他の世界へと連れてくるときは厳しい審査といくつものルールを守らなければならない。それに来れたとしてもドラゴン族は世界ごとに移動していい範囲が決まっていてそこから出ると強制的に元の世界に戻されるという仕組みになっている。


「こ、これってかなりまずくないですか?」


「まずいかもな・・・・」


「めっちゃこっち見てるにゃ。ちょ、めっちゃこっち見てるにゃ!!」


鋭い目が集まった職員をギロリと睨みつける。それだけでそこにいたほかの職員たちは館内へと逃げていった。


「ケイベルグさん、ちょ、僕たちも逃げましょう!!」


「そ、そうだな」


少しづつ後ずさる。あまり相手を刺激すると良くないだろうからな。

しかし、そんなこちらの配慮も無駄な結果となってしまう。


「にゃ!! あいつこっちに向かってくるにゃ!!」


ドラゴンの視線が秀たちをロックオンすると大きな翼をはためかせこちらに向かって飛んできた。


「うわあああああああ!! 来てるよ!! え、来てるよ!!」


「二人共走れ!!」


「にゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


三人共死ぬ気で走る。あんなのに捕まったらひとたまりもない。


「ああ、もう!! 今日は平和な一日だと思ってたのにぃぃぃいいい!!」


「っていうかあいつ早っ!! あんなでかい体でどうしてあんな早く飛べるんだよ!!」


三人の全力疾走も虚しくドラゴンは三人の上を軽々と飛び越えるとそのまま回り込みまた勢いよく着地した。


「うおおおおおおおお!!」


「ま、回り込まれた!」


しかもそれだけではなく三人を囲うように器用に尻尾を伸ばし後ろにあった退路まで絶たれてしまった。


「にゃぁぁ!! 逃げ道がないにゃ!!」


「マジかよ・・・・」


「ちょ、まずくない!? これまずくない!!」


テンパる三人に徐々に顔を近づけてくるドラゴン。不気味な目が大きな口が荒々しい鼻息が三人の目の前まで迫ってきた。


「うわぁぁぁああ!! まだ死にたくないよォォおおおお!!」


「・・・・・・・・・・」


「にゃぁああああ! 食べられるのはいやにゃあああ!!」


そしてその大きな口がゆっくりと開いた。


「私を呼んだのはお前たちか?」


「・・・・・・・・へ?」


「なに?」


「呼んだ?」


三人はいきなり投げかけられた質問にクエスチョンマークを浮かべた。


「っていうかドラゴンが喋った!!」


「質問に答えよ。私を呼んだのはお前たちか?」


また同じ質問をされた。しかし、三人はなんのことだかさっぱりわからない。


「え、えーと・・・・わかんないです」


「お前たちではないのか?」


「まぁ、うん。呼んだって行為は少なくともしてないと思う」


「そうか・・・・・・」


ドラゴンは近づけていた顔をゆっくりと離した。


「確かにここで私を呼ぶ音がしたはずなのだが・・・・」


「音・・・・ですか?」


「ああ、主が私を呼び出すときに使っていた‘鳴き龍の相鉄’の音がこの辺りで聞こえたのだ」


「・・・・・・・・ん? 相鉄?」


何かその言葉に引っかかるところがあった。


「あの~・・・・ちなみに聞きたいんですけど、それってどんな感じの物ですか?」


「灼熱の火山地帯で採掘した極上の鉄に私の爪で呪文が描かれているものだ。それを同じ鉄で作り上げた鎖で結んである」


鎖で結ばれた鉄に、呪文?


「・・・・・・・・はっ!?」


「どうした秀?」


「なんかわかったのかにゃ?」


「ちょ、ちょっとドラゴンさん!! 取りに行きたいものがあるんで一回通してもらっていいですか?」


「わかった」


ドラゴンは尻尾を持ち上げると秀をその下からくぐらせた。


「いや、もうあれしかないでしょ原因」








少しして、


「ドラゴンさん、お待たせしました」


「何しに行ってたんだよ」


秀は落とし物センターから持ってきたものをドラゴンに見せた。


「もしかして鳴き龍の相鉄ってこれですか?」


「あ、それってさっき届いた落とし物にゃ!!」


するとドラゴンは再び顔を近づけ目を思い切り開いた。


「おお!! これはまさしく鳴き龍の相鉄!! やはりここにあったのか」


どうやら秀の考えはあたっていたらしい。


「ってことはだ、もしかして朝にお前らが試しに鳴らしてみたって言った時の奴がこのドラゴンを呼び寄せたということか?」


「まぁ、多分、恐らくは・・・・」


「え、でも確かに大きい音だったけどそんなに遠くまで響くわけないにゃ」


「その音は私にはどこにいても聞こえるようになっているのだ。私が彫った呪文とその鉄の効力でな」


どこにいても聞こえるってすごいな。これも異世界の技術というやつだろうか。


「とりあえず原因は分かりましたけどこれからどうしましょうか」


「うーん、っていうかあんたはこの道具の持ち主を知ってるわけなんだしなんならこのまま預けて返してもらえばいいんじゃないか? ドラゴン族は出身地なら移動自由なわけだし」


「あー、その手があったにゃ」


なるほどね、いい案かもしれない。


「じゃあ、そうしてもら・・・・」


「断る」


「「「・・・・・・はい?」」」


今なんて言った? 断る?


「え、えーと・・・・断るってなんででしょうか?」


「今その相鉄を持っているのはお前たちだ。私はそれを所持している者に従うという盟約がある」


「でもさ、前の主人がいるわけじゃない? そいつはいいのかよ」


そこでドラゴンは何故か嬉しそう? にニヤッと笑った。


「全然問題ない。むしろ清清する。あんな男、私の主にはふさわしくない」


「え? あの?」


「いちいち私を呼び出しては弱きものを脅せと命令し金品を巻き上げる。あぁ、今思い出しただけでも腹が立つ!! あんなクズに使われていたと思うと情けない!!」


「おーい?」


「大体あいつは私の扱いがなっとらんのだ!! いつもいつもくだらんことで呼び出しおって!!」


「な、なんか愚痴りだしてますけど・・・・大丈夫かにゃ?」


「え、やだ。愚痴るドラゴンとか見たくない」


「なんか、うん・・・・なんだろうな」


結局その後しばらく愚痴を聞くはめになりました。






「それでは私はそろそろ帰るとしよう」


「あ、終わりました?」


「随分溜め込んでたにゃ」


「ドラゴンにも色々あるんだな」


「あぁ、すまない。長々と・・・・」


「気にしないでください。溜めてたってしょうがないですし」


「そうだな。たまに呼んでやるから一緒に酒でも飲もうぜ」


「「え」」


「おお、それはありがたい。その時を楽しみにしているよ」


「おう。そんじゃあな」


「うむ。ではさらばだ!!」


翼を一際強く羽ばたかせドラゴンは勢いよく空中に飛び上がるとそのまま空めがけて飛んでいってしまった。


「ふぅ~・・・・終わったな」


「ですねー・・・・」


「そうだにゃ~・・・・」


「ところでケイベルグさん」


「ん?」


「あのドラゴンまた呼ぶんですか?」


「さぁな、まぁ気が向いたら?」


「というかドラゴンサイズの酒なんてあるのかにゃ?」


「さぁ? 聞いたことないな。探せばあるんじゃないか?」


「「・・・・・・・・・」」


今日も異世界落とし物お預かりセンターは平和です。


「「「どこが!?」」」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ