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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第三十三話 「胎動」



「天眼 風をみる」


 第二章 胎動


  第三十三話  胎動


龍気「改めて、紹介しておきます、娘のお鈴と妻のお菊でございます」


源庵「改めまして源庵です。 私は、長崎で長政殿と知り合い、意気投合して、


   ここ信濃の地にやって参りました。 国は、越中富山でございますが、


   南蛮の医学を学び、少しでも多くの命を助けたいと思っております。


   「人」を助けるのに国境くにざかいは、関係ありません。 


   そして、同じ人を助けるのなら、「想い」が同じ人を助けたい


  と考えています。そのような考えは「若い」と思われるかも


   知れませんが、「今」は、それが真実と考えています。  


   「結論」を出すのは、もう少し、年をとってからでもいいのでは?


   そう考えています・・・。


   それにしても、大日坊様が小笠原家のご子息、長政殿であったとは、


   びっくりいたしました。


龍気「お話した通り、今は、元服して、「大日方 長政」殿で


   ございますがな・・・、


   拙者も、以前は、小笠原家に仕えて居りましたが、色々とありましてな、


   今は、決別しております・・・。」


源庵「そうでございますか・・・、」


   源庵は、龍気の悲しそうな顔を見逃さなかった、何があったのか、


   それ以上の詮索は控えた。


源庵「それは、そうと、お菊さんを診察したいのですが、いかがでしょうか?」


龍気「もちろんで、ございます。よろしくお願いいたします」


源庵「では、ちょっと失礼、」


   そう言うと、源庵は、たすきの端を口に咥え、慣れた手つきで、


   襷をかける。


    背中で綾掛けにし、左肩のあたりで「キュッ」と結わうと、


    「厨」(くりや・台所の意)に向かい、水桶の水で、


    手を洗い始めた。その後、「手」に透明な水をを降りかけ、


   まんべんなく、こすり付ける。


    ほんのりと、「酒」のような香りが漂うと、背負い籠の中から、


   竹で出来た、筒のような物を取り出した。 その「竹の筒」の片方は、


   「朝顔」のような形をしていた。


   やおら、お菊の横に座ると、まず、今までの身体の調子や生活の有り様を


    細かく聞き始める。


    痛みや、吐き気が無いか、お腹の「張り」や「ややこ」の動きなど、


    朝は、何時に起きて、仕事や生活の流れ、好みの食事、


   厠に行く回数など・・・、細かく聞いた。 


   次に、脈を計り、目、舌、手の甲を診て、先ほどの「竹の筒」の


    「朝顔」の部分をお菊のせり出した腹に当てると、もう片方を耳にあて、


    しばらく耳を澄ませた。


    「朝顔」の部分を「アチコチ」移動させ、何かを探るような仕草を見せた。


源庵「うむ、「ややこ」の動きも良いようじゃ、今の所、母子ははこ共、


   心配する必要は無いようじゃ。


   じゃが、お菊さん、今の内に言っておく、 もし、難産となった場合、


   ある「秘薬」を飲んでもらう、その秘薬は、「朝鮮朝顔」から取り出した


   秘薬じゃが、これを飲むと眠くなり、腹を割いても痛みがない。


    そこで、腹を切り、「ややこ」を取り出し、切った腹を縫い合わせる。

 

    心配いたすな、痛みは、まったく無い。 


   寝ている間に全てが終わってしまうのじゃ、どうじゃ、


   その覚悟が出来るかの?」


お菊「はい、源庵様は、長政様がお認めになったお方、


   長政様がお認めになった方なれば、


    全てを信頼して、お任せいたします。


   どうか、よろしくお願いいたします」


源庵「うむ、ありがたい、しかし、龍気殿にしても、お菊さんにしても、


   長政殿への信頼は、絶大なるもので、ございますな・・・。


   いや、羨ましい限りでござる」


龍気「いや、いや、この中で、一番、長政殿を「信頼」しているのは、


  「お鈴」であろうな、」



   龍気がそう言うと、お鈴は、「ぽっと」顔を赤らめた。


源庵「そういえば、お鈴さんと申したましたな、その右目の眼帯は


   いかがいたしました。」


龍気「色々ありましてな・・・、」


源庵「そうですか・・・、よろしければ、一度、見せては、くれませんか?」


お鈴「いいですよ、」



   お鈴は、右目の眼帯を外すと、瑠璃色に輝く義眼の石を源庵に見せた。


   源庵は、一瞬、息を飲んだ。  瑠璃色に輝く義眼の石も鮮やかなれど、


   それ以上に鮮やかと感じた事は、「隻眼」であると言う負い目を


   微塵も感じさせず、むしろ、誇らしく、凛として座るお鈴の姿であった。


源庵(美しい・・・、)


   源庵は、一瞬、「医者」としての立場を忘れかけたが、心を切り替えた。


源庵「お鈴さん、その義眼は、どうなされました?」


お鈴「これは、山の洞窟の中で拾ったものを、右目の窪みに合わせて、


   自分で削り、磨いて、はめ込みました。」


源庵「なんと! 自分で造ったというのか! その瑠璃色の義眼を取り外して


   傷口を診る事は出来ますか?」


お鈴「ええ、ちょっと、「コツ」がありますが、大丈夫です。」


   そう言うと、お鈴は、右手の中指を義眼の隙間に入れると、


   「スルリ」と瑠璃色の石を取り出した。 


   そのまま、目を見開くと、ぽっかりと開いた、窪みが見て取れる。


    源庵は、じっくりと傷口を見ると、「ふむ、」と一言漏らした。


源庵「傷口は、大丈夫のようですね、むしろ、綺麗な傷口です。 


   まるで、私が施した・・、


    いや、私、以上に綺麗な切り口です。  


   この術は、誰が施したものですか?」


お鈴「これは、そこにいる父が、施してくれました。」


源庵「なんと! ・・・龍気殿が・・、」


   源庵は考えた、恐らく私が持っている「秘薬」などは無く、


   痛みを我慢して目の玉をくりぬいたのであろう、その時の痛みは、


   想像を絶する痛みのはず、だが、この綺麗な傷口を見た限り、


   龍気殿の腕はもちろんだが、信頼して、じっと動かずに術を受けた


    お鈴さんの心の強さ・・・、


   それを想像した時、身震いと同時にお鈴に対して圧倒的な


    畏敬の念を感じずには、おられなかった。


源庵(美しくも・・・、そして強い・・。 すばらしい女性だ・・・。)


   お鈴は、源庵の「心の声」をずっと聞いていた、


お鈴(私の顔を見て、こんな反応をする人は、初めてだわ・・・、 


   長政様と意気投合すると言うのも、うなずける・・。)


源庵「お鈴さん、どうもありがとう、もし、傷口が痛むような事があれば、


   言ってください。 良い薬がありますゆえ、」


お鈴「はい、ありがとうございます」


龍気「さて、思いのほか、遅くなってしまいましたな、


   お菊、床の用意をしておくれ、寝るとしよう、明日も早いからの」


お菊「はい、わかりました」


  四人は、暫く話をした後、床に就いた。 


  龍気一家三人は、程なく眠りについたが、


   源庵は、中々眠りにつく事が出来なかった。  


   お鈴の「凛」とした顔が、源庵の瞼の裏から離れなかったからである・・・。








   

    

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