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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第三十話 「野鍛冶の元真」



 天眼 風をみる



   第二章 胎動



   第三十話 「野鍛冶の元真」




  玄海が、元真に、この鍛冶屋に来るまでを、話し終わると、


  元真は「なるほど・・・、」 と、一言、漏らした・・・。


元真「あの、長政殿が、旅立ってから、もう一年となるのか・・・、」


玄海「元真殿は、長政殿の事をご存知なのか?」


元真「うむ、わしも一年前に、長政殿の「舞」を永光寺で見ておった・・・、 


    あの舞は良かった。 決意の舞じゃった・・、 


     その後、わしも「はぐれ村」に向かった。 


   久しぶりに長末殿の顔も見たの・・、」


玄海「なんと! 元真殿は、長末殿ともお知り合いなのか?」


元真「うむ、長政殿が舞の時に「槍」を持っておったであろう、


あの槍は、わしが打って,長末殿に差し上げた槍じゃ・・、


 わしが戦場いくさばで使う武器としては、最後に打った槍じゃ、


あの槍を最後に、人を殺める武器は、打っておらぬ。


    今は、斧や鍬や鉈などしか打たぬ。 刀や槍は、人を殺める道具じゃ、


    わしは、人を救う道具を打ちたい、人の役に立つ道具を打ちたい。


    それが、わしの罪を少しでも償う事になる・・・。」



典太「お師匠様、また、そのような事を、鍛冶屋が刀を打つのは


当たり前の事です。 それが仕事でございます。


    ようは、その刀を人がどのように使うかでございます。 


    確かに刀は人を殺める武器になりますが、自分の身を守る為にも


   必要な時があります。」


元真「典太よ、さすれば、この世から「刀や槍」が、まったく無くなったら


どうじゃ?


    人を殺める武器が、全て無くなったら、戦も無くなるとは、思えぬか」


典太「お師匠様、私は、「刀や槍」が無くなったとしても、


戦は無くならないと思います.


    それは、人の中にある「ねたみや憎しみ」などの心があるからで


ございます。


   刀や槍が無くなったとしても、また、新たな武器が出てくると思います。」


元真「典太よ・・、わしは、それでも、この世から人を殺めるものは、


    打たぬのよ・・、


    玄海殿と申しましたな、先ほどの「ギヤマン」を造る仕事、


     是非、わしにやらせてはもらえぬか」


典太「お師匠様、何をおっしゃいます、私は反対でございます。


    私はお師匠様が、 いつか、昔のように「名刀」を打ってくれるものと


    信じて、今まで働いてまいりました。  


    そんな、訳のわからぬ「ギヤマン」などを造るのであれば、


    お暇を頂ます。 それでも良いのですね、お師匠様!」


元真「典太よ、そなたは、若い、 そなたは、自分の考えの通り、


   生きていきなされ、いつかきっと、判るときが来る、


   じゃが、今はその時では無い。


    破門じゃ・・、 出て行くがよい・・・。」


典太「お師匠様・・・、 わかりました・・・。 


    今まで、ありがとうございました・・・。」



   玄海と剛力にしてみれば、あれよ、あれよと言わんばかりの展開に、


   たじろいでしまったが、どうも、これ以前にも、同じような言い争いが


   あったようである


    典太と言う若者は、自分の道具を袋に入れ、玄関で一言、挨拶すると、


   少し強めに戸を閉めて、出て行ってしまった・・。 



玄海「元真殿、本当に良いのですかな?」


元真「うむ、しかたの無い事じゃ、早かれ遅かれ、同じ結果となったであろう・・、


    典太にとっても、人として、もう一度、考える刻となるであろう・・、


    じゃが、玄海殿、典太が居なくなってしもうたので、


   その「ギヤマン」を造るにしても、時が、かかりそうじゃ、 


   わし一人では、先ほど聞いた、「鉄の箱」を


    造ることすら出来ぬ、人をそろえてからの仕事になる。」


玄海「それなら、仕事を探している者が、すぐわしの後ろにおるが、


    いかがかの? 心根の良いもので、「力」もある、素直な若者じゃ、」


元真「ふむ、剛力殿と申したかの?  中々、良い身体をしておるが、


    この金槌を持ってみなされ、」


剛力「へい!」


    剛力は、受け取った金槌を受け取ると、それを、片手で軽々と振り回した。


     そして、両手で持つと、先ほど「二刻」(四時間)ずっと見ていた


    典太の動きをして見せた。 もちろん、「真似」であるから、


    ぎこちないところは、あるが、あとは、元真の指導しだいである。



元真「ふむ、その金槌は、ここに置いてあるものの中で、


    一番、重いものじゃが、それを、軽々と振れるのであれば、


    問題は無いの、後は、定めた一点に槌を振り下ろせるかじゃ、


    どうかの玄海殿、明日から剛力殿をここで、働いて


     もらう事で良いかの?」


玄海「剛力殿、そなたは、どうじゃ? 明日からでも良いのかの?」


剛力「へい! もちろんでございやす、よろしくお願いいたしやす」


元真「そうか、ならば、明日の朝、「明け六ッ」(午前六時)に、


    ここに来ておくれ。


剛力「へい! わかりやした。」


玄海「それでは、「ギヤマン」の材料は、こちらで用意するが、何せ初めての事


    じゃから、色々と考えながらの仕事となろう。


    元真殿、これからは、よろしく お願いいたします。」


元真「いやいや、こちらこそ、お願いいたす。 


   わしも、色々と工夫しようと思う。  何とかなるであろう・・。」   

    

    その後、玄海と剛力は、元真と、細かい打ち合わせをした後、


    野鍛冶を後にした。


 

    刻は、暮れ六つ(午後六時)夏の夕暮れは、まだまだ明るく、


   夕闇の迫る空を無数のカラスが飛んでいる。  


   ねぐらが「山」にあるのであろう、ほとんどのカラスは、


    山のねぐらに向かって飛んでいる。 


   その傍らを「一羽のカラス」が別の方向に向かっている。  


   「一羽のカラス」は、何を想い・考えているのか?


    それぞれの「想い」を胸に宿し、カラス達は、それぞれの方向に


    向けて飛んでいる



    玄海と剛力は、正覚寺に向けて、歩き出した。 


    ギヤマンを造る鍛冶屋が、思いのほか、すぐに見つかり、


    しかも元真は、長政や長末と面識ある、「こちら側」の人であった。   


    そして、元真も、また「長政」を待つ一人であるのだ。



    元真は、若い時から、何も考えずに鍛冶屋の仕事をしていた。


    自分が「生きる糧」を得る為であった。 


    初めは、典太のように、無心で「大金槌」を振るう事だけを考えていた。


    初めて「刀」を自分で作り上げたのは、二十歳を超えてからである。


     その後、何百本という、「刀」を叩き上げてきた。


    その中には、「名刀」と言われるものも、数多く存在する。  



     元真がよわい五十を過ぎた頃、 元真の娘婿の所に、


     急ぎ働きの「盗賊」が押し寄せた。


     家族は、我が娘、その夫、孫に至るまで 皆殺しにあい、


     盗賊はわずかな金子きんすを奪い家に火を点け逃げた。 


    その後、盗賊の頭が取り押さえられたが、その時に


      「盗賊の頭」が持っていた刀が、元真が打った刀であった。  


     もちろん、それは偶然であるが、元真がその事を知った時、


     元真は悔やんだ。


  

     おのれが娘婿達家族を殺めた盗賊と同じだと思った。 



     否、「わしが魂を込めて打った刀が、


         娘婿の一家を皆殺しにした、


         わしの魂が皆を殺したのじゃ・・・」



      それ以来、元真は、「刀」を打たなくなった。


     その時、最後に頼まれてた槍が、長末に頼まれていた槍であった。 


     それを境に元真は「野鍛冶」に身を落としたのである。


    

       一人になった元真は、娘とその婿の名を呟いた。  そして・・・、



元真「この仕事が最後の仕事となるであろうな・・・。」



     元真は、「ゴホン!」と一つ咳をした・・・。

  

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