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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第四十一話 「村上 義清と香坂 忠宗」




「天眼 風をみる」


 第二章 胎動


  第四十一話 「村上 義清と香坂 忠宗」



   もう一人、長政の帰りを待つ武将がいた。  


  それは、北信濃を治めている村上顕国の


   息子 義清よしきよである。 


  長政が旅立つ前に永光寺の本堂で「舞」を舞ったが、


  義清は、父、顕国と共にその舞を観ている。


  今は、北信濃の地を治め、南に位置する小笠原家に


   睨みを利かせている。 


   この村上義清は、その後、甲斐の国から攻めきた


   武田信玄の軍勢を


   「上田原の戦い」(1548年・天文17年2月14日)


   「砥石崩れ」(といしくずれ・1550年・天文19年9月)の


   二度の戦いにわたり、信玄を撃退している「猛将」である。


   義清が、長政の「舞」を見た後、義清は長政の事が


    気になっていた。  


   義清は、自分には、持ち合わせていない何かを


   長政は、「持っている」と感じていた。


   それが、何なのか?それが、どうしても


   判らなかったのである。


   「舞」を観て、武将としての力量は、察しがついた、


    身体的能力に長け、槍さばきも一流である。


   永光寺の住職や町の者、小笠原家の家臣、


   そして忍びと、「皆」に慕われている厚い


   「人望」も見てとれた。 


   だが、義清は、「それだけではない」ものを


   長政に感じていた。


   それが、何かが判らなかった。 義清は、


   長政が旅から帰って来たら、


   一度、ゆっくりと話がしたいと考えていた。 


   義清は、腕を組み 目を瞑ると、暫く考えた後、


    大きな声で人を呼んだ。


村上 義清「誰か、ある。 誰かある。」


香坂 忠宗「は、殿、いかがいたしました。」


村上 義清「おぅ、香坂か、ちょうどよい、そなたは、


        大日方 長政と言う者を知っておるか?


        一年程前に元服した者で、元は小笠原家から


        の庶流じゃ、


        その時の名は、小笠原 長利と言う。


        知っておるか?」


香坂 忠宗「は、大日方 長政でございますな、存じております。 


        当時、小笠原長棟に子が出来ず、


        長棟の後、小笠原家の当主となるやも知れぬと


        噂された人物でございますな。


        ですが、長棟に子が出来たもので、家督の話もなくなり、


        その事で小笠原家と「不和」となったと聞き及んでおりまする。


         もっとも、これは、「噂」でございまして、


         実は、大日方 長政の方から、家督相続を降りたと聞いて


        おりまする。」 


村上 義清「ほう、それは、初耳じゃの・・、何故じゃ?」


香坂 忠宗「は、これも、「噂」ではございますが、一言で申せば、


        大日方 長政は骨肉の争いとなる「戦」(いくさ)を避けた


のでは?  と、言う事であります。」


村上 義清「ふむ・・・、香坂よ、そなたは、どう読む?」


香坂 忠宗「はい、拙者は、「後」の方と思いまする・・、 


        実は、拙者もこの大日方 長政なる者に興味が


         ありまして、「乱波」(らっぱ・忍びの意)に


         それとなく調べさせた事がございます。     


村上 義清「ほう、乱波にな、それで、どうであった?」


香坂 忠宗「は、乱波の話によれば、ある「団子屋」で年寄りと三十路過ぎの


        女子おなごが、大日方 長政の事を話しており、


        その時は、「太風子」と言う木の事を話していたそうで


         ございます。」


村上 義清「タイフウシとな? それは、何じゃ?」


香坂 忠宗「はい、太風子と書きまして、南蛮に生えている


        木のようでございます。


        その実が、あの「不治の病」に効く薬となるとの事でございます」


村上 義清「不治の病に効く薬とな・・・、 


        ふむ、大日方 長政の身内に病に侵されておる者が


        居るというのか?」


香坂 忠宗「はい、大日方 長政の、叔父にあたる、小笠原 長末と


  いう者が、 この病にかかり、「はぐれ村」と言われる所に


  おりまする。


        大日方 長政は、幼少の頃この小笠原 長末に剣や体術、


         その他、色々な事を教わったようでございますな」


村上 義清「はぐれ村・・・、確か、永光寺で「舞」を舞った後、


        そのはぐれ村で鬼気迫る「舞」を観た・・・、 


        あの時の老人が「小笠原 長末」か・・・、 


        長政と言う男は、「義」のおとこでもあるようじゃの・・・、」


香坂 忠宗「そのようで、ございますな・・・。


        そのような者でありますから、先ほどの「噂」は


         後の方ではないかと推測いたしましてございます・・・。」


村上 義清「うむ、なるほどの・・・、益々、じっくりと話がしとうなったの・・・、」


香坂 忠宗「はい、ですが、今の戦国の世に、


        似合わぬ男でもございますな・・・、」


村上 義清「うむ・・、そうじゃの・・・・、確かに今の世には、


        そぐわぬ者かも知れぬ・・、


         じゃが、香坂よ、わしは、何時、いかなる時も、


         この時代に生まれたからは、総ての者に、


         何がしか理由があると、思うておる」


香坂 忠宗「理由でございますか?」



村上 義清「うむ、そうじゃ、その理由を運命さだめ


        置き換えてもよい。  


        それが何なのか? 今のわしには判らん。


        この信濃の国を統一出来ればよいと、考えておるが、


        それは、希望でもあり、信念でもある。 


         じゃが、それとは別に、本当にやらねばならぬ事が、


        わしにあるのか?どうか?


         この問いかけに、ひょっとすると、大日方 長政が


         「答え」を導き出してくれるような、そんな気がするのじゃ・・・。」


香坂 忠宗「この者は、そこまでの男と言う事でございますか?」


村上 義清「判らん・・、 ただ、そんな気がすると言うだけの事かも知れぬ、


        じゃが、わしが観た永光寺での舞いは、そう感じさせるに


        十分な舞であった・・・、 ただならぬ者よ・・・。」  

 


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