落とし物.その十三(地獄のお祭り編・最終日)
お願いします。
ついに、ついにやってきた。僕達はやっとこの日を迎えることができた。今まで散々ひどい目にあってきた。巡回の時には人の波にさらわれもみくちゃにされ、届けられてくる落とし物は全部おかしなものばかり。あまりの混雑のしすぎにこっちのスペースにまで人がなだれ込んできた時には本当にどうしようかと思いった。だが、それも今日で終わりだ。初日も昨日も色々あったがもう怖くない!!
「なんでも来やがれ!! 今日が最終日だ!!」
「ここまで来たらなんとしてでも生き残るにゃ!!」
「あぁ、この戦場を生き残ることができたらみんなでうまいもんでも食いに行こうぜ!!」
という訳でなんだかんだで落とし物センターの面々はこのコミックパラダイスの最終日まで勤めを果たしていた。
「本日が最終日になります。皆さん最後までよろしくお願いしますね」
「「「はい!!」」」
そして、アナウンスとともにコミックパラダイス最終日が幕を開けたのだった。
「よりにもよって最終日は日曜日。今日が一番混雑するそうですよ」
「そうなのかにゃ!?」
「うん・・・・もう、何も怖くない・・・・」
ケイベルグさんが何かを悟ったような顔でそう呟いた。この三日間でこの三人は精神的にも肉体的にも成長していた。何事にも動じず、どんな困難にも立ち向かえそうなほどの・・・・
「来ましたよ!!」
「いいか! 俺達の仕事は落とし物を預かることだ!! たとえどんな脅威が襲いかかってこようともそのことを忘れるんじゃないぞ!!」
「イエッサーーーーー!!」
※こんなことを言ってますが只イベントに参加しているだけです。
「只のとか言うんじゃねぇぇぇぇぇええええ!!」
すいませんでした。
そして、いつ見ても凄まじい人の波が一瞬で目の前に現れた。今日は本当にありえない数の人が来ている。
しかし、そんな光景を見ても彼らは動揺しない。冷静に人の流れを観察し誰かが落とし物をしていないかを見極める。そんな観察眼を習得していた。
「あっ! あそこの人財布を落としました!!」
「まかせろ!!」
ケイベルグは素早く椅子から立ち上がると人の波に向かっていった。いつもなら直ぐにもみくちゃにされてボロボロになり戻ってくるのだが、今日のケイベルグは一味違った。
人と人の隙間に素早く滑り込み、そして無駄のない動きで次の隙間に潜り込む。
「は、早いにゃ!!」
その動きを繰り返し財布が落ちた場所まで近づくと素早く拾い上げ、落とし主のもとに向かう。
「すいません、これ落としましたよ」
そして、きちんと渡すとまた同じ動きでこちらまで戻ってくる。
「ふぅー・・・・いい汗かいたぜ」
「流石ですケイベルグさん!! 今ならデビルバッド○ーストもできそうですよ!!」
「ふっ、それほどでもあるかな」
そんな馬鹿なやりとりをしながらも少しずつ時間が過ぎていく。その間にも続々落とし物が届けられてくる。
「こんなにみんな財布落としていくけど全く気づかないのかにゃ?」
「さぁ? 皆目の前の獲物に夢中なんじゃないですか?」
「でも、お金がなきゃ何も買えないにゃ」
「まぁ、そうだわな」
「ちなみにこの財布って中身はいくらくらい入ってるんでしょうね」
気になったので適当に落とし物の財布の中身を見てみることにした。中には一万円札がわんさか入ってました。
‘パタン’
「どうしたのにゃ秀くん?」
「いえ、何でも・・・・ありません・・・・」
まさかこの財布の中全部こんなんなのか・・・・。お金ってあるところにはあるんだなぁー・・・・
そんなこんなで何とか午後になった。人の流れも最初の頃よりはだいぶ穏やかになってきた。
「少し平和になりましたね」
その時、
「あのー・・・・すいません」
受付に一人の女性がやってきた。これはいわゆるコスプレというやつなのだろうか。メイド服に猫耳のカチューシャをつけたとても可愛らしい人だった。
「はいはい。どうしましたかにゃ?」
「実は落とし物をしてしまって・・・・これくらいの瓶に入った液体なんですけど」
瓶に入った液体? あ、もしかしてこれだろうか。届けられてきたときはなんだこれと皆で考え込んでいたものだ。
「ちょっと待ってくださいにゃ。えっと・・・・」
「ひょっとしてこれですか?」
「あ、そうです!! それです!!」
やっぱりこれだったか。これが何なのか分からないがとにかく見つかってよかった。
「見つかってよかったにゃ。はいにゃ」
「ありがとうございます!!」
「ちなみにそれって何の液体なんですか?」
気になったので聞いてみた。
「これですか? これはですね・・・・」
そう言って彼女は液体の入った瓶を開けるとぐいっとその場で飲み干した。
すると、その途端に彼女の体に異変が起き始めた。
「お、おおおおおおお!!!」
急に胸が膨らみ始め、腰のあたりもほっそりと引き締まり先程まで慎ましやかな体つきだった彼女は一瞬でナイスバディに変貌した。
そのせいでメイド服の露出度が先ほどよりも増え目のやり場に少し困ってしまう。
「すごいにゃ!! ボンキュッボンになったにゃ!!」
「ふふふふふ・・・・このための薬だったんですよ」
くるりと軽やかに一回転した彼女の周りにいつの間にかカメラを持った集団が集まり始めていた。
「すいませーん、こっちに視線お願いしまーす!!」
「すいません、こっちもお願いします!!」
「おい! 押すなよ押すなよ!!」
いつの間にか撮影会が始まってしまっていた。これはまずいぞ。
「すいません!! 会場内での写真撮影はご遠慮下さい!!」
すぐさまスタッフの人が飛んできて注意しながらカメラ集団をはけていく。彼女も急いで会場の外に避難していった。
「なんだったんだ今の?」
「「さぁ?」」
そして更に時間が経ち、イベントも残すところあと二時間ほどになった。この時間になるとだいぶ人もいなくなり徐々に落とし物も問い合わせが増えてきた。
「だいぶ減ってきましたね」
「流石にこの時間になれば皆気づくんだろう」
残すは財布が二つとペンダントなどの小物が少し。
「何かここまで来たらもう全部返しちゃたいよにゃ」
「そうですね、少し残っても気持ち悪いですし」
「まぁ、待ってりゃくるだろ」
そんなこんなで平和な時間が流れ始めていた。いつもの落とし物センターの空気に戻り始めているのを感じて秀は居心地よく感じていた。やっぱりこのゆるい空気がいつもの自分たちだよな。
そして、イベントの時間も残り一時間になった。人影がまばらになり参加者も徐々に帰り始めている。
のこる落とし物もペンダント一つだけとなった。
「後、これだけですね」
「誰も来ないにゃー」
「もう帰ったのかもな」
一つだけ残るのはどうにも気持ち悪い。最後なんだから全部返して綺麗に終わりたい。
しかしそんな願いも虚しく時間は過ぎ残すところ後数分となってしまった。
「そろそろ帰る準備するか」
「そうですね」
どうにも心残りだが仕方がない。残ったのなら後は本部の人に任せるしかない。
机の周りを片付けながらそう思っていた時だった。
「す、すいません!!」
「はい?」
振り返ってみればそこにはひと組の男女がいた。
「どうされましたか?」
「こ、ここに落とし物が届いてませんか? 蒼い石でできたペンダントなんですけど・・・・」
ペンダント・・・・。そのフレーズに三人共ハッとなる。ま、まさか・・・・
「もしかして、これですか?」
秀が差し出した物を見て二人は目を丸くした。これはどうやらビンゴみたいだ。
「そ、そうです!! これです!! あぁ、よかった!!」
秀からペンダントを受け取り喜ぶ二人。最後の最後に落とし主が来てくれたみたいだ。
「よかったですね。今度からは気をつけてくださいね」
「は、はい!! ありがとうございます!!」
ペコペコと頭を下げて二人は行ってしまった。仲良く手を繋いでいるあたりカップルだったのだろうか。・・・・もげればいいのに・・・・・。
そして、館内にアナウンスが流れた。
「只今をもちましてコミックパラダイス最終日を終了いたします!! 皆さんお疲れ様でした!!」
それを合図に大きな拍手が沸き起こった。
「いやぁ~~終わったーーー!!」
「綺麗に終われて良かったにゃ!!」
「ですね!!」
こうして彼らの初コミックパラダイス参加は終わったのであった。
翌日、落とし物センターで思う存分彼らがだらけていたのは言うまでもない話である。




