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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第四十四話 「菩薩」




「天眼 風をみる」


 第二章 胎動 


 第四十四話  「菩薩」



 術が終わり、一刻(二時間)程、過ぎた頃、お菊が気がつきはじめた。


  まどろみながら、見たものは、傍らで寄り添うように座っている、


  龍気であった。



龍気「気がついたか、お菊。 体は、大丈夫か?」


    いち早く、お菊の変化に気がついた龍気が、お菊に問う。


お菊「はい、大丈夫です、あなた、やや子は、無事ですか?」


龍気「うむ、大丈夫じゃ、今、顔を見せてやろう」



   そこで、お菊は、起き上がろうとするが、縫った腹に痛みが走る、


   小さく「あっ」と、顔を歪めると、「ふうっ」と、息を吐き力を抜いた。



源庵「お菊さん、まだ、起きてはいけないよ、腹に圧をかけると、


   傷口が開いてしまうからね」



    お菊が、声のする方を見ると、源庵とお鈴が座っていた。  



源庵「いいかね、お菊さん、二、三日は、縫った腹が痛むだろう。


    まずは、じっと寝ていることだ。


     痛みが引いて来たら、少しずつ動いても良いからの」


お菊「はい、わかりました。ありがとうございます」


源庵「今回は、お鈴さんにも手伝ってもらったからね、


    随分助かったよ」


お菊「そう、お鈴、ありがとうね」


お鈴「ううん、私は、ただ、診てただけ だったから・・・、」


お菊「そんな事ないわ、居てくれただけで、安心したもの。


    私ね、ずっと夢を見てたの、お鈴が私の手をずっと握ってくれて、


    「頑張って、頑張って」て、叫んでいる夢なの・・・、


    隣には、お父さんも居たのよ、でもね、お父さんは、


    ただ、座っているだけなの・・・、


     でも、とっても安心したわ、二人が一緒になって、


     応援してくれていたのを感じたわ、 


     あ~、お産は、絶対、大丈夫だって、思ったのよ。


     本当にありがとうね、」


お鈴「お母さん・・・、」


龍気「ほれ、お菊、やや子じゃ、男の子じゃぞ」


お菊「あぁ・・・・、 私の子・・・、いえ、私達二人の子なのね・・・、


    無事に生まれてきてくれて、本当にありがとう。  


    あなた、抱かせてくださいな・・・、」


龍気「うむ、傷に障らぬようにな・・・、」



   お菊は、龍気の助けを借り、 身を起こすと、龍気から、


   そっとやや子を渡され、その両の手にやや子を抱いた。


    お菊の両腕には、そのやや子の重さがしっかりと伝わり、


    子を産み終えたという安堵感と、何か言葉では


    言い現せない気持ちで胸がいっぱいになり、


    自然と目頭が熱くなっていた。



源庵「さて、お菊さん、今はまだ秘薬が効いているから、


    さほど痛みは無いが、これからまだまだ縫った所が痛くなる。  


     そこでじゃが、先程の秘薬を薄めたものを飲めば、


     随分痛みが和らぐが、 この薬を飲んでいる間は、


     やや子に乳をやる事が出来ぬ。


     そうなると、 この長屋に住む者に「もらい乳」を頼む事になるの


     じゃが、どうするかの?」


お菊「源庵先生、私は、この子に、自分の「お乳」をあげます。  


    どんなに痛くても、耐えてみせます」


源庵「そうか、お菊さんも強いお人じゃの・・・、 


    じゃが、初めに言っておくが、その「乳」をあげている時こそ、


    それが刺激になり、より一層の痛みが走るぞ、覚悟なさいませ」


お菊「はい、わかりました」



    源庵は、お菊のその目を見て、固い意志を感じた。


    医者としての助言は言った。


     後は、お菊さんの考え方次第である。 


    源庵は、もうそれ以上の事は言わないでおこうと思ったのである。 



龍気「さあ、お菊、もう横になりなさい。 体に障るぞ。」



お菊「はい、あなた・・・、もう少し、休ませて頂きます・・・。」



    お菊が横になると、まだ秘薬が効いているようで、


    すぐに寝息を立てて眠ってしまった。



    その寝顔は、まるで菩薩のように安らかな寝顔であった・・・


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