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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第四十話 「ふたつの頼みごと」



「天眼 風をみる」


 第二章 胎動


 第四十話 「ふたつの頼みごと」



  長政が旅立つ時、長政は、龍気に「頼みごと」をしていた。


   それは、正覚寺での宴の時である。  


 信濃の山々を、くまなく調べ、その高低差を、細かく


測ってもらいたい、 と言う事である。


   「水は、高き所から低き所へと流れる」 長政は、


そう言って、 龍気に説明し、山の高さ、低さは、


もちろんの事、川幅やその深さ、長さなど、


信濃の川・山々全ての地形を調べて 欲しいと龍気に


伝えていたのである。


これは、毎年のように氾濫する信濃の川を、


何とかしたいと想う長政の考えからである。


  龍気は、縁あって、今、 木こりの頭領、茂助と共に


   「杣人」(そまうど、木こりの意)の仕事をしている。  


   茂助の下で働き始めた頃、「い組」と言う木こりの


   集まりの中に入れられた。


   「い組」には、その組の組頭がいた。


   その名を「右吉」(うきち)と言った。


   右吉は、新参者の龍気に杣人としての仕事を


   一から十まで、全てを教えこんだ。


   その教えは厳しいものであった。 


    ちょっとした事で、「激が飛び」容赦無しに「頭」を


    小突かれる。


    又、杣人としての「掟」も教わった。


    ただ、組頭の右吉に 悪気は無く、龍気に早く


    一人前の杣人となって欲しいと願うだけの事であった。


    そして、龍気には、その右吉の考えがその「激」の


    合間に見えていた。  


    厳しさの影に垣間見る優しさを感じていたのである。


    龍気は、「切り場」(山の仕事場)に向かうにも、


    誰よりも早く入り、仕事の道具を揃え、鎌や斧を研ぎ、


    すぐに仕事が出来るように段取りをした


     帰りは、木を切った木屑や枝を集め、掃除を


     してから帰った。 


     それが、右吉に対して、龍気が出来る感謝の


     表し方であった・・・。


     右吉の厳しい指導の下で、一年が過ぎようとした時


     龍気の仕事ぶりは、右吉を凌ぐ所まで来ていた。


     元々、忍びの頭領である龍気の素質と木の上で


     作業をする杣人の「それ」は、似通っており、


     それを補う体力も龍気は十分備えていた。


     そして、それは、「い組」の全ての者が認めていた。

  


     ある雨の日、右吉が、木から落ちた・・・。 


     かなり太い枝に足をかけたのだが、枝が折れ、


     枝ごと十間(約18m)ほどの地面に叩きつけられた


    のである。 


     普通は、一つの枝に全ての体重をかけぬものである、


    両手、両足の四肢に目方を分散させ、もし、どこかの枝が


    折れた時は、その他の三点で支える事で落下を防ぐの


    であるが、幹をつたう雨の為、他の枝を掴むことが


    出きず簡単に滑り落ちてしまった。


    後で枝を調べると、枝の半分以上が腐っていた。


    右吉の体は、「ドン」と言う音と共に、「ゴキッ」と言う


    鈍い音を発っし、龍気や「い組」の者達が駆けつけた時は、


    虫の息であった・・・。


    それでも、右吉は、気丈に振る舞い、龍気に向かい、


    「い組」を頼む。 と、一言願い、 息、絶えた・・・。



    「い組」の者達は、否、全ての杣人達は、


    常に「死」を覚悟をしている。


    右吉が息をひきとる、「その時」でも、取り乱す事無く、


    「最後の言葉」を皆が聞き漏らすまいと、


    必死に静寂を守った・・・。 


    そして逝った後、「すすり泣く」のである・・。


    右吉の最後の願い・・・、


    それが、龍気に「い組」の組頭になってもらう


    事であった。


    それは、「い組」二十六名の杣人達と、それらの妻や子、


    家族を守ってやってくれと言う願いでもある。              


    そして龍気は、杣人そまうど二十数名を束ねる


    「い組」の杣頭そまがしらとなった。


    龍気が「い組」の組頭となり、最初に行った事は、


    木に登る者、全員に「鉤爪」(かぎつめ)を装備


    させる事であった。


    鉄で出来た三本の鉤爪は、いざと言う時のみ、


    「バネ」の力で飛び出すように工夫され、


    その爪が木に食い込み落下を防ぐのである。 


    この鉤爪は、元は、忍びが使うものである。 


    通常は城の城壁を登るときなどに使うが、


    龍気は、自らを守る「道具」として使った。


    事実、龍気が率いる「い組」は、その後、落下して


    亡くなる者がなくなった・・。


    そして、その頃から「い組」は「爪組」(つめぐみ)


    と呼ばれるようになっていた・・・。


    龍気は、「爪組」の組頭として、杣人達を守り、


    右吉の遺志を継いだのである。


   

    もちろん、長政との約束も着実にこなしていた。 


    「山」を知る杣人達は、農夫が、田や畑の畦道を知るのと


    同じ様に、「山」の隅々を知り尽くしている。 


    どこの山がどんな高さで、どれぐらいの


    傾斜があり、川の流れがどれぐらいなのか、川幅が


    どうなのか、全てを知り尽くしている。  


    それが、頭と体に入っていなければ、「死」に繋がる


    のである。     


    「爪組」の組頭となった龍気は、組の全ての杣人に


     「命」(めい)を出し、信濃の山々をくまなく調べさせた。 


    そして、わずかな刻で、信濃の隅々を調べる事が


    出来たのである。


    長政との約束は、自分の仕事をしながら、


    その仕事の中で達成したのである。   

  

    しかも、ただ、地形の「寸法」を測るだけではない。


    「山」には色々な「木」が生えている。


    秋に「落葉」する木が多ければ、そこの「山」の


    「水を蓄える力」が大きくなる。


    「葉」が腐葉土となり、土を肥やし、保水性が


    高まるからである。


    木の中にも勢いがある木もあれば、そうでは


    ない木もある。


    勢いのある木は、根を深く張り、山を強固にする。


   「竹」のように、地下茎が形成され、土砂崩れを


    防ぐ「木」もある。


    杣人達は、山河の地形だけでは無く、そこに


    生えている「木」の種類・数も同時に計って


    きたのである。  


    この事は、後に重大な意味を持つ事となるのである・・・。

   

 

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