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落とし物.その十

久々にお願いします。

異世界への行き来を管理するとある施設の一角にそこはある。


‘異世界落とし物お預かりセンター’


そこには今日も様々な落とし物が届けられてくる。


「それじゃあお姉ちゃん、よろしくおねがいします」


「はいにゃ、わざわざありがとにゃ。気おつけてお母さんのところに戻るんにゃよ」


さて、今日は一体どんな落とし物が届いたのでしょうか?




「みんにゃー! 落とし物が届いたにゃ! 確認してにゃー」


「「はーい」」


ジェシカに呼ばれて奥から二人が出てくる。


「さて、一体何が届いたんだ?」


「本日の落とし物は・・・・これにゃ!」


ジェシカの手に持たれていたのは、一体の人形だった。綺麗でサラサラとした金色の髪。大きくてクリッとした蒼色の目。どこか幼さの残る整った顔立ち。どこかの国のお姫様のような、可愛らしいフリフリとしたドレス。


「おお、これは何かすごい人形ですね」


「これっていわいるフランス人形っていうやつかにゃ?」


「ああ、何かそんな感じするな」


フランス人形って確か結構高級品だったような気がする。まぁ、この人形はどう見ても高そうなのだが。


「どこから届けられてきたんですか?」


「えっと、届け主は‘リウーム世界’の女の子だったにゃ」


「リウーム世界か・・・・」


リウーム世界とは、有名な観光世界で秀の出身地である日本と同じように四季の表れがはっきりしていることで知られている。季節によって様々なイベントが開かれるためそれを目当てに観光、または旅行に来る人たちで年中賑わっている。

そして、もう一つ特徴的なのはこの世界に住む住人は皆、耳が尖っていることと肌の色が青色や赤色など鮮やかな色をしていることだ。人によっては微妙に肌の色が濃かったり薄かったりしているらしく彼らにはそれを見抜くことができるらしい。


「今の季節だと仮装パーティとかやってますね。あと、建造物のお菓子デコレーションとか」


「あそこは年中何かやってるからにゃー」


「そうだな。とりあえず、このビニールに入れて梱包材か何かでくるんでおけ」


「了解にゃ!!」


と、いう訳で本日はこの人形の落とし物一つだけが届けられ保管された。

この時、彼らはまだ知らなかった。この人形があんなことになるなんて・・・・。




翌日。


「おはようございまーす」


「おう、おはよう」


「おっはようにゃーー!!」


いつものように挨拶をかわし準備をする。今日の受付係はケイベルグだった。秀とジェシカは奥のテーブルに座りお茶をすすっていた。


「最近何か寒くなってきましたねー」


「そうにゃねー。私もそろそろこたつにこもりたくなってくるにゃー」


「猫だからな」


雑談を交わしながらだらだらと時間が過ぎていく。いつもの平和な落とし物センターの日常風景だった。


「あ、悪い。ちょっとトイレ行ってくるわ」


「わかりました。じゃあ受付は僕が見ときますね」


ケイベルグは受付から外れトイレに向かった。


「ふぅー・・・・」


さっと用を足し洗面台で手を洗う。

その時だった、


「ん?・・・・・・・・ん!?」


たまたま壁にかかっている鏡を見たケイベルグは不自然なものを見た。後ろを振り返ってみるとそこには、昨日届けられてきたフランス人形がちょこんと立っていたのだ。


「何でこんなところに? っていうか今こいつ浮いてなかったか・・・・」


・・・・・・まさかな!! そんなことあるはずがない。そう思いケイベルグは人形を抱きかかえ受付に戻っていった。


「戻りましたよっと。秀、ありがとな」


「いえいえ」


「おかえりにゃ。あれ? もっさんなんでその人形持ってるのにゃ?」


ジェシカがケイベルグの持っている人形に気づいた。


「いやさ洗面台で手を洗ってて気づいたらこいつが後ろにいたんだよ」


「え? どういうことですか?」


ジェシカと秀は首をかしげる。気づいたら後ろにいたってどういうことだ?


「すいません、ちょっとお伺いしたいんですけど」


その時、受付に一人のスーツ姿の男性が訪ねてきた。


「はいはい、どうしました」


今日の受付係のケイベルグが対応する。そちらは任せてジェシカと秀は人形を前に考え込んでいた。


「秀くん、この人形動かしたりしてにゃいよね?」


「はい。僕はずっと受付にいましたからね」


うーん・・・・・・。


「ジェシカ、ちょっと来てくれ」


「にゃ、はいにゃ」


ジェシカがケイベルグに呼ばれ受付に向かっていった。残された秀は、椅子に座りお茶を飲みながら人形を眺めた。


「それにしても綺麗な人形だな」


そうぼそっと呟いた時だった。


‘クルッ’


「ん?・・・・・・んん!?」


今人形がこちらに振り向いたような。

目をこすり思い切り瞼を閉じた後、もう一度人形を見る。

すると、先程まで横から眺めていたはずの人形は顔どころか体まで正面を向いていた。


「え? う、動いた? 今動いた?」


え、どういうこと。何で人形が動いてるの? そういう人形なの? からくり的な仕掛け付きなの?

驚いた顔で見つめているとさらに驚くべき出来事が起きた。


「ふふふふふふふ・・・・」


「ふゅ!?」


何と人形から不気味な笑い声が聞こえてきた。それだけではなく、顔中に不気味な亀裂が入り先程までの綺麗な人形の面影が薄れていく。


「あばばばばばばばばばっばあ」


もはや何が起こっているのか理解できなくなった秀は口をパクパクさせることしかできなくなっていた。

人形の体は徐々に宙に浮いていき


「あははははははははははははははは!!!」


「ぎゃああぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあ!!」


甲高い笑い声をあげカクカクと動き出した。その光景を見た秀の恐怖メーターが頂点にたっし叫び声を上げながらテーブルから飛び上がった。


「にゃ!!?」


「な、なんだ!! どうした秀!!」


叫び声を聞いたジェシカとケイベルグは、慌てて奥に戻った。

するとそこには、這いずるように何かから逃げようとしている秀の姿があった。


「ちょ、どうしたにゃ?」


「秀! おい、どうした!?」


「あ、にににににににに人ぎ形のか、かかかかかかか顔あが顔うが・・・・」


秀はしどろもどろになりながら何かを話そうとしているがカミカミで何を言っているのか全く分からない。


「なんて? 秀くんなんて?」


「落ち着け秀。とりあえずその汁まみれの顔を何とかしろ」


秀の顔は鼻水やらよだれやらでもうぐちゃぐちゃになっていた。

テーブルの上にあったティッシュを秀に渡し、何とか落ち着かせる。


「はぁはぁ、すいましぇんケイベルグさん。うえ・・・・」


「すいましぇんって・・・・しかも、もう吐き気を催しちゃってるにゃ・・・・」


「何があったんだ?」


「人形が、急に動き出して・・・・それで顔がびっきー! なってあはははははって」


びっきー! であはははははは??


「ごめん秀、お前が何を言っているのか理解できないんだが」


「いや、ですから・・・・」


そこまで言いかけ秀は途中で話すのをやめ目を大きく開きケイベルグの後ろを指差した。


「あ、ああああ・・・・」


「ん? なんだ?」


「どうしたのにゃ・・・・ってにゃあああああああ!!」


秀の指差した方を見てジェシカも大声をあげる。


「なんだよ! どうしたんだよ!?」


「もっさん、後ろ、後ろを見るにゃ」


「あ? 後ろ?」


ケイベルグも言われて後ろを振り返る。するとそこには


「あはははははははははは!!」


先程の人形が宙に浮きゆらゆらと揺れていた。全身は最初の頃の綺麗な面影はどこにもなく、髪は所々ズタズタになり、目玉は片方取れそうになり、顔は所々メッキが剥がれ、ドレスはどす黒く汚れている。


「うお!? 何だこいつ!」


「にゃああああ!! 気持ち悪いにゃ!! 怖いにゃ!」


「あっばばばばばばばばば」


三人共パニックになる。その間も人形はカクカクと動き近づいてくる。


「もっさん、何とかしてにゃ!!」


「何とかって! えーと・・・・あ、悪霊退散悪霊退散怨霊、モノノ怪困ったときはどーまんせーまん、どーまんせーまん直ぐに呼びましょ陰陽師、陰陽師を呼べぇぇぇぇええええええ!!」


「ええええええええ!!」


ケイベルグは書類の揃えられている棚に飛びつき必死に何かを探し始めた。


「ジェシカ!! タ○ンページどこにやった!!」


「それに頼るのかにゃ!! めっちゃ見て・・・・人形超見てるけどいいのかにゃ!?」


「早くしないとどうなるかわからないだろうが!!!」


必死でタ○ンページを探すジェシカとケイベルグ。そしてそれを見守る人形。その人形を見守る秀。

何ともシュールな光景が出来上がっていた。


「あったにゃ!!」


「よし!! 陰陽師、陰陽師!」


「陰陽師よりもお寺とかのほうがいいんじゃないのかにゃ?」


「くっ、この際仕方ないか!!」


仕方ないのか?


「あ、もしもし。すいません、あの今何かものすごいヤバそうな人形に襲われてるんですけど・・・・はい、はい、あ、えーと住所はですね・・・・」


数分後。


「ふぅー・・・・」


「もっさんどうだったにゃ?」


「うん、あのー直ぐに来てくれるって。だからそれまで頑張ってって」


「え、こう具体的にどう頑張るのかとかは教えてくれなかったんですか?」


「うーん、あのね・・・・そうね。何とか持ちこたえてくれって言ってた」


何そのざっくりしたお寺。本当に大丈夫なんだろうか。


「っていうかこの人形何か動かなくなったにゃ」


言われてみれば先程からピクリともしなくなった。浮かんだままじーっとしている。


「ちょ、ちょっと触ってみろよ」


「嫌ですよ。また動き出したらどうするんですか」


「ん? 二人共静かににゃ! 何か聞こえないかにゃ?」


「え?」


三人で耳を澄ませる。すると確かに何か聞こえた。というかこれは


「zzzzzzzzzzzzz」


「ん? これは・・・・」


「いびき?」


「もしかしてこの人形、寝てるにゃ?」


「zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz」


おお、なんだこれ。あれだけ騒がしといて寝るって・・・・うん、まぁいいけど。


「今のうちに何かで縛ったりしたほうがいいですかね」


「え? 秀ってそういう趣味あんの?」


「馬鹿か、おい馬鹿か。違いますよ今のうちに動けないようにしたほうがいいんじゃないかって言ってるんですよ!」


「ああ、そういうことかにゃ」


と、いう訳でとりあえずロープで縛り、箱の中にしまうことにした。






その、数十分後。


「いやいや、お待たせしました。それでは早速始めましょうか」


お寺から和尚さんがやってきてくれた。それっぽい道具を色々と持ってきていて中々本格的である。


「それじゃあ、皆さんは危険ですので外で待っていてくださいね」


そう言われて皆外で待機することになった。人形は相変わらず箱の中で大人しくしていたのだがさてどうなるのか。

部屋の中から何やらお経のようなものが聞こえてきた。


「おお、何かすごいな」


「うん、っていうかここ落とし物お預かりセンターだよね。そこからお経聞こえるって・・・・ねぇ」


「まぁ、普通はないよにゃ」



そこからさらに数分後。


「ふぅー、無事に終わりましたよ」


「ありがとうございます!!」


「助かったにゃ!」


何とか一件落着したそうだ。和尚さんの腕には先程の人形が大人しく抱かれていた。


「それで、この人形なんですが・・・・私がお預かりしてもいいでしょうか?」


「ああ、それはもうどうぞどうぞ」


「あ、でも一応落とし物なんでもし落とし主が来た時に連絡できるように、ここに連絡先とお名前だけ書いてもらってもいいでしょうか?」


という訳でこの人形は和尚さんのもとで預かられることになった。


「この人形どうするのにゃ?」


「とりあえず我が家の蔵に保管します。そして愛でます」


「ん? 愛で・・・・」


「ああ、いや何でもないです。それでは私はこれで」


そう言って和尚さんはそそくさと帰って行ってしまった。


「はぁー、なんだったんだ今日は・・・・」


「ものすごく疲れたにゃ・・・・」


「ケイベルグさん、お願いがあるんですけど」


「ん?どうした?」


「トイレ付いてきてもらってもいいですか?」


「「・・・・・・・・・・・・・」」


こうして秀にまた新たなトラウマが植えつけられたのであった。

近々こんな魔王と勇者ってどうですか?も更新する予定です。よろしくお願いします。

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