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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 第二十九話 「野鍛冶」




「天眼 風をみる」


 第二章 胎動


 第二十九話 「野鍛冶」



 

  玄海と剛力の二人は、しばらく、道願と話をしたあと、


永光寺を後にした。


 次に向かうのは、町にある「鍛冶屋」の所である。


 「町」には、何件かの鍛冶屋が、固まって軒を


連ねている場所があり、いつしか、「鍛冶屋町」


   と呼ばれていた


   

    戦が絶えぬこの時代、鍛冶屋の仕事は


   休む暇がない。


   この一帯では、つちの音が響いていた。


    刀だけではなく、農作業で使う、くわなたなども鍛冶屋の


   仕事である。


    当時、和包丁や農具などを専門に打つ鍛冶屋を「野鍛冶」と言った。 


    ここ、信濃の地は、山が多い、木を切るおのや鉈も


    野鍛冶で打っていた・・・。



     玄海は、鍛冶屋町に向かいながら思案した。



玄海(ふむ、刀鍛冶の所に、いきなり「ギヤマン」を造ってくれぬかと、


    話を持ちかけても、相手にされないのが、落ちじゃの・・・、


    さて、どうしたものか・・・・、 じゃが、行かねば先に進まぬ)

 


     玄海がふと空を見上げると、二羽のカラスと一羽のトビが


     上空で争っている。


     二羽のカラスは協力して、一羽のトビに対して、


     執拗に攻撃をしている。ひょっとしたら、この二羽の


     カラスは番い(つがい)かも知れぬ。 


     自分達の「巣」にある、卵か雛を守るためトビに攻撃


     しているのかも知れぬ。



玄海(ふむ、ああして二羽でトビを攻撃するのは、たまに見かける・・、


    カラスは頭が良いの・・、 自分より、大きなトビにも、二羽で攻撃する


    事で、トビをやっつけておる・・・、これも生きる為の知恵か・・、)



    鍛冶屋町と呼ばれる一画に玄海と剛力が来ると、


    アチコチから、「キーン」・「キーン」と鉄を打つ槌の音が


    響いてきた。  


    調子よく響く音色は、 「太鼓囃子」(たいこばやし)を


    聞いているようにも聞こえる。


    実に小気味良い音であり、刀工と呼ばれる職人の


     魂の響きでもある。


    玄海は、暫くの間、その「魂の響き」をじっと聞いていた。


    ひとつの鍛冶屋の前で、暫く立ち止まり、耳を済ますと、


    次の鍛冶屋に向かう。そして、さらに次の鍛冶屋へと、


    歩を進める。 まるで、鉄を打つ、槌の響きで刀工の


    魂を探るようである・・・。


    一通り、「鍛冶屋町」を廻ると、踵を返し、ある鍛冶屋の前に


    立ち止まった。


  

玄海「ふむ、やっぱり、ここじゃの・・・。」


    そう、ポツリと呟くと、剛力に「ここの鍛冶屋で頼んでみよう」


    と、言い。 「ごめん、邪魔をするぞ、」と中に入る。


 

     玄海が選んだ鍛冶屋は、造りはボロだが、玄関の前は、


    綺麗に掃き清められており、その両脇には、


     「塩盛り」が盛ってあった。


     戸を開けると、すぐに平らな土間があり、土間がそのまま


     作業場へと続いている。 


     必要最低限のものがその作業場には置かれており、


     作業に使う道具も置く場所が決まっているのであろう、


     綺麗に並んでいる。

  

     作業場の中も綺麗に整理されており、鍛冶屋で使う


     「鍛冶屋炭」(かじやずみ)が置かれている場所だけが、


     黒く汚れているが、


    おそらく日が沈む前には、そこも綺麗に掃き清められるのであろう。


     壁には、少しずつ大きさの違う「槌」や「やっとこ」が掛けられており、


     「神棚」も備えられている、床には万が一の事を考えて、


     水の張った 水桶の山もある。



     玄海が部屋に入ると、二人組みの「刀工師」が居た。  


     一人は、「やっとこ」を左手に持ち、右手には、


      やや小ぶりの金槌を持っている その金槌で


      白に近い「火の塊」を打ち「形」を決めていく


      頭には手ぬぐいを「ほっかぶり」しているが、


      後ろから根元で結わえた、長い白髪の毛が垂れている。



       もう一人は、玄海と同じぐらいの年であるが、


      大きい金槌を高々と振り上げ同じ「火の塊」にめがけ


      大金槌を打ち付けている。


      目つきが鋭く、上半身ががっちりしている。


      双方とも、白装束であるが、長年、着続けているのであろう、


      洗濯しても落ちない、炭の跡が染み込んでいる。 


       造っているのは、「刀」では無く、その形から、おそらく「斧」のようだ。


      一心不乱に打ち付けている「仕事」を見て、玄海は、


      入ってきた戸を閉め、そのまま、土間に「正座」をした。 


      剛力もつられて、玄海のすぐ後ろで「正座」した。


       玄海の、仕事の邪魔をしてはいけないとの「想い」からであった・・・。


     

      さほど、広くは無い作業所の中でふいごの中には、鍛冶屋炭が


      くべられている。


      「やっとこ」を持った白髪の刀工師は、時たま、


       鞴の中に「火の塊」をくべ、「丁形」のとってを押したり


       引いたりしている、その度に鞴の中は、赤く燃え上がり、


       「パチパチ」と炭が弾け、炭の欠片が宙を舞う 


       そこに、衰えて赤黒くなった「火の塊」を突っ込み、 


       火の塊りは、勢いを増し、赤白く燃え上がる。


       当然、小屋の中は熱い、正座した二人は、あっという間に


       汗だくとなった。


      それでも、二人は、じっと耐えた。


       二人の刀工師が「息」をつくのを待った。


       半刻(一時間)、一刻(二時間)と時間だけが過ぎていく。


       剛力は、慣れぬ「正座」で足を痺らせ、あぐらをかいたが、


       それでも、玄海と待った。

 

       二人の刀工師は、自らの魂の一部を、その「火の塊」に


       注ぎ込むように槌を打つ。少しずつ形に成っていく


       「火の塊」は、やはり「斧」であった。 


       最後の仕上げに入ってからは、白髪の刀工師だけが、


        軽めに槌を打つ。「カン・カン」と何度か叩いたあと、


        細長い水桶の中に「やっとこ」ごと斧を入れる。  


       「ジュッ」という音と共に、魂の定着が終わった。


      後は、刃先を綺麗に研ぎ、「柄」をつければ、完成である。


      玄海と剛力も汗だくだが、刀工師の二人も同じである。


      肩で息をきりながら、若い方の刀工師が、初めて口をあける、



刀工師「そなたら、何用じゃ、」


玄海「わしは、玄海と申すもの、町外れにある「正覚寺」の和尚じゃ。


    この者は、剛力と申して、長崎から参った客人じゃ、


     実は訳あって、あるものを造ってもらいたいのじゃ、いかがかの」



刀工師「仕事の依頼か、あるものとは、何じゃ」


玄海「あるものとは、「ギヤマン」という板じゃ、透明な光を透す板での


    その板を繋ぎ合わせて「小屋」を造る。


    その小屋の中で南蛮の木を植える、その木がつける「実」が


    「はぐれ村」に住む「不治の病」を治す薬と成るのじゃ、」


    そこまで聞いていた、白髪の刀工師の方が、静かに語りだした。



元真「わしの名は、「元真」(げんしん)と申す。 


    この者はわしの弟子で「典太」(でんた)じゃ、


    その「ギヤマン」という板の話を、詳しく聞かせてくれぬか・・・、」



    玄海は、事の顛末を、「長政」の旅立ちから話し始めた・・・・。

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